「技能実習生」の通訳をめぐる労働訴訟の最高裁弁論が開かれる 弁護士は「事業場外みなし労働制」の基準が変わる可能性を危惧 # 長時間労働 # 慰謝料・損害賠償 # 裁判 # 記者会見 # 外国人弁護士JP編集部弁護士JP編集部2024年03月26日 17:53.「過労死等防止対策推進法」成立10年、3度目の“大綱”見直し前に超党派議連が総会 出席者「実効性のある対策必要」 # 過労死弁護士JP編集部弁護士JP編集部2024年06月28日 10:16PDF魚拓
3月26日、熊本市内に住むフィリピン出身の日本国籍者である女性が、過去に勤務していた技能実習生監理団体に未払い残業代などを請求する訴訟について、最高裁弁論が開かれた。
訴訟の経緯
女性が勤務していたのは、技能実習生監理団体「協同組合グローブ」熊本支所(本部は広島県福山市)。タガログ語の通訳や技能実習生のサポートを行うキャリアスタッフとして、2016年から2018年まで働いていた。
最初の1年間は残業代が支払われていたが、熊本市内の自宅から車で1時間~2時間以上かかる熊本県北部や大分県・宮崎県の訪問先企業への「直行直帰」が指導されるようになった。それに伴い事業場外みなし労働制が導入されたことにより、移動時間は労働時間とみなされなくなったため、残業代が大幅に減った。
また、上司や同僚からパワーハラスメント・いじめを受けたことから、退職せざるをえなくなったという。
女性が提訴したのは2019年。その際に代理人弁護士と開いた記者会見での発言が名誉毀損にあたるとして、2020年になってから、監理団体が女性に損害賠償を請求する提訴(反訴)を行う。
熊本地裁判決は監理団体に対して残業代約30万円とパワハラに関する慰謝料約10万円を支払うように命じたが、女性に対しても名誉毀損の損害賠償約30万円を支払うように命じた。
女性と監理団体はともに福岡高裁へ控訴。高裁ではパワハラに関する慰謝料の支払いが取り消された一方で、監理団体による名誉毀損の訴えも認められなかった。
女性側は上告しなかったが、監理団体が最高裁に上告。しかし、最高裁も名誉毀損に関する判断については高裁判決を支持し、訴えを認めていない。
争点は「事業場外みなし労働制」が適用されるかどうか
今回の訴訟で争点となっているのは「事業外みなし労働」を定めた労働基準法第38条の2が適用されるかどうかだ。
事業場外みなし労働制は、外回り営業を行うセールスマンなど、事業場(企業)の外での仕事がほとんどであるために、企業側が正確な労働時間を把握することが難しい労働者に対して適用される制度。
適用されると実際の労働時間にかかわらず賃金が固定されるため、労働者の残業時間が多い場合には、企業にとって有利ともなり得る。
事業場外みなし労働制制度が適用される具体的な要件は下記の2点。
(1)労働者が労働時間の全部または一部において事業場外で業務に従事していること
(2)労働時間の算定が困難であること
監理団体の側は、訪問先企業に直近直行した女性は移動中などに業務以外のことを行える自由があったことから、事業場外で具体的にどれだけ働いていたか、労働時間を算定することは困難であると主張。
一方で女性の側は、そもそも業務の内容は「技能実習法」によって制限がかかっており自由度はなかったと反論。
また、事業場外の企業を訪問した際にはスマートフォンを使って開始時間と終了時間を報告していたことから、「労働時間の算定が困難であること」という要件は満たさないと主張している。
判例が変わる可能性も
事業場外みなし労働制については、2014年に「阪急トラベルサポート事件最高裁判決」が出されている。
阪急トラベルサポート事件では、ツアーコンダクターの業務は「労働時間の算定が困難であること」にあたらないとして、事業場外労働のみなし労働時間制の適用が否定され、企業側には未払い残業代の支払いが命じられた。
この判決は、その後10年間、事業場外みなし労働制の適用の可否を判断する基準となってきた。
今回の訴訟でも、女性側は他企業を訪問しての通訳業務とツアーコンダクター業務との類似性を指摘しながら、事業場外みなし労働制の適用を否定している。
しかし、最高裁は、企業側の主張を棄却せずに弁論を開かせた。弁論後に会見を開いた、女性側の代理人である松野信夫弁護士は「事業場外みなし労働制の判断基準を変える、新たな判例になる可能性がある」と指摘。労働者ではなく企業にとって有利な基準に変えられることを危惧した。
女性は熊本市に在住しているため、都内で行われた会見には不参加。熊本市内の団体「コムスタカ-外国人と共に生きる会」の中島眞一郎代表が参加して「人権侵害は外国人技能実習生だけでなく、彼らをサポートする人たちにも起こっている」と訴えた。
最高裁判決は4月16日(火)の予定。この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
