西日本新聞社説「戸籍の性別変更 手術の必要がない法律に」(2024年7月21日付) に抗議する性同一性障害特例法を守る会性同一性障害特例法を守る会2024年7月23日 21:53PDF魚拓


2024年7月23日

性同一性障害特例法を守る会
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/1237069/
去年10月の最高裁での「不妊要件」の違憲判断に続き、その決定で差し戻しされた広島高裁で、一切の性器手術をしていないこの申立人の性別変更を認める判断が出てしまいました。この件については今まで私たち「性同一性障害特例法を守る会」は、まさにこの性同一性障害特例法によって手術によって戸籍性別を変えてきた当事者の立場から、この決定を批判してきました。
https://note.com/gid_tokurei/n/n7c2ad12bb2ed
https://note.com/gid_tokurei/n/n7885ae90c264
おそらく多くの国民・マスコミの方々は「恩恵があるはずの当事者がなぜ、条件を緩めた判断に反対するのか」ご不審のことと思います。一見「人権を重視し、進歩的である」判断が、なぜまさに当事者から拒絶されるのでしょうか?

 2003年に性同一性障害特例法が成立して以来、私たちは「性器の手術をすることによって、戸籍の性別を変更して、世の中に『埋没』して暮らすことができるようになる」この法律に従って、戸籍性別を変更してきました。この事実、まさに生殖腺がなく、移行後の性別に「適合した」見かけを備えることによって、異性の間で受け入れられることを当然として捉えてきたのです。

 私たちのいわゆる「性別違和」というものは、単に「自分が思うように生きられない」と感じることによってもたらされるものではありません。それ以上に、自らの身体に対する違和、性的な機能に対する違和感から、手術を望んできたのです。

 実際、私たちの「負担」は、吹聴されているほど過酷なものではありません。身体的な負担について言えば「戸籍を変えたい」条件として手術に求められたのは、特例法成立当初から最低限のもので良いことになっていました。男性から女性にならいわゆる「造膣」は求められませんし、また、女性から男性ならば「男性ホルモンの影響で肥大した陰核をマイクロペニスとみなす」ことによって、最低限の侵襲で戸籍性別を変更できる、かなり緩やかな条件だったのです。
その前提で言えば、手術費用も極めて高額とは言えません。軽自動車一台程度、という表現で語られる程度の負担ですし、条件は厳しいですが健康保険の適用対象でもあります。また、リゾート感覚でタイでの手術を提供する商業的なサービスも提供するアテンド業者もいくつもあります。

 けして手術の条件は、当事者にとって「過酷なもの」とは捉えられていないのです。それどころか、自身が嫌でたまらない身体的な「欠陥」を、手術という手段によって解消する、と捉える当事者は実に数多いのです。私たちは「望んで手術を受けている」のであって、貴社の社説が
健康な体にメスを入れるため、心身面でも経済面でも負担は大きい。特例法を改正し手術要件を削除すべきだ。
と主張するのは、当事者の現実をかなり誤解・曲解したものだと、私たちは捉えています。
さらに言えば、貴社の社説では、
体の性別違和を解消したくて手術を望む人が多い半面、負担の大きさや体調の問題から、戸籍を変えたくても手術に至らない人もいる。戸籍を変えたい一心で、本意ではない手術に踏み切る人もいる。
と主張していますが、「戸籍を変えるために、望まない手術を受けた」という表現に、私たちは強い違和感を持っているのです。それほどまでに「戸籍性別の変更が重要だ」と捉える当事者はおそらくいないのです。

 私たちが戸籍を変える大きな理由は、しっかりと異性のコミュニティに受け入れられるためです。「戸籍の性別を変える」ことは私たちの「ゴール」ではまったくなく、異性のコミュニティのメンバーとして、違和感なく受け入れられ、出生時とは逆の性別として、周囲と協調しあい、幸せに生活することなのです。

 もちろん戸籍の性別が変わっていれば、余計な説明をしないですむ、という大きなメリットがあります。しかしそれも、しっかりと異性のカルチャーに馴染み、違和感のない見かけと立居振舞を手に入れた後でしか、問題になることはないのです。

 それ以外の「戸籍を変えたい」理由としては、「戸籍上同性であるパートナーと法的な婚姻がしたい」という希望があるでしょう。しかしこれも、本来同性婚なりパートナーシップなりで解消されるべき問題であり、戸籍性別を変えることでこれを実現しようというのは、筋違いも甚だしくはありませんか?

