父母双方に親権 協力して子育て
離婚後も父母の双方が子どもの親権を持てる「共同親権」の導入を柱とする改正民法が5月に成立し、2年以内に施行される。夫婦としては別れても、親の責務を果たし続けるための仕組みで、離婚後の親権を巡る法改正は77年ぶりだ。変更内容も養育費や親子交流など多岐にわたる。年間16万人が親の離婚を経験する中、歴史的な転換となる離婚後の親と子どもの関係を考える。
■海外では主流
親権とは、未成年の子どもの世話や教育、財産管理について親が持つ権利と義務のことだ。以前は子を戒める懲戒権も含まれていたが、「児童虐待を正当化する口実になっている」として、2022年の民法改正で削除された。
現行は婚姻中が共同親権で、離婚後は単独親権で父母の片方が親権者になる。一方、1989年に採択された国連の「子どもの権利条約」は「児童の養育・発達について父母が共同の責任を有する」との原則を掲げており、海外では共同親権が主流だ。2020年の法務省調査では、米国や韓国など主要25か国中、単独親権しか選べないのは日本とインド、トルコだけだった。
国の人口動態統計では、22年の離婚件数約18万件の半数(52・8%)に未成年の子どもがいた。ひとり親家庭の貧困、別居する親との関係断絶など、単独親権に伴う深刻な影響を指摘する声が高まり、約3年がかりの議論の末、改正法が成立した。
■合意が必要
法施行後は、父母双方が合意すれば離婚後も共同親権を選べる。離婚届で単独か共同かを示す手続きになる予定だ。
単独か共同かで父母の意見が異なる場合は家庭裁判所に調停を申し立てる。調停で折り合わなければ、審判や訴訟で裁判官が決定する。
既に離婚済みの元夫婦にも適用され、一方が家裁に申し立て、認められれば共同親権に変更できる。ただ、法務省によると▽理由なく養育費を払っていない▽元配偶者を中傷している――などの場合は認められない可能性が高い。
■DV見抜けるか
改正法は虐待やDV(家庭内暴力)の恐れがあれば、家裁は単独親権としなければならないと定める。一方の親からの圧力などで共同親権を選んだ後でも、「申し立てれば家裁の判断で単独親権に変更できる」と法務省は説明する。
だが、密室での被害を家裁が適切に判断できるのかや、離婚後も関わりが続く共同親権では被害が継続しかねないという当事者らの懸念は大きい。そのため、改正法の付則に親権選択が「父母双方の真意」だと確認する措置の検討が加えられたほか、国会の付帯決議にも家裁職員の増員や専門性の向上に努めることなどが盛り込まれた。
子どもの気持ち向き合って
立命館大名誉教授の二宮さん
立命館大の二宮周平名誉教授(家族法)に共同親権導入の意義と課題を聞いた。
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――改正民法の評価は
離婚後は単独親権しか選べず、子どもの進学や医療など重要なことにもう一方の親が関わる法的根拠がなかった。改正法により、離婚しても子育てに協力したいと考える人に制度上も選択肢ができる。
他方で養育費を払わない、子どもに会おうとしない親もいる。離婚後も父母双方に子育ての責任があると社会に浸透すれば、親の自覚を促すことにもなる。
――親権者の概念は社会情勢とともに移り変わってきた
明治民法下では婚姻中から父親の単独親権だった。戦後、男女平等を掲げた憲法が制定され、婚姻中は共同、離婚後は単独親権になった。
戦後すぐは「家の子」との意識が強く、離婚後の親権者は父親が多かったが、高度成長期に核家族化が進み、家制度が事実上崩壊。「夫は仕事、妻は育児」の性別役割分業が定まり、1960年代に親権者の父母割合が逆転し、今では8割以上が母親だ。
離婚後の共同親権導入の背景には、共働きの増加などによる父親の育児参加もある。育休取得率が向上し、離婚後も子どもに関わり続けたいという父親が増えた。
――解決すべき課題は
共同親権では、子どもに関する大事なことを父母が話し合って決める。離婚しても両親は自分を大切に思ってくれていると子どもが実感することで自己肯定感が育まれる。それこそが、最も重要な目標だ。
そのためには離婚が子どもに与える影響について、家裁や自治体などが親に情報提供することが欠かせない。子どもと向き合えるよう、精神的なつらさを抱える親が相談できる場を用意することも大切だ。
DVや虐待の見極めも重要で、家裁の認定が適切でないと、被害者は安心できない。海外で開発された様々な手法が活用できるだろう。役割が大きくなる家裁の人的・物的体制の強化は必須だ。これらのことに国は真剣に取り組まねばならない。