アイルランド:セックスワークの犯罪化がセックスワーカーへの偏見と虐待を助長.アムネスティがセックスワーカーの権利保護に関する方針と調査結果を公表.国連の専門家 セックスワークの非犯罪化を支持.【Q&A】セックスワーカーの人権を擁護する方針に関してアムネスティPDF魚拓



9月下旬、国連作業部会がセックスワーカーの権利は国際人権法で保護・強化する必要があると勧告したのは、世界中でセックスワーカーが直面する差別に取り組む上で重要な一歩になる。

作業部会の勧告は、成人の自由意思によるセックスワークを全面的に非犯罪化することで、セックスワーカーがしばしば被る差別や暴力、権利侵害への不処罰への取り組みが大いに期待できるとしている。

また、セックスワーカーは自身に影響を及ぼす法的・政策的枠組み作りに関わるべきだともいう。当事者はしばしばこの手続きから除外され、意見が無視され、あるいは軽んじられるからだ。

セックスワーカーの権利に関する人権基準は今のところ不十分で、人権を促進させるか、あるいはどう促進するかをめぐり、しばしば意見が対立する。今回の勧告は、すべての人権擁護活動家が共に集まり、共通の立場を築くことを可能にする方法を提示している。

背景情報

国連の「女性と少女に対する差別に関する作業部会」の意見書は、世界各地のセックスワーカーからの聞き取りを基に作成されたもので、10月11日に発表される。

この意見書の作成にあたり同部会が参照したのが次の3点である。アムネスティ・ノルウェーが実施した調査、不当な犯罪化が個人やコミュニティの人権に与える影響に対処するための「3月8日原則」、セックスワーカー・インクルーシブ・フェミニスト同盟(SWIFA)活動の一環としてのアムネスティの支援運動だ。

アムネスティ国際ニュース
2023年9月29日

英語のニュースを読むGlobal: Experts back decriminalization as the best means to enhance the rights of sex workers

国連の専門家 セックスワークの非犯罪化を支持





アイルランドで2017年に買春が犯罪化されたのは、人身売買の被害者やセックスワーカーを暴力や偏見などから保護するためたが、実際はセックスワーカーへの偏見や虐待を助長し、セックスワーカーを暴力から守ることはできていない事態にある。アムネスティが新たに発表した調査報告書で明らかにした。

聞き取り調査で、法律でセックスワークの一側面が犯罪になったことで、セックスワーカーは、警察への通報を控えるようになり、その結果、強かんや虐待などの暴力にさらされるリスクが高まっていることがわかった。また、セックスワーカーが他の仲間と同じ場所で仕事をすると売春宿とみなされ違法となるが、仲間がそばにいないと身の安全の確保が難しくなるという。

聞き取りに応えたセックスワーカーの多くは、セックスワークの全面的非犯罪化を望んでいる。また、他のセックスワーカーと同じ建物内で仕事をする方が安全で、暴力を受けるリスクが少ないと指摘する。アイルランド政府は、セックスワーカーの声に耳を傾けるべきだ。

セックスワーカーの一人はこう話す。「男性と一対一では、女性に勝ち目はない。仲間が同じ建物にいれば、何か起きても気づいてもらうことができるけれど、一人ではとても危険だ」

別のセックスワーカーは、「ある夜、私たちは目立たない袋小路に入って行ったので、警察に見つかることはなかった。車で入ることはできないから。でも、何かあったときの逃げ道もない。警察が入り口で客を待ち構えているから」と話す。

警察は盾ではなく脅威

また法律により、警察への不信と社会的な偏見は増し、これらの点もセックスワーカーの大きな懸念になっていることが、調査で明らかになっている。

聞き取りをした人たちの圧倒的多数が、仕事中に暴力を受けたことがあるという。それでも警察に通報しない。警察への不信と、通報しても何もしてもらえないという諦めがあるからだ。さらに、警察から嫌がらせを受けたり、警察から通知や嫌がらせを受けた大家に退去を言い渡され、ホームレスになったりするおそれがあるという。

