防衛力の強化に向けた政府の有識者会議は22日に公表した報告書で、反撃能力と言い換えた敵基地攻撃能力の保有は「不可欠」と提言した。保有を既成事実化したい岸田政権の姿勢が一段と鮮明になったが、予算面で新たな枠組みが盛り込まれたのも特徴だ。研究開発や港湾整備など、防衛費の本体以外でも必要と判断すれば、優先的に予算を振り向けることを明記。現時点で規模は示さず、大盤振る舞いで関連経費が膨張する可能性があり、その分は国民負担に直結する。(川田篤志)
◆4項目、5年間の特別枠
有識者会議の報告書は、優先的に予算計上する「総合的な防衛体制の強化に資する経費」として①科学技術の研究開発②公共インフラ整備③サイバー安全保障④抑止力強化のための国際的協力—の4項目を列挙。いずれも防衛省以外の省庁が主に所管する分野だ。
4項目には今後5年間、予算の要求段階で特別枠を設け、増額させる仕組み。岸田文雄首相は報告書を受け取り「(省庁の)縦割りを排した総合的な防衛体制の構築の検討を進めたい」と応じた。
国の予算は各省庁が要求し、財務省が査定する。特別枠が導入された場合、「防衛」に関連づければ認められる可能性は高まる。
◆台湾有事想定の港湾補強も
報告書は予算化の道筋も示した。
例えば科学技術関係予算。年間4兆円を超えるが、約半分は文部科学省分で、防衛省分は4%ほど。報告書は関係省庁の連携を促しており、文科省などが防衛省の要望を踏まえたとして「防衛装備品の開発に生かす」と研究開発費を要求すれば、優先度が高いと判断されそうだ。
インフラ整備でも、自衛隊や海上保安庁の意向を受け、緊急時の部隊展開や住民避難で利用が想定される「特定重要拠点空港・港湾(仮称)」の整備や運用の方針を策定するよう促した。台湾有事を見据え、南西諸島などの港湾の掘削や補強工事などを進めることが想定される。
特別枠は、防衛力を5年以内に強化する政府方針を踏まえた措置だが、反映されるのは2024年度予算からの見通しで、どこまで膨らむのかは分からない。
◆財源に「幅広い」増税浮上
政府関係者は、防衛目的の研究開発費の増額や空港・港湾の利活用促進は「これまで防衛省がやりたくてもできなかった壁だった」と指摘。有識者会議を通じて実現へと前進する。
だが、防衛費と同様に財源問題が横たわる。他の予算から調達したり、国債に頼ったりしなければ、選択肢として増税が浮上する。
防衛費の大幅増を巡っては、財源として所得税増税や法人税増税が挙がったが、報告書は「幅広い税目による負担が必要」と記すにとどめた。財源が見通せないまま、巨額の支出につながる議論が先行している。
敵基地攻撃能力 相手国領域内にあるミサイル発射基地や軍事拠点などを直接攻撃する能力。政府は1956年、日本を狙ったミサイル攻撃を防御する他の手段がなければ、最小限の武力による敵基地攻撃は自衛権の範囲内で合憲との見解を示している。自民党は今年4月にまとめた政府への提言で「先制攻撃との誤解を与える」との理由から「反撃能力」と改称し、保有を求めた。政府はその言い換えを踏襲している。
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