ロンドンとリオデジャネイロのオリンピックで陸上女子800メートルで金メダルを獲得した南アフリカのキャスター・セメンヤ選手は、男性疑惑もありましたが、「子宮と卵巣が無く体内に精巣があり、通常の女性の3倍以上のテストステロン(男性ホルモンの一種)を分泌している」両性具有ということが判明しました。
セメンヤ選手は、通常の女性として競技に参加した前2回の金メダルを剥奪されることはありませんが、国際陸上競技連盟(IAAF)は2018年11月から「テストステロン値が高い女性の出場資格を制限する」という新規定を採用しました。つまり、女性選手として大会に参加するために、テストストロン値の上限を設けました。セメンヤ選手の場合、テストロン値を薬などで下げない限り、女性として大会に出場できなくなりました。セメンヤ選手はこの規定を不服として、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴しましたが、敗訴しました。その後、CASが本部を置くスイスの最高裁にも上訴しましたが、結局、新規定を正当と認める判断がでました。
(参考文献:「セメンヤ選手がスイス最高裁で敗訴 陸上女子新規定問題」2019年7月31日、産経新聞 https://www.sankei.com/sports/news/190731/spo1907310005-n1.html)
セメンヤ選手は女性として育てられたため、新規定に不服なのです。
では、心と体が一致しないために、ある時点で女性になる手術を受けたトランス・ジェンダー/トランス・アスリートの女性が、「女性」という枠でスポーツ大会に出るのは他の女性選手にとって公平なのでしょうか?
アメリカのキンダーから高校までの教育現場では、トランス・ジェンダー/トランス・アスリートの扱いは、「各州に委ねる」としながらも、「本人の認識している性別でスポーツ競技に参加させることが望ましい」とされています。
もちろん、女性から男性になったトランス・ジェンダー/トランス・アスリートが「男性」としてスポーツ大会に参加する場合は問題はないと思いますが、男性から女性になった場合はどうでしょう?一般的に、女性より男性の方が体も大きく、筋力も強いので、元男性のトランス・ジェンダー/トランス・アスリートが女性として競技に参加すれば、女性の中で勝つのは容易と思われます。
(2019年現在)以下が各州のトランス・ジェンダー/トランス・アスリートの扱いです。
ホルモン治療などの規制なく出場を認めている州(アルファベット順):
アリゾナ、カリフォルニア、コロラド、コネチカット、フロリダ、メリーランド、マサチューセッツ、ミネソタ、ネバダ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、オレゴン、ロードアイランド、ユタ、バーモント、バージニア、ワシントン、ワシントンDC、ワイオミング
個人ごとに審査して出場を認めている州(アルファベット順):
アラスカ、デラウェア、ジョージア、イリノイ、アイオア、カンサス、メイン、ミシガン、ミズーリ、ニューメキシコ、ニューヨーク、ノースダコタ、オハイオ、オクラホマ、ペンシルバニア、サウスダコタ、ウィスコンシン
出生証明書の性別のみまたはホルモンなどの条件付きでないと出場を認めない州(アルファベット順):
アラバマ、アーカンソー、アイダホ、インディアナ、ケンタッキー、ルイジアナ、ネブラスカ、ノースキャロライナ、テキサス
ポリシーのない州(アルファベット順):
ハワイ、ミシシッピー、モンタナ、サウスキャロナイナ、テネシー、ウェストバージニア
(参考文献:”Transathlete “High school transgender athlete policies” https://www.transathlete.com/k-12)
教育現場では、圧倒的に、「本人の認識している性別でスポーツ競技に参加させる」ことを支持している州が多いようですね。
ところで、アメリカのプロゴルフ界では、2003年にアニカ・ソレンスタムという女性プロゴルファーが、2004年にはミッシェル・ウィーという女性プロゴルファーがPGAの男子大会に出場しました。二人共、女性ゴルファーとしては当時ダントツでトップではありましたが、男性の集団に入ると予選も通過することはできませんでした。
(参考文献:”The history of women playing in men’s PGA Tour events” https://www.pga.com/news/golf-buzz/history-of-women-playing-in-mens-pga-tour-events)
アメリカのキンダーから高校生までのトランス・アスリートに対する規定は教育現場だから心を優先して性別を決めることを支持している、ということもあるとは思いますが、トランス・ジェンダー/トランス・アスリートがスポーツ大会で上位を占めてしまって、女性の体で生まれた女子生徒の活躍する場を奪ってしまったとしたら、それこそ女子アスリート差別になるのではないでしょうか。その意味では、トランス・ジェンダー/トランス・アスリートが女性としてスポーツに参加する場合には、ホルモン量の制限など、何らかの制限を設けないと、他の女性選手にとって公平でないと思います。
The Stellar Journal 2019年8月掲載
https://www.stellarrisk.com/ja/transgenderathletes/?fbclid=IwY2xjawEy7YxleHRuA2FlbQIxMAABHdC2KOg27q2EYimqKTH8h4XrOo7kjySDt5atL_lnEZTm2aH_h07NEKbYcg_aem_lzMjFIcH_R3lUYJDs7PZDw