セックスワーカーの安全考えたら風営法の無店舗型風俗特殊営業派遣型ファッションヘルス等は廃止して店舗型に限定したほうがよいと思う個人的な意見。


https://swashweb.net/

https://akaikasa.net/?p=929

性風俗のひとにはコロナ給付金支払われないのおかしいよね。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/338/091338_hanrei.pdf



「子どもを抱えながら、普通の会社に勤められるシングルマザーって、一握り、二握りなんじゃないかなって思う」。首都圏のマンション一室に設けられたデリバリーヘルス(派遣型風俗店)の待機所。緊急事態宣言の発令後も出勤を続ける女性(34)はつぶやいた。

 女性は六年前に離婚し、女手ひとつで二人の息子を育てている。離婚するまでは専業主婦だった。離婚後、量販店でパート従業員として働いたものの、子育てとの両立は難しく、性風俗業界に飛び込んだ。一カ月の稼ぎは平均で二十五万~三十万円。「良い時であれば、四十万~五十万円になることもあった」という。

 ところが、新型コロナウイルスの感染が拡大すると、客足は遠のき、収入も「週五日の勤務で三万円稼げれば良いくらい」まで激減。終息が見通せない中、貯金を崩してしのがなければいけない状況に不安を感じ三月中旬、個人経営の店舗から、広告・宣伝が充実するグループ店に移籍した。

 臨時休校が長引く中、子どもたちは自宅で留守番だ。勤務時間を一~二時間減らして帰宅しなければならず、「この仕事の一時間はすごく大きい」と漏らす。

 都内のソープランドで働く女性(27)も「(自粛要請が)あと三カ月続いたら、生活できない」とこぼす。

 二月中旬から新型コロナの影響が出始め、三月には客足がぴたりとやんだ。交通費や店に支払う月二万円の在籍料を差し引くと赤字。常連客一人が来てくれていたが、緊急事態宣言を受けた都の休業要請に従い、店は十一日から休業している。幼い頃から虐待を受けて育ち、両親を頼ることはできない。

 所得が減少した世帯向けの三十万円の給付金を申請するには、収入を証明する書類が必要となるが、完全歩合制で日払いのため、給与明細はない。「店に在籍しながら、リストラに遭ったようなもの。なのに収入ゼロを証明したくても、できない」。不安は増すばかりだ。

 風俗業界で働く人のための無料法律相談所「風テラス」には三月、「収入がなくて生活できない」などの相談が、前年同月比で三倍となる百六十三件、四月は八日までに二百四十四件寄せられた。安井飛鳥弁護士は「店舗型の風俗業では食べていけないため、『パパ活』のようにインターネットで自分で客を見つけ、犯罪に巻き込まれるリスクが高まるのでは」と懸念している。

◆国「柔軟な対応検討」 30万円給付

 風俗業界で働く人への公的支援を巡っては、政府が臨時休校に伴って仕事を休まざるを得ない保護者に対する助成制度の対象から風俗業を除外したことで、「職業差別ではないか」と議論が起きた。

 性風俗従事者の労働環境改善に取り組む団体「SWASH」が「シングルマザーも多く含まれる。親子の生存権を守ってほしい」と、見直しを求める要望書を、厚生労働省に提出。加藤勝信厚生労働相は七日に一転、「緊急事態宣言で休校が長引くことを踏まえ再考した」と述べ、除外しない考えを表明した。

 一定の減収世帯に対する現金三十万円の給付については、総務省は当初から風俗業を除外していない。担当者は本紙の取材に「個人事業主も含め、日払いで給与明細がない人や、確定申告をしていない人も想定し、柔軟に支給できるよう検討している」と説明した。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/17197
<コロナ緊急事態>風俗業「生活どうすれば」 子2人抱え 客足激減でも仕事

2020年4月13日 16時00分

『セックスワークisワーク』をめぐる訴訟に至るまで(前編)

(後編:「性を扱う仕事とは何か?訴訟をきっかけに考えたい」

「これは性風俗業界に対する差別で、『スティグマからの解放訴訟』を起こすのだな」

原告の話を聞くまでは、そんな風に平面で考えていた。この訴訟は性風俗業界に対する「社会的スティグマ」を取り払おうとする訴訟なのだと。

スティグマとは特定の属性の個人・集団に対して付される差別や偏見の「烙印」のことだ。

「性風俗関連特殊営業」が、COVID-19の下での「持続化給付金」及び「家賃支援給付金」の対象から外された。

「COVID-19の影響を受けた中小企業等・個人事業者の事業継続を支える」という目的で給付が始まったはずの最大200万円の持続化のための支援も、家賃の支援も、「性風俗関連特殊営業」を行う中小企業は受けられなかった。

その理由を、参議院の答弁で国は「これまで公的な金融支援及び国の補助制度の対象外としてきたから」と答え、中小企業庁も「これまで給付金の対象から外してきたこととの整合性」と言った。つまりは「前例を踏襲」ということだった。

