スウェーデンの法改正について説明する(右から)ヘドヴィク・トロストさんとヴィヴェカ・ロングさん=東京都内で
2017年7月、性犯罪規定を大幅に変更した改正刑法が施行された。しかし同意のない性行為を罪に問うには、加害者の「暴行・脅迫」と、被害者の激しい抵抗が認められなければならないなど依然高い壁が残った。世界的に「同意のない性交は犯罪」が潮流となる中、18年に「性行為には積極的な同意が必要」と刑法を改正したスウェーデンの司法関係者が来日。この機に、性犯罪と法規定のあり方を考えた。 (小林由比)
「『自発的参加』の有無で、有罪かどうか決定します」。一月下旬、衆院議員会館での集会で、スウェーデン検察庁の上級法務担当ヘドヴィク・トロストさんは一八年の刑法改正の核心をこう説明した。
同国でも従来はレイプ罪の立証に、暴行・脅迫の存在や、酩酊(めいてい)や睡眠など被害者の状況を悪用して加害行為に及んだ証明が必要だった。しかし一八年改正で、被害者がノーと言えなかったり、抵抗できなかったりしても、自発的な参加ではないと客観的に認められれば加害者は有罪となり、二~六年の拘禁刑となる。トロストさんは「はっきりイエスと言うか、それに準ずる発言、何らかの身体的行動による表現などが必要」と解説した。
同意の有無を有罪の判断基準にする国は増えている。ドイツなどのように「ノー」を示せばレイプとする国が多いが、スウェーデンは「イエス」という自主性を確認できなければレイプとしている。上下関係が一般的な教員など「監護者」による性暴力は、同意の有無に関わらずレイプ罪を適用。十五歳未満への性虐待なども同様だ。
刑法改正で従来と異なり有罪になったケースも複数出ている。しかし、スウェーデン司法省の上級顧問ヴィヴェカ・ロングさんは「良い法があるからといって必ず有罪を得られるわけではない」と性犯罪の立証の難しさにも言及した。
スウェーデン法に詳しい琉球大大学院教授の矢野恵美さんは「スウェーデンは被害者を守るため、国選弁護人による支援制度などがあり、性教育も進んでいる。日本でも取り入れるべき点が多くある」と話している。
国内でも、同意のない性行為を処罰できる法を求める動きが高まっている。一七年、刑法の性犯罪規定が百十年ぶりに大幅改正された。「強姦(ごうかん)罪」を「強制性交等罪」と改め、男性も被害者に含め法定刑の下限を引き上げたほか、十八歳未満の子への親などからの性行為は暴行や脅迫がなくても罪に問える「監護者性交等罪」ができるなど、いくつか前進はあった。しかし、性暴力の被害者らでつくる団体「Spring」(東京)の岩田美佐さん(48)は「暴行・脅迫要件などが壁になり、被害をなかったことにされた人は多くいる」と指摘。同法は三年をめどに見直しが検討されることから、会は「不同意性交等罪」の創設などさらなる改正を求めている。
若い世代も動きだしている。上智大生らのグループ「Speak Up Sophia」は、二人でピザを注文する際にトッピングやサイズなどの希望を擦り合わせるワーク体験を通じ、性行為での同意について考えてもらっている。共同代表の同大四年、横井桃子さん(22)は「性的同意というと堅いイメージを持たれるが、当たり前のコミュニケーションだという意識を広げたい」と話す。