【解説】米大統領選の争点性暴力を受けても中絶できず…脅かされる「人工妊娠中絶の権利」日テレNEWS NNN / 2024年8月21日 22時13分


アメリカではいま中絶を「禁止」する州が急増し、中には性暴力による妊娠であっても中絶を許可しない州もある。こうした状況に「女性の権利を奪っている」と規制に反発する声が高まり、大統領選挙での大きな争点となっている。厳格な規制が拡大した背景とその問題点とは。<国際部 福井桜子>

■増加する中絶「禁止州」

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おととし、アメリカで人工妊娠中絶の権利を保障してきた最高裁判決が覆されて以降、きょうまでに22の州が中絶に厳格な規制をかけている。

14の州では母体の生命が危険な場合などの特例を除き、どの妊娠週であっても中絶が「全面的に禁止」とされていて、このうち9つの州ではレイプや近親相姦による妊娠でも中絶を許可していない。

■レイプされても中絶できず

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こうした規制により、去年「禁止州」の一つであるミシシッピ州に住む13歳の少女が、レイプによる妊娠の結果、出産するというケースがあった。

ミシシッピ州では、レイプによる中絶は例外として認められているものの、「中絶禁止」となって以降、州内で中絶手術ができる病院がなくなってしまったのだ。

周りを「禁止州」で囲まれたミシシッピ州から最も近い病院は、車で片道9時間も離れたイリノイ州の病院で、少女は交通費などを工面できず、中絶を諦めて出産せざるをえなかったという。

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今年1月に発表された調査報告書によると、14の州では「中絶禁止」となって以降、レイプに関連した妊娠が約6万5000件あったと推定される一方、それらの州内で行われた中絶は月平均10件以下だった。

つまり、レイプにより望まない妊娠をした女性の多くが、自分が住む州で中絶手術を受けることができていないのだ。

■州またぐ中絶を余儀なくされる女性たち

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「禁止州」に住みながら中絶するには、中絶薬を使うという方法もあるが、見つかると罰せられるリスクがある。そのため、中絶が認められている州まで行き、手術を受けるほかないと考える女性が少なくない。

「禁止州」の一つであるテネシー州在住で、州をまたいだ中絶を余儀なくされたアリーさんを取材した。

アリーさんは去年、妊娠19週のときに胎児の臓器が正しく形成されず生存できる可能性が低いと診断された。

そこで医師から提案されたのが、母体を危険にさらしながら妊娠を継続するか、中絶するかの2択だった。ただ同時に、テネシー州は「禁止州」のため「ここでは中絶できない」と言われたという。

アリーさんはこの時のことを「州の外でどうやって手術を受けられるかもわからず、とても怖く絶望した」と振り返っていた。

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結局アリーさんは約1200キロ離れたニューヨーク州で中絶手術を受けることとなり、交通費や滞在費など約5000ドル(約70万円)かかったという。

アリーさんの場合はこれをクラウドファンディングでまかなうことができたが、中絶をする女性の多くは貧困層で、そもそも他の州まで行くことができず、中絶を諦めざるをえないケースが多い。

■中絶の権利に反対・賛成の主張

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中絶への厳しい規制の背景には、「生命を支持する」という主張から「プロライフ派」と呼ばれる中絶の権利に反対する人々の存在がある。

彼らは受精した段階で「人間の生命」であると定義するため、中絶は「殺人」だと主張している。

こうした考えを持つ多くの人がキリスト教の中でも保守的な考えを持つ白人の福音派で、彼らは共和党と結びつき、その影響力を拡大してきた。

一方、中絶の権利に賛成する人々は「女性の選択権を支持する」という主張から「プロチョイス派」と呼ばれていて、信仰に関わらず、個人の自由や自己決定権を重視する立場の人たちが中心となっている。

反対派が共和党と結びつきを深めていったことをきっかけに、賛成派は民主党に流れるようになった。

■大統領選への影響は

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5月に発表された世論調査では、投票時に立候補者の中絶への立場を「重視する」と答えた人が36%、「一つの判断基準になる」との回答が46%と、この問題への関心度の高さがうかがえる。

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さらに中絶の合法性を「支持する」と答えた人は民主党の影響力が強い青い州でも、共和党の影響力が強い赤い州でも半数を超えていた。

重要なのが大統領選の勝敗を決めると言われている7つの激戦州でも64%が中絶を支持していることだ。

つまり大統領選で勝つためには、中絶賛成派の「プロチョイス」の票をどちらが取り込むかが重要になってくるのだ。

■民主党と共和党の立場

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民主党から出馬するハリス副大統領は、これまでも中絶問題について積極的に発言していて、「自分の体のことは自分で決められるべき」と中絶への規制を批判してきた。

今回の大統領選でも「中絶の権利を守る」ことを大々的にアピールしている。

一方、共和党から出馬するトランプ前大統領は、2016年の大統領選で福音派からの支持を固めるため、中絶に否定的な考えを持つ最高裁判事の任命を公約に掲げた。

中絶の権利を保障した約半世紀前の最高裁判決を覆すことが狙いで、実際に大統領在任中に3人の保守派の判事を任命した。

これにより最高裁では中絶に反対する判事が多数となり、2022年に判決は覆され、トランプ氏はいわば「中絶の権利を認めない」という新たな最高裁判決の立役者となったわけだ。

ただ、今回の大統領選に向けては少しスタンスを変えてきている。

共和党内で「全国で一律に規制すべき」との声があがる中、トランプ氏は今年に入り「州レベルの課題だ」と再選しても全国的な中絶禁止には賛成しない意向を示している。選挙を前に、中絶賛成派に配慮した姿勢を見せているのだ。ただ民主党はこれを「選挙向けの発言で信用できない」と批判している。

中絶の権利は女性が自分の体について自分自身で選択するために必要なものだ。その権利を極端に制限したことで、つらい思いをした女性達がたくさんいる。

女性の人生や命をも左右するこの問題を選挙で勝つために取り上げるのではなく、女性たちがどんなルールを本当に求めているのかを真摯にくみ取り、分断を少しでも解消していくことが、次の大統領の使命ではないだろうか。

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