処理水めぐる中国の主張に外務省が反論 「科学的根拠のない発信」福島第一原発の処理水問題長崎潤一郎2023年9月2日 7時00分.ALPS処理水の海洋放出に関する中国政府コメントに対する中国側への回答.東京電力福島第一原発におけるALPS処理水の安全性レビューに関するIAEA包括報告書の公表PDF魚拓


東京電力福島第一原発処理水の海洋放出をめぐり、外務省は1日、「中国政府コメントに対する中国側への回答」と題した反論文を公表した。中国側の主張に「事実及び科学的根拠に基づかない内容が含まれていた」と反論し、「科学的根拠のない発信により人々の不安をいたずらに高めるのではなく、正確な情報を発信するよう引き続き求めていく」としている。処理水めぐる嫌がらせ 中国は取り合わない姿勢 逆に「被害者」主張


 在日中国大使館は8月28日、処理水の安全性やモニタリングの信頼性をめぐる中国政府の主張をホームページに掲載。呉江浩・駐日中国大使が同日に岡野正敬外務次官と会談した際に表明した内容という。

 中国側は処理水の安全性について「福島の核汚染水には60種余りの放射性核種が含まれており、トリチウムのほか、多くの核種の有効な処理技術はまだない」と主張。これに対し、日本側は1日の反論文で「ALPS(多核種除去設備)は62の核種を確実に除去するように設計されている」などと指摘し、「放出される水は、中国側が言うような『汚染水』ではなく、十分に浄化された『ALPS処理水』を更に希釈したもの」と強調。「IAEA(国際原子力機関)は公衆の混乱を避けるために用語への理解が重要であり、用語を区別すべきと指摘している。IAEAの指摘を真摯(しんし)に受け止め、不適切な表現を行わないよう求める」とした。

 中国側の「IAEAのモニタリングの枠組みには他の国や国際機構は現地参加しておらず、これでは国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠く」との主張には、日本側は「現在実施されているIAEAによる比較評価には、米国、フランススイス及び韓国の分析研究機関が参画している」と反論。「IAEAの権威・権限を否定することは、IAEAの安全基準に依拠して設定された中国の安全基準さえも否定するもので、原子力の平和的利用の促進を阻害する極めて無責任な主張だ」と強い調子で非難した。(長崎潤一郎)

処理水めぐる中国の主張に外務省が反論 「科学的根拠のない発信」

福島第一原発の処理水問題

長崎潤一郎2023年9月2日 7時00分

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_001548.html








 8月28日、駐日中国大使館ホームページにおいて、ALPS処理水の海洋放出に関するコメントが掲載されました。これらのコメントには、事実及び科学的根拠に基づかない内容が含まれていました。しかし、日本政府としては、これまでも、中国側から直接提起された指摘には、誠意をもって、科学的根拠に基づき回答してきており、今回のコメントに関しても同様に、本日、中国側に対して以下のとおり回答しました。

 日本政府は、今後もALPS処理水について、高い透明性をもって、科学的根拠に基づく丁寧な情報提供を続けてまいります。中国政府に対しては、こうした科学的根拠のない発信により人々の不安をいたずらに高めるのではなく、正確な情報を発信するよう引き続き求めていきます。

【中国側の1つ目のコメントへの回答】
 中国政府は、1つ目のコメントとして、日本側は、トリチウムは希釈・処理されている点を説明する一方で、他の核種については説明していないとしています。また、中国政府は、ALPS処理水には60種類以上の放射性核種が含まれており、トリチウムのほか、多くの核種の有効な処理技術がないとしています。さらに、中国政府は、「基準値を満たすこと」と「存在しないこと」は別であり、ALPS処理水の海洋放出は、海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらす可能性があるとしています。

 これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。

 ALPS(多核種除去設備)は62の核種を確実に除去するように設計されていますが、半減期を考慮すべきなどのIAEAの指摘を受け、処理前の水に現実的に存在し得る核種は29核種であると考えています。IAEAは、包括報告書において、この選定方法は「十分保守的かつ現実的」と評価しています。また、日本の分析に加え、IAEA及び第三国機関の分析でも、その他の核種は検出されていません。こうした内容については、原子力規制委員会の審査やIAEAのレビューを通じて公開されています。いわゆる「60種類以上の放射性核種が含まれている」とする中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。

 これらの核種については、ALPSによる処理を経た後、規制基準未満まで除去します。処理後に検出されたことのある核種は、29核種のうち9核種だけであり、それらも規制基準を十分に下回るまで浄化できています。これまでの運転実績から、ALPSは十分な浄化性能を有することが実証されており、IAEAも、それらのうち多くの核種は検出されることはないほど濃度が低いと評価しています。

 ALPS処理水の海洋放出による人及び環境への放射線影響は、国際的な基準及びガイドラインに沿って、海洋拡散、核種の生物濃縮や長期の蓄積も考慮して入念な評価を行った結果、無視できるものです。IAEAは、包括報告書において、この点についても結論として明記しています。いわゆる「海洋環境や人体に予期せぬ被害をもたらし得る」との中国側の主張は、科学的根拠を有するものではなく、IAEAの見解とも異なるものです。放出される水は、中国側が言うような「汚染水」ではなく、十分に浄化された「ALPS処理水」を更に希釈したものであり、放射性物質の濃度が規制基準を大幅に下回るレベルの水です。IAEAは、公衆の混乱を避けるためには用語への理解が重要であり、用語を区別すべきと指摘しています。日本政府は、中国政府に対し、IAEAの指摘を真摯に受け止め、不適切な表現を行わないよう求めます。

【中国側の2つ目のコメントへの回答】
 中国政府は、2つ目のコメントとして、日本側はすべての核種をモニタリングしているわけではなく、モニタリング対象となる海洋生物の種類も少ないので、日本側が公表しているモニタリング・データだけでは、ALPS処理水の放出が安全で無害とすることはできないとしています。また、中国側は、日本側が発表しているデータの大部分は東京電力自身がサンプリングし、検査し、公表しているものであるが、東京電力が発表したデータは信頼できないとしています。

 これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。

 日本は、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、政府が定める「総合モニタリング計画」に基づいて、包括的かつ体系的な海域モニタリングを行っています。同計画においては、東京電力のみならず、環境省、原子力規制委員会、水産庁及び福島県がモニタリングを行っており、その結果については各省庁のウェブサイト及び包括的海域モニタリング閲覧システム等において公開されています。放出開始後のモニタリング結果は、ほとんど検出下限値未満であり、検出されたものも極めて低い濃度であり、安全であることが確認されています。ALPS処理水は、計画どおりに放出されています。

 東京電力のデータの信頼性については、原子力分野において国際的な安全基準の策定・適用を行う権限のあるIAEAのレビューを受けており、東電の分析能力や信頼できる業務体制を有するか等も含め評価されています。このレビューには中国の専門家も参加しており、中国の専門的知見も踏まえた上で評価されたものです。

 海洋放出されるALPS処理水の安全性については、放出前のモニタリングを徹底した上で、海域モニタリングにおいて、海水中のトリチウムの観測点を増やす等の強化を行っているほか、放出開始後は、東京電力のみならず、各機関が、トリチウムの分析を頻度を高めた上で迅速に行い、その結果を速やかに公表しています。

 また、トリチウム以外の核種についても、例えば、環境省は、上述の29核種を含めた幅広い核種のモニタリングを行うこととしており、特に、海洋放出開始後は、海水中のγ線放出核種を毎週スクリーニング的にモニタリングし、結果を公表しています。原子力規制委員会は、以前より、定期的に、海水のセシウム134及び137、ストロンチウム90の濃度や全β核種をモニタリングし公表していますが、海洋放出開始後もそれを継続しています。

 このように、現在のモニタリング制度は、放射性物質濃度の変動があった場合には速やかにこれを探知し、放出の停止を含め適切な対応をとることが可能なものとなっています。

 IAEAは、包括報告書において、政府と東京電力のモニタリングに関する活動は国際基準に沿ったものであるとし、政府と東京電力は充実した環境モニタリング計画を実施していると評価しています。