派遣型のファッションヘルスを経営する原告は、給付を受けられなかったこと(とその根拠である規程)が、憲法14条1項の「法の下の平等」に違反するとして、国を訴える。これは「職業選択の自由」(憲法22条1項)に深くかかわる問題でもある。

https://www.call4.jp/story/?p=1401
「性風俗産業は国に差別されてもしょうがない?」

労働としての普遍性

「仕事って、いやになるときも、やったーってなるときもあるじゃないですか」自身もキャストとして働いた経験がある支援団体SWASHのげいまきまきさんが言う。

「それってどの職業でもそうなんじゃないかなって思う」

私たちは、自分が経験したことのない業界の仕事を、いったいどれほど知っているのだろう。ステレオタイプというものはきっとどの職業にもある。仕事をして実際に感じることや悩みは、自分の仕事以外は直接は経験できない。だからすぐにイメージで語られる。

性風俗業界に対するステレオタイプやイメージは、中でも大きい。それは、「性」がそれぞれの道徳観と密接に結びついていて、「性を扱うこと」「性を仕事として扱うこと」の感覚が人によってかなり異なるからだ。

「セックスワークは、お客さんからの人気がお金にも反映される仕事。サービスの内容にも、各々のワーカーの体力面や、性についての線引き・価値観といった、いろいろな要素が合わさって組み立てられていく。ワーカーごとの違いが反映された仕事だと思う」と、げいまきまきさんは語る。

弁護団は原告や支援団体にたくさんの質問をしていた。調べてから来るという前提はあるが、たくさん知ること、知ろうと思うことは大事だと思った。そしてそこでは、お互いの仕事をリスペクトを持って話すことがなにより重要だった。

「あの、『家庭での性的な行為は良くて、サービスとしての性的な行為はダメ』という価値観は、なぜあるのでしょうか?」インターンの学生が聞いていた。「同じ人が家でご飯を作るのと飲食店のスタッフとしてご飯を作るのは両立しますよね?性に関わる仕事だとNGという感覚があるのはなぜなのでしょうか?」

「それはやっぱり、『性的な行為は固定的な関係性の中で行われるべき』という『慣習的な価値観』が根強いからだと思います」げいまきまきさんが答えた。

「愛情や親愛についても、男女や家庭、一対一の安定的な関係性を築くことへの価値観が『好ましい』とされるし、それがまるで『正しい』価値観のように扱われている。そうした視点からは、性的な行為をサービスとしてやり取りすることは不安な驚きになるのかもしれません。

でも、そうした驚きの感情と、セックスワークを仕事として考え、安全な働き方を考えることは、別だし、別に考えてほしいなと思います」
道徳と「社会通念」

道徳観は作られる。どこまでが当たり前で、どこから不道徳か、なんて、本当のところは明確には分からない。

その時代時代に応じて、「正しいということが確からしいこと」が何かしら、流動的ながら、存在している。それを疑う人もいるし、疑わない人もいる。

でも、いま自分が身にまとっているその「道徳観」が知らず知らずのうちに、誰かを傷つけているという可能性―ひとつの既に存在する業界を「知らないもの」として自らの世界と別の場所に置き、「ちゃんとした仕事じゃないから」支援の枠外でも良いとしているという可能性―については、どうだろうか。

「道徳観と法律って、別の問題だと思っていたんですよね」原告が、提訴を決意したときのことを振り返る。

「でも、別の裁判の話なんですけど、この6月に名古屋の裁判で、『同性パートナーは事実婚と認められない』『だから犯罪被害者給付金を受け取れない』という判決が出ましたよね。あの判決の中で、同性カップルが事実婚にあたるか否かは『社会通念によって判断される』という言葉が使われていたのを見て」

「裁判の判決って、法律とか、もっとかたいもので判断されると思っていたのですが、そのときに、『社会通念』というものも判断に関係あるのかって、改めて不思議に思いました。社会通念とは何だろうかとも思いました。社会通念は道徳観から作られることもあるだろうし、その関係性も気になりました」

「社会通念が何なのか、私にはまだハッキリ分かりません。でも、この訴訟を通じてセックスワークとほかの仕事との『差別的取り扱い』が憲法違反と認められることで、『性を扱う仕事』も『社会通念』上、正面から『仕事』と認められるかもしれない。そうしたら、『仕事として』そこで働くキャストの安全にも目がいくようになるんじゃないかと思うんです」と原告。

「訴訟が、セックスワークやそれに関連する法律とは何かって考えるきっかけのひとつになれるかもしれない」

https://www.call4.jp/story/?p=1549
「性を扱う仕事とは何か?訴訟をきっかけに考えたい」

※一審は力及ばず敗訴判決でした。ご支援いただきながら本当に忸怩たる思いです。

控訴審での逆転勝訴に向けて、一審判決の判断にフォーカスを当てた、新たな調査や意見書の提出などを考えています。

再度のクラウドファンディングにつきぜひご支援いただければ幸いです。



【控訴にむけて原告代表者のコメント】

多くの方の応援のおかげで訴訟をすることが出来ています。だけどこのままでは絶望に追いやられる結果になってしまいます。負けるわけにいかない裁判です。みなさんの助けが必要です。闘うための力をいただけたらありがたいです。



【控訴にむけて平弁護団長のコメント】

「大多数の国民が共有する性的道義観念」なるものを理由に、原告への請求が棄却されてしまいました。被告国も主張していない「性的道義観念」という非常に抽象的、主観的な事由を理由とする判決であって、恣意的にどのような意味合いにもとれるような判示は、これまで前例がなく、極めて不当です。控訴審で争い、抗議して参ります。ご支援のほどよろしくお願いいたします。



