世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する「質問権」行使を視野に初めて示された基準は、信教の自由に配慮しつつ、宗教団体の信者による不法行為の認定に一定の幅を持たせた。今後、教団への質問権行使は、献金や勧誘の違法性を認めた裁判例などを基に判断されるとみられる。(太田理英子、奥野斐)
◆「基準は妥当」被害救済に取り組む弁護士
宗教法人法に基づく「質問権」行使の基準を検討する専門家会議で発言する文化庁の合田哲雄次長(後列左)=8日、東京・霞が関で
「基準は妥当な内容。これまでの裁判例で裏付けていくことになるだろう」。被害者救済に取り組む「全国霊感商法対策弁護士連絡会」(全国弁連)の川井康雄弁護士はそう語った。
全国弁連によると、高額献金などを巡り、教団の組織的不法行為や使用者責任が認められた裁判例は約30件。川井弁護士は「これだけ繰り返されていること自体、組織性、悪質性、継続性があるのは明らか」とし、質問権行使の基準に加え、解散命令請求の要件も既に満たしていると見る。
両親が教団に高額献金を重ねてきた「宗教2世」の30代女性は「裁判例だけで解散命令請求につながるならうれしい」と前向きに受け止めた。質問権行使には、公的機関への相談実績なども判断材料になる見込みで「被害者が泣き寝入りしている高額献金や断食を強いる児童虐待など、裁判に至っていない不法行為はたくさんある。広く被害実態に目を向けてほしい」と注文を付けた。
◆調査自体に強制力なし…実効性は課題
行政や宗教分野の研究者は、前例のない質問権行使基準の検討プロセスや課題をどう見るのか。
同志社大政策学部の小谷真理准教授(行政法)は「憲法が保障する信教の自由に配慮しつつ、悪質性の高い行為などを把握できるよう間口を広く構えた。バランスが取れた基準になっている」と評価。質問権行使の妥当性を検討する宗教法人審議会のメンバーが自ら基準を作った点は「同じ顔ぶれとはいえ、行政組織内部だけでなく外部有識者の目が入り、一定の歯止めになっているのでは」と話す。
ただ、法令違反の評価や参照する資料の範囲には注視する必要があると指摘。また、宗教法人法に基づく調査に強制力はなく「質問権の行使で十分な回答や協力が得られるのか。実効性の担保が課題」と述べた。
◆専門家「裏付け慎重に」
教団の研究をしてきた北海道大の桜井義秀教授(宗教社会学)は、質問権行使時に「過去の裁判で不法行為が認められた後、教団がどのように対応してきたのかを見る必要がある」と話す。
永岡桂子文部科学相は年内に質問権を行使する方針を示している。桜井教授は「教団に言い逃れさせないためにはかなりの量の情報収集と裏付けがいる。スピード感が求められる被害者救済とは違い、慎重に進めるべきだ」と強調した。
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