旧統一教会問題の幕引き急ぐ自民党・岸田政権 臨時国会で野党が関連法案提出の構え、与党はどうする?2023年10月14日 12時00分 <土曜訪問>銃撃事件追い続ける 統一教会問題を長年取材 鈴木エイトさん(ジャーナリスト)2023年9月16日 13時22分旧統一教会、東日本最大級の研修施設の建設に着手 国士舘大の隣接地を即金で一括購入 住民は抗議2023年7月4日 06時00分 旧統一教会 多摩市に土地取得 市民ら団体設立「進出に反対」2023年4月30日 07時06分PDF魚拓
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令を請求した岸田政権。教団との決別を強調するが、接点を指摘された自民党議員の多くは十分説明せず、要職に就いている人物も多い。20日開会の臨時国会では財産保全などの議論が待ったなしだが、どこまで進むのか。ボールは司法に移ったとばかりに、政治が幕引きを図れば、被害者の救済は見通せない。(宮畑譲、岸本拓也)
◆細田博之衆院議長、初めて記者会見で説明したが
記者会見する細田衆院議長
文部科学省が旧統一教会の解散命令請求を行った13日午後。細田博之衆院議長が辞任にともなう記者会見を議長公邸で開き、これまで会見で公に説明してこなかった教団との関係について述べた。
「問題はございません。そのことは申し上げたい」。記者に答える細田氏の声は病気の影響か、かすれ気味で聞き取りづらい。教団の会合に出席したことは認めたものの、特別な関係ではないと強調した。記者の人数は制限され、教団との関係を問う質問が続く中で会見を切り上げた。
◆会合に出席した接点ある盛山文科相は教団への忖度を否定
旧統一教会に対する解散命令請求の決定について記者会見する盛山文科相
教団との接点が指摘されながら誠実に説明しないのは、岸田内閣の閣僚らも同じだ。この日に解散命令を請求した文科省の盛山正仁大臣自身も、関連団体の会合に出席してあいさつしていた。13日の会見でも、解散請求に際して教団に対する忖度(そんたく)が働くのではないかという質問が飛んだが、「全く不本意。解散命令が相当と認め請求を行った。今後の審理に万全を期したい」と語気を強めた。
旧統一教会の元宗教2世のもるすこちゃんさん(仮名)は「解散命令を請求したことは良かった」としつつ、盛山氏の説明には納得がいかないという。「解散命令を請求した段階では、忖度といった疑念は残る。本当に疑念が晴れるのは解散命令が出た時だと思う」
文科省では、青山周平副大臣もパーティー券の購入やイベントへの出席などがあった。「こちら特報部」が13日に事務所に取材すると、「既に党による調査で報告している通り。担務は(宗教法人を扱う文化庁ではなく)教育とスポーツ分野であると承知している」と答えた。
◆「教団を利用して票を取っておいて、今となっては知らん顔」
第2次岸田改造内閣では、文科省以外でも、教団と接点があった議員が多数選ばれている。閣僚では、鈴木淳司総務相、伊藤信太郎環境相、木原稔防衛相がそうで、盛山氏と合わせて4人。副大臣・政務官は26人で、全体54人の半数近くに上る。
自民党本部
昨年9月に自民党が公表した調査では、教団側と何らかの関わりがあった国会議員は180人。党所属の半数近くに上るとはいえ、関係がない議員に候補はいなかったのか。
「教団を利用して票を取っておいて、今となっては知らん顔。もっとオープンな場で個別に説明をしてほしい」。旧統一教会の元宗教2世の奥野まきさん(仮名)は、細田議長をはじめ自民党議員の説明不足に不満を隠さない。
解散命令請求に一定の評価はするが、わだかまりもぬぐえない。被害の賠償は不透明なうえ、解散命令請求が政治の道具に使われた気がしてならないからだ。
「内閣支持率の回復のために請求したとは思いたくないけど、物価対策、増税論議など今の政権が国民を向いているとは思えない。今回も被害者を考えてのことなのか」と政権の姿勢を疑問視し、こう続ける。「本当はここからがスタート。早期の財産保全や反カルト法の立法などやってほしいことはあるが、今の内閣には期待できない」
◆解散命令の決着までに財産流出の恐れ
臨時国会では、旧統一教会と接点があった閣僚らも答弁に立つ。大きな焦点となりそうなのが、被害者救済に向けた教団の財産保全の在り方だ。
旧統一教会に対する解散命令請求の証拠資料を運び出す文化庁職員=13日、同庁提供