一人のセックスワーカーは、「警察は、盾というより脅威」と話す。別のセックスワーカーは、「セックスワークは全面的に非犯罪化されるべき。でなければ、通報するのが怖い。どんな仕事でも悪い客はいるから、何かあれば通報できるのがいい。私たちにとって安心できる環境かどうかということ」と語る。

移住セックスワーカーの場合には、警察に通報すると在留資格や市民権の申請に影響する可能性もある。一人の移住ワーカーは、「警察を呼ぶとしたら死ぬ間際だけ。同じリスクなら、警察より客のほうがまし」と話す。

聞き取りをしたセックスワーカーにとっては、買春を違法とする法律は、人種、民族、性別、性自認、障がい、薬物使用、ホームレス、移民などの属性による偏見や差別を一層助長しているということだ。

調査で明らかになったのは、セックスワーカーの経験に基づく情報が不足していること、また政府に問題があるのは、性的搾取を目的とした人身売買とセックスワークを混同する時代錯誤や不備がある調査結果に依存していることだ。2017年の法案作成にあたり、政府は、当事者のセックスワーカーから十分な聞き取りをしていなかった。

政府は現在、性犯罪法の見直しに着手しているが、「今回は当事者の声を聞いてほしい」とセックスワーカーは訴えている。

この法律の見直しは、セックスワーカーの保護に向け必要不可欠だ。実効性のある保護の実現には、セックスワーカー自身の経験が、法律や政策に反映されるようにしなければならない。

背景情報

昨年12月にアムネスティが行った世論調査では、アイルランド市民の70パーセントが、法改正においてセックスワーカーの意見を聞くべきと考えており、73パーセントが、セックスワーカーは自らの身体と命について決定する権利があると考えている。

同国では2017年、刑法(性犯罪)法第4部で買春を犯罪化し、2人以上のセックスワーカーが同じ建物内で性的サービスを提供する売春宿に対する罰が厳罰化し、罰金5,000ユーロまたは最大12カ月の禁錮刑が科されるようになった。

アムネスティ国際ニュース
2022年1月25日

アイルランド:セックスワークの犯罪化がセックスワーカーへの偏見と虐待を助長



2016年5月26日

[国際事務局発表ニュース]

国・地域:

トピック:

「客が悪いやつでも、最後まで自分で何とかしなくちゃならない。警察を呼ぶのは死にそうなときだけよ。警察を呼んだら一巻の終わりだからね」(ノルウェーのセックスワーカー)

5月26日、アムネスティ・インターナショナルは、人権侵害と虐待からセックスワーカーを守るための方針を公表する。そしてこの問題に関する、パプアニューギニア、香港、ノルウェー、アルゼンチンにおける調査報告書を、同時に公開する。

セックスワーカーは、強かん、暴力、ゆすり、差別などあらゆる種類の人権侵害を受ける危険がきわめて高い。そして法の保護や救済策はほとんどあるいはまったく受けられないことが、あまりにも多い。

アムネスティの方針は、セックスワークに携わる人びとを人権侵害から守るために、各国政府が今後なすべきことの要点を記している。また調査報告書は、セックスワーカーたちの証言や彼らが日々直面している問題を明らかにしている。

方針

アムネスティの方針は、2年以上にわたって行ってきた世界各地での各種団体との協議、検証済みの証拠、国際人権基準の慎重な検討、そして直接調査の集大成である。

この方針の正式採択と発表は、2015年8月のアムネスティの世界大会での民主的決議に基づくものである。決議は、当時各国でメディアに取り上げられた。

方針は各国政府に対していくつかの点を要請している。例えば、危害、搾取、強要などからセックスワーカーを守る対策をとること、自分たちの生活と安全に関わる施策の立法化を目指す取り組みにセックスワーカーを参画させること、差別の撤廃とすべての人びとに教育と雇用の機会を提供することなどである。