 また、私たちにとって、私たちの「生得的な身体特徴」は、極めて恥ずべきものです。異性のコミュニティに受け入れられて頂くためには、私たちの「恥」の部分を晒したくはないのです。ですから、私たちは強く手術を求め、自らが自らに「恥ずかしくない」ことを望むのです。

 このような私たちの手術志向を今まで女性たちは好意的に受け止めていました。しかし、去年からの手術要件廃止の動きに、多くの女性たちは懸念と疑念、そして嫌悪感さえも抱くようになってきています。私たちはこれは当然のことだと感じています。

 そのために、「特例法自体を廃止し、戸籍性別の変更を一切認めないようにすべきだ」と主張し活動する女性団体さえも登場しています。また、この判決を誤解・悪用して、女装者が女性スペースに侵入を試みて逮捕される案件が、とくに判決以降急増し、裁判所が「誤ったメッセージ」を国民に与えてしまったことが強く心配されています。

 この状況は私たち当事者にとって、大変困ったことです。私たちは今まで、手術要件によって社会と調和して生きていたことをよく承知しています。それなのに、私たちが違和感を覚える「身勝手な」主張によって、私たちを今まで守ってきた「盾」が壊されて、社会混乱の責任を私たちに押し付けられる状況をどうにかしたいのです。
そうした不安と、トランスジェンダーの人権は分けて考えねばならない。誰もが自身の性自認に沿って生きられるよう、実態に合った議論を丁寧に進めたい。
貴社の社説の結論ではこのように「性自認」=自分が女性(男性)だと思えば女性(男性)という、私たちが「性自認至上主義」と呼ぶ考え方を全面的に採用して、今まで医学的な概念「性同一性障害」として認められてきた、私たち性同一性障害当事者の立場を、観念的な「トランスジェンダー」の概念によって無視しようとする論調に乗っかることになっています。私たちの立場は本当は「トランスジェンダー」の立場ではないのです。

 「トランスジェンダー」を称する人々は、「自分が考えるジェンダーの在り方で生きたい」と考える人々であると大雑把に言えるでしょう。今まで手術を求めて苦闘してきた私たちとは、抱える課題が異なるのです。そしてこの「トランスジェンダー」たちは、今まで私たち性同一性障害当事者が享受してきたメリットを、「特権」であるかのように描きだし、それを破壊しようと試みています。
 この手術要件による戸籍性別の変更は、とくに女性たちとの間での「約束」というべきものです。このような社会的な合意を、司法が先走った「理念」によって覆そうとするのは、「司法の暴走」と呼ぶべきものでしょう。現状では「男性器がある法的女性」を、女性たちが受け入れる「社会的合意」は存在していないのです。

 ですから、私たちは当事者として、貴社の社説に対して、強い反対と抗議の意思を表明します。当事者の間での意見は多様であり、けして「トランスジェンダー」として「新しい生き方」を探求したい人々・LGBT活動家の主張が多数であるわけではないのです。無理をすればまさに性的少数者への「理解」は遠のくばかりではないのでしょうか?
 マスコミはこのような偏向した報道姿勢を改めて、現実の当事者の姿と意見を取材し報道することをお願いいたします。

西日本新聞社説「戸籍の性別変更 手術の必要がない法律に」(2024年7月21日付) に抗議する

性同一性障害特例法を守る会

2024年7月23日 21:53




性同一性障害特例法を守る会 美山 みどり

またもやおかしな司法判断がなされてしまいました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240710/k10014507081000.html
とはいえ、これは昨年の最高裁での特例法手術要件の不妊要件の違憲判断を受けて、広島高裁での差戻審の決定ですから「もう一つの手術要件である外観要件は、どうなるのか?」と私たちも注視してきた裁判なのですが…

ある意味「逃げた」決定になります。

さすがに「外観要件は違憲である」という判断まではしません(「違憲の疑いがある」とは言っています)が、性ホルモンによる治療を通じて、男性器が委縮しているから戸籍性別変更を認める、という決定を下してしまったのです。

