<緊急声明>手術なしでの法的性別取扱いの変更を認めた広島高裁の決定に断固抗議します立憲民主党の性同一性障害特例法改正案に反対し、強く抗議しますLGBT理解増進法案について 自由民主党国会議員の皆様へ 緊急の訴え会代表による緊急コメント新年に際し、改めて手術要件撤廃に反対し、女性スペースを守る新法の制定を訴えます等PDF魚拓


朝日新聞社 代表取締役社長 中村史郎様
朝日新聞社 記者 抜井規泰様
朝日新聞社 記者 二階堂友紀様



 3月23日付朝日新聞記事「Think Gender 『性別は変えられない』 埼玉富士見市議が発言、人権侵害との指摘」は、社会で論争になっている事柄について、一方の立場からのみ書かれた偏向した記事であると言わざるを得ません。私たちNo!セルフID 女性の人権と安全を求める会は、朝日新聞社に対し、これを即刻取り下げ、加賀奈々恵議員に謝罪することを強く求めます。

 加賀議員のスピーチは熟慮をもって書かれたものであり、何も間違ったことを述べていません。性別とは生物学的な事実を指すのであって、それ以外のものではなく、だから性別は変えられません。また、性別は変えられるという考え方が広まることが、女性や子どもの安全や健康を危うくしているということも、すでに国会でも議論されるレベルで明白になっています。スピーチの動画とその書き起こし全文を確認しましたが、差別にあたるようなことは一つも認められませんでした。

 「性別で区切られた空間はどうあるべきか」は、社会的な関心も高く、世論においても考えが分かれているテーマです。そのようなテーマを扱うにあたっては、事実を慎重に伝えることこそが社会の公器たる新聞の役割であり、本来であれば記事は両論併記すべきです。しかしながら、加賀議員を批判する声としては、共産党市議・NPO代表・一般の性的少数者をとりあげる一方で、加賀議員を支持する国内外からの共感の声を取り上げることはなく、あたかも加賀議員とその会派だけが「性別は変えられない」という主張(自明の事実ですが)を持論としているかのように記事にしています。

 この記事の主張は、つまるところ、昨秋の最高裁大法廷決定の「性自認に従った取り扱いを受けることは、個人の人格的存在と結びついた重要な法的利益というべきだ」という言葉に依拠しています。しかし、この言葉を最終決定のように独り歩きさせてはなりません。これは、被告のいない家事審判における、原告の意見のみを集中して検討した裁判での言葉であり、この裁判では女性の法的利益は検討されませんでした。女性の安全・人権・尊厳という別の要素を重視することもまた当然に求められる現実の日本社会において、この大法廷決定の言葉をもって女性たちを黙らせようとするのは、報道機関としてあるまじきことです。

 また、最高裁の決定も、人間は性別を変えられないという命題をいささかも否定するものではありません。むしろ人間の性別は変えられないことを前提としています。なぜなら、もしも性別を変えられるならば、性自認に沿った扱いではなく、ごく普通に性別にもとづいた扱いをすればよいだけだからです。

 加えて、記事の記述の仕方にも公平性を感じられませんでした。たとえば、それほど長くない記事の文中に3回も、加賀議員が「謝罪した」と繰り返している点です。これは、議会運営を混乱させたことに対してであるのに、あたかも加賀議員が自分の発言内容に関して謝罪したかのような印象を与えるものとなっています。しかし、加賀議員は撤回に値するような差別的なことは全く主張していませんし、事実、彼女は撤回するつもりはないと述べています。

 
 朝日新聞は、この記事によって、他者の言葉を借りつつ、「性別は変えられないという発言は差別である」と世間に向かって言い放ったことになります。これは、日本社会の言論の自由にとって非常に重大なことですし、これによって日本社会の未来が危ぶまれるほどのことです。

 性自認至上主義が法律や社会をより強力に動かしている国々においては、「性別は変えられない」のような発言が、訴訟や失職や社会的立場の剥奪、発言機会の制限などの原因となっています。この記事は、日本もその同じ道を辿ることが正義であると認識し、そのように仕向けるものとなっています。

 客観的事実や科学は、現代の人間社会の基盤です。それにもとづいて発言する人を「差別だ」と糾弾することは、社会の基盤を危うくする行為といえます。朝日新聞社は、そのような行為にこれ以上踏み込むことをやめ、報道機関としての本分に立ち返り、客観的事実に基づく公平な報道をおこなうべきです。


 以上の理由をもって、私たちは、朝日新聞社に対し、即刻この記事を取り下げ、加賀議員に対して謝罪するよう、強く求めます。

2024年3月26日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃

朝日新聞による加賀奈々恵議員への不当な糾弾に抗議します2024年3月26日
日本の動き
加賀奈々恵議員, 性自認, 朝日新聞


ついに私たちが恐れていた決定が下されました。2024年7月10日、広島の高等裁判所は、「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)の第3条の5号要件(「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること」)について、それが性別適合手術を不可欠とするという従来の解釈を、「違憲の疑いがあると言わざるをえない」とし、異性ホルモン摂取などで外観が相似してさえいれば、手術なしでも男性が法的性別の取り使いを「女性」に変えることを認めたのです。外観要件そのものを違憲としなかったとはいえ、その解釈を変えることによって、手術なしでの性別変更を可能としたことに、私たちは強いショックと深い憤りを感じています。

 昨年10月25日に、最高裁判所大法廷において、特例法第3条の4号要件(「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」)を違憲だとする決定が全員一致で下されましたが、5号要件に関しては、広島高等裁判所に審理を差し戻すこととなりました。私たちの会をはじめとする多くの女性と男性たちは、広島高裁が女性と子供の人権と安全を守るための最低限の良識を発揮してくれるよう強く訴えてきましたが、私たちの思いはあっさりと踏みにじられ、ついにこの日本でも、ペニスを保持したままの法的「女性」が生まれることになったのです。

 私たちが以前から主張してきたように、特例法は、単に法的に「女性」として認められたい男性のための法律ではなく、男性器ないし女性器を含む自己の身体に強い違和感を持ち、「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する」性同一性障害者のための法律です。自己を身体的に他の性別に適合させようとする意思を持たない者は、そもそもこの法律の対象ではないのです。広島高裁の決定は、国会の全員一致の賛成で可決された特例法の趣旨に完全に反するものであり、それを完全に変質させるものです。

 これによって、ペニスを持ったままの「女性」が多数生まれ、女性用のトイレや更衣室、公衆浴場などの女性専用スペースに入ってくる事態が十分に予想されます。たしかに厚生労働省は昨年2023年6月23日に、公衆浴場などの利用に関しては「身体的な特徴をもって判断する」との通知を生活衛生課長名で出していますが、このような通知がいつまでも維持できると考えるのはあまりに楽観的にすぎる甘い見方であると思います。特例法というれっきとした国法があるにもかかわらず、司法に訴えるという手段を通じて、その核心的内容が事実上無効にされたわけですから、厚労省の通知が無効化される可能性もきわめて大きいと言わざるをえません。

 ペニスを持ったままの「女性」が女性専用スペースに入ること自体が、その人が何らかの性犯罪を犯すかどうかに関わりなく、女性と女児の安全と尊厳を根本から脅かします。女性専用スペースは、この性暴力・性差別社会において、女性に残されたほとんど唯一の安全スペースなのです。それが司法の一方的な決定によって奪われようとしているのです。私たちはこのことに心からの怒りと恐怖を感じざるをえません。

 この決定は、女性と女児の人権をないがしろにするものであるだけでなく、生物学上の初歩的事実とそれに基づいた社会秩序の基本原則に根本から反するものでもあります。私たちは、この決定に最大限の怒りをもって抗議します。私たち女性は、一部の男性の自己実現のために巻き添えにされる都合の良い存在でもなければ、司法の気まぐれによってどのようにも捻じ曲げられる単なる概念でもありません。私たちは生きた現実の人間なのです。厳然と存在する生物学的現実に基づき、人としての奪われない尊厳を持ち、絶えず性差別と性暴力にさらされながらもそれでもそれに抗して生きている人間なのです。そのことをほんのわずかでも理解していたならば、このような決定を下すことはなかったでしょう。この決定によって、日本に住むすべての女性の尊厳と人間性とが否定されたのです。それは歴史上最悪の司法判断の一つであり、日本の戦後史において最大級の歴史的汚点として記録されることでしょう。

 私たちはこの許しがたい決定にもかかわらず、女性と女児の安全と人権を守るために今後とも全力を尽くします。生物学にも人権原理にも反するこのような決定に私たちは絶対に屈しません。ペニスを保持した「女性」という法的存在を私たちは絶対に認めません。司法がどれほど事実に反する決定を下そうと、事実は事実です。ペニスを持った「女性」など存在しません。それは男性です。男性には女性スペースに入る権利はありません。そう発言することによってどのような攻撃を受けようとも、女性の尊厳と安全のために、私たちはそう言い続けるし、そのことを求め続けるでしょう。

2024年7月10日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃

<緊急声明>手術なしでの法的性別取扱いの変更を認めた広島高裁の決定に断固抗議します2024年7月10日
日本の動き
GID特例法, セルフID, 司法


当会はこの抗議文を、立憲民主党、法案提出議員、他党党本部、報道機関に宛てて送信しました。


 立憲民主党は、2024年6月11日、「性同一性障害特例法改正法案」を議員立法として衆議院に提出しました

 これは、性同一性障害特例法(以下、特例法)における性別取扱いの変更に関わる主要な条件をすべて削除し、性同一性障害の定義さえ変更するものであり、事実上、性同一性障害特例法を無効化するものです。同党の改正案によると、その第一として、「未成年の子なし要件」が削除されることが明記され、第二の1として「生殖不能要件」と「外観要件」の両方を削除することが明示されています。さらに第二の2として、性同一性障害者の定義から、「身体的に他の性別に適合させようとする意志」に係る部分を削除し、さらに医師の診断書の記載事項の例示から「治療の経過及び結果」を削除するとしています。