またこの方針では、合意に基づくセックスワークの非犯罪化を勧告している。買春、客引き、一般的なセックスワークの組織化など、関連行為を禁ずる法律も対象に含む。このような法律はかえってセックスワーカーの安全を脅かし、彼らを利用し虐待する側の不処罰を招いていることが、証拠で明らかになっている。セックスワーカーが、罰せられることを恐れて犯罪被害を警察に報告できない場合が多いためである。したがってセックスワークに関する法律は、もっぱら搾取と虐待から人々を守ることに焦点を当てるべきで、すべてのセックスワークを禁止し、セックスワーカーを処罰するものであってはならない。

アムネスティは、強制労働、子どもの性的搾取、人身売買は憎むべき人権侵害であり、国際法に則ってすべての国で犯罪とされるべきで、その撲滅には総合的に取り組むことが必要だという立場をとる。今回の方針は、その立場を強めるものである。

法律は、セックスワーカーが安全に生活し、警察との関係を改善する一方で、搾取という問題の本質にあらためて対処するものであってほしい。各国政府には、誰も売春を強要されず、希望すればいつでもセックスワークを離れることができるよう、対策を講じることを望む。

調査

アムネスティはこの方針の策定にあたり、4地域に関する報告を含む広範な調査を行ってきた。これらの調査で、セックスワーカーは恐るべき人権侵害の犠牲者となっている場合が多いことがわかった。これはひとつにはセックスワークそのものが犯罪とされているためで、その結果彼らはかえって危険にさらされ、周縁化され、暴力から自身を守ること、法的、社会的サービスを求めることができない。

セックスワーカーらの話によると、セックスワークが犯罪扱いされるため、警察は彼らに嫌がらせをするばかりでセックスワーカーの苦情や安全に配慮することなどないという。

多くの国で、警察などの取り締り当局は、セックスワーカーを暴力や犯罪から守ることより、監視や嫌がらせ、強制捜査などでセックスワークを禁止することに熱心である。

アムネスティの調査によれば、売春行為自体が合法である国でさえ、セックスワーカーが虐待からの保護や法的救済を受けることは、まったくあるいはほとんどない。

パプアニューギニア

パプアニューギニアでは、セックスワークの稼ぎに依存したり、性を商売とする組織を作ったりすることは違法である。同性愛も犯罪であり、男性のセックスワーカーを起訴する場合の主な根拠となっている。

アムネスティの調査で、こうした刑法が、警察によるセックスワーカーへの脅しやゆすり、恣意的拘束を許している背景にあることがわかった。

パプアニューギニアのセックスワーカーは、激しい蔑視、差別、暴力をうけている。強かんや殺人の被害も受けている。2010年に大学の研究者らが行った調査によると、首都ポートモレスビーでは、6カ月間に顧客や警察に強かんされたセックスワーカーは50%だったという。

警察や顧客らによる強かんや性的虐待を受けても、セックスワークそのものが違法と見なされているため、被害届を出すことができないという悲痛な証言もあった。

ホームレスのセックスワーカー、モナは次のように語った。「警察は私の友だち(客)と私を殴り始めた……6人の警官が一人ひとり私にセックスしたの。奴らは銃を携帯しているから言うことを聞くしかなかった。裁判所に訴え出ようにも誰も頼る人はいないし。とても辛かったけれどどうしようもなかった。売春は法律違反なので誰も助けてくれない」

セックスワーカーは病気をまきちらす元凶として差別され非難される場合が多いが、警察はセックスワーカーに不利な証拠としてコンドームを使う。このためセックスワーカーの多くは、HIV/AIDSをはじめ、性と生殖に関する情報やサービスを得ることをためらってしまう。