【中国側の3つ目のコメントへの回答】
 中国政府は、3つ目のコメントとして、「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」として、日本側に対し、各利害関係者が参加できる長期的モニタリングの国際的取組の立ち上げを積極的に支持すべきとしています。

 これらの点について、正確な事実は以下のとおりです。

 ALPS処理水の海洋放出については、これまでIAEAの関与を得ながら、国際基準及び国際慣行に則り、安全性に万全を期した上で進めてきています。海洋放出開始後も、東電福島第一原子力発電所におけるIAEA職員の常駐に加え、同発電所からリアルタイムでモニタリング・データを提供しています。今後とも、IAEAの関与の下、国際社会が利用できるデータを公表します。また、IAEAは、日本のモニタリング活動に関するレビューを継続します。

 ALPS処理水のモニタリングについては、IAEAレビューの枠組みの下で、IAEA及びIAEAから選定された複数の第三国分析・研究機関が、処理水中の放射性核種を測定・評価するソースモニタリングの比較評価及び環境中の放射性物質の状況を確認する環境モニタリングの比較評価を実施してきています。現在実施されているIAEAによる比較評価には、IAEAの放射線分析機関ネットワーク(ALMERA)から、米国、フランス、スイス及び韓国の分析研究機関が参画しています。IAEAによるモニタリングは、IAEAを中心としつつ、第三国も参加する国際的・客観的なものです。例えば2022年11月7日から14日にかけて、IAEA海洋環境研究所の専門家に加え、フィンランド及び韓国の分析機関の専門家が来日し、現場において試料採取及び前処理を確認しています。

 したがって、いわゆる「IAEAのモニタリングメカニズムには、これまでに他の国や国際機関の現場への参加は行われておらず、これでは、真の国際モニタリングとは言えず、透明性を著しく欠いている」という中国側の主張は、事実とは異なるものです。

 IAEAは、原子力分野において、関連安全基準を策定・適用する権限を有しており(注1)、関係国際機関及び中国を含む全IAEA加盟国との協議を経て、人・環境への影響に関するIAEA安全基準を策定し、様々なレビューを実施してきています(注2)。政治的な目的によってIAEAの活動を貶めることは受け入れられません。また、IAEAの権威・権限を否定することは、IAEAの安全基準に依拠して設定された中国の安全基準さえも否定するものであり、原子力の平和的利用の促進を阻害する極めて無責任な主張です。

(注1)IAEA憲章第3条A6(IAEAの権限)
 国連機関等と協議、協力の上、健康を保護し、人命及び財産に対する危険を最小にするための安全上の基準を設定し又は採用する。

(注2)「IAEA安全基準作成に係る戦略及び手順(SPESS:STRATEGIES AND PROCESSES FOR THE ESTABLISHMENT OF IAEA SAFETY STANDARDS)」

報道発表

ALPS処理水の海洋放出に関する中国政府コメントに対する中国側への回答

令和5年9月1日

英語版 (English)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100543660.pdf

https://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/inec/page6_000882.html


日本政府が2021年4月に発表した基本方針を受け、日本政府と国際原子力機関(IAEA)との間で、令和3年7月8日に署名された、ALPS処理水の取扱いの安全性に係るレビューの包括的な枠組みに関する付託事項(TOR)に基づき、これまでIAEAによる一連のレビューが行われてきました。7月4日、これらのレビューを総括する包括報告書が、グロッシーIAEA事務局長から岸田総理に手交され、IAEAから公表されました。
IAEA包括報告書の要旨(Executive Summary)においては、以下の結論が述べられています。
IAEAの包括的評価に基づき、IAEAは、ALPS処理水の海洋放出に対する取組及び、東京電力、原子力規制委員会及び日本政府による関連の活動は、関連する国際安全基準に合致していると結論づけました。
IAEAは、包括的評価に基づき、現在東京電力により計画されているALPS処理水の放出は、人及び環境に対し、無視できるほどの放射線影響となると結論付けました。
ALPS処理水の安全性やその取扱いについて、信頼性や透明性を確保し、国際社会の理解を醸成していく上で、IAEA憲章に基づいて、原子力分野において国際的な安全基準の策定・適用を行う権限を有するIAEAによるレビューは極めて重要と考えています。日本政府は、今後とも、必要な情報共有を継続するとともに、ALPS処理水の取扱いについて、国際社会の一層の理解を醸成していくことに努めます。
【関連のリンク】
IAEAプレスリリース(英語)
包括報告書(英語)(PDF)
包括報告書要旨(IAEA作成の仮訳)(PDF)