 これらの改正は、特例法の根幹を否定し、女性と子供の権利を著しく侵害するものであり、私たちはその改正案に断固反対するとともに、そのような改正案を出した立憲民主党に強く抗議するものです。以下、簡単に説明します。

改正案は特例法の根幹を否定する

 特例法は、単に自分の性別を法的に変えたい人のための法律ではなく、著しい身体違和を持ち、それゆえに自己の身体を他の性別に類似したものへと不可逆的な形で変えた人が社会生活をスムーズに送れるよう、当時の国会において満場一致で制定されたものです。にもかかわらず、「身体的に他の性別に適合させようとする意志」を持つという性同一性障害者の定義の中心をなす規定を削除してしまい、昨年10月に最高裁で違憲判定が下された「生殖不能要件」のみならず、特例法の核心でもある「外観要件」をも削除することになれば、同法は、制定時における立法趣旨とまったく異なったものに変質してしまうことを意味します。それは、特例法の根幹を否定するものです。また、「未成年の子なし」要件も、未成年の親の「性別」の法的取り扱いが変わることによる社会的混乱や子供の不利益の発生を避けるためのものです。

 これらが削除されれば、性別取扱いの変更を家庭裁判所に申し立てる上での条件としては、医師の診断だけが残ることになります。しかし、現在、たった1回の診察や数十分の診察で安易に「性同一性障害」の診断書を出す医者やクリニックは後を絶たず、それは何ら歯止めの役割を果たしていません。さらに、その医師の診断に関しても、立憲民主党の改正案は、それを厳格化するのではなく、逆に、医師の診断書の記載事項の例示から「治療の経過及び結果」を削除するとして、いっそうの緩和をめざしています。

 このような全面的な規制緩和は、それまで特例法の種々の条件をクリアすることで一定の社会的信頼を得ていた性同一性障害の人々にとっても大きな不利益になるでしょう。

改正案は女性と少女の人権と尊厳を侵害する

 「生殖不能要件」のみならず、「外観要件」も削除されれば、ペニスを持った「法的女性」が大量に発生することが予想されます。そうなれば、これらの人々が社会的にも「女性」として扱われ、女性トイレのみならず、女性用の更衣室、浴室、病室、シェルター、刑務所などの女性専用スペースにも当然入ってくることが十分に予想されます。なぜなら、現行の特例法に基づいて法的性別の取扱いの変更を終えた人たちは、すでにそれらのスペースに入っているからです。

 立憲民主党の改正案には、これらの女性専用スペースの運用に関する新たな規定は何もなく、また別途、女性専用スペースに係る独自の法案を作成しているわけでもないので、同党の改正案が成立すれば、すべての女性専用スペースにペニスを備えた「女性」が入れるようになるでしょう。たとえ、個々に浴場やプールの管理者が、厚労省の通知に基づいて「身体的特徴」で分けたとしても、そのような区別が「差別」だとして訴えられるリスクは常に存在するし、司法がそのような区別を妥当だと判断する保証もありません。

 そのような事態になれば、女性と少女の人権と尊厳が著しく侵害されるのは明らかです。諸外国ではすでに、「外観要件」をなくして(さらに一部では医師の診断書という手続きさえなくして)、その人の自己申告に基づいて性別を変えられるようになったことで、男性器を備えた「女性」が大量に生まれ、それらの人々が女子刑務所や女性用更衣室などの女性専用スペースに入ってくる事態になっており、レイプなどの深刻な性暴力がすでに多発しています。またたとえレイプなどの性犯罪にまで至らなくても、ペニスを備えた人物と同じ空間で着替えやシャワーの利用を強要されることは、著しい人権侵害であり、女性の尊厳を否定することです。それは性暴力を誘発し、すべての女性と少女を危険にさらすものです。

 以上の点からして、立憲民主党の改正案は絶対に許容できないものであり、私たちはそれに断固反対し、強く抗議するとともに、その速やかな撤回を要求します。

 諸外国において性別取扱いの要件を安易に緩和したことで多くの問題や事件が発生している事実については、すでに有権者や市民から多数、立憲民主党にも寄せられているはずなのに、そのことから何も学ばず、知ろうともせず、あるいは、まったく無視する態度をとっていることに、私たちは強い憤りを感じています。このような政党が与党になれば、他のすべての問題に関しても、市民を無視し、女性をないがしろにし、子供を危険にさらす政策を実行することは明らかです。私たちはそのことに深い憂慮と懸念を表明するものです。

2024年6月17日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃

立憲民主党の性同一性障害特例法改正案に反対し、強く抗議します2024年6月19日
日本の動き
GID特例法, セルフID, 性自認


性別の法的取り扱い変更に関する最高裁判決に抗議します

2023年10月25日

 本日の判決は、女性の人権と安全を蔑ろにするものです。このままでは日本は、今まで以上に、女性が性的被害に遭い、それをまともに取り合ってもらえない、生きづらい国になっていくでしょう。

 男性と女性の最も顕著な違いは、身体の性的機能です。男性の臓器である精巣を持つ人をこれからは女性と呼ばねばならないということは、生物学的現実からたんに逸脱しているという以上に、明確にこれに反しています。

 そのうえ、外観要件まで無くするべきだという意見の最高裁判事が複数いること、ホルモン療法さえしなくていいと判決に添えられた意見として出す裁判官がいるということについても、恐怖を感じています。

 女性を妊娠させる能力を持ちながら、勃起する男性器を持ちながら、女性が無防備でいる女性のみの空間へのアクセス権も主張する「法的女性」が出現すれば、どのような問題が起きるのか明白です。海外であまりにも多くの事件が起き、訴訟も起きています。そのことがまったく目に入っていないかのような意見を堂々と出しておられる裁判官がいることに、私たちは驚愕しています。

 犯罪目的の男性が「法的女性だ」と主張して女性のための空間に侵入することもじゅうぶん起こりえます。そのあまりにも明白なこと、女性の身体の安全に関わることが、軽視されているのがこの日本なのだと、思い知らされました。人口の半分を占める女性たちの、その安全について、これ以上蔑ろにすることは断じて許してはいけません。

 近年、性自認を現実の性別より優先させる社会的運動が広まっています。その影響が法曹界に及んでいたことは知っていましたが、最高裁でこれほどまでに強固に性自認主義が広まっていることに、そしてそのために一般の女性たちの声に耳を傾けることがまったくなくなっていることに、怒りをおぼえます。

 女性の人権と安全は、これ以上、損なわれてはなりません。「男性器がある女性」を容認しないよう、常識ある人々による世論の力を、私たちはいま、切実に頼りとしています。

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会 
代表 石上卯乃

会代表による緊急コメント 2023年10月25日
日本の動き
セルフID, 性自認至上主義, 最高裁判決


                                                                                                        

各種報道によりますと、5月12日に自民党の「性的マイノリティに関する特命委員会」と内閣第一部会との合同会議が開催され、いわゆるLGBT理解増進法案が文言修正のうえ特命委の高階恵美子委員長および森屋宏内閣第1部会長に一任され、16日の政務調査審議会と総務会を経て、G7広島サミットまでに国会に提出されるとのことです。

 発言者の多数が反対ないし慎重だったにもかかわらず、強引に幹部に一任され、国会提出の流れになっていることに、私たちは強い懸念を持ちます。すでに多くの人々、団体、当事者が訴えているように、この法案には修正にもかかわらず多くの問題があり、それの国会提出と可決成立を急ぐことは、重大な禍根を残し、日本社会の混乱を生むことになります。

1.「性同一性」が「性自認」の単なる言いかえにとどまっている懸念がぬぐえない

 自称とあまり意味の変わらない「性自認」という言葉が取り除かれたのは大きな前進ですが、「性同一性」という言葉が「性自認」の単なる言いかえである懸念がぬぐえません。それが性同一性障害特例法で用いられている「性同一性」と同じものであって、あくまでも医療用語であることが明記される必要があります。

2. 性同一性障害者への差別に関しては障害者差別解消法が適用される

 もし「性同一性」が「性自認」と同じではなく、性同一性障害でいうところの「性同一性」のことなら、そういう方への差別に関しては障害者差別解消法が適用されることになっています。同法では行政機関や事業者に対するさまざまな施策や措置がきめ細かく定められており、改めて理解増進法案において「性同一性による不当な差別」を明記する必要はありません。

3. 女性と子供の人権と安全に対する配慮義務が明記されていない

 合同会議の場で、女性と子供の人権と安全への配慮義務を盛り込むことを求める有力な意見が存在したにもかかわらず、それは盛り込まれませんでした。現在、この理解増進法案に対して出されている最大の懸念は、この法案がこのまま成立すれば、自分を女性だと自認する男性が女性スペースの中に入ってくる事態が助長される可能性があること、そして、それを拒否したり通報したり批判したりすること自体が「不当な差別」だとみなされかねないということです。まだいかなる理解増進法案も通っていないにもかかわらず、そうした懸念を表明すること自体が、当事者を傷つける差別だという言説がすでに大量に発信されており、国会議員の方からもそうした発言が繰り返し出されています。今でさえすでにそういう状況にあるのですから、理解増進法案がこのまま成立すれば、この傾向にいっそう拍車がかかり、女性と子供の人権と安全は深刻に脅かされるでしょう。