セックスワーカーの女性メアリーによれば、「警察が私たちを捕まえたり取り締まる時にコンドームを見つけると、売春を広めているとかエイズみたいな病気をまきちらしているのはお前たちだとか口汚く罵る。脅しをかけ、お金を要求する。払わないと手荒に扱われるので、怖くて払うしかない」。

香港

香港では、個人がプライベートな部屋で行うことであれば、売春は違法ではない。しかし、隔離された場所での行為であるためセックスワーカーは無力な立場に置かれ、強盗や暴行、強かんなどを受けやすくなる。

セックスワーカーのクイーンは、「客引きの罪に問われるのが怖くて、強かんなどの被害を訴え出たことはない」と語る。

香港のセックスワーカーは、警察の保護を受けられないばかりか、警察の標的になることもあるという。

アムネスティの調査によれば、警察官は権力を乱用し、おとり捜査やゆすり、強要でセックスワーカーの犯罪をでっちあげ、処罰することが多い。覆面警官は、証拠をつかむためにセックスワーカーから一定の性的サービスを受けることが認められている。また警察や警察を自称する個人が、「金銭を渡すかセックスをタダでさせれば法的制裁を見逃しやる」と言い寄るという証言もあった。

トランスジェンダーのセックスワーカー対しては、警察の扱いがとりわけ手ひどいことが多く、トランスジェンダーの女性に男性警官が極めて屈辱的な全身の身体検査を行うケースも多い。

香港でトランスジェンダーのセックスワーカーの支援する弁護士は、「さんざん体を触ったり、からかったりですよ」と言っている。

トランスジェンダーの女性のセックスワーカーは逮捕後、男性用の拘置施設や精神疾患の囚人用の特別房に送られることもあるという。

ノルウェー

ノルウェーでは、買春行為は違法だが売春そのものは違法ではない。一方、「セックスワークの促進」やその施設の賃貸など関連行為は、犯罪とされている。

顧客や組織犯罪による強かんや暴力は多発しているにもかかわらず、セックスワーカーが警察に被害を通報するには高い壁がある。

「ある男の家に行ったら、その男に2回顎を拳固で殴られた。でも警察には言わなかった。記録が残ると困るから」とあるセックスワーカーは語った。

またセックスワーカーが警察に暴力被害を訴え出ると、警察と関わったばかりに家から立ち退かされたり国外追放されたりすることがあるようだ。

法律では、セックスワーク行為があった場合、その場所を貸した家主が訴えられる可能性があるため、セックスワーカーは強制的に立ち退かされる恐れがある。

セックスワーカーの人権団体の代表は、次のように説明している。「家主が立ち退きをさせないと、警察が家主を容疑者として立件する。警察は、家主が法律を利用してセックスワーカーを立ち退かせるように仕向けている

またセックスワークの当事者は、身を守るために互いに協力したり、ガードマンのような第三者の警護を頼むこともできない。こうしたことは同国の法律では「セックスワークの促進」と見なされかねないからだ。

ブエノスアイレス(アルゼンチン)

ブエノスアイレスでは、公式には売買春は違法ではない。しかし実際には、関連する行為を処罰するさまざまな法規があり、またこうした法律では合意の上でのセックスワークと人身売買を区別できないため、セックスワーカーは犯罪者とされてしまう。

同地でもセックスワーカーが警察に暴力を訴える上でのハードルは高いことが、調査で明らかになっている。

「相手(客)が金を払い、私が車を降りようとしたら、いきなり首を掴まれてナイフで切り付けられた。それで有り金全部と携帯電話を渡してやっとの思いで逃げることができた

路上で客引きをするローラは、時間の無駄だと思ったため、警察には暴力も盗みも訴え出なかったという。「ストリートワーカーの言うことなんか聞いてはくれないから」

セックスワーカーは路上で手当たり次第に警察から呼び止められ、繰り返し罰金をとられたり監察処分にあったりする。ブエノスアイレスでは、公衆の面前でセックスワークにまつわるやりとりを取り締まる場合、警察や検察が個人の外見や服装や態度を見て取り締まることは違法となっている。しかし実際にはこうした見た目の判断は頻繁に行われており、特にトランスジェンダーのセックスワーカーは格好の標的にされている。

