トランプ氏、習氏に再選支援を求めたか 前補佐官が暴露「もしトラ」リターンズ 米国の選択「中国にとって好ましいのはトランプ氏勝利」笹川平和財団・渡部氏 By Tatsuhisa Shirakabe Read time:7min 2020.10.5プーチン大統領がトランプ氏称賛、米ロ関係は改善-「高く評価」Ilya Arkhipov、Stepan Kravchenko2020年10月7日 21:04
2020年6月18日
ドナルド・トランプ米大統領が大統領再選を目的に、中国の習近平国家主席の支援を取り付けようとしていたと、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が新著で明らかにしていることが17日、明らかになった。
「The Room Where It Happened」(それが起きた部屋)と題したボルトン氏の回顧録は、今月23日に発売が予定されている。トランプ政権は「機密情報」が含まれているとして、出版差し止めを求めて提訴している。
米メディアによると、ボルトン氏は同書の中で、トランプ氏がアメリカの農産品の購入を中国に求めていたとしている。
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11月の大統領選でトランプ氏と争う野党・民主党のジョー・バイデン前副大統領は、この回顧録について、「もし内容が本当ならば、道徳的に唾棄すべきだというだけでなく、ドナルド・トランプはアメリカ国民への神聖な責務に違反したことになる」と声明を出した。
BBCのアンソニー・ザーカー北米担当記者は、今回明らかになったのは「ウクライナ疑惑」同様、トランプ氏が自らの政治的利益のために外交を利用したことを描く深刻な内容だと指摘する。
大統領選まで5カ月を切り、足場を固めるのに苦労しているトランプ氏にとって、痛手となるとみられるという。
大阪で会談した際に
米紙ニューヨーク・タイムズに掲載された著書の抜粋によると、昨年6月に大阪であった主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)でトランプ氏と習氏が会談した際、習氏は中国に批判的なアメリカ人たちが新たな冷戦を呼びかけていると不平を言った。
トランプ氏は、習氏が米民主党の政治家のことを言っていると考えたという。
ボルトン氏は、「トランプは驚いたことに、話題を次期(2020年)大統領選挙に変えた。中国の経済力をほのめかしながら、再選できるよう習氏に懇願した」、「彼は米農家の票と、中国が大豆と小麦の購入を増やすことが、選挙結果を左右すると強調した」と振り返った。
習氏が貿易交渉で農産物を優先させることに同意すると、トランプ氏は習氏を「中国史上最も偉大な指導者」と呼んだという。
画像提供, Getty Images
一方、米通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表は17日夕、トランプ氏が再選の支援を求めたことは「1度もなかった」として、ボルトン氏の説明は不正確だとした。
収容施設は「正しいこと」
ボルトン氏は、米中首脳会談に先立つG20サミット夕食会での会話についても著書で言及。
トランプ氏は、中国西部・新疆ウイグル自治区における収容施設の建設について、「正しいこと」なので進めるべきだと述べたとした。
収容施設にはウイグル人などの少数民族100万人近くが罰や教化のため拘束されているとされ、人権団体が中国を厳しく批判している。
英国が核保有国とは知らなかった?