(以上控訴審に向けたコメント等です。以下は本件の基礎情報等になります)
(以上控訴審に向けたコメント等です。以下は本件の基礎情報等になります)



【原告のコメント】

私は関西にて無店舗型性風俗店(いわゆるデリヘル)を経営しています。

新型コロナにおける国からの給付である「持続化給付金」「家賃支援給付金」について、風営法を守って「性風俗関連特殊営業」の届け出をしている事業者は除外されています。※性風俗店で働くキャストは届け出をする事業者ではないため給付の対象です。

他の職業の方や企業と同じように性風俗業にも多くの従業員がおり、多くの取引先もあります。従業員や取引先には家族がおり、生活があり、命があります。新型コロナの影響は国民全体が受けています。それなのに、「この『職業』だけは助けない」と国が決めることは、命の選別であり職業差別だと言えます。性風俗業への優遇を求めるわけではありません。ただ『平等に扱ってほしい』と願っています。

具体的な根拠のない国の決定により、給付金をもらえないだけではなく、性風俗業という職業に対する世の中からの偏見や差別意識がいっそう助長されてしまいます。また、この新型コロナの影響が続く状況下では、給付金などの補償がなければ生活のために自粛をやめて営業をせざるを得ない状態にもなります。もしもそこで感染者が出てしまった場合、職業に対する差別意識はさらに助長されます。

さらには、法律を守って正しく営業している事業者が潰れ、逆に違法な業者が生き残ることにもなり、「まともな経営をするだけ損」という発想にもつながります。これでは業界がアンダーグラウンド化してしまい、社会と分断されてしまいます。

そういった差別を助長する構造を、国自身が作り出し、平等に取り扱われる権利などの人権を脅かすことはあってはなりません。性風俗産業に関わる全ての人を守るためにも、職業・業種によって差別されることのない平等な取り扱いを国に求める訴訟を行います。



性風俗店は、受付業務や集客業務のみならず、そこで働くセックスワーカーの安全や働きやすい環境を守る役割も担っています。セックスワーカーは、自身で届け出をして、ひとりで営業をすることもできますが、現在、ほとんどの場合で性風俗店と契約を交わして働くことを選択しています。なぜなら、店の存在があることによって、セックスワーカーの安全が守られているからです。今回の問題のように、国が性風俗業に対して差別的な扱いをすることは、そこで働くセックスワーカーを危険にさらすことにもつながります。

私は性風俗店の事業者ですが、この訴訟はセックスワーカーが安全に働けることを目指す訴訟であり、さらに言えば、性風俗業全体の未来に関わる訴訟だと捉えています。

訴訟を通じて『セックスワークisワーク』、すなわち、セックスワークは仕事であり、職業選択の問題だという理念を多くの人に伝えてゆきたいと考えています。性風俗業の事業者だけでなく、そこで働く人たちの安全や働きやすい環境で働く権利を守るため、そして今後、性風俗業界が差別的な扱いを受けることがなくなるよう、後悔なく闘うことのできる裁判にしたいです。そのためには、以下の具体的な使途を挙げたとおり、出来る限り多くの費用が必要となります。ご支援をいただけたらありがたいです。

また、職業によって差別されない世界を目指すことは、性風俗業だけでなく、誰しもに関わることではないかと思います。今回は性風俗業の問題ですが、今後、同じようにあいまいな理由によって、別の職業の方や業種の事業者が差別されることになるかもしれません。その意味で、この訴訟は、この国で生活する人ひとり一人の問題とつながっています。この訴訟を多くのかたに知っていただき、職業差別について考えていただくきっかけになればと願っています。ご支援のほどよろしくお願いいたします。



【セックスワークisワーク】

https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000064
「セックスワークにも給付金を」訴訟

#ジェンダー・セクシュアリティ

#公正な手続

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/51871/1/05_sympo_oyorinri_no4.pdf

セックスワーカーの主体性と権利
1980 年代後半から、ヨーロッパではセックスワーカーの権利運動が活発に行われている。現在
は世界各国でセックスワーカーが一堂に集まった国際会議が毎年のように開かれている。中でも
アジアの女性たちの声が非常に強くなっている。私が 1997 年に初めて行った国際会議では、まだ
欧州の白人女性の声が強かった。公用語が英語だったということもあり、アジア系の女性たちは
自分の主張をしづらかった。しかし、近年はそういった批判から、主にタイやフィリピンといっ
たアジアの地域で国際会議が開かれている。そして募金や献金を募ったりして、通訳がつけられ
ている。
国際的なセックスワーカーのグループは、セックスワークの「非犯罪化」を求めている。非犯
罪化は合法化と完全に同義ではない。売春禁止国でもセックスワークのすべてが犯罪化されてい
るわけではない。例えば日本では、売春防止法によって売春行為それ自体は禁止されているが、
シンポジウム記録 性差研究の作る道/性感染症の環境