事実審である差戻審において、改めて「外観要件を(異例ながら)満たしている」と判断したことによって、とりあえず私たちにとっての最悪のケースである「外観要件の違憲判断」をするだけの踏ん切りは、裁判官にもつかなかったようです。

当事者にとっても困った司法判断

もちろん、この判断には大きな問題があります。こんな玉虫色決着では、女性たちの「男性器のある法的女性が、女性スペースに侵入してくる!」という恐怖を鎮めるどころか、かえって女性たちに大きな脅威を与えることにもなります。まさに、更なる「文化戦争」を裁判所が煽ることになりました。

女性たちの心配はもちろんのことです。ですから、私たち今まで手術を受けて社会に受け入れられてきた戸籍性別変更組にとっても、

それじゃあ、戸籍性別というもの、身分証明書の性別というものの、信頼性がなくなる。自分たちも見た目があまり女性的ではないことから、「ホントは男性器があるのでは?」と疑われた時に、身分証明書の性別での証明ができなくなる!!

という新しい脅威が生まれてしまったのです! 今までは戸籍変更組は「男性器がない」ということを戸籍性別によって証明することができたのです。それが今後は保証されないことになります…。これは由々しい事態です。これによって困るのは、見た目に男性的な部分を残す手術済の MtF なのです。まさに一番「苦労する」人たちを、さらに生きづらくするトンデモない判断なのです。

実際、今までは手術さえしていれば、女性たちもそれほど強く女性スペースの利用を拒みはしなかったのです。しかし、見た目が男性的な「女性」が女性スペースに侵入して、性加害の不穏な動きをした時に、身分証明書の「女性」を提示して女性たちを黙らせようとするのならば、女性スペースは崩壊してしまいます。そのとばっちりを受けるのは、手術済の「パス度の低い」MtF なのです。そうなれば、

少しでも見かけが男性的だったら、即通報!

が女性たちにとって女性スペースの安全を守るために取らざるを得ない手段になります。荒んだ空気すら生み出しかねないですが、女性らからすれば致し方ない面があります。

難しくなった特例法改正論議

さらに言えば、現在不妊要件の違憲判断を受けて、特例法の改正論議が始まりつつあります。しかし、この判断はその中途半端さゆえに、事態を複雑化させ、収拾をつけることを難しくしています。

「どこまで男性機能を無効化したら、戸籍性別変更を認めることができるのか」のライン引きがない。

もちろん今まで、こんな医学的研究はなされていません。どこまでホルモン治療したら、不可逆的に機能が無効化するのかを研究するのは「非人道的な研究」と誹られても仕方のないことでしょう。研究もされていないことを、誰が判断できるのでしょうか?

私(美山)の経験から言えば、女性ホルモンによって言うほど男性器が委縮したか…というと、そんなこともありませんでした。個人差が大きいものでありますが、女性ホルモンを長年投与していても、全然勃起しないわけでもありませんし、男性機能が完全になくなる、というのも難しいものがあるというのが正直な印象です。ましてや、一旦女性ホルモンを止めたらどうなるか、どこまで復活するかという面でも、なかなか難しいというのが実体験からの意見になります。

誰がそのラインを判定するのか?

泌尿器専門医でしょうか? 確かに現状でも、特例法で戸籍性別を変更する際には、泌尿器科医による診断を経て、性器が「異性に近似する」ものであることを確認することになっています。これは私(美山)のケースですが、実は手術証明書を持って行っただけで、紹介された泌尿器科医は診察せずに診断書を書いてしまいました。現在かなり診断さえも形骸化しています。
そんな状況下では、手術なしで認めろ、とするケースでは、診断と共に写真による判断も必要となるのではないのでしょうか。その場合、裁判官はどのような基準で判断するのでしょうか?

誤った判断をした場合にどうするか?