個人宅で仕事をするセックスワーカーは、警察による長時間の手荒な点検や捜査、さらにはゆすりや賄賂の要求を受けることも多い。

またセックスワーカーは、甚だしい蔑視や差別にさらされ、とくに医療サービスを受けるうえで困難があるという。

トランスジェンダーである元セックスワーカーは、「病院に行けば笑いものにされ、医者の診察はいつも後回しなので、まともな医療は受けたことがない」と話した。

このため徹底して医療サービスを避けるセックスワーカーもいる。

虐待は正当化できない

世界中いたるところで、セックスワーカーは法的保護を受けられず、過酷な人権侵害に苦しんでいる。この状況は決して正当化できるものではない。各国政府は、セックスワーカーを含めすべての人びとの人権を守るよう行動しなければならない。非犯罪化は、危害、搾取、強要を防ぐために政府がとるべき必要な措置のうち、ほんの一つにすぎない。

アムネスティ国際ニュース
2016年5月26日

Q&Aセックスワーカーの人権を擁護する方針に関して

アムネスティがセックスワーカーの権利保護に関する方針と調査結果を公表



2016年5月26日

[その他]

国・地域:

トピック:アムネスティ・インターナショナルは、セックスワーカーの人権を擁護する方針がなぜ必要と考えるのか。

多くの国でセックスワーカーは、人権侵害を受ける危険性が高いためである。私たちの方針は、各国がセックスワーカーの保護を強化するために何をすべきかの要点を示している。

セックスワーカーはどんな人権侵害に遭う恐れがあるのか。

セックスワーカーは、次のようなさまざまな人権侵害に直面する恐れがある。

・強かん
・暴力
・人身売買
・強奪
・恣意的な逮捕と拘禁
・強制立ち退き
・嫌がらせ
・差別
・保健サービスからの排除
・HIV検査の強要
・法的補償の欠如

アムネスティは、セックスワーカーが警察官、客、それ以外の一般人から虐待を受け、加害者が処罰されない事例を多数確認している。

方針は、各国政府に対して何を求めているのか。

方針は、政府に対して、セックスワーカーの権利を保護し、尊重し、実現すべきだと述べている。例えば

・暴力、搾取、強制から保護する
・セックスワーカーを自身の生活や安全に関わる法律や方針の制定過程に参画させる
・保健医療や教育を受ける機会および雇用の選択肢を保障する
などである。

方針はまた、セックスワークの非犯罪化を求めている。犯罪化されていることにより、警察の保護が受けられなかったり、虐待者の不処罰を招いているなど、セックスワーカーの安全を脅かしている現状があるためである。 (方針の全文はこちら

セックスワークの非犯罪化とは、どういうことか。

セックスワーカーの搾取、人身売買、暴力などを犯罪とする法律の廃止ではない。これらの法律は引き続き維持し、強化されるべきだ。

そうではなく、セックスワークを犯罪化・処罰化する法律や方針を廃止すべきだということだ。

この対象には、客引き、場所の借用、売春宿の経営、売春による稼ぎへの依存など、セックスワークの売買や組織化に関わる法律や規則が含まれる。

アムネスティが「セックスワーク」と言う場合、成人間の同意による行為のみを指す。

なぜ非犯罪化を支持するのか。

非犯罪化というモデルは、セックスワーカーの権利の保護を強化しやすい。具体的には、

・保健医療へのアクセス
・犯罪行為を受けたときに、警察などへの被害の届け出ができる
・安全性を高めるために、セックスワーカーが団結したり、一緒に働いたりできる
・家族が、セックスワークでの稼ぎに依存することで罪を問われないという安心感を得る