二者間の単純売春に関しては非処罰化されている。その意味で、要求として「合法化」とは敢え
て言わず、完全非犯罪化を目指すという考え方がある。非犯罪化が重要なのは、犯罪者扱いされ
ることでセックスワーカーの社会的地位がおとしめられている、ということを訴えたいためであ
る。そして「セックスワーカー」という言葉を使うことにも理由がある。これまでの売春婦、娼
婦という言葉には、非常に否定的なイメージがしみついている。そこからの自己解放を求めて、
新たな自己表現としてセックスワークという言葉が使われている。
売春が非犯罪化されることの利点には、1)労災に遭遇したら損害賠償を請求する権利が得られ
る、2)自営ができる、3)第三者による搾取を極力避けられる、4)店の経営者と対等な関係を築
くことが可能、5)組合が結成できる、6)税金を納めて社会貢献もできる、などがある。彼女た
ちの主張は、一般の経営者または労働者と同様に安全に働く権利の要求であるが、この主張によっ
て性感染症予防のための環境が改善される可能性もあるだろう。
セックスワーカーの支援と性感染症予防啓発
現在、様々なセックスワーカーの組織があるが、唯一日本で行われているセックスワーク支援
グループは、Sex…Work…and…Sexual…Heath(SWASH)という組織だ。UNIDOS というグループも
あったのだが、現在、活動停止中である。これらの組織はたとえば現役・元セックスワーカーの
ための交流の場を提供し、カフェなどを経営したりしている。そのほかにセックスワーカーと市
民の両方を対象に意識啓発の活動も行っている。
そこで特に紹介したいのが、SWASH が作成した性感染症予防啓発パンフレットだ。このパン
フレットには、コンドームをしたがらない客に対してどう対応するのかというような、実践的な
マニュアルも書かれている。例えば、「コンドームを使う」というページでは、コンドームを使い
たがらない客に何と言ったらよいかについて、SWASH が行ったアンケート調査の回答を基に次
のようにアドバイスをしている。
「お店で決まっているから」という回答をする。「決まりだから」と言う。嫌なムードにならな
いように笑顔で対応。「私のお店は生のサービスだけれども、性病の疑いがある場合には、つ
けないとだめなの。ごめんね。あなたはいいかもしれないけれども、私たちにうつると、すぐ
に症状が出ないから次のお客さんにうつしてしまう可能性があるので、つけてネ。あんまりイ
ヤだったらお店に言ってください」
このように、現場で働いている女性たちのために、どういうふうに対応するか、言葉まで細か
く書いている。このような当事者の視点から出された実践的な予防策の普及の充実が今後拡大す
ることが重要であろう。
終わりに
性産業の中でおこる性感染症予防については、そこに従事する女性たちが仕事を辞めたらい
い、という議論もしばしば聞かれる。しかし、現実として性産業で生計を立てている人たちがい
る。そして、それをライフワークにしている女性もいる。大体 30 代以上の女性たちが性風俗産業
応用倫理 ― 理論と実践の架橋 vol. 4

で働くようになる大きな理由には、子供がいて、母子家庭で、働かなければならない、大きな借
金がある、などがある。そういう状況にある女性はかなり長く働くといわれている。ここには貧
困という問題がある。だから、性産業で起こる性感染症の問題は「彼女たちが辞めればいい」で
解決されるような問題ではない。現行の性産業システムを変革していく必要がある。性産業内部
における権力構造に目を向け、何がこれまで女性たちの人権を奪ってきたのか、それを知ること
が重要である。彼女たちの人権が回復されれば、性感染症予防対策の必要性も明らかになるだろう。
性風俗産業はその構造的な問題によって、否定的なイメージをもたれていて、多くの専門家が性
産業に従事する女性の健康や人権について、協力的にはなれない現状がある。医療や教育の支援
が大いに必要とされているのに、支援することが売春を肯定することになる、という考え方にと
らわれて躊躇している、という面があるのではないか。しかし、貧困のなかで生きようとするセッ
クスワーカーの「安全に働いて生活する権利」を認めることは、女性の社会的地位の向上や性感
染症予防の改善、さらに性暴力などの減少につながるのではないだろうか。
応用倫理 ― 理論と実践の架橋 vol. 4

で働くようになる大きな理由には、子供がいて、母子家庭で、働かなければならない、大きな借
金がある、などがある。そういう状況にある女性はかなり長く働くといわれている。ここには貧
困という問題がある。だから、性産業で起こる性感染症の問題は「彼女たちが辞めればいい」で
解決されるような問題ではない。現行の性産業システムを変革していく必要がある。性産業内部
における権力構造に目を向け、何がこれまで女性たちの人権を奪ってきたのか、それを知ること
が重要である。彼女たちの人権が回復されれば、性感染症予防対策の必要性も明らかになるだろう。
性風俗産業はその構造的な問題によって、否定的なイメージをもたれていて、多くの専門家が性
産業に従事する女性の健康や人権について、協力的にはなれない現状がある。医療や教育の支援
が大いに必要とされているのに、支援することが売春を肯定することになる、という考え方にと
らわれて躊躇している、という面があるのではないか。しかし、貧困のなかで生きようとするセッ
クスワーカーの「安全に働いて生活する権利」を認めることは、女性の社会的地位の向上や性感
染症予防の改善、さらに性暴力などの減少につながるのではないだろうか。
会場からの質問
質問者Ⅰ 今日はお話をありがとうございました。政府が今後、エイズや性感染症にどう取り組
むのかということに関して、どういうところを重点的に政策として定めたほうがいいのか、先
生がたのそれぞれの専門分野からお話を頂きたいと思います。
玉城 2007 年に国のエイズの方針がいわゆるアドボカシーから HIV テスティングというふうに
移行しました。政策の中心は、どこでも簡単に受けられる HIV テストの開発、早期発見、早期
治療、それから予防です。従来の HIV 対策では Voluntary… Counseling… Testing(VCT、自発的
に検査をやって相談を受ける)が主流だったのですが、最近は少し変わってきました。そして、
いろいろな条件を満たせば、例えば感染率が高い地域では、インフォームド・コンセントを取
らなくても、医療従事者の主導型の HIV の検査を実施するべきであるという考え方が出てきま
した。それ自体が人権問題とも言えますし、あるいは樽井先生が日本に関しておっしゃったよ
うに、感染者とか陽性といわれた人の後のフォローアップの問題などがありますので、日本の
現状で、日本全体でその方法を使うことについて、私自身はあまり納得していません。
早期発見、早期治療、予防も大事ですが、HIV の検査を受けたいのだけれども、陽性と言わ
れると周りは必ずしもそれを受け入れる環境にないということで、かなり躊躇する人がいると
いう事実を考えると、やはりアドボカシー、さらに啓発や学校教育も積極的に進めながら、検
査を受ける体制を整えていくことも非常に重要かと思います。厚生労働省は以前と違い、HIV
は慢性疾患で治療ができるのだから、それほど特別に扱うことはないと考えるようになってき
ています。しかし現実にはまだ、他の慢性疾患にはない差別、偏見とか社会的な側面がかなり
根強く残っているので、それらを取り除く努力が必要です。シンポジウム記録性差研究の作る道/性感染症の環境