もし、戸籍性別を変えたあとで、女性ホルモンの投与をやめ、あるいは男性ホルモンの投与を受けることで、男性機能が復活させることは、その「女性化の程度」によっては可能であるかもしれません。そして男性機能を使った性犯罪を起こした場合に当人が処罰されるのは当然ですが、そんな審判をした責任を誰が取るのでしょうか? 診断をした医師でしょうか? 審判を行った家庭裁判所の裁判官でしょうか? ライン引きについて誰が責任を取れるのでしょうか?
私たちは当事者として、戸籍性別変更の取消などの制度が必要ではないか、という提言をしようと考えております。その場合に、誤った診断を行った医師の責任追及も可能にすべしと考えています。

「性同一性障害」の診断書

さらに言えば、現在、戸籍性別を変更するために家庭裁判所に提出する性同一性障害の医師の診断書は、医師であれば誰でも書けてしまいます。なんら専門的な知識のない町医者であっても、家庭裁判所に出す診断書が書けてしまうのですね。
今までは事実上、手術という事実に基づいて審判がなされてきたと言っても過言ではないのです。手術という事実があるからこそ、さほど診断書を書く資格が重要視されていなかったとも言えるのです。
ここで手術要件がいい加減になってしまえば、診断書の重要性は格段に上がり、そのために厳格な運用が求められるのです。しかし現状ではまだそのような体制は、性同一性障害の専門医を集めた日本GI学会(旧GID学会)でも作られていません。ならば、この体制ができるまでは、現実的な特例法の運用として、手術済の人については従前どおり
手術をせずに戸籍変更したい場合には、複数の専門医による厳格な診断と移行状況についての専門的な検討の上、学会での倫理的な審査による承認の元にしか、診断書を発行してはならない


というようにでもしなければ、公平な運用は不可能と思われます。

女性スペースの利用

女性スペースの運用については、現在「女性スペースについての法律」が検討されており、それによって身体ベースでの女性スペースの運用がなされるべきです。言い換えると、戸籍性別が女性であったとしても、手術していなければ女性スペースは使えない、という大原則は動かさないように、法の上で明言すべきです。

ですので、事実上、この戸籍性別変更の使い道は、

同性婚にならずに元の同性パートナーと婚姻できる

という程度しかないことになるでしょう。もちろん女子スポーツについては、各競技団体の判断にゆだねられますが、多くの国際的な競技団体が「少しでも男性思春期を経過していれば、女子スポーツへの参加は認められない」という合理的な基準を採用していますので、これは戸籍性別とはそもそも無関係です。

以上のように、この高裁決定は、特例法の改正論議を複雑化させ、問題をややこしくしています。かなり慎重な議論とあらかじめの医療・診断体制の確立がない状況では、特例法の改正を難しくし、さらにはその運用をほぼ不可能なものに変えてしまいました。

私たちの提言

なので、私たちはこのように提言します。女性スペースを守る法律を早急に作り、身体ベースでの女性スペースの利用を明言して定めよ。
GI学会は、手術なしでの男性→女性への戸籍変更のための診断書発行を、ちゃんとした診断基準ができるまでは停止する。そして、正規の専門医資格制度ができるまでは、GI学会で個別に検討されて認められたもの以外の診断書を、家庭裁判所は有効な診断書として受け付けないように求めよ。
GI学会は、いわゆる「一日診断」として、専門医でもない開業医が商業的に真っ当な診断もなく発行している性同一性障害の診断書について、効力を持たないことを宣言せよ。


私たち当事者の願いは、性別移行を後悔なく、周囲と協調しつつ行えることです。

戸籍性別の変更を簡易にすることは、一見それが当事者の役に立つように見えて、実は自分の周囲の人々や社会との軋轢を生み、また「気軽に」性別変更をしてしまって後悔する人を量産し、また性犯罪者に口実を与える危険な行いです。

さらにこの簡易化が「じゃあ、医療なんてどうでもいい」とタダの美容手術化を推し進めることを助長して、私たちが求めるようなエビデンスを重視した充実したジェンダー医療を、専門医が追及することを阻害する可能性が高いのです。そうなればこの判決は「いい加減なジェンダー医療」を蔓延させるきっかけにしかならないのです。

このような愚かな未来を選択しないように、皆さまに成り行きを注意するように訴えます。

広島高裁差戻審決定を批判する

性同一性障害特例法を守る会

2024年7月10日 18:46





すでに報道などで周知のことと思いますが、2023年10月25日、最高裁判所大法廷は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下特例法)について、その3条4号の「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠くこと」(以下不妊要件)について違憲とし、また3条5号「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」(以下外観要件)については憲法判断をせずに、審理を広島高裁に差し戻しました。

まったく不当な判決ですし、また、この結果だけ見る限り、違憲となった不妊要件と、現状では未判断の外観要件との間の整合性を考慮していない、異常な決定であると言えるでしょう。裁判官のうち三名は外観要件も違憲という反対意見を述べており、広島高裁で外観要件も違憲という判断が出かねない状況です。