セックスワーカーには保護が必要だとするが、なぜ「ポン引き」を保護するのか。

アムネスティの方針は、「ポン引き」を保護するためのものではない。セックスワーカーの虐待や搾取は、法に基づき全面的に裁かれるべきだ。

しかし、いわゆる"売春あっせん禁止法"には深刻な問題点があると認識する。対象範囲が広すぎて曖昧であるため、虐待の加害者ではなく、セックスワーカー自身がしばしば罪に問われてしまう。

例えば、多くの国では、身の安全を守るために2人のセックスワーカーが一緒に働くと、その場所は売春宿とみなされ、違法となる。

アムネスティは、法律はセックスワークの搾取、虐待、人身売買の問題の解決に向かうべきだと考える。そして、「何でも犯罪」はセックスワーカーの身を危険にさらすだけであり、最良の方法とは考えてはいない。

アムネスティはなぜ、買春を人権だと考えるのか。

そうは考えていない。私たちの方針は、セックスの買い手の権利についてではない。犯罪化がもたらしかねない人権侵害から、セックスワーカーを保護することがすべてだ。

またアムネスティは、買春を人権だとは見ていない。(だが、セックスワーカーには人権があると考える!)

はっきりしておきたいのは、いかなるセックスも同意がなければならないということだ。権利としてセックスを要求することは、誰にも許されない。

セックスワークの合法化と非犯罪化の違いは何か。

合法化とは、セックスワーカーを犯罪者扱いする法律の廃止ではなく、セックスワークを公式に規制するために、セックスワークに特化した法律や方針を導入することである。

私たちは合法化そのものに反対しているのではない。政府は、制度がセックスワーカーの人権を尊重するものとなるよう保障しなければならないと主張しているのである。

合法化の特に悪い事例は、チュニジアで見られる。公認の売春宿で働くチュニジアのセックスワーカーが仕事をやめたい場合は、警察から承認を得なければならず、「誠実な仕事」で生計を立てることを証明しなければならない。また、規制の外で仕事をすることはいまだに犯罪であり、法律の保護を受けらない。

セックスワークの非犯罪化は人身売買を促進するだけではないのか。

明確にしておきたい。セックスワークの非犯罪化は、人身売買の刑罰を無くすことではない。人身売買は、忌まわしい人権侵害だ。各国は、人身売買を罰する法制度を整えるべきであり、被害者が保護され、加害者が裁かれるよう、法律を実践しなければならない。

非犯罪化すると人身売買が増加することを示す信頼できる根拠は何ひとつない。

一方、セックスワークの犯罪化は、人身売買の摘発の障害となる。たとえば、被害者がセックスワーカーの場合、警察が自分に不利な行動をとることを恐れ、訴えを控えることもある。犯罪化により、セックスワーカーはまた、人身売買の監視強化や摘発・防止などの労働現場での保護策から排除される。

フリーダムネットワークUSA、女性の人身取引対策グローバルアライアンス、ラストランダ国際協会などの反人身売買団体・機関は、非犯罪化が前向きな役割を果たすと考えている。

セックスワークの非犯罪化は、世界における、女性の権利の弱体化やジェンダーのさらなる不平等に結びつくことにはならないか。

ジェンダーの不平等は、女性がセックスワークに就く上で大きな影響を与えるが、犯罪化はこの点には対処しておらず、女性の身を危険にさらしているだけである。

同じことが、差別や不平等扱いをされてきたトランスジェンダーや男性(多くがゲイやバイセクシャル)のセックスワーカーにもあてはまる。

国は、差別の撲滅、ジェンダーに関する有害な固定観念の撲滅に取り組み、女性やその他の周縁化された集団が自身の持つ能力を発揮できるよう支援し、すべての人びとが、生計手段を選択できるようにしなければならない。