樽井厚生労働省が一般の啓発と並んで、「個別施策層」―私の言葉では「社会的に弱い立場に

置かれている人たち」―に対する対応に乗り出しましたが、特に力を入れようとしているの

は、ゲイを中心とする MSM、それから若者です。しかし若者というのは茫漠とし過ぎて、キャ

ンペーンだけに終わっているというのが現状です。若者の性教育に関して言えば、近年随分後

退してしまいました。性教育が厚労省の担当でなく、文科省の担当になっていることにも関係

があります。というわけで、役所にしても NGO の活動にしても、個別施策層対策の中でそれな

りに成果が出てきているのは、MSM だけと言えるでしょう。

治療の改善という面では、政府としてはそれなりのことをやっていて、陽性者の人たちの間

でも治療環境についてはおおむね好評です。しかし問題がないということではありません。つ

まり、HIV の診療を一歩外れると、歯の治療を受けに行く場合とか、女性の場合、産科の受診

などで差別を受ける現状は変わっていません。医学を学んだ者だから進んだ考え方をする、な

んてことは全くないのです。

陽性者として生活している人たちが一番問題と感じているのは、社会環境です。中でも一番

大きいのは職場の環境です。90 年代の初めには、横浜会議の準備もあって多少企業の活動はあっ

たのですが、その後、97 年に血友病の薬害の和解が成立すると、日本社会全体がもうエイズは

終わったという感じになり、一般的な関心が失われてきました。そういう中で、企業だけが関

心を持つわけはないわけです。しかし、その状況も最近、少しずつ変わってきました。一つの

例をあげると、サンスターという会社は企業の社会貢献の一つとして、HIV に取り組んでいます。

ウェブサイトには女性陽性者のエッセーを集めたページもあります。

政府の政策としては予防指針を見るしかありません。企業は一般的にはほとんど何もしてい

ないけれども、している企業も幾つかあります。例えば、住友化学は感染症の分野ではちょっ

とした活躍をしています。マラリアを防ぐ蚊帳を作っているのです。住友化学の社長が経団連

のトップになったので、企業の動きとして、世界の途上国における感染症対策に関心を持つ動

きが出てきてくれないかと期待しているところです。

質問者Ⅱ貴重なご講演、ありがとうございました。性教育について伺いたいと思います。

私も、小中高で 1 時間とか 2 時間の性教育はあったように記憶しているのですが、そのとき

も何て半端な授業なのだろうと思ったし、今の性教育がどうなっているのか、問題点なども伺

えればと思うのです。

玉城今日は実際性教育を学校で担っている専門家が来ています。ちょっとコメントしていただ

けますか。

A○○中学校養護教員の A と申します。札幌では今、ほとんどの小・中学校で性教育をしてい

ます。しかし、内容は学校によって違います。性感染症とかエイズについても保健の授業の中で、

1 時間なり 2 時間ですが、教育は必ずしております。ただ、性教育の調査の結果によると、エイ

ズの知識が高いとは言い難い現状です。例えばエイズが「トイレで感染しますか」という質問

に対して、中学校では正答率が半分、高校では 7 ~ 8 割の正答率がありました。応用倫理―理論と実践の架橋vol. 4

0

中学校は実は、学校によって保健の授業をする時期が異なります。2 学期にこの調査をしたの

で、勉強していない学校もあったため、正答率が低かったと思われます。でも、高校については、

約 8 割の子供が正解しているということです。小学校では実際には「エイズ」という名前だけ

を学びます。小学校では命の教育、誕生という形で性教育をしています。

私は若者へのエイズの教育は、年齢に応じた、繰り返しの教育が必要だと思っています。本

当は、大学や高校を卒業した人たちへの性教育が一番必要なのではないかと思うのですが、な

かなかそういう機会がないのを危惧しているところです。

樽井学校で担当していらっしゃる方に伺いたいのですけれども、中教審の性教育の部会がかな

り後ろ向きの答申を出して以降、性教育がやりにくくなってきているというのですが、具体的

な変化はあるのですか。

A実は、保護者に対してエイズ研修会をしたところ、親たちは「早い時期に、幼稚園、小学生の

ときから性教育をしてほしい」「性交についてもきちんと教えてほしい」と言います。しかし中

教審にあるように、性交という言葉は中学校では使えません。代わりに「性的接触」という言

い方が使われます。小学校では性交のほか、妊娠、出産という言葉は使われないのです。それ

らを外して性教育をするというのは大変厳しいものがあります。それでも、例えば中学校でし

たら、「性感染症の予防のためにはコンドームが有効である」という言葉が出てきます。このよ

うに、かなり制約はありますけれども、そこを何とかやっているのが現状です。

樽井ありがとうございました。

質問者 III玉城先生にはエイズ中心でお話を伺いました。エイズに関しては差別とか、検査に行

くのもためらわれる問題があるといったことも挙げられていたのですけれども、ほかの性感染

症の場合の予防の問題というか、障壁の問題について教えていただければと思います。

樽井先生からは母子感染の問題で、母親の健康がないがしろにされている面があるのではな

いかというお話がありました。エイズでは特にそういう問題が出ているというのですが、ほか

にも性感染症があり、そういった問題で母親の体にはとても重大だけれども、子供には影響が

ないので、検査もされないし放置されているといった状況があるのか教えていただければと思

います。

また、川畑先生は、セックスワーカーがコンドームをつけたくないお客さんのために性感染

症の危険に常にさらされているという問題があるとおっしゃっていたのですけれども、広く見

てこれは性暴力の一つではないかと思うのですがいかがでしょうか。

川畑コンドームをつけたがらない客に関して、コンドームをつけたがらないこと自体が性暴力

にあたるのではないか、ということですね。実際にセックスワーカーのかたで、せっかくつけ

たコンドームを気がつかないうちに外されているというケースがあって、「これは完全なる性暴

力」「強姦だ」と言っていました。つまり、相手の同意が得られない状態でコンドームなしでシンポジウム記録性差研究の作る道/性感染症の環境

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セックスすることを強要するのは、性暴力にあたる行為であると思います。