ボルトン氏の回顧録はまた、マイク・ポンペオ国務長官などトランプ氏の複数の側近が、トランプ氏のために働くことにいら立ち、嫌悪感から辞任を考えたとした。
ボルトン氏がホワイトハウスで働き始めた際、ジョン・ケリー首席補佐官(当時)は、「ともかくここを出たくて自分は必死だ。君には想像もつかないだろう。ここは良くない職場だ。そのうち分かるよ」とボルトン氏に言ったという。
また、2018年にトランプ氏が北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と会談した際には、ポンペオ氏がボルトン氏に「(トランプ氏は)本当にでたらめばかりだ」とメモを回してきたという。
「(トランプ氏は)他人の動機を勘ぐり、陰謀を疑い、巨大な連邦政府はもちろん、ホワイトハウスの運営方法についても、驚くほど理解しないままだった」と、ボルトン氏は書いている。
ボルトン氏によると、トランプ氏はイギリスが核保有国だと知らなかった様子だという。フィンランドが国だということも、知らなかったとしている。
トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国が防衛予算を増やさないなら、アメリカは脱退すると脅すつもりだと話したこともあったという。
さらに、全般的にトランプ氏に忠実なポンペオ氏が、トランプ氏と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の電話会談に同席中、「心停止」しそうだとこぼしていたとも記している。
ボルトン氏はさらに、米ABCニュースに対して、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が「(トランプ氏のことを)思いのまま操れると考えていると思う」と話した。このインタビューは21日に放送される。
「最高機密」の削除を拒む
ボルトン氏の著作をめぐっては、「最高機密」の詳細が含まれているとして、政府が1月に削除を要求。ボルトン氏はこれを拒んだ。
著作には、今年初めの大統領弾劾裁判の核心だった「ウクライナ疑惑」に関する内容が含まれるという。
その中には、トランプ氏がウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対し、ジョー・バイデン前米副大統領と息子ハンター氏についての汚職捜査を始めるよう圧力かける目的で、軍事援助を停止したとする項目も含まれるとされる。
トランプ氏がウクライナの大統領に電話をした昨年7月の時点で、バイデン氏は民主党の大統領候補になる最有力とされていた。今では、秋の大統領選でトランプ氏と争うのが確実となっている。
トランプ氏はこの疑惑を一貫して否定。与党・共和党が多数派の上院で2週間にわたって開かれた弾劾裁判で、無罪評決を受けた。弾劾裁判では証人は1人も呼ばなかった。
ボルトン氏は2018年4月にトランプ政権のスタッフとなり、翌年9月に辞職を発表した。これに対しトランプ氏は、ボルトン氏がトランプ氏に「強く」反対したため解任したと説明した。
(英語記事 Trump sought Xi's help with re-election - Bolton)
ロシアのプーチン大統領は、米国から制裁措置を受けたにもかかわらず米ロ関係は改善したとしてトランプ米大統領を称賛した。プーチン大統領はまた、米民主党の大統領候補、バイデン前副大統領とも協力できると示唆した。
ロシアのプーチン大統領
プーチン氏は7日放映された国営テレビとのインタビューで、トランプ氏は米ロ関係改善を「支持する発言を繰り返してきた」と指摘し、「もちろん、われわれはそれを高く評価している」と語った。その上で、米議会が党派を超えてロシアを抑え込む必要があるとの認識で一致しているのは、「トランプ大統領の意図が完全には実現されていない」ことを意味すると述べた。
バイデン氏については「極めて強い反ロシアの表現」が見られるものの、米ロの新戦略兵器削減条約(新START)を延長もしくは戦略兵器を削減するための新たな合意を結ぶ用意があるとプーチン氏は言明。「これは今後、米ロが協力できる非常に重大な要素だ」と続けた。
トランプ氏は6日、2016年米大統領選へのロシア干渉疑惑を巡る連邦捜査局(FBI)の捜査と、当時の民主党大統領候補ヒラリー・クリントン氏の私的メールサーバー使用に関する調査の関連資料について、機密指定解除を承認したと発表した。
原題:Putin Praises Trump Ties and Says Biden May Not Be Bad Either(抜粋)
Ilya Arkhipov、Stepan Kravchenko