まさに「司法の暴走」と呼ぶべき異常事態です。国民の間では、この手術要件の撤廃についてはいまだしっかりとした議論もなされておらず、女性を中心に「男性器のある法的女性が、女性の領域を侵略する!」という恐怖と危惧の声が強く上がってきています。最高裁には残念なことに、このような声が全く届いていないようです。

今までは手術要件があるために、特に男性から女性への性別移行者(MtF)については、「戸籍性別が女性なら、男性器はない。だから女性スペースに入ったとしても、性被害の可能性が少ない」というかたちで、性別移行者の立場の理解の上に黙認・容認されてきたわけですが、この決定は大前提を崩す、極めて過激な判決です。

問題は実のところ、性的少数者の権利だけの問題ではないのです。性的少数者とそうでない人々との、それぞれの権利の尊重と調整の問題なのですが、この判決では特に女性の立場を軽視する論調が目立ちます。公平と正義を旨とする裁判官が、こんな軽率な判断をしていいのでしょうか?

実際、女性スペース・女性の権利と、性別移行者の人権の間での、個々個別の調整に関する議論はまったく不十分なものに過ぎません。女子スポーツについては、国際的な競技団体では「少しでも男性の思春期を経験した者は女子スポーツに参加できない」という、戸籍性別とはまったく無関係の「性別基準」が設けられています。「法的性別」は「すべて完全に生得的女性と同じ権利」であるとはけして言えないものであり、その法的女性の権利とは、個々個別の問題についての丁寧な議論と同意を以てしてしか、しっかりと調整できないものであるのです。

しかし、このような丁寧で開かれた議論はいまだありません。そのような状況で「戸籍性別と、身体的な性別特徴」とを分離することを法が認めるのならば、今まで漠然と「法的女性は女性」としてきた「社会的区分」が、個々個別の合意として一つ一つ論を立ち上げていかなければ、到底女性の権利と法的女性の権利とを調和させることはできないのです。このような責任は、けして裁判官が負うことができるようなものではないのです。

現在の日本には、まだ「手術要件」を外す社会的条件は整っていないのです。同様に、今回不妊要件と外観要件を別途に扱う判断がなされましたが、これも性別適合手術の現実からは、かけ離れた空論です。

外観要件に従って、陰茎を切除したが、陰嚢がある状況は、「女性としての外観を備えている」と言えるのか?

こう考えてみれば、不妊要件と外観要件を分離すること自体、机上の空論であることは明らかです。このような空疎な議論は、海外の性別移行手術の「常識」に通用するようなものではないのです。もし、この決定通りに不妊要件と外観要件を分離するとしても、MtF (男性から女性へ)の場合には、現実的な手術の術式の問題として、「外観要件を満たすためには、不妊要件も自動的に満たすことになる」か、あるいは「外観要件も違憲だ」という主張の根拠に使われるか、どちらかしかないのです。

またさらに、「専門医による診断」も、現実には極めて大きな問題があります。「一日診断」と呼ばれる、患者の言いなりで15分ほどの形式的な診断で、性同一性障害の診断書を発行するというモラルを欠いた医療が横行しているのです。これでは、「自分は性同一性障害?」と悩む当事者の救いとはならないだけでなく、医療側の「儲け主義」から安易に手術を勧めたり、また本来のガイドラインから外れたような性同一性障害ではない人がホルモン療法や国内外で手術をしてしまい、数年後あらためて後悔するということさえ普通に起きています。
この「一日診断」が当事者の利害と一致するかに見えて、実は正反対の極めて危険な医療モラルの崩壊でしかないのですが、さらにこの診断書を「お墨付き」であるかのように振りかざす、女性に危害を加える犯罪者さえ登場している(注1)のが現実です。まさに「性同一性障害の診断書」の医学的な信頼性はまったくないのです。このようなモラルの崩壊を裁判所は肯定するのでしょうか?