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弁護士JP編集部
2024年03月26日 17:53
超党派の「過労死等防止について考える議員連盟」は25日、東京・霞が関の衆議院第一議員会館で総会を開催した。
「過労死等防止対策推進法」(以下、推進法)の成立から20日で10年。総会では今後の過労死防止対策が議題となった。
3度目の大綱見直しへ、7月に閣議決定を予定
総会では、田村憲久会長(自民)と泉健太会長代行(立憲)によるあいさつが行われたのち、厚生労働省の担当者から「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の見直し案について、説明が行われた。
同大綱は、推進法に基づいて策定されている。過去、2018年と2021年に見直されており、7月下旬に3度目となる見直しが閣議決定される予定だ。
労災請求件数増加の反省ふまえ今後の対策に
厚労省の担当者は見直し案について、以下の4点がポイントだと説明した。
1つ目は「10年間の取り組みで得られた成果を振り返り、今後の過労等対策に生かす」こと。
推進法成立後、2018年の働き方改革関連法成立により、時間外労働の上限規制が設けられたほか、勤務間インターバル制度導入の努力義務化や、調査研究、周知啓発活動も行われてきた。
しかしながら、過労死等による労災請求件数や支給決定件数は、推進法の成立後も増加傾向にあり、成果の振り返りと反省をふまえ、今後の対策につなげるという。
つづいて、「時間外労働の上限規制の遵守徹底、過労死等の再発防止指導、フリーランス等対策の強化」が2つ目のポイントとしてあげられた。
3つ目は「業務やハラスメントに着目した調査・分析の充実」で、具体的には芸能・芸術分野における過労死等事案の分析・調査を実施することや、過労死等事案でのハラスメント状況について、収集・分析を行うことなどが盛り込まれるという。
最後に、「国以外の関係者を含めた過労死対策の取り組みを推進する」ことが4つ目のポイントとしてあげられた。業種別でのカスタマーハラスメント対策の取り組み支援を行うことや、学校で行っている啓発授業の増加が掲げられたほか、国民自らが生活スタイルを見直し、睡眠をとるよう努めるなど、国民による取り組みも盛り込んだ内容になっている。
出席者からは国際条約への批准求める声
総会ではつづいて、出席者からの意見聴取が行われた。
過労死弁護団全国連絡会議の代表幹事で弁護士の川人博氏は「仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃」を定めた国際労働機関(ILO)190号条約に批准するよう主張。
「ハラスメントの被害者が相談窓口を利用したのに対応されなかったという例や、相談窓口に通報したことで、よりひどいハラスメントを受けたという事例が非常に多い。
日本も190号条約に批准し、ハラスメントを正面から禁止する法律や、企業がハラスメントの禁止を重視するような体制を作ることが求められるのではないか」
推進法制定から10年「これまで以上に実効性のある対策必要」
また、全国過労死を考える家族の会の代表世話人、寺西笑子氏は「推進法の制定から10年が過ぎ、これまで以上に実効性がある対策が必要だと思います」とコメント。
「私たちは大綱の見直し過程で、推進法の4つの枠組み(調査研究、啓発、相談体制の整備、民間団体の支援)以外の内容についても、労働時間の自己申告制をなくすことや、ハラスメント防止法の制定、コンプライアンス対策の義務化などを訴えてきましたが、枠組み以外の内容はなかなか反映されません。
推進法の第3条には『調査研究を行うことにより、過労死等に関する実態を明らかにし、その成果を過労死等の効果的な防止のための取組に生かすことができるようにするとともに、過労死等を防止する』と明記されています。
また、附則も『検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする』としていますから、ぜひ必要な措置を講じていただくことを強く要望します」(寺西氏)
出席者からは他にも、労基署・労働局の人手不足を解消してほしいといった声や、若年層や公務員の過労死対策を求める意見があがった。
また、総会に出席した家族会や弁護団、国会議員のメンバーの多くが、推進法の制定後も過労死する人が増加している現状の改善を訴えた。
推進法が目指す「過労死等がなく、仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現」のために、7月の大綱見直しのみならず、将来的な法整備も含めて活発な議論が行われることを期待したい。この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいて執筆しております。
弁護士JP編集部
2024年06月28日 10:16