 以上の観点から、なにとぞ、現在の理解増進法案をそのまま政調審議会および総務会において了承しないようにしてください。どうか広範な国民の声、とりわけ市井の女性たちの声に耳を傾けてください。これほど大きく意見が分かれている法案を今国会で成立させる合理的な理由は何もありません今国会での上程を見送り、すでに同種の法律が存在する諸外国での深刻な混乱を調査し、法案に批判的な市井の女性や性的マイノリティ当事者の声を聴取し、それらを国民に周知したうえで、改めて議論してくださるよう切にお願いします。

2023年5月13日

No! セルフID  女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃、桜田悠希

LGBT理解増進法案について 自由民主党国会議員の皆様へ 緊急の訴え2023年5月14日
日本の動き
人権と安全, 差別, 性同一性, 性自認, 緊急の訴え, #LGBT理解増進法案





最高裁判所判事 今崎幸彦様、宇賀克也様、林道晴様、長嶺安政様、渡邉惠理子様

 7月11日、最高裁判所にて、「第285号 行政措置要求判定取消、国家賠償請求事件」において職員側(未手術の女性自認の男性)の勝訴の判決が言い渡されました。私たちはまずもってこのことに強い抗議と怒りを表明します。

 私たちの会は、この判決に先立つ6月30日に、今回の責任判事である今崎幸彦氏に宛てて要請書「経産省トイレ訴訟の高裁判決を支持します。最高裁は国側の主張の正当性を認め、女性の人権を守ってください」を送付しました。内容の趣旨は以下の通りです。

1.女性の人権の抑圧をしてはならない……考慮されるべきは原告の人権だけではない。その場を共有する女性たちが、性的羞恥心、性的不安をもって日々を送ることを余儀なくされるのであれば、それは人権の抑圧である。

2.性自認によるトイレ等の使用は、社会的コンセンサスを得ていない……現時点ですでに性自認に沿ったトイレ等の使用に社会的コンセンサスが得られているかのような報道があるが、一般社会は、トイレが生物学的ないし戸籍上の性別で峻別されることを求めている。

3.国側が違法とされたら、先行判例として多大な影響を及ぼす……本件は単に一個人の権利の問題ではなく、何をもって人間の性別とするかという重大な司法判断となり、社会に多大な影響を与えるものとなるので、国民全体への配慮にもとづいた判断をお願いしたい。

 以上の点を踏まえて、私たちは、原告と同僚女性のお互いの法益を尊重し、トイレ等の使用に関する社会的な意識も考慮するものであった二審高裁判決を維持することが最も適切であると主張しました。

 しかし、本年7月11日の最高裁判決において、未手術の女性自認の男性職員が勝訴し、経済産業省での職場における原告の女性トイレ使用に関しては、その制限を裁量権の逸脱として違法とし、職場と同じ階の女性トイレも使用できるとの判断がなされました。

 こうした判断の理由として、原告が性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けていること、これまで(4年10ヶ月)2階以上離れた階の女子トイレを使っていたがトラブルがなかったこと、上告人が職場と同じ階の女性トイレを使用することについて等の説明会を開いたが、明確な異を唱えた女性職員はいなかったこと、この説明会から今回の判定に至るまでの約4年10か月の間に、原告(上告人)による経産省内の女性トイレの使用について何らかの特別の配慮をすべき他の職員がいるかどうかについての調査が改めて行なわれていないこと、などが挙げられています。

 しかし、トラブルを避けるために2階以上離れた女性トイレを使うように指示したのですから、トラブルがないのは当然です。また、たとえ実際にトラブルがあったとしても、裁判まで行なっている相手に何を言えるでしょうか? 説明会で明確な異を唱えた女性職員がいなかったとのことですが、匿名性も担保されていない状況下で、同僚に対して異を唱えることがそれほど容易なことでしょうか? また新たに入ってくる女性職員はそもそも意思を確認されていないのですから、今いる女性職員だけの意見で決定できない事柄ではないでしょうか。

 また、判決の補足意見として次のようなことが述べられています。同僚の女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対して抱くかもしれない違和感・羞恥心等は、「トランスジェンダーに対する理解の増進が必ずしも十分でないことによるところが少なくないと思われるので、研修により、相当程度払拭できると考えられる」。

 女性職員が違和感や羞恥心を感じるのは「理解の増進が必ずしも十分ではない」からであると決めつけ、研修によって払拭できるという議論は、今年の6月に成立したLGBT理解増進法に沿っているようでありながら、同法第12条の「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」という趣旨に反しているのではないでしょうか。女性として当然抱く違和感や羞恥心でさえ、理解不足のせいにされ、一方的な研修で克服させようとするのは、女性の尊厳と人権を踏みにじるものです。

 男性にとっては、トイレは単に用を足すところだという認識しかないかもしれません。しかし女性にとっては、生理時に生理用品を交換する場所でもあり、また怪しげな男性から避難する臨時のシェルターでもあります。そのような場に男性がいないという安心感がどうしても必要です。イギリスで男女共同トイレが学校で導入された時、女子生徒たちが男子生徒と同じ場所で排泄したり生理用品を交換することに強い羞恥心や戸惑いを感じ、学校に行けなくなる生徒も出たとの報道もありました。

 かつては、ほとんどの職場や公共の場において女性専用トイレが存在せず、先人の女性たちが苦労して女性トイレを確保してきたおかげで、私たちは現在、女性専用トイレを使用できます。女性だけの場所であることは女性の人権、安全、社会活動のためにどうしても必要なのです。

 判決本文においても、補足意見においても、女性の人権と安全は明らかに過少評価されています。女性が抱く羞恥心は感覚的・抽象的であると何度も決めつけられて否定されているのに対して、トランスジェンダーの人(MtF)が意に反して男性トイレを使うことに対しては、その「精神的苦痛を想像すれば明らかであろう」と無条件に受け入れられています。男性が女性トイレを使うことに対して多くの女性たちが抱く精神的苦痛は無視され、男性が男性トイレを使うことに対する精神的苦痛は重視されているのです。これが女性差別でなくて何でしょうか?

 また、補足意見の中で、「トランスジェンダーである上告人と本件庁舎内のトイレを利用する女性職員ら(シスジェンダー)の利益が相反する場合には両者間の利益衡量・利害調整が必要となることを否定するものではない」と語られています。職場の女性職員がみな「シスジェンダー」(自己の生物学的性別とそのジェンダー・アイデンティティとが一致している人を指す特殊用語)だとどうしてわかったのでしょうか? 正式の判決文に付された補足意見において、特殊なイデオロギー用語である「シスジェンダー」という言葉が使われたことは大変危ういことだと私たちは考えます。

 さらに、補足意見の中で、次のように言われていることも大きな問題です。「現行の性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の下では、上告人が戸籍上の性別を変更するためには、性別適合手術を行う必要がある。これに関する規定の合憲性について議論があることは周知のとおりであるが、その点は措くとして、性別適合手術は、身体への侵襲が避けられず、生命及び健康への危険を伴うものであり、経済的負担も大きく、また、体質等により受けることができない者もいる」。この部分は、今年9月に予定されている性同一性障害特例法における手術要件の合憲性をめぐる裁判の行方について、非常に不吉な予想を起こさせるものです。もし特例法の手術要件が撤廃されれば、ペニスを備えたままの法的女性が大量に発生することになり、日本に住むすべての女性の人権と安全が深刻に脅かされることになるでしょう。

 それと同時に、補足意見の中では、「なお、本判決は、トイレを含め、不特定又は多数の人々の使用が想定されている公共施設の使用の在り方について触れるものではない。この問題は、機会を改めて議論されるべきである」と釘が刺されており、今回の判決が不特定多数の人々が用いる公共のトイレの利用の在り方を決めるものではないことにも留意する必要があります。

 しかし、たとえ特定の職場の特定のトイレを特定の人が利用することを是認したものにすぎなくても、この判決が及ぼす社会的影響や効果は甚大なものとなります。同様の問題を抱えた他の職場においても、同僚の女性たちの羞恥心や精神的苦痛はないがしろにされて、女性を自認する男性の女性トイレ使用が積極的に是認される事態が生じることになるでしょう。

 女性たちは、女性というだけですでに大きな不利益を日々被っています。日本の男女平等度は世界125位であり、毎年この順位は下がり続けています。女子差別撤廃条約が批准されても(1985年)、さまざまな女性差別は残り続け、女性であるというだけで子供のころから性被害に遭い、女性の賃金水準は非正規も入れて計算すれば今なお男性の半分程度であり、そして家事・育児労働の大部分はいまだに女性が無償で担わされています。政治家も裁判官もほとんどが男性であり、女性が日々どのような困難と恐怖の中で生きているかに対する理解をほとんど持っていません。その典型例が今回の判決です。これによって、女性の生きづらさ、女性の不利益、女性の恐怖と絶望はいっそう増進することでしょう。

 今回の判決を全員一致で下した裁判官のみなさま、私たちはあなた方に厳重なる抗議をします。もし一人でも被害者が出たら、あなた方の責任であるということを、しかと心に刻んでください。

2023年7月27日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃、桜田悠希

経済産業省におけるトランスジェンダーのトイレ使用問題をめぐる7.11の最高裁判決に抗議します2023年7月27日
日本の動き
トランスジェンダー, 女性トイレ, 経産省トイレ訴訟