診断書が信用されるためには、診断の厳格化が必須です。同時に性犯罪や暴力犯罪の過去歴がある場合には、性別移行を認めない。移行後に性犯罪を起こした場合などは、性別移行の取消を含む処分を新設する。あるいは、性犯罪傾向を見逃した専門医の責任を追及し処罰する制度など、しっかりとした診断と医療を保証する体制を作らないことには、そもそも自己責任な「美容手術」でしかないと批判されるほどの信頼性を欠いている現実を、野放しに肯定するだけになってしまいます。

このように、現実の性別移行の社会環境は、ハッキリ言って無責任なものでしかないのです。このような状況で性別移行条件を緩和することは、逆に真面目にガイドラインに沿った診断を受け、ガイドラインに沿って性別移行のプロセスを踏んで、その上で社会に埋没する善良な性別移行者も、「性犯罪者と変わらない異常な人々」とみなされるような、特例法以前の状況に逆戻りするのは、火を見るより明らかです。
今年に入って、この問題が少しづつ取り上げられるようになったことが悪い刺激になったのか、「女装して性犯罪を犯す」人たちの事件が多数報道されるようにもなりました。まさに「性犯罪者の言い訳」に、性同一性障害が使われるという、真面目な当事者にとっては不面目極まりない自体がすでに起きています。
まさに、この性別移行条件の緩和は、性別移行者の人権の尊重ではなく、逆に性別移行者への偏見と迫害を正当化するような、悪影響しかないとまさに当事者は危惧しています。実際、「特例法が諸悪の根源だ」として、特例法自体の廃止を叫ぶ団体も活動を始めています。私たちがせっかく勝ち取った「性別移行の権利」が、その権利を悪用する人たちと、「かわいそうだから」で無責任に緩和しようとする「善意の人々」によって、台無しにされる瀬戸際なのです。

このような「性別移行条件の緩和」を、現実的な法運用の場面で許さないように、引き続き私たち当事者は訴えていきます。どうか皆さま、私たちの立場をご理解いただき、引き続きご支援を賜りますよう、また異常な判決を下してしまった最高裁に対する強い抗議の声を上げていただきますよう、性同一性障害当事者としてお願いいたします。

以上をもって、声明とします。
2023年10月26日
性同一性障害特例法を守る会

参考
(注1) 振り袖に“墨汁” 被告の男が起訴内容認める 弁護側「性同一性障害で晴れ着に強い憧れ」 福岡地裁支部https://yotemira.tnc.co.jp/news/articles/NID2023042717580

最高裁の違憲判決への声明

性同一性障害特例法を守る会

2023年10月26日 13:23




福岡県北九州市で今年1月に開かれた「二十歳の記念式典」に参加した女性らの振り袖に墨汁のような黒い液体をかけて汚した罪に問われている男が、27日の初公判で起訴内容を認めました。




器物損壊の罪に問われているのは、北九州市若松区の会社員・平井英康被告(33)です。

起訴状によりますと、平井被告は今年1月、北九州メディアドームで開かれた「二十歳の記念式典」に参加した女性2人の振り袖に墨汁のような黒い液体をかけて汚した罪に問われています。




27日、福岡地裁小倉支部で開かれた初公判で、平井被告は「間違いありません」と起訴内容を認めました。

その後、被告人質問で平井被告は「二十歳の記念式典」当日の朝、犯行を思いついたことなどを語りました。

<弁護側による被告人質問>
Q.「いつ犯行を思いつきましたか?」
A.「当日の朝です。そのとき、振り袖の人っていいなと思いました。そして悔しいとか嫉妬心とか悲しい気持ちで怒りがこみあげてきました」

Q.「なぜですか?」
A.「自分が成人式の時に振り袖を着れなかったから」

Q.「なぜそんな気持ちになったのですか?」
A.「八つ当たりとか、そんな気持ちです」

Q.「どうして墨汁なんですか?」
A.「交際相手の家から墨汁を見つけたからです」

また弁護側は、平井被告が2017年に「性同一性障害」と診断されていたことを挙げ、「晴れ着に対して強い憧れがあった」「被害者への弁済の意志も示している」などと主張しました。

一方、検察側は「性同一性障害と犯行に因果関係はない。身勝手な嫉妬心や怒りのままに犯行に及んだことは許されるものではない」と指摘しました。

次の裁判は6月8日に予定されています。

振り袖に“墨汁” 被告の男が起訴内容認める 弁護側「性同一性障害で晴れ着に強い憧れ」 福岡地裁支部

2023/04/27 17:15