七生養護学校の性教育「こころとからだ」の学習では様々な「教材・教具」が使われ、学校全体でのびのびと展開されていました(実践ビデオを見ると笑いが絶えない)。しかし介入事件時に都教委に持ち去られた「教材・教具」は、裁判終了後も現場に返還されていません。我々ネットワークでは、今年度の課題として、「都教委が没収した教材・教具の返還」と「情報公開」を求めていくアクションをおこし、包括的性教育を進めるためのきっかけとしたいと考えています。
このコラムでも、不定期になると思いますが、何回かに分けて七生の「教材・教具」のうまれた背景や必要とされた事情、生み出された経緯、子どもたちの反応、その過程で育まれた教員の意識変化や「教材・教具」の捉え方の深化、また裁判などで主張された原告教員側と被告都議・都教委の主張なども報告し、「教材・教具」が様々な面から議論された軌跡を辿りたいと思います。
七生養護学校の性教育の「教材・教具」の主なものには「からだ歌、ペニス模型、箱ペニス、模擬トイレ、子宮体験袋、リラックス(エステ・足湯)、変身ごっこ、結婚式ごっこ、等身大人形、赤ちゃん人形、虹の輪、山本直英さん・北沢杏子さんのいくつもの絵本など自主制作ものと絵本、参考書、CDなど多彩でした。これらは2003年の介入事件の時に268点(33点は現場返却)が都教委に没収され翌年春には都教委に所属替えされてしまいました。都教委の指導主事たちは、個々の「教材・教具」が生みだされた理由や授業を理解することなく、「からだ歌は過激」と言って教員処分の根拠にしてしまったのでした。
また「こころとからだの学習」裁判では、被告都議の現場教育への介入認定と賠償は認めたものの、「教材・教具」の返還は「本件教材の所属替え(七生養護→都教委)が適当なものである」と東京高裁の判例が認められてしまい、返還が実現しませんでした。そのために教員処分は撤回されたものの、「教材・教具」の返還を受けて、実践を復元する状況づくりをすることができなかった面があります。ここには都の学校管理運営規定の曖昧さや都教委の性教育に対する姿勢が消極的だという課題もあります。ネットワークでは、このような状況を打破して現場教員たちが新しい「教材・教具」を作ろうというときの後押しができればと考えています。
*併せてこのホームページの出版物紹介に掲載されている『なぜ、学校で性教育ができなくなったか 七生養護学校事件と今』や近日刊行予定の絵本『からだうた』もぜひご覧ください。