避妊の場合と感染症の場合とではまた違うのかもしれませんが、コンドームの使用に関して

は、男性の「大丈夫」という思い込みと女性の側で男性との関係性を維持したいという気持ち

とがかなりミックスした形で、女性の側からなかなか使用を頼めない。そういう意味では、コ

ンドームをつけること自体をマナーとして定着させるという認識が、性教育の現場において広

がったほうがいいのではないかと思います。もちろんそもそもセックスの合意自体が取れてい

るか、ということも問題です。

それから、私は売春防止法が「女子の保護」を名目に女性の性を管理する法律であり、広義

の意味での性暴力だと考えています。だから、この売春防止法自体は不要だと思っています。

その代わり、性暴力禁止法というものを作って、被害者が女性であろうが男性であろうが、被

害者として見据えていくような法律が必要であると考えています。

樽井私が聞かれたのは母子感染の問題で、HIV 以外に問題になることがあるのかということだっ

たと思います。母子感染ということで子供の健康が非常に重視されるのはもちろん、重要だと

思うのです。しかし、子供の健康にしっかり対応していくのは母親なので、母親が健康でなけ

れば、子育てなんかできるわけがありません。HIV の場合には、ちゃんと治療しないと死んで

しまうので、「エイズ孤児」が大きな問題になっています。

玉城川畑先生にお聞きしたと思います。日本で「13 歳未満」というのがありますよね。それは

世界的に皆、同じなのですか。

川畑性交同意年齢ですね。

玉城13 歳は非常に悪い。中学生になるかならないかという年齢です。その背景を教えていただ

きたいということです。

それから、樽井先生への質問です。いわゆる Vulnerability…group のなかで、イスラム圏

の人々の主張のために、「弱い立場のグループ(Vulnerable…groups)」のリストからセックス

ワーカー、ドラッグユーザー、ゲイなどが省かれたというご指摘がありました。それがよかっ

たのか、悪かったのか。先生はどうお考えでしょうか。僕個人は、もう少し大くくりにした

Vulnerability という概念を用いたほうがよいのではないかと考えています。

それで、僕の質問に答えます。もちろん HIV も性感染症の一つで、皆さんご存じのとおり、

性感染症にはそのほか、クラミジア、パピローマ、梅毒などがあります。途上国、特にアフリ

カなどで HIV が多い理由は、ほかの性感染症が蔓延しているからだと言われてきました。特に

潰瘍性の性感染症にかかっていると HIV に感染しやすいということもあり、まだ HIV の治療薬

がなかった時期に、普通に治療できる性感染症を治すことによって HIV を予防するというアプ

ローチもありました。その意味で、他の性感染症は過小評価されていません。

それから現在の HIV/AIDS 予防でも、基本的に HIV に感染していなくても、例えばクラミ

ジアの感染症それ自体が性行動の指標として非常に重要なので、クラミジア感染者についても応用倫理―理論と実践の架橋vol. 4



HIV の検査をして治療すべきだという考え方もでてきています。ですから、ほかの性感染症の

動向も非常に重要かと思います。

川畑性交同意年齢の件なのですが、日本の法は性交同意年齢が低いといわれているのです。国

際レベルでは 16 歳~ 18 歳とかけっこう高いのです。日本でも性交同意年齢を上げるべきだと

いう議論は以前からあります。それから、日本国内でも「教育県」と呼ばれる県では、18 歳未

満とセックスしてはいけないし、18 歳未満はお互いにセックスしてはいけないとする淫行条例

があります。

樽井玉城さんから出された、Vulnerability あるいは Vulnerable…group という包括的な言い方で

いいのではないかという指摘ですが、一方では私もそうだと思います。つまり、その場合は普

遍的な特徴が指摘されるわけです。その意味で Vulnerable というのは、Minority とか Marginal

という概念と同じように、包括的な概念だと思うのです。ただ、やはり個別に取り上げること

にもそれなりに意味があると思うのです。つまり、個別化しなければ実践上、何に対して何を

やったらいいのか分からないわけです。Vulnerable…population に対して方策を練る、と言っ

てもセックスワーカーに対してやることとドラッグユーザーに対してやることは、全然違うわ

けです。それぞれの現実があり、それぞれのニーズがあり、そしてそれに応じた対応が必要で、

当事者はそれを求めている。その意味で、個別性はアイデンティティにつながっていくもう一