最高裁判所判事 今崎幸彦 様

 国民のために重責を負って裁判をおこなってくださることに感謝申し上げます。私たちは「No!セルフID 女性の人権と安全を求める会」という市民団体です。

 今崎様が担当判事となられる、行政措置要求判定取消等請求事件(以下、経産省トイレ訴訟)の最高裁判所判決が、本年7月11日に行われます。

 私たちは、以下の理由により、2021年5月の東京高等裁判所における、「経産省としては他の職員が有する性的羞恥心や性的不安などの性的利益もあわせて考慮し、原告を含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を負っていることも否定しがたい」としてトイレの使用制限は違法ではないとした判決を支持し、この判決内容が最高裁でも認められることを求めます。

1.女性の人権の抑圧をしてはならない

 高裁判決が示したように、考慮されるべきは原告の人権のみにとどまりません。その場を共有する女性たちが、上長の命令により、性的羞恥心、性的不安をもって日々を送ることを余儀なくされるのであれば、それは人権の抑圧といえます。

 第二審判決においても、原告が性自認に基づいた性別で社会生活を送ることは、「法律上保護された利益」と位置づけられました。そして、そうであるならば、「女性が女性専用のトイレを使用する」こともまた、女性の法的利益として認められるべきです。女性たちはこの職場において女性用トイレを使用する当事者です。司法はこの当事者を蔑ろにすべきではなく、その法的利益を毀損することのないように尽力すべきです。

 また、今月施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」の第12条においても、「この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」とあります。訴訟の提起が同法の施行以前とはいえ、原告が、性自認を理由に法益を主張するのであれば、これに対しては、当然、同法12条の規定をもって判断することもまた必要といえるでしょう。

2.性自認によるトイレ等の使用は、社会的コンセンサスを得ていない

 個人の事情について踏み込んだことを述べるのは躊躇われますが、公表されている第一審の判決にあるとおり、本件の原告は、性同一性障害と診断されていますが、戸籍上は男性であり、性別適合手術も受けていません。職場の女性が原告を同性とは見做せないとしても無理からぬことであり、また、そのような前提に立っての第二審判決と考えられます。

 ところで6月16日の口頭弁論の後の毎日新聞の報道では「人事院の判定時には、性自認に沿ったトイレ利用を認めるべきだという社会的な広い理解はなかった」ことを国側の主張と報じています。https://mainichi.jp/articles/20230616/k00/00m/040/250000c

 記事中に「人事院の判定時には」という留保が記されていることで、まるで現時点では性自認に沿ったトイレ等の使用に社会的コンセンサスが得られているかのような読解が可能になっています。しかし、それでは一般社会の通念を読み誤ることになります。一般社会は、トイレが生物学的性別または戸籍上の性別で峻別されることを求めています。

 新宿区の歌舞伎町タワー2階のオールジェンダートイレの顛末については、広く報道されているとおりです。当初から、女性の使用者がいないかとジロジロと眺める男性が続出し、その対応で警備員が付いて男性の使用の際は小便か大便かを問うて使用者を分けるようになり、その後は結局、パーテーションをつけて性別で区分をするようになった、というものです。

https://www.j-cast.com/2023/05/19461870.html?p=all

 また、小田急電鉄相模大野駅のトイレについて、駅員が「”自称女性の男性”が女子トイレに入るのを止めることは出来ない」と利用者である女性に告げたことが広まると、危険性を指摘する声がインターネット上で噴出し、地方議員からも懸念が表明されました。その後、別の問合せ者に対して小田急電鉄から「“女装した男性が女子トイレに入るのを見たら、すぐ駅員に通報してほしい”“多目的トイレに案内し、拒否した場合は駅員から警察に通報する”“LGBT法案があるから対応できないなんていうことはあり得ない”」という回答があったそうです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/67cf85d025a52ed91a8ae689b560a3072b251de4

 このように、性別で分けられたトイレはまさに国民が求めているものであり、とくに女性は性別で分けられたトイレを必要としています。かつて共同トイレが主だった頃は、女性は性被害や性的嫌がらせを受けることが絶えませんでした。1954年の文京区小2女児殺害事件がおきた一因は、トイレが男女共同だったことでした。現代において、性被害の記憶があるため女性専用トイレが失われたならば社会生活を送れなくなる女性は多数存在します。トイレ等の使用は性別で分けられているべきという社会通念は現在もなお確固たるものであり、最高裁判決においてもぜひとも尊重されるべきと私たちは考えます。

3.国側が違法とされたならば、先行判例として多大な影響を及ぼす

 6月16日の毎日新聞の報道では、「毎日新聞が中央省庁の1府13省庁に取材したところ、経産省以外にも、文部科学省と防衛省の2省で、出生時の戸籍の性と性自認が一致しないトランスジェンダーの職員から、トイレ利用について相談があったという」とありました。

https://mainichi.jp/articles/20230616/k00/00m/040/250000c

 今回の裁判の結果次第で、それらの人たちもまた、性別適合手術も戸籍変更も経ないまま、性自認に沿ったトイレ等の使用を求める裁判を起こすことも予想されます。

 法的性別の変更を定めた唯一の国法である「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」では、法的性別の変更の条件を具体的に定めています。しかしながら、その手続を経なくても性別を変更したと同等にみなす動きがあり、本件もそのうちの一つと言えます。省庁で認められるのであれば、一般企業には尚更大きく波及することは明らかです。そうなった場合、既に述べたように、女性の法益という問題を無視して進めることは、女性への重大な人権抑圧となります。

 本件は一個人の権利闘争としてだけ見るべきではありません。何をもって人間の性別とするかという、性別の概念についての重大な司法の判断となり、社会に多大な影響を与えるものとなります。ここにおいてどうか、国民全体の生活と人生を見渡してのご判断をお願い申し上げます。

 以上、女性の人権と安全を求める立場から意見を述べました。

 原告と女性のお互いの法益を尊重し、トイレ等の使用に関する社会的な意識も考慮するのであれば、第二審の判決を維持することが最も適切であると私たちは考えます。どうか最高裁におかれましても、第二審判決を支持し、これをもって結審としてくださいますよう心よりお願い申し上げます。

2023年6月30日

No!セルフID 女性の人権と安全を求める会

共同代表 石上卯乃、桜田悠希

経産省トイレ訴訟の高裁判決を支持します。最高裁は国側の主張の正当性を認め、女性の人権を守ってください2023年7月3日
日本の動き
セルフID, 性自認, 経産省トイレ訴訟, 高裁判決


 昨年、日本における女性と女児の権利はあいついで深刻な侵害を被りました。まず、国会内外での強い反対があったにもかかわらず、定義の曖昧な「ジェンダー・アイデンティティ」を保護対象とするLGBT理解増進法が6月に成立しました。最初の案よりは改善されましたが、それでもなお深刻な問題があることは、すでに私たちが指摘してきたところです。また、7月には、経産省トイレ訴訟において、未手術の男性職員に対する女子トイレの使用制限を違法とする最高裁の判決が下されました。さらに、10月25日には、性同一性障害特例法の生殖腺の除去要件(いわゆる4号要件)を違憲無効とする最高裁決定がなされ、多くの女性たちに衝撃を与えました。



 また、こうした法律や司法関係の動向だけでなく、市民社会においても、性自認を現実の性別よりも優先させようとする人々や団体による攻撃とキャンペーンが、言論・表現の自由や学問の自由に対して深刻な被害をもたらしました。根拠もなく「トランス差別者」とみなされた女性学者の講演会等がキャンセルされる事態があいつぎました(その一つについては、私たちも抗議を表明しています)。その最たるものは、世界的なベストセラーとなったアビゲイル・シュライアーさんの『Irreversible Damage』という著作(邦題は『あの子もトランスジェンダーになった――SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』)が出版直前に出版中止になったことでした。同書は、大手出版社のKADOKAWAから今年1月に出版される予定になっており、ネットでも宣伝され、多くの予約がすでに入っていたにもかかわらず、この著作を「悪質なトランス差別」だと一方的に見なした人々による抗議行動にKADOKAWA側が易々と屈服し、出版の中止を一方的に決定したのです。これは、戦後日本の出版史における前代未聞のスキャンダルでした(Wikipediaにはすでにこの事件に関するページが作られています)。



 しかしその一方で、前進と言える動きも見られました。まず、理解増進法案の制定過程をめぐって、かなり広範な反対世論が喚起され、そのおかげで、最終的に可決された法案は当初案よりもかなり改善されたものになったことです。とくに、同法の第12条「留意事項」がつけ加えられ、「この法律に定める措置の実施等にあたっては……全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」との文言が入れられたことは、市井の女性たちやLGBT当事者からの反対の声がけっして無駄ではなかったことを示しています。また、理解増進法の成立に伴って、自民党議員を中心に、「全ての女性の安心・安全と女性スポーツの公平等を守る議員連盟」が成立し、そこに100名以上の国会議員および地方議員が参加しました。私たちはこの議員連盟の発足にあたってさっそく歓迎の立場を示すとともに、協力関係を構築してきました。今後とも緊密に協力して、女性の安心・安全を守っていく所存です。



