国保から墓場まで㊤
絶対に移民と言ってはいけない国
「異国の地で召された彼にアラーのご加護を」。昨年暮れの夕刻、荒涼とした関東平野に広がる埼玉県本庄市の霊園にスリランカ人男性ら約90人が集まった。神奈川県藤沢市に住んでいた同胞の70代の男性が死亡、遺体を土葬するために運んできたのだ。
遺体は布に包まれ、土がかけられた
イスラム教徒は、預言者ムハンマドが土葬されたことや、聖典コーランにそのような教えがあることから、死後は土葬を望む。ただ、火葬率が99・9%を超える国内に土葬可能な墓地は極めて少なく、この霊園が首都圏では唯一だ。
「われわれは土葬された後に来世が始まると信じている。父も満足していると思う」。男性の長男(46)は目を潤ませた。父親は故国では腕のよい仕立職人だった。高齢になり、親族の暮らす日本に身を寄せていたところ、心臓の病気で急死したという。
墓地に重機が入ってきた。運転手もイスラム教徒のボランティアで、深さ1・5メートルほどの長方形の穴が掘られた。遺体は棺には入れず白い布に包まれた状態でゆっくりと降ろされ、土がかけられる。導師と参列者の唱和の後、土まんじゅうの頭の辺りに、灰色のコンクリートブロックの墓石が立てられた。
全国で1千体が埋葬
「日本人の墓は、核家族化などで墓じまいが進み、ピーク時の4割に減った。入れ替わるようにイスラム教徒が増えた。日本人は墓参りにもあまり来ないが、彼らは熱心で、季節に関係なく夜中でも訪れる」と霊園管理会社の男性社長(76)は言う。
霊園がイスラム教徒を受け入れ始めたのは令和元年。東京都内のモスクから頼まれ、西アフリカのガーナ人を埋葬したのが最初だった。以来、口コミで広がり現在はパキスタン、バングラデシュなど15カ国、100体余りが眠っているという。
イスラム教徒が土葬できる墓地は全国でも10カ所程度しかなく、現在の埋葬者は約1千人とみられる。これまでは航空機で祖国に運んで土葬されることも多かった。
イスラム系外国人も高齢化
イスラム系の外国人は以前から国内に在留していたはずだが、今改めて「墓地不足」が注目されるのは、外国人労働者の増加に加え、彼らの中に経済的に航空機を利用できない層が拡大していることもある。
さらに以前は年を重ねる前に帰国するケースが多かったが、最近では日本で生涯を終える人もいる。在留外国人の「高齢化」である。
早稲田大学の店田広文名誉教授(社会学)の推計によると、令和2年末時点で国内にいるイスラム系外国人は約18万人。「お祈りもせず、酒も飲んで世俗化していても彼らは最期は土葬を望む。外国人労働者の増大で今後さらに増える可能性は高く、近いうちに墓地も足りなくなるだろう」
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