岸田文雄内閣の支持率に〝異変〟が生じた。広島でのG7(先進7カ国)首脳会議の成功を受け、先週初めに公表された世論調査の内閣支持率は上昇していたが、日経新聞が29日朝刊で報じた世論調査では5ポイントも急落したのだ。共同通信の調査でも支持率は横ばいで「サミット効果」は見られなかった=別表。次期衆院選の候補者擁立をめぐる自民党と公明党の対立激化や、岸田首相の長男、翔太郎秘書官らの「公邸忘年会」問題、LGBT法案の対応で「岩盤保守層」が距離を置いた可能性などがありそうだ。識者は、来月の「会期末解散」の延期を分析した。 ◇ 「岸田政権への不満が一気に噴き出してきた。来月21日の国会会期末に合わせた衆院解散は相当厳しい。ないだろう」 政治評論家の伊藤達美氏は、内閣支持率の激変を受けて、こう語った。 読売新聞が22日朝刊で報じた世論調査(20、21日実施)では、内閣支持率は9ポイント増の56%だった。毎日新聞が23日朝刊で報じた調査(同)でも、支持率は9ポイント増の45%だったが、たった1週間で岸田内閣をめぐる風向きは大きく変わった。 まず、自民党と公明党の対立が先鋭化した。 小選挙区定数「10増10減」で新設された東京28区(練馬区の一部)をめぐり、公明党が比例東京選出の現職を立てる意向を打診していたが、自民党がこれを蹴ったため、公明党は25日、「28区の擁立断念」と「東京での自民党候補の推薦拒否」を最後通告したのだ。 公明党は「(東京での推薦拒否を)他の地域に影響させるつもりはない」(石井啓一幹事長)としているが、公明党支持層が岸田内閣を疑問視し始めた可能性がある。 加えて、週刊文春が25日、「岸田一族『首相公邸』大ハシャギ写真」とのタイトルで、翔太郎氏が昨年12月、公邸内で親族らと忘年会を開き、公的なスペースで記念写真を撮るなど不適切な行動をした問題が発覚した。 与野党から批判が噴出し、国会でも翔太郎氏の更迭要求が突き付けられたが、岸田首相は「長男に厳重に注意した」と更迭を拒否した。 朝日新聞の世論調査で、この件を聞いたところ、「問題だ」は「大いに」44%、「ある程度」32%を合わせて76%となった。 さらに、岸田首相が前のめりとされる、LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案については、保守派だけでなく、女性団体やLGBTの当事者団体も拙速な法制化に反対している。 同法案については、「女性や女児の安全が担保されていない」「ラーム・エマニュエル駐日米国大使の『内政干渉』といえる言動が目立つ」「安倍晋三元首相が『皇位継承問題にかかわる憂慮』をしていた」といった数々の問題が指摘されている。 岸田内閣への風向きの変化をどう見るか。 前出の伊藤氏は「翔太郎氏の公邸忘年会問題が大きく響いたのだろう。サミットなどの外交より、翔太郎氏の問題の方が国民には分かりやすい。厳重注意ではなく、秘書官を退任させておけば事態は変わっていたかもしれない。公明党との対立激化もある。広島サミット成功で『会期末解散』の可能性も高まっていたが、岸田首相の独断で解散を決められる状況ではなくなった。年内解散はあっても、今秋の『臨時国会冒頭』か、法案などを処理した後の『臨時国会中の解散』が現実的ではないか」と語った。 今後の「国民の負担増」の議論を踏まえた分析もある。 政治ジャーナリストの安積明子氏は「日経新聞の5ポイント減も深刻だが、先週の読売、毎日新聞の9ポイント増も大きすぎる。国民がサミットに熱狂した、一時的な〝あぶく〟のような数字だった。短期間で支持率が上下するのは、岸田内閣に岩盤支持層が存在しないことを示している。翔太郎氏の問題は、国民が『またか…』と感じたことに加え、岸田首相の親として甘さ、部下の管理能力に疑問を生じさせた。物価高などで国民生活が苦しいなか、『翔太郎氏は特別なのか』という怒りの感情を呼び起こしたかもしれない。今後の国会では、防衛費増や少子化対策などでの具体的な『国民の負担増』が議論の中心になる。さまざまな問題はあるが、傷の浅いうちに来月の会期末解散に踏み切るとも考えられる」と語った。