アムネスティはなぜ北欧モデルを支持しないのか。

北欧モデルの意図に関わらず、買春やセックスワークの組織化を取り締まる法律は、セックスワーカーにとってリスクがある。

こうした法律では、警察の摘発から買い手を守ろうとして、しばしばセックスワーカーがより多くのリスクを負わなければならないことになる。

例えば、複数のセックスワーカーの話では、買い手が摘発されないよう相手の自宅に行かなければならない圧力を感じているという。つまり、自主性が損なわれ、時には身を危険にさらす恐れがあるのだ。

北欧モデルでは、セックスワーカーたちが、安全上の理由で仕事を一緒にしたり、組織化したりすると罰せられる。

また、家主がセックスワーカーに部屋を貸したことで起訴される恐れがあるため、住居の確保が難しいことがある。時には、家から立ち退かされることもある。

つまりアムネスティは、性産業を奨励しているのか。

アムネスティは、性産業を支持しているわけでも非難しているわけでもない。

だが、性を売る人びとに対する人権侵害や差別に対しては、強く非難する。そして、非犯罪化は、それらの問題に対処する重要な一歩だと考える。

非犯罪化に反対する人びとには、どう対応するか。

セックスワークの非犯罪化とはまったく相容れない意見があることは承知しており、私たちの立場を支持しない人たちの考え方を尊重する。

セックスワーカーの人権を擁護する最良の方法について、互いを尊重しながら開かれた議論をしていきたい。

セックスワークに就いているあるいは就くことを考えている人たちが、別の生計手段を得られるようにする、本人の希望でセックスワークを辞められるようにするなど、合意できる部分は多いと考える。

アムネスティには、今回の方針を支える根拠があるのか。

セックスワーカーの権利を擁護する方針の取りまとめには、2年以上の時間をかけた。方針は、信頼できる調査と多数の団体や個人との協議に基づいている。

アムネスティは、世界保健機構、国連合同エイズ計画、健康への権利に関する国連特別報告者、その他の国連機関や各種団体がこれまで作成した膨大な資料に目を通した。私たちはまた、女性の人身取引対策グローバルアライアンスなどの団体の見解も検討した。

調査の一環として、アルゼンチン、香港、ノルウェー、パプアニューギニアにおいて、200人以上のセックスワーカーに聞き取りをした。

世界中にあるアムネスティの事務所も協力し、多種の団体・個人と率直な協議を行った。セックスワーカーのグループ、サバイバーを代表する団体、セックスワークの犯罪化を求める団体、フェミニストなどの女性の権利の代表者、LGBTI(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス)の活動家、人身売買反対団体、HIV/AIDSの活動家などである。

さらに、セックスワーカーに関わる人権侵害を取り上げたアムネスティのこれまでの調査も活用した。以下に、その例を挙げる。

・ウガンダにおける女性への暴力に関する報告書では、「売春をしているということはセックスを求めているのだ」「売春婦なのだから、強かんには当たらない」と言われた女性たちのケースを取り上げた。
・ギリシャに対して、セックスワーカーと思われたHIV感染者たちへの犯罪化と侮蔑をやめるように訴える公開書簡を出した。
・ナイジェリアの拷問に関する報告書で、セックスワーカーが、強かんと賄賂の格好の的になっている件を訴えた。
・緊急行動(緊急を要する署名活動)では、ホンジュラスでセックスワーカーが狙われ殺されているケース、ブラジルで警察がセックスワーカーを立ち退きや虐待の対象としているケースを取り上げた。
・チュニジアに関する報告書では、セックスワーカーが警察などによる性的搾取や恐喝、強要の的になりやすい状況を詳述した。



5月26日、セックスワーカーの権利に関するアムネスティの方針と4件の調査報告の公開に合わせて、本ページの内容は更新された。

【Q&A】セックスワーカーの人権を擁護する方針に関して


https://www.amnesty.or.jp/news/pdf/SWpolicy_201605.pdf