つの側面として、普遍性と個別性の、個別性のほうも重要だと考えています。

それとの関係で一つ付け加えれば、個別性・アイデンティティにともなう問題に取り組むこ

とは、当事者にしかできないことです。このような問題は、たとえば国が一元的な対策を立て

るという形ではとても解決できない。ここに挙げられたグループはかなり多様なポピュレーショ

ンで、しかもそのポピュレーションは、例えばセックスワーカーやドラッグユーザーのように、

法的には犯罪者と見なされる可能性を常に持っている人たちなので、社会の中では隅っこに置

かれていて、お上からはアプローチしにくい。したがって、当事者性がどうしても重要になっ

てくるわけです。

セックスワークと HIV は実は深い関係があるのですが、セックスワーカーのグループは残念

ながら育たない。川畑さんの発表に出てきたセックスワーカーのグループとは、私はもう 20 年

近いつきあいがありますが、全く大きくなっていません。基本的なメンバーは全く変わりません。

ススキノとか新宿に行けば、大きな産業であるにもかかわらず、その当事者がなかなか自分た

ちの問題として動こうとしない。動けないさまざまな理由があるのだと思いますが、やはり当

事者がどう動くかが、今後、かぎになってくると思うのです。

若い人たちの性の問題についていえば、もちろん当事者は若い人たちですが、先ほど発言し

てくださった学校の先生も、ものすごく重要な支援者たちです。こういう人たちがつながって

いくことは、非常に重要なことだと思うのです。

当事者が自分たちの問題として取りくまないと、なかなかこういう問題は片付かないという

ことを、最後に指摘しておきたいと思います。

(文責:蔵田伸雄・中地美枝

https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/51871/1/05_sympo_oyorinri_no4.pdf
シンポジウム記録 性差研究の作る道/性感染症の環境
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シンポジウム記録 性差研究の作る道/性感染症の環境
玉城英彦・樽井正義・川畑智子・蔵田伸雄

https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000989492.pdf

なぜ今「女性」支援なのか

「売春防止法制定から半世紀以上経過した今、なぜ女性支援に関する新たな法律なのか。『女性』支援が社会に今必要なのか。職員に改めて問いかけている」と熊田さんは話します。



ジェンダーギャップ指数はG7で最下位、世界全体で116位と、日本のジェンダー平等への取組みは後れをとっています。とりわけ経済分野は顕著で、同一労働下の賃金格差や収入格差、そして雇用格差があります。それはコロナの影響にも直結し、失職した多くは販売やサービス業等の非正規雇用の女性です。シングルマザーの2人に1人は非正規雇用であり、その影響は子どもの教育機会にまで及びます。厚生労働省によれば、21年の女性の自殺者数は7,068人と20年から高止まり。コロナ禍で、窮状や家庭内暴力などの問題を抱えたままの女性が増加しているといえます。





24年の施行まであと2年。国が基本方針を定め、都道府県は基本計画を策定することになります。この間婦人保護部会は、施設の支援力向上や関係機関・団体との連携に加え、何より社会に向けて、「なぜ『女性』に向けた支援が今必要なのか」を広く発信していきます。



(※1)婦人保護部会では「売春」という言葉は使わず、あえて「性売」という造語で表現している。
(※2)部会調査研究委員会「婦人保護施設実態調査報告書2016・2017・2018年度」
(※3)児童養護施設や母子生活支援施設等の子ども・女性に関連する部会で構成される連絡会

(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会

女性支援法が成立〜なぜ今、「女性」支援が必要なのか

掲載日:2022年10月27日

2022年10月号 TOPICS

全国に47か所ある婦人保護施設は、経済的困窮、DVや性暴力被害などさまざまな背景や困難な問題を抱える女性に対して、生活支援を含め幅広く支援を行っています。都内には5施設あり、東社協婦人保護部会(以下、部会)として活動しています。



1956年に制定された売春防止法を設置根拠に、「売春をした、あるいは売春をするおそれのある女性(要保護女子)の保護更生、収容のための施設」と定められ、66年間改正されることなく今日をむかえていました。支援現場からは、現制度での限界や“人権視点の欠如”等の問題が指摘され、法改正や新法を求める声が早期よりあがっていました。