2020年10月7日 21:04 JST
4年前、日経ビジネスは「もしトランプが大統領になったら…(通称もしトラ)」という連載特集を企画した。前回の米大統領選では当初、ドナルド・トランプ氏は民主党のヒラリー・クリントン氏に対し劣勢だった。トランプ氏がそこから巻き返し、仮に勝利したら何が起こるかを、各界の著名人や識者に予想してもらった。その後の結果は言うまでもない。「もし」をはるかに越えて、世界は変わっていった。
トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染するなど状況が混沌とする中、11月3日に迫った米大統領選で米国民はトランプ大統領とバイデン前副大統領のどちらを選択するのか。そして、その行方が世界、日本の未来にどう影響を与えるのか。今回も予想されるシナリオを聞いていく。
初回は、米ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)に上席研究員として在籍したこともあり、日米やアジアの安全保障・外交に詳しい渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員に「もしトランプが再選したら」を聞いた。
今後の主な登場予定
・パトリック・ハーラン氏(タレント、パックン)「イラク戦争を始めたあのブッシュですら恋しくなる」
・石破茂氏(衆院議員)
・前嶋和弘氏(上智大学教授)
・シーラ・スミス(米外交問題評議会日本担当シニアフェロー)
渡部恒雄(わたなべ・つねお)氏
笹川平和財団 安全保障研究グループ 上席研究員
1963年福島県生まれ。88年東北大学歯学部卒業。95年米ニュースクール大学で政治学修士課程修了。同年、ワシントンDCのCSIS(戦略国際問題研究所)に入所。主任研究員などを経て2003年上級研究員。日本の政党政治、外交安保政策、日米関係およびアジアの安全保障を研究。05年帰国。CSISの非常勤研究員を、三井物産戦略研究所主任研究員を経て、09年に東京財団へ。同年10月に笹川平和財団に特任研究員として移籍。17年より現職。
トランプ大統領の4年間をどう評価しますか。
渡部恒雄・笹川平和財団上席研究員(以下、渡部氏):トランプ氏は2つの面で実績を上げました。1つは世界における米国の役割を縮小し、求心力を弱めたこと。アフガニスタンやイラクなどへの関与を減らしました。もう1つは米国内における伝統的な三権分立や法的手続きの尊重、そしてマイノリティーへの配慮などを軽視して、大統領権限を拡大した。
これを実績と言うのは皮肉ではありません。彼自身が選挙戦で訴えて有権者がそれを選んだ。それを実行したから実績と言えるでしょう。野党やマイノリティーからすれば米国の民主主義の伝統を壊しているということになりますが。
ただ、その代償は小さくありません。アフガニスタンやイラクへの関与を減らしたのは、米国にとって負担は減ったものの、世界の安定や秩序は壊れました。米国の負担減とともに世界が多極化の道に進んでしまったことは、コインの表と裏の関係です。
対中国では追加関税を課したり、米国内からの締め出したりするなど強硬な姿勢も見せました。中国にとってトランプ氏はどう見えたでしょうか。
渡部氏:むしろ、いい大統領だったのではないでしょうか。世界への関与を減らした結果、米国の求心力は弱まりました。アフリカや中東、中南米などには、中国の関与が高まりつつあります。一帯一路など、構想実現に向けて動きやすくなった。
ロシアのクリミア併合や中国の香港に対する措置など、従来の米国なら秩序を維持すべく指導力を発揮してきたが、その力がなくなったことでやりたい放題になっています。世界はこの代償を払わないといけません。なかなか元の世界には戻れない。相当な時間がかかるでしょう。
米国の環太平洋経済連携協定(TPP)離脱はあったものの、日本への影響は限定的だったように感じます。
渡部氏:安倍晋三前首相がトランプ大統領と個人的な関係を強化した策がプラスに働いたのではないでしょうか。米国のTPP離脱はマイナスでしたが、結果的に「TPP11」をまとめて存在感をアピールした。「災い転じて福となす」ですね。
トランプ氏との親密な関係は不興を買ってもいいはずなのに、TPP11や日欧経済連携協定(EPA)をまとめたことで、世界の自由貿易秩序を維持したいオーストラリアや欧州からの評価も高まった。日米間の交渉も、農産物の関税引き下げをTPPレベルにとどめてうまく米国の圧力をかわした。積極策が奏功しました。
9月29日に開かれた初回の大統領選テレビ討論会は過去3番目となる約7300万人が視聴した(写真:ロイター/アフロ)
