経産省トイレ訴訟の高裁判決を支持します。最高裁は国側の主張の正当性を認め、女性の人権を守ってください 2023年7月3日 .経済産業省におけるトランスジェンダーのトイレ使用問題をめぐる7.11の最高裁判決に抗議します 2023年7月27日


最高裁判所判事 今崎幸彦 様

 国民のために重責を負って裁判をおこなってくださることに感謝申し上げます。私たちは「No!セルフID 女性の人権と安全を求める会」という市民団体です。

 今崎様が担当判事となられる、行政措置要求判定取消等請求事件(以下、経産省トイレ訴訟)の最高裁判所判決が、本年7月11日に行われます。

 私たちは、以下の理由により、2021年5月の東京高等裁判所における、「経産省としては他の職員が有する性的羞恥心や性的不安などの性的利益もあわせて考慮し、原告を含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を負っていることも否定しがたい」としてトイレの使用制限は違法ではないとした判決を支持し、この判決内容が最高裁でも認められることを求めます。

1.女性の人権の抑圧をしてはならない

 高裁判決が示したように、考慮されるべきは原告の人権のみにとどまりません。その場を共有する女性たちが、上長の命令により、性的羞恥心、性的不安をもって日々を送ることを余儀なくされるのであれば、それは人権の抑圧といえます。

 第二審判決においても、原告が性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは、「法律上保護された利益」と位置づけられました。そして、そうであるならば、「女性が女性専用のトイレを使用する」こともまた、女性の法的利益として認められるべきです。女性たちはこの職場において女性用トイレを使用する当事者です。司法はこの当事者を蔑ろにすべきではなく、その法的利益を毀損することのないように尽力すべきです。

 また、今月施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」の第12条においても、「この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」とあります。訴訟の提起が同法の施行以前とはいえ、原告が、性自認を理由に法益を主張するのであれば、これに対しては、当然、同法12条の規定をもって判断することもまた必要といえるでしょう。

2.性自認によるトイレ等の使用は、社会的コンセンサスを得ていない

 個人の事情について踏み込んだことを述べるのは躊躇われますが、公表されている第一審の判決にあるとおり、本件の原告は、性同一性障害と診断されていますが、戸籍上は男性であり、性別適合手術も受けていません。職場の女性が原告を同性とは見做せないとしても無理からぬことであり、また、そのような前提に立っての第二審判決と考えられます。

 ところで6月16日の口頭弁論の後の毎日新聞の報道では「人事院の判定時には、性自認に沿ったトイレ利用を認めるべきだという社会的な広い理解はなかった」ことを国側の主張と報じています。https://mainichi.jp/articles/20230616/k00/00m/040/250000c

 記事中に「人事院の判定時には」という留保が記されていることで、まるで現時点では性自認に沿ったトイレ等の使用に社会的コンセンサスが得られているかのような読解が可能になっています。しかし、それでは一般社会の通念を読み誤ることになります。一般社会は、トイレが生物学的性別または戸籍上の性別で峻別されることを求めています。

 新宿区の歌舞伎町タワー2階のオールジェンダートイレの顛末については、広く報道されているとおりです。当初から、女性の使用者がいないかとジロジロと眺める男性が続出し、その対応で警備員が付いて男性の使用の際は小便か大便かを問うて使用者を分けるようになり、その後は結局、パーテーションをつけて性別で区分をするようになった、というものです。

https://www.j-cast.com/2023/05/19461870.html?p=all

 また、小田急電鉄相模大野駅のトイレについて、駅員が「”自称女性の男性”が女子トイレに入るのを止めることは出来ない」と利用者である女性に告げたことが広まると、危険性を指摘する声がインターネット上で噴出し、地方議員からも懸念が表明されました。その後、別の問合せ者に対して小田急電鉄から「“女装した男性が女子トイレに入るのを見たら、すぐ駅員に通報してほしい”“多目的トイレに案内し、拒否した場合は駅員から警察に通報する”“LGBT法案があるから対応できないなんていうことはあり得ない”」という回答があったそうです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/67cf85d025a52ed91a8ae689b560a3072b251de4

 このように、性別で分けられたトイレはまさに国民が求めているものであり、とくに女性は性別で分けられたトイレを必要としています。かつて共同トイレが主だった頃は、女性は性被害や性的嫌がらせを受けることが絶えませんでした。1954年の文京区小2女児殺害事件がおきた一因は、トイレが男女共同だったことでした。現代において、性被害の記憶があるため女性専用トイレが失われたならば社会生活を送れなくなる女性は多数存在します。トイレ等の使用は性別で分けられているべきという社会通念は現在もなお確固たるものであり、最高裁判決においてもぜひとも尊重されるべきと私たちは考えます。