解散命令請求について今後東京地裁での審理が始まるが、請求通りに解散を命じられても、教団側が争えば、確定までにさらに時間を要する。過去、法令違反を理由に解散命令請求を受けたオウム真理教は確定までに7カ月、明覚寺は3年かかった。
審理の長期化で懸念されるのが、財産の流出。宗教法人法では、解散命令が確定してから精算手続きに入り、財産が保全されるが、命令を請求した時点では効力は発しない。解散命令が確定するまでの間に、教団側が財産をどこかに流出させてしまえば、被害の賠償は難しくなる。
◆財産流出なら被害救済が不可能に…立民、維新が法案検討
記者会見を終えて引き揚げる細田衆院議長(左から2人目)
野党はこうした事態を招かないように、必要な法案を臨時国会に提出する構えだ。立憲民主党は財産保全のための特別措置法案を提出する方針で、泉健太代表は「(22日投開票の衆参)補欠選挙で財産保全が必要だという意思を示したい。これを争点にしたい」と述べている。
日本維新の会も「臨時国会冒頭の20日に、財産保全を義務付ける宗教法人法の改正案を提出する」とする馬場伸幸代表のコメントを発表。解散命令の請求があった場合に、宗教法人の財産については命令確定までの間、「必要な保全処分を命ずることができる」との条文を加える内容だ。解散命令の請求時点で財産保全がなされる会社法の規定を準用した。
こうした財産保全の法制化は、かねて全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)が求めてきた。事務局長の川井康雄弁護士は「財産保全措置が取られる前に解散請求がなされたことで、統一教会が海外に資産を流出させる危険性が一層高まった。懸念が現実となれば被害救済が困難になる。速やかに臨時国会で実効性のある法案成立が求められる」と訴える。
◆解散確定前の財産保全には異論も
記者会見する細田衆院議長=13日、東京・永田町の衆院議長公邸で
一方、立法救済には法律的な壁も残っている。北海道大の桜井義秀教授(宗教社会学)は、解散命令の請求自体は評価しつつ、解散の確定前に財産保全することには疑問を抱く。
「財産を保全するには、被害者が旧統一教会側に対して債権を持っていることが条件になる。これまで個別の損害賠償訴訟での司法判断を経て、教団に弁済を請求してきた。そうした経緯を経ず、行政が代替的に資産を差し押さえることが果たして適切なのか、慎重に吟味する必要がある」として、こう続ける。「被害者救済のためとはいえ、厳密に進めないと、逆に『宗教迫害』と海外でアピールされる恐れもある」
◆政府の動きは鈍い
そもそも政府の動きは鈍い。解散請求時の財産保全を巡っては、昨年12月の国会で永岡桂子文科相(当時)が「宗教活動に対して過度の制限をかけることになりかねない」と否定的な見解を示している。13日の記者会見で改めて見解を問われた盛山文科相は「(政党間の)動きをみながら今後の対応になっていく」と述べるにとどめた。
自民党は議員立法にも明確な姿勢を見せていない。このまま野党案が提出されても、まともに扱われない恐れはないのか。政治ジャーナリストの泉宏氏は「財産保全は民意に沿った内容で、与党が野党案に乗ってくる可能性はある」との見方を示し、こう続ける。
「被害者のために、というなら与野党は協調して取り組むべき案件だが、現実には野党はばらばらに法案を出し、政党間の手柄争いを演じている。こうした権力闘争の駆け引きが政治不信を招いている」
◆デスクメモ
大きな節目を迎えた13日。解散命令請求に加え、細田議長の記者会見、安倍元首相銃撃事件被告の公判前整理手続きもあった。昨夏の衝撃やその後の混乱が思い出される一方、記憶が上書きされ、押し流されるような感覚もある。1年余で何が変わったのか。政治のチェックが必要だ。 (本)
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2023年10月14日 12時00分
安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に凶弾に倒れて1年2カ月余り。霊感商法などが問題となった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党議員らの関係が次々と明らかになり、多くの2世信者が教団による家庭崩壊を訴えだした。そうした報道があるたびに的確なコメントで注目されているのがジャーナリストの鈴木エイトさん(55)だ。