トランプ政権の4年を振り返ったところで、本題の「もしトラ」に移りたいと思います。トランプ大統領が再選した場合、どのような未来を想像しますか。
渡部氏:世界の分断がより拡大し、多極化が進むでしょう。
1945年以降、米国は強力な軍事力と経済力を背景に、民主主義に基づいたルールや規範作りで世界をリードしてきました。そのルールを守らないとそれなりの制裁があります。こういう既存のルールを各国がリスペクトして、指導力のある米国が欧州や日本を巻き込んで世界を抑制してきましたが、トランプ大統領はそれを壊しつつあり、求心力の低下でルールが流動化してきています。
日本にとって好ましいのは……
では中国が世界の覇権を握りますか。
渡部氏:いや、中国の影響力が及ぶ国や地域は増えるでしょうが、圧倒的な覇権を握るほどの力はない。本来であれば、米国の存在感が弱まればどこかが強まってもいいのですが、世界もそれぞれ分断を抱えています。欧州もEUからの英国離脱に加えて、東欧と西欧の経済格差問題も抱えている。ギリシャやイタリアなど南部は中東からの難民問題もあって、欧州が一枚岩にはなれません。ロシアも経済が弱い。
どこがリードを取るわけでもなく、その都度、国や地域同士で決める多極化が進むことになるでしょう。
中国やロシアにとっては、バイデン氏よりトランプ大統領の続投が好ましい。
渡部氏:そうですね。中国やロシアが望むような世界にますます近づいて、日本や欧州が期待するようなルールベースの世界にはなかなか戻れなくなる。既に影響は出ていますが、本格的な影響はこれから出てくると思います。この代償を世界が長い時間をかけて穴埋めしていくことになる。
日本は歴代最長政権だった安倍さんが退き、菅政権へと移行しました。
渡部氏:トランプ氏は個人的なつながりを重要視するタイプです。菅さんがすぐに安倍さんと同様の関係を築くのは不可能です。ただ良い点が1つあります。菅さんは安倍政権を長く支えた人だということ。安倍さんをうまく活用すればいい。
安倍さんはトランプ大統領とべったり追随していたように思う人も多いですが、独自の動きもしています。先に述べたTPP11や日欧EPAなどで、既存の自由貿易のルールや秩序を守る姿勢を見せて海外からの評価を高めた。日米同盟を基軸にしながらも、欧州や東南アジア、インド、アフリカなどともうまくマルチ外交してリスクをヘッジしてきた。こういうかじ取りを菅さんが理解し、実行できるかが課題です。
トランプ氏はビジネスマンの経験しかない。ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録で、中国が新疆ウイグル自治区で住民の強制収容所の設置を容認する発言をしたり、自分の再選のために米国の農産物を買ってくれと持ちかけたりしたことが暴露されました。強権的な「ストロングマン」が好きなトランプ氏と渡り合うためには、安倍さんのように中国やロシアとも話ができれば強みになるでしょう。
「もしトラ」ではありますが、バイデン氏が大統領になった場合も聞かせてください。
渡部氏:米国の国民感情からしても対中姿勢を軟化するわけにはいきません。圧倒的な軍事力で対抗するのではなく、知恵を使ってうまく中国を誘導しようとするでしょう。バイデン氏は環境問題を訴えていますが、温暖化ガスの排出量で米中は世界のトップ2ですから、中国の協力も必要と考えています。
ただ、バイデン氏が当選しても、トランプ政権時代の代償を簡単に穴埋めできるかと言えば、そうではないでしょう。トランプ氏は国防費を増やしましたが、バイデン氏はしないと思います。そうした中で世界の秩序を守るリーダーに返り咲きたくとも、低下した求心力を戻すには時間がかかる。米国内の半数を占めるトランプ派からの邪魔も入るでしょう。
米国は過去にも同様な経験をしています。ベトナム戦争の失敗で、経済だけでなく軍事への自信を失墜し、道徳的な指導力も失ってしまった。回復したのはレーガン政権のときでしょうか。かなり時間はかかりました。
トランプ氏と比較的うまく渡り合ってきた日本にとって、バイデン氏よりもトランプ氏再選の方がいいのでしょうか。
渡部氏:短期的に見ると、そう思う人もいるかもしれません。やり方を変えなくていい方が楽と考える官僚も少なくないでしょう。ただ、トランプ政権の長期化は、世界に与えるダメージの拡大につながります。民主主義のルールや秩序が崩壊していけば、それを修正するための時間はより長期化します。
バイデン氏が当選してもすぐには元の世界には戻らない。それでも、民主主義の維持や日本の今後を中長期的な視点で考えれば、バイデン氏が当選した方がいいと私は考えます。
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2020.10.5