3.国側が違法とされたならば、先行判例として多大な影響を及ぼす

 6月16日の毎日新聞の報道では、「毎日新聞が中央省庁の1府13省庁に取材したところ、経産省以外にも、文部科学省と防衛省の2省で、出生時の戸籍の性と性自認が一致しないトランスジェンダーの職員から、トイレ利用について相談があったという」とありました。

https://mainichi.jp/articles/20230616/k00/00m/040/250000c

 今回の裁判の結果次第で、それらの人たちもまた、性別適合手術も戸籍変更も経ないまま、性自認に沿ったトイレ等の使用を求める裁判を起こすことも予想されます。

 法的性別の変更を定めた唯一の国法である「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」では、法的性別の変更の条件を具体的に定めています。しかしながら、その手続を経なくても性別を変更したと同等にみなす動きがあり、本件もそのうちの一つと言えます。省庁で認められるのであれば、一般企業には尚更大きく波及することは明らかです。そうなった場合、既に述べたように、女性の法益という問題を無視して進めることは、女性への重大な人権抑圧となります。

 本件は一個人の権利闘争としてだけ見るべきではありません。何をもって人間の性別とするかという、性別の概念についての重大な司法の判断となり、社会に多大な影響を与えるものとなります。ここにおいてどうか、国民全体の生活と人生を見渡してのご判断をお願い申し上げます。

 以上、女性の人権と安全を求める立場から意見を述べました。

 原告と女性のお互いの法益を尊重し、トイレ等の使用に関する社会的な意識も考慮するのであれば、第二審の判決を維持することが最も適切であると私たちは考えます。どうか最高裁におかれましても、第二審判決を支持し、これをもって結審としてくださいますよう心よりお願い申し上げます。

2023年6月30日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃、桜田悠希

経産省トイレ訴訟の高裁判決を支持します。最高裁は国側の主張の正当性を認め、女性の人権を守ってください2023年7月3日
日本の動き
セルフID, 性自認, 経産省トイレ訴訟, 高裁判決


最高裁判所判事 今崎幸彦様、宇賀克也様、林道晴様、長嶺安政様、渡邉惠理子様

 7月11日、最高裁判所にて、「第285号 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件」において職員側(未手術の女性自認の男性)の勝訴の判決が言い渡されました。私たちはまずもってこのことに強い抗議と怒りを表明します。

 私たちの会は、この判決に先立つ6月30日に、今回の責任判事である今崎幸彦氏に宛てて要請書「経産省トイレ訴訟の高裁判決を支持します。最高裁は国側の主張の正当性を認め、女性の人権を守ってください」を送付しました。内容の趣旨は以下の通りです。

1.女性の人権の抑圧をしてはならない……考慮されるべきは原告の人権だけではない。その場を共有する女性たちが、性的羞恥心、性的不安をもって日々を送ることを余儀なくされるのであれば、それは人権の抑圧である。

2.性自認によるトイレ等の使用は、社会的コンセンサスを得ていない……現時点ですでに性自認に沿ったトイレ等の使用に社会的コンセンサスが得られているかのような報道があるが、一般社会は、トイレが生物学的ないし戸籍上の性別で峻別されることを求めている。

3.国側が違法とされたら、先行判例として多大な影響を及ぼす……本件は単に一個人の権利の問題ではなく、何をもって人間の性別とするかという重大な司法判断となり、社会に多大な影響を与えるものとなるので、国民全体への配慮にもとづいた判断をお願いしたい。

 以上の点を踏まえて、私たちは、原告と同僚女性のお互いの法益を尊重し、トイレ等の使用に関する社会的な意識も考慮するものであった二審高裁判決を維持することが最も適切であると主張しました。

 しかし、本年7月11日の最高裁判決において、未手術の女性自認の男性職員が勝訴し、経済産業省での職場における原告の女性トイレ使用に関しては、その制限を裁量権の逸脱として違法とし、職場と同じ階の女性トイレも使用できるとの判断がなされました。

 こうした判断の理由として、原告が性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けていること、これまで(4年10ヶ月)2階以上離れた階の女子トイレを使っていたがトラブルがなかったこと、上告人が職場と同じ階の女性トイレを使用することについて等の説明会を開いたが、明確な異を唱えた女性職員はいなかったこと、この説明会から今回の判定に至るまでの約4年10か月の間に、原告(上告人)による経産省内の女性トイレの使用について何らかの特別の配慮をすべき他の職員がいるかどうかについての調査が改めて行なわれていないこと、などが挙げられています。

 しかし、トラブルを避けるために2階以上離れた女性トイレを使うように指示したのですから、トラブルがないのは当然です。また、たとえ実際にトラブルがあったとしても、裁判まで行なっている相手に何を言えるでしょうか? 説明会で明確な異を唱えた女性職員がいなかったとのことですが、匿名性も担保されていない状況下で、同僚に対して異を唱えることがそれほど容易なことでしょうか? また新たに入ってくる女性職員はそもそも意思を確認されていないのですから、今いる女性職員だけの意見で決定できない事柄ではないでしょうか。

 また、判決の補足意見として次のようなことが述べられています。同僚の女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対して抱くかもしれない違和感・羞恥心等は、「トランスジェンダーに対する理解の増進が必ずしも十分でないことによるところが少なくないと思われるので、研修により、相当程度払拭できると考えられる」。