◆パンク系バンドの長髪ボーカルだった大学時代
風変わりな経歴を持っている。滋賀県出身で日本大学に入学後、ミュージシャンを目指していた時期がある。「若気の至り」と言うが、パンク系のバンドを組み、ライブでは長髪をなびかせたボーカルとして、ちょっとした人気者だった。結局、メジャーデビューは果たせずに26歳で髪を切った。アルバイトをしていたビルの管理やメンテナンスの会社に就職した。
週5日勤務。作業着で空調機点検-といった業務をこなした。挫折感はあったが自分の選択。可もなく不可もない日々を送っていた。2002年、教団に関する特集番組を偶然、見た。「アンケート」「手相を勉強」と言って入信者を導く偽装勧誘を知った。東京・渋谷でそれを目撃。近寄って「これは問題の宗教団体の勧誘」と阻止した。
「強い正義感を持っていたわけではないが、ウソをついての勧誘は問題だし、無垢(むく)な人がはまってしまうのは見過ごせなかった」。毎週末、そんな阻止活動で渋谷のほか、新宿や池袋にも通うようになった。
◆姉も信者、でもきっかけではない
「善良で真面目な人ほどはまりやすい」とは知っていた。実は姉が教団の信者。ちょっとしたきっかけで入信し、身内の不幸を突かれては「一族のメシア(救済者)が必要」とマインドコントロールされた。
「『姉の問題で阻止活動を始めた』と矮小(わいしょう)化されると困る。姉は家族の問題で、教団は社会の問題。誰だって何か問題に気付けば、できる範囲でやることをやるでしょう。私にできることが阻止活動だった」
教団から脅迫されたり、暴行されたりもした。それでも活動を続けた。教団を知れば知るほど問題意識は高まった。教団の被害者を救済する全国霊感商法対策弁護士連絡会や日本脱カルト協会とも連携。09年にはニュースサイト「やや日刊カルト新聞」に参加して、本業の傍ら副業のジャーナリスト活動を本格化した。
◆「安倍さんの死に大きな喪失感」その意味は
教団の霊感商法や合同結婚式は1980年代に社会問題化し、メディアが盛んに報じた時期があった。しかし、教団が信者による選挙応援を武器に自民党の政治家に近づくにつれて下火に。メディアの監視が働かない中、2012年末に首相に返り咲いた安倍氏は教団に接近。21年9月に教団関連の集会で安倍氏のビデオメッセージが流された。鈴木さんなどによる、ごく少数の報道によって山上徹也被告は安倍氏と教団の関係を確信。銃撃事件を起こしたとされている。
その事件でメディアが教団の問題を再び報じるようになり、20年間余りも孤独な闘いを続けてきた鈴木さんにもスポットライトが当たった。それまでは出版社に相手にされなかったが、著作が次々と出版されて日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞なども受賞。副業だったジャーナリスト活動がやっと本業になった。
しかし、心中は複雑だ。「安倍さんと教団の関係は問題だが、その代償で命を落としたのは何とも皮肉。それに、山上被告が犯行に至る経緯には私の報道の影響がある」と言う。
「安倍さんの死に大きな喪失感があった。選べるのなら、注目される今の自分より、無名のまま安倍さんを追及する自分を選ぶ」
◆当事者として最後まで事件を追及する責任がある
教団の問題はヤマ場を迎えている。政府が解散命令を請求するかどうかだ。鈴木さんは「政治家が邪魔しなければ、10月には出る」と予測する。ただ、請求されても霊感商法の被害者救済や信者の社会復帰など、多くの問題は残る。教団と関係の深い大物政治家の問題も未解決のままだ。
「後に知ったが、事件前に山上被告は私に接触していた。もしかしたら、事件を止められたかもしれない。間接的とはいえ、私は事件の当事者の一人。最後まで事件を追及する責任がある」(鈴木伸幸)
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2023年9月16日 13時22分
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が新たな研修施設を建設予定の東京都多摩市永山の土地で3日、既存の建物の解体工事が始まった。教団進出に反対する市民団体のメンバーらは工事現場前で横断幕を掲げるなどして、着工に抗議した。市民団体が5月末から開始した建設反対の署名活動では約1カ月間で、署名用紙で4000人分、ネットで約4万人分が集まっている。(宮本隆康)