 上記の前向きな動きがあったとはいえ、全体としての状況は依然としてまったく予断を許さないものです。自治体レベルでは着々と、無条件に性自認を保護対象とする条例を制定する動きが進んでいます。そして何よりも、昨年10月25日の最高裁決定において、特例法の外観要件(いわゆる5号要件)に関する憲法判断が広島高裁に差し戻されたことを受けて、この広島高裁において、外観要件さえも違憲無効の決定が下されかねない状況にあることです。もしそんなことになれば、男性器を備えたままの「法的女性」が誕生することになり、法律による「別段の定め」がないかぎり、女性スペースに自由に入れるようになってしまう、あるいはその可能性が著しく増すことになるでしょう。それは、女性と女児の性的安全と尊厳、プライバシーを根本的に損なうものであり、女性と女児に対する性暴力に他なりません。このような事態を阻止するべく、性同一性障害特例法そのものに対する賛否を超えて、できるだけ多くの人が協力して、外観要件撤廃に断固反対する姿勢を見せる必要があると私たちは考えます。



 私たちは昨年11月と12月に、女性と女児の権利と安全を守るために、特例法の独自の改正案女性スペースに関する新たな法律案をそれぞれ提案しました。これらの問題についてはすでに、「女性スペースを守る会」など6団体が共同の法案を提案しています。私たちは、6団体が率先して法案を提案されたことに敬意を表するとともに、女性の安全・安心の観点から見て十分ではないと考えたので、私たちの会独自の案を提起させていただきました。特例法改正に関しては、最高裁決定で違憲とされた条項を取り除くだけでなく、診断の厳格化などを新たに盛り込みました。女性スペースに関しては、男女の生物学的区別をきちんと原則として位置づけたうえで、女性スペースの法的整備と安全確保の条項を細かく定めました。私たちは自分たちの独自案を絶対視するものではないので、広範な市民のみなさまと国会議員のみなさまによって真摯に検討していただき、最良の選択をしていただければと思います。



 最後になりましたが、私たちは今年も、性自認を現実の性別に優先させる方向に向けたあらゆる動きに強く反対するとともに、女性と女児の安心と安全、尊厳と人権を守るべく全力を尽くす所存です。そして、改めて性同一性障害特例法の手術要件の撤廃ないしいかなる緩和にも反対するとともに、特例法を厳格化し、女性スペースを守るための新法の制定を訴えていきたいと思います。

2024年1月27日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会
代表 石上卯乃

新年に際し、改めて手術要件撤廃に反対し、女性スペースを守る新法の制定を訴えます2024年1月27日
日本の動き
トランスジェンダリズム, 声明, 法律と司法



当会は、女性専用施設・区画(=女性スペース)を守るための法案を作成し、「女性を守る議連」および各国政政党に送付いたしました。

今後、「特例法第3条第1項の「四」(=生殖不能要件)および「五」(=外観要件)」が廃棄された場合であっても、女性スペースをこれまでと同じ法的条件で守ることができるように、と考えて作成いたしました。



女性専用施設・区画等の設置推進と安全確保に関する法律案





(法の目的)

第一条 この法律は、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、女性専用施設・区画等の設置を推進し、その安全を確保し、もって女性と女児の人権と尊厳を守ることを目的として定める。




(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ各号に定めるところによる。

一 「女性専用施設・区画等」及び「男性専用施設・区画等」とは、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、それぞれ「女性用」及び「男性用」と明示された建物、区画又は施設等をいう。

二 「共用施設・区画等」とは、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、男女区別なく誰でも利用できる建物、区画又は施設等をいう。

 「第三の施設・区画等」とは、トイレ、更衣室・脱衣所、浴場など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出される場所において、前項一、二のいずれにもあてはまらない建物、区画又は施設等をいう。




(男女別の施設・区画等における区分の原則)

第三条 第六条及び第七条で提示された例外を除いて、女性専用施設・区画等と男性専用施設・区画等を分ける場合、その区分は男女の生物学的性別による。




(女性専用トイレの設置義務及び努力義務)

第四条 国、地方公共団体及び公益法人は、政令で定める多数の者が使用するトイレを設ける場合は、他のトイレと明確に区分された女性専用トイレを設けなければならない。

 一で定めた者以外で、同時に就業する労働者の数が常時十人を超える事務所において、事業主又は施設・区画等の管理責任者は、政令で定める多数の者が使用するトイレを設ける場合、他のトイレと明確に区分された女性専用トイレを設けなければならない。

三 一で定めた者以外で、同時に就業する労働者の数が常時十人以下の事務所において、事業主又は施設・区画等の管理責任者は、政令で定める多数の者が使用するトイレを設ける場合は、他のトイレと明確に区分された女性専用トイレを設ける努力をしなければならない。




(その他の女性専用施設・区画等の設置義務及び努力義務)

第五条 政令で定める多数の者が使用する更衣室・脱衣所、浴場等を設ける場合は、他の更衣室・脱衣所、浴場等と明確に分離された女性専用の更衣室・脱衣所、浴場等を設けなければならない。

 建物の大きさや構造、敷地面積の不足その他のやむをえない理由により女性専用の更衣室・脱衣所、浴場等を設けることができない場合は、時間帯による区分を行なうなど、すべての利用者の安全と安心を確保する努力を行なわなければならない。




(女性専用トイレへの女性以外の者の立ち入り禁止)

第六条 第四条で定めた女性専用トイレには、緊急事態の場合、又は清掃・点検・修理など管理上の必要性等の合理的な理由がある場合を除き、政令で定める年齢以上で生物学的女性以外の者は、原則として立ち入り又は利用することはできない。

 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的女性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づいて性別の取扱いを「男性」に変更した者については、女性専用トイレへの立ち入り又は利用を禁じることができる。

三 女性専用トイレの管理責任者は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている者については、女性専用トイレへの立ち入り又は利用を許可することができる。

四 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用トイレを利用することが心理的又はその他の事情により著しく困難である場合、共用トイレ又は第三のトイレを設けて、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。

 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用トイレを利用することが心理的又はその他の事情により著しく困難であり、かつ、建物・区画又は施設内に共用トイレ又は第三のトイレが設けるのが困難である場合、男性専用トイレの一部または全部を共用トイレ又は第三のトイレに変更し、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。

 女性専用トイレの管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いが「女性」に変更された者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用トイレを利用することが心理的又はその他の事情により著しく困難であり、かつ、建物・区画又は施設内に共用トイレ又は第三のトイレが設けるのが困難であり、かつ、男性専用トイレの一部または全部を共用トイレ又は第三のトイレに変更することが困難である場合、女性専用トイレの一部を、女性専用トイレの他の部分と視認可能な形で区分し標識で明示した上で第三のトイレに変更し、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。




(その他の女性専用施設又は区画への女性以外の立ち入り禁止)

第七条 第五条で定めた女性専用施設又は区画には、緊急事態の場合、又は清掃・点検・修理など管理上の必要性等の合理的な理由がある場合を除き、政令で定める年齢以上で生物学的女性以外の者は、原則として立ち入り又は利用することはできない。

 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、生物学的女性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づいて性別の取扱いを「男性」に変更した者の立ち入り又は利用を禁じることができる。

三 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いを「女性」に変更した者のうち、生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあり、かつ、その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えている者については、女性専用施設・区画等への立ち入り又は利用を許可することができる。

四 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いを「女性」に変更した者のうち、上記三で定められた場合に該当しない者が、男性専用施設・区画等を利用することが心理的又はその他の事情により困難である場合、共用施設・区画等又は第三の施設・区画等を設けて、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。

 第五条で定めたその他の女性専用施設又は区画の管理責任者は、生物学的男性のうち、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づき性別の取扱いを「女性」に変更した者のうち、三で定められた場合に該当しない者が、男性専用施設・区画等を利用することが心理的又はその他の事情により困難であり、かつ、建物・区画又は施設内に共用施設・区画等又は第三の施設・区画等を設けるのが困難である場合、男性専用施設・区画等の一部又は全部を共用施設・区画等又は第三の施設・区画等に変更し、その者の立ち入り又は利用を求めることができる。




(罰則)

第八条 第六条の一及び三、及び第七条の一及び三で定められた場合を除き、生物学的男性が女性専用施設・区画等に立ち入り、又は退去の要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった場合、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 第六条の二にもとづいて、施設管理者が、生物学的女性のうち性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の第三条に基づいて性別の取扱いを「男性」に変更した者の立ち入り又は利用を禁じている場合、その者が女性専用施設・区画等に立ち入り、又は退去の要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった場合、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。




附 則

(施行期日)

一 この法律は、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号)の改正法(令和*年法律第***号)の施行の日から施行する。

 この附則に定めるもののほか、この法律の施行に関して必要な措置は、政令で定める。

説明


総論

 「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下、特例法)における性別取扱いの変更要件が緩和されることによって、国民の間で、とりわけ生物学的にも社会的にも脆弱な立場にある女性の間で、不安が高まっている。そもそも、排せつや着替えや入浴など、通常社会生活において隠されている身体部分の一部ないし全部が露出する場所において、女性専用スペース(この法律では「女性専用施設・区画等」と表現)が保障されることは、根本的に女性の尊厳と生存権に関わる。そうした場所に男性がいること自体が、多くの女性の尊厳と人権を侵害しうる。

 また、性犯罪の99%が男性によってなされており、その被害者の9割以上は女性と女児であるという状況の中で、女性専用スペースは女性にとって唯一安心できる空間でもある。男性に付きまとわれた場合でも、女子トイレに入ることで難を逃れたという女性も少なくない。女性専用スペースなしには、女性と女児は安心して生活することはできない。それは女性たちの長年にわたる努力によって獲得された貴重な権利であって、簡単にないがしろにできるものではない。しかるに、これまで、女性専用スペースを明文で保障した全国的立法が存在せず、通知や管理規則等のレベルにとどまっていた。したがって、独自の全国的立法を通じてこの専用スペースを保障することは、喫緊の課題となっている。