(参考1)ALPS処理水

 ALPS(多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System))等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を確実に下回るまで浄化した水。さらにALPS処理水は、その後十分に希釈され、トリチウムを含む全ての放射性物質について安全に関する規制基準値を大幅に下回るレベルにした上で、海洋放出されることが想定されている。

(参考2)関連リンク(これまでに公表されたIAEA安全性レビュー報告書)第1報告書(英語)(PDF)
 令和4年4月29日に公表された第1報告書は、同年2月に経済産業省及び東京電力に対して実施されたレビュー(放出されるALPS処理水の性状、海洋放出のシステムとプロセスの安全性、放射線環境影響評価等の8つの異なる技術的分野が対象)の詳細を取りまとめたもの。
第2報告書(英語)(PDF)
 令和4年6月16日に公表された第2報告書は、同年3月に原子力規制委員会に対して実施されたレビュー(政府の責任と役割、主要概念と安全目的、認可プロセス等5つの技術的事項が対象)の詳細を取りまとめたもの。 
第3報告書(英語)(PDF)
 令和4年12月29日に公表された第3報告書は、ALPS処理水の中の放射性物質に関するモニタリング、環境モニタリング及び東電福島第一原発の作業員の職業被ばくに係るデータの分析及び裏付けに関するIAEAの活動計画等をとりまとめたもの。
第4報告書(英語)(PDF)
 令和5年4月5日に公表された第4報告書は、令和4年11月に経済産業省及び東京電力に対して実施された安全性レビュー(放出されるALPS処理水の性状、海洋放出のシステムとプロセスに関する安全性、放射線環境影響評価等の8つの異なる技術分野が対象)の詳細を取りまとめたもの。
第5報告書(英語)(PDF)
 令和5年5月4日に公表された第5報告書は、同年1月に原子力規制委員会に対して実施されたレビュー(政府の責任と役割、主要概念と安全目的、認可プロセス等、5つの技術的事項)の詳細を取りまとめたもの。
「ALPS処理水の放射性核種分析における第1回目の分析機関間比較結果」に関する報告書(英語)(PDF)
 令和5年5月31日に公表されたALPS処理水の放射性核種分析における第1回目の分析機関間比較結果に関する報告書は、IAEAのレビューのもとで実施されたALPS処理水中の放射性核種の測定に係る分析機関間比較(ILC)の結果をまとめたもの。 

原子力の平和的利用

東京電力福島第一原発におけるALPS処理水の安全性レビューに関するIAEA包括報告書の公表

https://www.iaea.org/sites/default/files/report_1_review_mission_to_tepco_and_meti.pdf


https://www.iaea.org/sites/default/files/report-2-review-mission-to-nra.pdf


https://www.iaea.org/sites/default/files/3rd_alps_report.pdf

https://www.iaea.org/sites/default/files/report-4-review-mission-tepco-and-meti.pdf

https://www.iaea.org/sites/default/files/5th_alps_report.pdf

https://www.iaea.org/sites/default/files/first_interlaboratory_comparison_on_the_determination_of_radionuclides_in_alps_treated_water.pdf


https://www.iaea.org/sites/default/files/iaea_comprehensive_alps_report.pdf

https://www.iaea.org/sites/default/files/23/07/final_alps_es_japanese_for_iaea_website.pdf