教団の新施設建設のため、解体される建物
解体工事の工期は来年1月まで。その後の新たな施設の建設について、教団は「解散請求についての国の動向を見ながら検討する」としている。
新施設の建設予定地は、教団が昨年4月に取得した多摩市永山の土地約6300平方メートル。市に対する教団の説明では、新施設は5階建て延べ約9000平方メートルの既存の建物と同規模で、400人程度が宿泊できる計画。教団広報によると、東日本の研修施設では最大規模になるという。
予定地では3日午前、市民団体のメンバー約50人が監視する中、工事業者が資機材などを搬入した。
阿部裕行市長は「市としては遺憾。新たな建物建設のないよう強く求める」とのコメントを発表。市は、国による解散命令が出されるかが確定するまで、建物建設を着工しないよう求める書面を教団に送った。
教団の広報担当者は取材に対し「ゆくゆくは住民への説明の機会も考えている」と話した。
統一教会問題に詳しいジャーナリストの鈴木エイトさんは「着工見送りの申し入れに法的根拠はなくても意思表示は大切。一方で、2世信者らが来ても偏見の目で見ないで、分断にならないような視点をもってほしい」と話している。
教団の進出計画は今年3月、土地取得が市議会で取り上げられたことで表面化。4月、教団の進出に反対する市民団体「統一教会はNO!多摩市民連絡会」が発足した。その後、6月に教団の新施設建設計画が判明。市長らが着工の見送りを教団に申し入れていた。建設予定地は国士舘大学キャンパスと都立高校に隣接しており、若者への勧誘などが不安視されている。
◆実勢価格9億4000万円の土地を一括購入に驚き
教団が新施設の建設を予定している土地は、川崎市との市境に近い幹線道路沿いで、以前は東京都八王子市の菓子会社の施設だった。多摩市内の不動産業者によると、国税庁による路線価を基に計算すると、土地の実勢価格は9億4000万円ほど。実際の取得価格は明らかではないが、進出に反対する市民からは「信者の高額献金が原資なのではないか」との声が上がっている。
土地の取得価格について教団の広報担当者は「公表していない」と回答。一方で、土地に抵当権はなく即金で一括購入したことを認めた。
不動産業者は、教団の新施設建設予定地について「駅から遠いうえ、広すぎて高額になるため需要は多くない」と指摘。その上で「一括払いとは…」と驚く。
阿部市長は、教団進出を問題視する理由として「土地取得や活動拠点の構築には、献金名目で被害を受けた人たちの財産も原資に含まれる可能性がある」と指摘している。
市民連絡会共同代表の永井栄俊さん(76)は「借金なしで土地を買っただけでなく、解体、施設の建設費もかかる。その資金力は普通じゃない。信者から巻き上げたのではないのか」と語った。
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2023年7月4日 06時00分
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)が、東京都多摩市内に進出する恐れがあるとして、市民ら有志が二十九日、「統一教会はNO!多摩市民連絡会」を設立した。旧統一教会はすでに同市内に土地を取得しており、市や市内の大学も懸念を示すコメントを出す事態になっている。(宮本隆康)
市によると、旧統一教会は昨春、同市永山七の幹線道路に面した約六千三百平方メートルの土地を、八王子市の菓子会社から取得。今年三月以降、多摩市に複数の不安の声が寄せられ、阿部裕行市長は二十八日、市ホームページで「市内に活動拠点を設けることには、市民の平穏な暮らしが脅かされるのではないかという懸念を示さざるを得ない」との談話を発表した。
隣接地にキャンパスがある国士舘大も同日、ホームページで「本学園の教育環境に好ましくない影響を与えることに強い危惧を抱いている」と表明。向かいには都立高校もあり、若者を狙った勧誘などが地元で懸念されている。
連絡会は二十九日の設立集会で、五月二十八日に旧統一教会問題に詳しいジャーナリスト鈴木エイトさんの講演会を開くことなどを決めた。講演会は午後六時半から永山公民館で。定員百九十八人、参加費五百円。問い合わせは会事務局=電050(3593)2060=へ。
2023年4月30日 07時06分