 以下に述べる説明から明らかなように、この法律は、現行の特例法のもとでなされている女性専用スペースの事実上の運用状況、すなわち、生物学的女性から、現行特例法の三条に基づいて「男性」に戸籍変更した者を除外し、現行特例法の三条に基づいて「女性」に戸籍変更した者を加えた人々が、女性専用スペースを利用している状況を、管理者の裁量権の範囲を法律で定めることを通じて、維持するものである。いわゆるLGBT理解増進法の成立を受けて、2023年6月23日に、厚労省生活衛生課長名で出された通知は、公衆浴場の男女の区別を「身体的特徴」でもって行うよう助言しているが、これも基本的に現行特例法第三条の四号(以下、四号要件)と五号(以下、五号要件)の両方を満たした人、あるいは少なくとも五号要件を満たした人を念頭に置いているものと考えることができるので、この点からも既存の方針・政策との齟齬はないであろう。厚労省の通知ではあまりにも公的ルールとして弱いので、全国的立法という形で規制のルールを法的に明示化する必要がある。したがって、本法案は、現行特例法の手術要件(四号要件と五号要件)がたとえ撤廃されても、それに自動的に連動して女性専用スペースの運用基準が変更されることのないよう、現行特例法の基準での女性専用スペースの利用条件を維持するものである。

 なお、この法律案で「女性専用スペース」と表現していないのは、日本の法律ではできるだけ外来語を避けるという慣習にもとづいている。ただし「トイレ」という表記に関しては、十分に日本語として定着しているので、「トイレ」という表記を使用する。



第一条について

 この法律の目的を定めている条項であり、法律の趣旨を明確にしている。この条項の中には、「性犯罪」云々の文章は入っていないが、それは法律の文言として曖昧で不適切であるというだけでなく、そもそも、性犯罪の恐れだけが女性専用スペースを作る理由ではないからである。したがって、法の目的を性犯罪の防止であると狭く解釈させるような記述は避けた。そうすることで、女性を自認するものが女性専用スペースにおいて暴行や盗撮などの何らかの性犯罪を犯さないかぎり、利用可能であるという理屈が成立する余地を排除した。



第二条について

 この法律で使用される文言の定義を定めた条項である。ここではあえて「女性」そのものを定義していない。男女の区別は基本的に生物学的なものであり、そのことはあえて法律で書くまでもなく当然のことであって、性同一性障害特例法もそのことに基づいて、法律における性別の取扱いに関して特例を設けているにすぎない。そうした状況の下で、あえて「女性」を、生物学的女性以外の者を含んだうえで定義しなおすことは、「女性」という概念がそれ自体としては生物学的なものではないとする解釈が成り立ちかねない。そうした解釈の余地を残さぬよう、生物学的性別とは別の法的定義をあえて入れないことにした。

 「第三のトイレ」は、今日、「多機能トイレ」などの名称で設置されているトイレを念頭に置いており、基本的に個室型で、さまざまな事情(障害や高齢など)から通常の男女別トイレ又は共用トイレを使用できない人を対象にしたトイレのことである。



第三条について

 ここでは、男女別の施設・区画等の利用基準は、生物学的性別に基づくという原則が宣せられている。これを入れたのは、あくまでも、男女別スペースの利用基準は生物学的性別に基づいているという原則を維持・確認するためである。性自認を生物学的性別に優先させる政策が支配的になっている多くの国では、この原則が否定され、事実上、「男女」は性自認に基づくものとされているので、男女別の施設の運用基準もそれに準じるものとなってしまっている(イギリスとアメリカの一部の州では生物学的性別を重視する政策に立ち戻る歓迎すべき動きが出てきているが)。また、ここでは原則を維持・確認すると同時に、第六条と第七条に定められた例外を認めることで、純粋に生物学的区分での運用ではないという形にしている。原則と例外との関係を堅持しているわけである。



第四条について

 トイレに関して、女性専用スペースの設置を一般に義務づける条項である。トイレとそれ以外とを分けたのは、トイレは基本的にすべての事業所や公共空間において必要であるのに対し、浴場や更衣室・脱衣所は必ずしもそうではないこと、および、基本的に個室で利用がなされる女子トイレと、不特定多数が同時に利用し、かつ裸かそれに近い姿になる浴場や更衣室・脱衣所では、設置及び利用の諸条件が当然にも異なるからである。

 第一項では、政府、自治体、公益法人の、女性専用トイレの設置義務をうたい、第二項と第三項では一般事業所を対象にしている。第二項と第三項は事業所の規模で分けている。これに関しては、厚生労働省が2021年に「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」において、事務所則第17条第1項を改訂し、「同時に就業する労働者が常時十人以内である場合は、現行で求めている、便所を男性用と女性用に区別することの例外として、独立個室型の便所を設けることで足りることとする」としていることを踏まえて、十人を超える場合と十人以下の場合とに分けている。十人を超える場合は、女性専用のトイレ等を設置することを義務とし、十人以下の場合は努力義務としている。



第五条について

 トイレ以外の女性専用スペースの設置義務を定めている。第二項は、古くて小規模な旅館や民宿を想定して、「建物の大きさや構造、敷地面積の不足その他のやむをえない理由により女性専用の建物、区画又は施設を設けることができない場合」を想定して、例外を設けている。



第六条・第七条について

 ここでは、女性専用施設又は区域等については「原則として」、「生物学的女性以外の者は立ち入り又は利用することはできない」としている。しかし、これはあくまでも原則であり、第六条および第七条のそれぞれ第二項以下でいくつかの例外を設けている。ここで注意すべきは、この例外規定は、あくまでも施設管理者の裁量として是認していることである。つまり、実際に生物学的女性以外の者(その範囲はこの法律によって定められている)が立ち入り又は利用することができるかどうかの判断は管理者に委ねている。しかし、完全に管理者任せにするのではなく、管理者の判断とその裁量範囲に法的根拠を定めることで、管理者が不必要な訴訟リスクを負わないで済むようにした。こういう形にしたのは、あくまでも女性専用スペースを使う権利があるのは生物学的女性だけであるという原則を守るためであり、その上で、管理者の裁量の範囲でそれ以外の者も利用できるとし、その裁量の範囲を法律で定める形にしている。

 第六条の第二項及び第七条の第二項では、特例法を通じて性別の取扱いを「男性」に変えた者の女性専用スペースの立ち入り又は利用を禁じることができるとしている。純粋に生物学的女性だけでのスペース利用を法的ルールとすると、乳房もなくひげを生やした「トランス男性」が女性専用スペースを利用することになり、やはり女性に不安と混乱を与えかねないからである。

 第六条の第三項と第七条の第三項では、生物学的男性である「トランス女性」のどの範囲を例外として女性スペースの利用可能な対象に含めうるかという、最も慎重を期すべき問題を扱っている。まず、トイレに関しては、現行特例法の第三条第一項の五号要件(外観要件)をそのまま採用することで、例外の裁量範囲を定めている。これは管理者の裁量として、五号要件を満たした人の利用を許可できるという形態を取っているので、たとえ管理責任者側がそうした人の利用を許可しなくても違法ではない。すでに共用トイレや第三のトイレがある場合には、そういう人に対しても最初からそれらのトイレの利用を求めることは、法文上可能になっている。法の定義上、生物学的女性以外の者を法的「女性」に入れてしまった場合、このような柔軟な対処ができなくなってしまう。また、五号要件を満たしていない生物学的男性は、精巣もペニスも保持しているのだから、外性器の機能上、女子トイレを利用する特段の理由がないのであり、したがって、男性用のトイレを使うか、あるいは共用トイレないし第三のトイレを使うことが適切であろう。

 次に、トイレ以外の女性専用施設又は区画等に関しては、全裸になる、あるいはそれに近い状態になることが必要になるので、ここでの例外としての管理者の裁量範囲を、トイレの場合より狭くし、現行特例法の四号要件と五号要件の法文をそのまま再現し、両方を満たしている者に限定している。そうすることで、女性スペースに関しては、現行特例法のもとで運用されている状況と、事実上同じ状況が維持されることになるだろう。トイレ以外の女性スペース利用の例外規定の中に両要件を再現しておけば、たとえ、現行法第三条第一項の四号要件のみならず、五号要件も違憲にされたとしても、この両規定は、女性専用スペースに入れる生物学的女性以外の人々に対する制限要件として今後とも機能しうる。

 トイレの場合と同じく、ここでも管理者の裁量として、四号要件と五号要件を満たした人に対して女性専用スペースの利用を許可できるとしているのであって、たとえ許可しなくても違法にはならない。

 以上の規定に対しては、四号要件がすでに違憲判定され、五号要件についても、差し戻された広島高裁で違憲判定になる可能性があるから不適切であるとの異論が起こりうるだろう。しかし、特例法における「性別の取扱いの変更」といっても、それはあくまでも、「法律に別段の定めがある場合を除き、その性別につき他の性別に変わったものとみなす」だけであって、無条件に他の性別に変わったものとみなすものではない。「法律に別段の定め」があるなら、特例法で「他の性別に変わったものとみなされ」ても、法律で定められた特定の場面においては、「他の性別に変わったものとみなす」必要はない。