22年5月19日。66年の時を経て、支援現場からのソーシャルアクションが実り、「女性支援新法」が成立しました。人権の尊重や多様な支援の提供等が新たに理念として明示され、婦人保護施設は「女性自立支援施設」と変わります。24年の施行に向け、まさに女性支援は過渡期にあります。



女性を取り巻く環境の変化

都内婦人保護施設に残る記録によると、法制定当時の利用者の多くは、戦争で家族や財産を失い困窮から性売(※1)せざるを得ない女性でした。現在も共通し、貧困、困窮による性売、DVや性暴力被害等が施設に至る理由として挙げられます。



副部会長の熊田栄一さんは、「70年近く経過しても、利用背景は変わらない。ただ、支援を要する女性を取り巻く環境は大きく変わった」と話します。スマホ一つで他者とのつながりを感じられ、身を寄せることのできる場は増加しています。一見、家庭内の危険からは逃げやすい環境になりましたが、SNSの危険性や女性を利用する存在等、その先でまた傷つきを重ねるリスクは非常に高まっているといえます。



「回復」から始まる自立

都内施設では、暴力被害経験者の割合が年々増加し、18年度は80%を超え、30%以上の成年利用者は強制売春等の性暴力を経験しています。近年増加傾向にある18歳以前の利用者の60%が虐待被害者であることも明らかになっています。また、95%の利用者が何らかの疾患を抱えて通院しており、精神疾患が30%を上回っています(※2)。



「利用者はこれまでの経験によりエネルギーを失っている。まずは失われたものの回復支援が重要。自立は『回復』から始まる」と部会長の熊谷真弓さんは、女性支援の最優先に利用者の「回復」を挙げます。今後、困難な問題を抱える女性一人ひとりを受け止め、最適な支援を提供することが、女性自立支援施設として一層求められてきます。そのためには、職員一人ひとりが経験や研修を重ね、力をつけていることが不可欠です。あわせて、利用者にあった専門的・継続的支援には、売春防止法による「保護更生」を目的としていた現在の施設のハード面や職員配置等を見直していくことも必要となります。







部会を超え、女性支援を考える

「婦人保護施設5施設だから」を部会の合言葉に、法改正や新法制定に向け、提言活動をはじめ書籍やイベントによる外部発信等、全国婦人保護施設連携の中心的な存在として多方面に活動を展開してきました。「これからの女性支援においてまさに求められることは『連携』。広く女性支援の味方が必要」と熊谷さんは、部会単独でなく、周囲を巻き込む必要性を挙げます。



そのために、東京都女性相談センターや区市町村の婦人相談員との連携の強化が必要となります。女性相談センターとは意見交換の場を定期的に設けており、最近では新たな施設入所方法(東京方式)実施に向け、検討を重ねています。また、都内婦人相談員を対象に、21年度は意見交換会や事例報告会を開催し、女性支援現場での課題や取組みを共有しています。



新法では、「民間支援団体との協働による支援」が言及されています。実際、支援を要する多くの女性は自らSOSを発信できません。社会に埋もれてしまう声を拾いあげるには、公的機関に加え、女性支援やリーチアウトを担う民間団体との協働も不可欠です。



また、利用者の多くは児童養護施設や宿所提供施設等の他種施設を経験しており、最適な支援の提供には関係施設とのつながりが重要になります。東社協児童・女性福祉連絡会(※3)の場で、施設種別を超えて女性支援について、ともに考えることも必要になります。



新法施行に向け、今年も区市婦人相談員・女性相談
センターと共に意見交換会を11月に開催





これまで冊子やイベントを通じて、女性支援の必要性を発信



なぜ今「女性」支援なのか

「売春防止法制定から半世紀以上経過した今、なぜ女性支援に関する新たな法律なのか。『女性』支援が社会に今必要なのか。職員に改めて問いかけている」と熊田さんは話します。



ジェンダーギャップ指数はG7で最下位、世界全体で116位と、日本のジェンダー平等への取組みは後れをとっています。とりわけ経済分野は顕著で、同一労働下の賃金格差や収入格差、そして雇用格差があります。それはコロナの影響にも直結し、失職した多くは販売やサービス業等の非正規雇用の女性です。シングルマザーの2人に1人は非正規雇用であり、その影響は子どもの教育機会にまで及びます。厚生労働省によれば、21年の女性の自殺者数は7,068人と20年から高止まり。コロナ禍で、窮状や家庭内暴力などの問題を抱えたままの女性が増加しているといえます。





24年の施行まであと2年。国が基本方針を定め、都道府県は基本計画を策定することになります。この間婦人保護部会は、施設の支援力向上や関係機関・団体との連携に加え、何より社会に向けて、「なぜ『女性』に向けた支援が今必要なのか」を広く発信していきます。



(※1)婦人保護部会では「売春」という言葉は使わず、あえて「性売」という造語で表現している。
(※2)部会調査研究委員会「婦人保護施設実態調査報告書2016・2017・2018年度」
(※3)児童養護施設や母子生活支援施設等の子ども・女性に関連する部会で構成される連絡会









取材先

名称

(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会

概要

(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会
https://www.tcsw.tvac.or.jp/bukai/fujin.html

http://fukushi-portal.tokyo/archives/635/
(社福)東京都社会福祉協議会 婦人保護部会

女性支援法が成立〜なぜ今、「女性」支援が必要なのか

掲載日:2022年10月27日

https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/001056014.pdf