 女性職員が違和感や羞恥心を感じるのは「理解の増進が必ずしも十分ではない」からであると決めつけ、研修によって払拭できるという議論は、今年の6月に成立したLGBT理解増進法に沿っているようでありながら、同法第12条の「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」という趣旨に反しているのではないでしょうか。女性として当然抱く違和感や羞恥心でさえ、理解不足のせいにされ、一方的な研修で克服させようとするのは、女性の尊厳と人権を踏みにじるものです。

 男性にとっては、トイレは単に用を足すところだという認識しかないかもしれません。しかし女性にとっては、生理時に生理用品を交換する場所でもあり、また怪しげな男性から避難する臨時のシェルターでもあります。そのような場に男性がいないという安心感がどうしても必要です。イギリスで男女共同トイレが学校で導入された時、女子生徒たちが男子生徒と同じ場所で排泄したり生理用品を交換することに強い羞恥心や戸惑いを感じ、学校に行けなくなる生徒も出たとの報道もありました。

 かつては、ほとんどの職場や公共の場において女性専用トイレが存在せず、先人の女性たちが苦労して女性トイレを確保してきたおかげで、私たちは現在、女性専用トイレを使用できます。女性だけの場所であることは女性の人権、安全、社会活動のためにどうしても必要なのです。

 判決本文においても、補足意見においても、女性の人権と安全は明らかに過少評価されています。女性が抱く羞恥心は感覚的・抽象的であると何度も決めつけられて否定されているのに対して、トランスジェンダーの人(MtF)が意に反して男性トイレを使うことに対しては、その「精神的苦痛を想像すれば明らかであろう」と無条件に受け入れられています。男性が女性トイレを使うことに対して多くの女性たちが抱く精神的苦痛は無視され、男性が男性トイレを使うことに対する精神的苦痛は重視されているのです。これが女性差別でなくて何でしょうか?

 また、補足意見の中で、「トランスジェンダーである上告人と本件庁舎内のトイレを利用する女性職員ら(シスジェンダー)の利益が相反する場合には両者間の利益衡量・利害調整が必要となることを否定するものではない」と語られています。職場の女性職員がみな「シスジェンダー」(自己の生物学的性別とそのジェンダー・アイデンティティとが一致している人を指す特殊用語)だとどうしてわかったのでしょうか? 正式の判決文に付された補足意見において、特殊なイデオロギー用語である「シスジェンダー」という言葉が使われたことは大変危ういことだと私たちは考えます。

 さらに、補足意見の中で、次のように言われていることも大きな問題です。「現行の性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の下では、上告人が戸籍上の性別を変更するためには、性別適合手術を行う必要がある。これに関する規定の合憲性について議論があることは周知のとおりであるが、その点は措くとして、性別適合手術は、身体への侵襲が避けられず、生命及び健康への危険を伴うものであり、経済的負担も大きく、また、体質等により受けることができない者もいる」。この部分は、今年9月に予定されている性同一性障害特例法における手術要件の合憲性をめぐる裁判の行方について、非常に不吉な予想を起こさせるものです。もし特例法の手術要件が撤廃されれば、ペニスを備えたままの法的女性が大量に発生することになり、日本に住むすべての女性の人権と安全が深刻に脅かされることになるでしょう。

 それと同時に、補足意見の中では、「なお、本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである」と釘が刺されており、今回の判決が不特定多数の人々が用いる公共のトイレの利用の在り方を決めるものではないことにも留意する必要があります。

 しかし、たとえ特定の職場の特定のトイレを特定の人が利用することを是認したものにすぎなくても、この判決が及ぼす社会的影響や効果は甚大なものとなります。同様の問題を抱えた他の職場においても、同僚の女性たちの羞恥心や精神的苦痛はないがしろにされて、女性を自認する男性の女性トイレ使用が積極的に是認される事態が生じることになるでしょう。

 女性たちは、女性というだけですでに大きな不利益を日々被っています。日本の男女平等度は世界125位であり、毎年この順位は下がり続けています。女子差別撤廃条約が批准されても(1985年)、さまざまな女性差別は残り続け、女性であるというだけで子供のころから性被害に遭い、女性の賃金水準は非正規も入れて計算すれば今なお男性の半分程度であり、そして家事・育児労働の大部分はいまだに女性が無償で担わされています。政治家も裁判官もほとんどが男性であり、女性が日々どのような困難と恐怖の中で生きているかに対する理解をほとんど持っていません。その典型例が今回の判決です。これによって、女性の生きづらさ、女性の不利益、女性の恐怖と絶望はいっそう増進することでしょう。

 今回の判決を全員一致で下した裁判官のみなさま、私たちはあなた方に厳重なる抗議をします。もし一人でも被害者が出たら、あなた方の責任であるということを、しかと心に刻んでください。

2023年7月27日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃、桜田悠希

経済産業省におけるトランスジェンダーのトイレ使用問題をめぐる7.11の最高裁判決に抗議します2023年7月27日
日本の動き
トランスジェンダー, 女性トイレ, 経産省トイレ訴訟