 実際、10月25日の最高裁大法廷の決定が現行特例法の第三条第四号を違憲とみなしたのは、あくまでも特例法における性別取扱い変更の審判申し立ての要件としてであって、女性専用スペースを利用する要件に関してではない。実際、最高裁大法廷における反対意見においても、公衆浴場などにおいては、別異の取扱いをすること自体は否定されていないし、特例法の要件緩和を求めているすべての野党も、女性専用スペースにおいて別異の取扱いをすることは否定していないのだから、本法案の第六条と第七条で現行特例法第三条の第四号と第五号を援用することは否定されないはずである。また、当時、国会の全会一致で制定された現行特例法の規定を生かすことは、立法権の保護という観点からも正当であると言える。

 また、最高裁大法廷の10.25決定が指摘した、四号要件における身体への侵襲性はとりわけ生物学的女性の場合にとって深刻なのであり(子宮と卵巣の切除が必要)、男性の場合は睾丸という外性器の切除を意味するにすぎず、身体への侵襲性は弱い。逆に、睾丸を残せば、五号の外観要件にも反することになる。したがって、本法案の第七条第三項で、現行特例法の四号要件と五号要件の両方を満たすことを利用条件にしたことで、陰茎のある男性だけでなく、陰茎がなくても睾丸のある生物学的男性がトイレ以外の女性専用スペースに入ることは許されないという立場を示すことになる。

 これでも、性別とは生物学的性別のことであるという原則的立場(われわれもその立場だ)からすれば、原則からの重大な後退に見えるだろうが、現在の政治と司法の状況からするとやむをえないと思われる。実際、純粋に生物学的性別での利用ルールを法的に徹底した場合、次のような事態が考えられる。1、外見を著しく「男性」に近づけている「トランス男性」が女性専用スペースを利用することになり、やはり混乱を生む。2、現行の特例法に基づいて性別の取扱いを変更した者はこれまで女性専用スペースを事実上利用できていたが(少なくとも、それを違法とする別段の法律の定めがなかったが)、今後は無条件に使えないことになり、当然、これらの人々の一部は法の下の平等に反するとして同法の違憲性を裁判に訴えるだろう。その場合、司法が、生物学的女性の権利と法益を十全に守るという立場をとっているならば、この訴えは退けられるだろうが、10.25決定を全会一致で行なった現在の司法にそのようなことを期待することは、残念ながらできない。

 以上のように差を設けることは、国家賠償訴訟を回避する上でも有意義である。四号要件を満たさない者でも、あるいは五号要件さえ満たさない者であっても、家庭裁判所の審判で性別取扱いの変更ができ、かつ四号要件及び五号要件を満たした上で法的性別を変更した人とまったく同じ権利を持つことになれば、四号要件及び五号要件を満たすために生殖腺の切除を始めとする「性別適合手術」をした人は、不必要な手術を強いられたとして国家賠償訴訟を起こすかもしれない。それを避けるためにも、両者が享受できる権利に差を設ける必要がある。

 第六条の第四項と第五項及び第七条の第四項と第五項に関しては、現行特例法の四号要件と五号要件の両者を満たしていない者であって、かつ、男性専用施設を使用することが著しく困難な者に関する規定であり(「著しく困難」という強い表現に注意。個人の単に「いやだ」という忌避感情だけではこれは適用されない)、共用施設又は第三の施設を設けてそれを利用するよう求め、それらが設けられていないか設けるのが困難な場合には、男性専用施設又は区画等の一部ないし全部を共用施設ないし第三の施設として運用することを求めており、安易に女性専用施設の使用を認めないようにしている。

 第六条の第六項は、第七条にはない規定であって、トイレに限っては、共用トイレも第三のトイレも使用するのが困難な特定の人に限って、女性専用トイレの一部を第三のトイレにして、その利用を認めることができるとしている。第五項では、共用ないし第三のトイレに変更できるのは「男性専用トイレの一部または全部」だったが、この第六項ではそれと違って、共用ないし第三のトイレに変更できるのは、あくまでも「女性専用トイレの一部」に限定している。これは、できるだけ女性専用トイレそのものをなくさないためである。

 言うまでもなく、この第六項の規定は、経産省トイレ裁判における最高裁判決を踏まえたものである。それと同時に、それを最後の第六項に置くことで、物事のあるべき優先順位を定めるものとなっている。すなわち、あくまでも原則は生物学的性別に基づく利用であり、次に、現行特例法第三条第五号を満たした人に、管理者の裁量で女性専用トイレの利用を許可することができるとし、その次に、それ以外の「トランス女性」のうち、男性トイレの使用が心理的ないしその他の理由で著しく困難な人には、共用トイレまたは第三のトイレを利用するよう求め、さらにそれらの設置が困難な場合には、男性専用トイレの一部ないし全部を共用トイレないし第三のトイレを利用するよう求めている。そして、いちばん最後に、それも困難である場合には、その特定の人にかぎって、女性専用トイレの一部を、周りから区別し、視認できる標識を提示した上で第三のトイレにすることを認めるという順番になっている。五号要件を満たしていない人は、あくまでも女性専用トイレをそのまま利用することはできないのであり、それ以外のさまざまな可能性を追求した最後に、女性専用トイレの一部を第三のトイレとして用いることができるとしているのである。

 このように規定すれば、経産省トイレ裁判の最高裁判決には反するのではないかという異論が生じるだろう。しかし、経産省トイレ訴訟で抗告人が勝訴したのは、法律上の明確な規定が存在せず、最初から管理者の裁量に任されていたからである。最初から法律でルールを定めていれば、経産省トイレ訴訟において抗告人側が勝利することはなかったろう。それでも抗告人を勝たせるためには、この法律案の第六条の第六項そのものが憲法違反であると決定しなければならないが、女性専用トイレの一部を第三のトイレとして、その利用を求めることさえ憲法違反とするのは、はなはだ困難であろうし、このような細部の規定に対してさえ違憲判決を下すとなれば、立法権への深刻な侵害になるであろう。



第八条について

 これは罰則規定である。第六条および第七条で定められた例外に該当する者以外の生物学的男性が女性専用施設・区画等に侵入した場合の罰則であり、建造物侵入罪と同程度の罰則を定めている。建造物侵入罪と同じなら、特段、罰則を定めなくてもよいように思えるが、女性専用スペースに侵入するという犯罪が、単なる「建造物侵入罪」としてカウントされる事態を防ぐ意味もある。単なる「建造物侵入罪」ではなく、女性専用スペースへの侵入罪なのであり、したがって性犯罪の一種として考えることができる。

 第二項については、同じことを「トランス男性」に対しても定めている。

以上

【当会独自案】女性スペースに関する法律案(23年12月3日付)2023年12月8日
日本の動き
女性スペース, 女性用トイレ, 法案


10月25日の大法廷での決定を受けて、GID特例法は改正されることになります。
 これを受けて、当会からも下記の通り、独自に法律改正案を、「女性を守る議連」や主要政党に提案いたしました。
 今後の特例法には、厳格化が必要であると考えたからです。
 また、現行GID特例法第5要件(外観要件)の合憲性が広島高裁で判定されるのですが、私たちは、この要件について一歩も退くべきではないと、いま改めて主張すべきと考えたからです。
 法の下の平等という観点からも、今後改正される新たなGID特例法が、女性が生きる上での脅威となってしまうことは、絶対にあってはならないことです。
 なお、この提案は最終的なものではありません。今後の状況の変化やさまざまな意見を受けとめ、より良く、より妥当で、より実現可能性のあるものにしていきたいと考えています。
 





性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の一部を改正する法律案



性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号)の一部をそれぞれ次のように改正する。


 「第一条 この法律は、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。」を以下のように改正する(下線部が改正個所)。

第一条 この法律は、基本的に生物学的性別に基づいて成立している法秩序および社会秩序を著しく乱さない程度および範囲において、また全ての国民が安心して生活することができることを当然の前提として、性同一性障害者に関する法令上の性別の取扱いの特例について定めるものとする。


 「第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。」を以下のように改正する(下線部が改正個所)。

第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己の生物学的性別に特有の身体的特徴に対する強い違和を持続的に感じ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき、少なくとも一年以上にわたる継続的な診察を通じてその診断が一致しているものをいう。ここで言う「継続的な診察」とは、少なくとも月1回以上の診察をいう。


 「第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
……
 四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
 五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」を以下のように改正する(下線部が改正部分)

第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
……
 四 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
 五 現に犯罪歴がなく、また刑法及びその他の犯罪の逮捕状の対象でないこと、又は逮捕後の拘留中でないこと、又はそれに係る裁判の被告人でないこと。


 同法の第五条として、以下を追加する。

(性別取扱いの変更の取消し)

第五条 性別の取扱いの変更の審判を受けた者が、暴力犯罪又は性犯罪等の重大な犯罪行為を犯して三年以上の実刑判決が確定した場合、法務省は、性別の取扱いの変更の取消しを家庭裁判所に求めることができ、家庭裁判所は性別の取扱いの変更を取り消すことができる。

 二 性別の取扱いの変更の審判を受けた者が、性別の取扱いの変更の取消しを法務省に申請し、かつその申請に十分合理的な理由がある場合、法務省は、性別の取扱いの変更の取消しを家庭裁判所に対して求めることができる。

 三 前項の一及び二の規定は、法律に別段の定めがある場合を除き、性別の取扱いの変更取消しの審判前に生じた身分関係及び権利義務に影響を及ぼすものではない。

 四 家庭裁判所の審判によって性別の取扱いの変更が取り消されて、元の性別に取扱いが戻った場合、再度の性別の取扱いの変更を申し立てることはできないものとする。


 (施行期日)

 この法律は、公布の日より施行する。




説明

総論

 2023年10月25日の最高裁判所大法廷において、現行特例法の第三条第四号(生殖腺の切除を規定したいわゆる四号要件)が身体に対する侵襲性が著しく、憲法第一三条に反するとの理由で違憲の決定が下され、同条第五号(性器の外観を他の性別に近似させたものにするといういわゆる五号要件)については広島高裁に差し戻した。それと同時に、裁判長は同決定の補足意見として、同法に別の要件を加えることを是としている。以上に鑑み、身体に対する侵襲性とは別の要件を加える法改正を行なうことは、今回の最高裁大法廷の決定に沿ったものであると言える。他方で、この法律をめぐっては、女性や子供の人権と安全を危惧する立場から、さまざまな疑問や不信が多数表明されており、現状のままでこの法律を維持することはとうてい不可能になっている。そこで、ごく一部の小手先の改正をするのではなく、憲法の理念と、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」の第12条で定められた「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する」に基づいて、抜本的な改定が必要である。



第一条の改正について

 すでに新聞などの報道で、「心は女性」と称する身体男性が女子トイレや女性用の浴場に入るという事態が頻発しており、女性や子供をはじめとする国民の安心・安全を脅かしている。このような事態は、この法律の制定時には想定されなかったものであり、この法律の正当性そのものを脅かすものである。この法律は、性同一性障害者が自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させていることを前提に、その人々が社会生活をスムーズに送るためのものであるが、それはあくまでも特例であって、基本的に生物学的性別にもとづいている法的・社会的秩序を乱さない範囲で認められているにすぎないのであり、すべての国民の安心・安全をいささかでも脅かすものであってはならないという基本理念を、最初の条項で明文上確認しておく必要がある。


第二条の改正について

 この法律は本来、性同一性障害という特殊な疾患を有している者のみを対象にし、その救済を目的としたものであって、単に性別を変えたい人や、別の性別で生活したい人のためのものではない。先に述べた報道などで問題になっている事例の多くは、実際には性同一性障害ではないにもかかわらず、性同一性障害の診断書を安易に得ている者によって行われていると推測することができる。そこで、既存の規定に加えて、性同一性障害者として「自己の生物学的性別に特有の身体的特徴に対する強い違和を持続的に感じ、」の一節を入れるというように基準をより厳格なものにした。また、現代の医学的知見においては、うつ病や自閉症、その他の精神疾患や発達障害等によって性別違和が生じうることが明らかになっているにもかかわらず、現在、15分から20分程度の簡単な診察で性同一性障害の診断書を発行する無責任なクリニックも少なからず存在している。こうした状況を踏まえて、少なくとも一年以上にわたる継続的な診察が必要であるとの文言を追加している。これは、この法律の立法目的を満たし、医療上の不備をなくすという点で必要かつ最小限の改正であると思われる。


第三条の改正について

 先の最高裁大法廷は、第三条第四号を身体に対する侵襲性が著しく、憲法一三条に反するとの判断を下したので、第四号を削除することはやむをえない改正である。しかしながら、それと同時に、大法廷の裁判長は補足意見において、侵襲性とは別の要件を加えることを是認している。以上の点を鑑みて、現行特例法の第四号を削除して、現行特例法の第五号をそのまま第四号にするとともに、新たに第五号として、「五 現に犯罪歴がなく、また刑法及びその他の犯罪の逮捕状の対象でないこと、又は逮捕後の拘留中でないこと、又はそれに係る裁判の被告人でないこと」という要件を付け加えることにした。

 まず、現行特例法の第五号を第四号として残したのは、女性と女児の安心・安全や公序良俗の維持のためには引き続き必要不可欠な要件であるからである。またそれは、外性器に関わるので、内性器の切除に関わる第四号と比べて、侵襲性は相対的に低いというべきである。また、すでに述べたように、この法律は、強い身体違和を持ち、「自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者」を対象とするものであるから、陰茎という典型的な男性器を保持しても身体違和を感じない者は、そもそも、性同一性障害者を救済対象としたこの法律の対象ではないというべきである。さらに、現行特例法の第四号と第五号の両方を削除した場合、未成年の子がいない者は、医師の診断書さえ取得できれば、身体に何の変更も加えることなく法的取扱いを他の性別に変えうることになり、基本的に生物学的性別に基づいている法秩序と社会秩序を著しく乱すことになるだろう。

 新たに第五号を入れたのは、犯罪歴のある者が、その過去を隠蔽するために安易に性別変更できることになれば、国民の安心・安全が確保できないことは自明なためである。また、現に何らかの犯罪で逮捕状の対象であったり、拘留中であったり、裁判中であったりしても、国民の安心・安全を守れないことは明らかである。諸外国の例を見ても、犯罪者が自己の犯罪歴を隠すために性別変更を申し立てる事例が見られる。とくに、手術要件が廃止された諸外国では、性犯罪者が実刑での有罪確定後に、女子刑務所に移送される目的で、自分の心は女性だと言い出す場合も多い。そして、そうした人物が男性機能を保持したまま女子刑務所に移送されて、女子刑務所で強姦ないし性暴力を起こした事例も多数存在する。そうした可能性を未然に防ぐためにも、この新たな規定は必要不可欠である。


第五条について

 この法律は、性別の取扱いを他の性別に変える規定は存在するが、その変更を取消して、性別の取扱いを元の性別に戻す規定が存在せず、この点は同法の重大な欠陥であると考えられる。そこで、第五条を新たに創設し、次の2つの場合に、法務省が家庭裁判所に対して性別の取扱いの変更の取消しを求めることができることとした。第五条第一項として、性別の取扱いの変更の審判を受けた者(以下、当人)が、何らかの重大な犯罪行為を犯して三年以上の実刑判決が確定した場合、第五条第二項として、当人自身が性別の取扱い変更の取消しを法務省に申請し、その申請に十分に合理的理由がある場合。
 
 第五条第一項について もし当人が裁判で有罪の実刑判決を受けた場合、現行法の下では、生物学的性別にもとづいた刑務所に入るのではなく、他の性別の刑務所に入ることになる。たとえば、実刑になるような重大な犯罪を犯した生物学的男性が女子刑務所に入ることになったら、他の女性受刑者の安心と安全を著しく脅かすことになるのは明白である。四号要件だけでなく、もし現行法の五号要件も違憲となったら、男性器を完全に保持したままで、法的取扱いが「女性」になれる男性が発生する。そのような人物が女子刑務所に収監されることを目的として凶悪犯罪をあえて犯す可能性は否定できない。そうした可能性を未然に防ぐためには、実刑を課せられるような重大な犯罪を犯した場合には、性別の取扱いの変更が取り消されるという規定を設ける必要がある。また逆に、現行法の四号要件が違憲となっている現在、女性としての生殖機能を残したまま性別の取扱いを男性に変更することができるが、そうした者が何か重大な犯罪を犯して実刑となり、男子刑務所に収監された場合、今度は、その当人の安心と安全が著しく脅かされるのは明白である。

 以上の点に鑑み、重大な犯罪を犯して、実刑判決が確定した者については、性別の取扱いの変更の取消しを求めることができるようにすることが必要である。だが、実刑判決であれば無条件に性別の取扱いの変更を取り消すというのも極端であるから、重大犯罪かどうかの一つの基準である三年以上の実刑判決が確定した場合に、性別の取扱いの変更の取消しを求めることができるとした。法務省は、性別の取扱いの変更を済ませた者が三年以上の実刑の有罪判決を受けた場合、すみやかに、性別取扱い変更の取消しを家庭裁判所に申し立てる必要がある。三年未満であっても、犯罪者が他の性別の刑務所に収監される場合にはさまざまな問題が想定されるので、これは別途、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成十七年法律第五十号)」を改正することで対処する必要がある。

 第五条第二項について 第一項は、当人の意志に関わらず行なうことのできる取消しだが、当人自身が性別の取扱いの変更の審判を受けた後で、そのことを深く後悔し、元の性別に戻りたいと思うかもしれないし、実際にそういう事例は少なからず存在する(外国ではいっそう多い)。とくに、すでに四号要件が違憲となって、すでに戸籍上の性別変更がより容易になっており、さらに現行法の五号要件まで違憲となれば、いっそう戸籍上の性別変更が容易になる。その場合、安易に性別変更の申し立てをして、性別変更を実現したものの、そのことを後悔する事例はいっそう多くなるだろうし、診断の誤りが後になってわかることもあるだろう。とくに身体的に元の性別の生殖機能や性器を残している場合、年齢を重ねることで子宮や卵巣などがガンやその他の病気になる可能性も十分予想される。そうした場合に備えて、元の性別に戻す可能性を保障するべきである。したがって、元の性別に戻す理由が十分に合理的であるかどうかを精査したうえで、法務省が性別取扱いの変更の取消しを求めることができることとした。当人ではなく、あくまでも法務省が変更取消しを求めるとしたのは、安易に、あるいは犯罪歴の隠蔽のために元の性別に戻すことを防ぐためである。

 第五条第三項について これは、性別取扱いの変更の審判に際して同様の規定があるので、変更を取り消した場合も同様の規定を設けたものである。

 第五条第四項について いったん、法的な取扱いを元の性別に戻した場合は、再度、他の性別への変更を申し立てることはできないとした。安易かつ恣意的な性別の取扱い変更ができないようにするためである。




2023年11月20日
No!セルフID 女性の人権と安全を求める会代表
石上卯乃

【当会独自案】GID 特例法改正案(23年11月20日付)2023年11月24日
日本の動き
GID特例法, セルフID