Colabo「バスカフェ」を妨害から守れ!.北欧モデルを攻撃するDecrimNowの公開書簡に対するNMNの声明関連記事PDF魚拓


MTFSRS手術済みGIDMTFの立場として、GIDと女性の権利を守る会さんが伝えられている通りGIDに夜の街しか仕事がない時代あった事等を踏まえると
MTFSRS手術済みGIDMTFの立場としてもColaboバスカフェ妨害本当にやめて頂きたいです。
うちが家にも学校にも居場所ないと感じて高校の頃自殺未遂した事を書いたけどColaboバスカフェ妨害はMTFSRS手術済みGIDMTFの自殺リスク増やす行為なので、Colaboバスカフェ妨害本当にやめて頂きたいです。
Colaboバスカフェ妨害されるとColaboさんにとって支援対象である居場所の無い10代の生得的生物学的女性が最も被害にあいますのでColaboバスカフェ妨害本当にやめて頂きたいです。
コラボへのバスカフェ妨害者へ接近禁止例が出たの記事、TBSは記事削除、朝日新聞は有料という対応にあきれる。
コラボへのバスカフェ妨害者へ接近禁止例について使用できた記事は共同通信のみなので、共同通信さんの記事をPDF魚拓。



若年女性支援団体「Colabo」の活動への妨害行為を巡る東京地裁の仮処分決定を受け、記者会見する仁藤夢乃代表=14日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ

 虐待や性暴力の被害に遭った若年女性を支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」が、暴言を吐くなど業務を妨害されたとして40代男性の接近禁止を求める仮処分を申し立て、東京地裁は14日、コラボの活動場所や事務所への立ち入りを禁じる決定をした。

 申立書などによると、昨年12月以降、男性が8回、居場所づくりのための新宿区役所敷地の移動式カフェ周辺に居座り、妨害行為をしたと主張。コラボの仁藤夢乃代表(33)は東京都内で記者会見し、妨害行為を理由にカフェを中止するよう都から電話連絡があったと説明。「活動をやめるわけにはいかない。行政は妨害に屈するのでなく、守ってほしい」と訴えた。

© 一般社団法人共同通信社

https://nordot.app/1008327116612255744
女性支援団体コラボへの接近禁止 業務を「妨害」男性に仮処分
2023/03/14



この署名を始めるにあたり、これまで受けた攻撃や東京都、新宿区の対応について説明します。

1.Colaboに対する誹謗中傷攻撃

昨年8月から、東京都内在住のある男性(Twitterアカウント名は「暇空茜」)が、Colaboをターゲットにして、「若い女性に生活保護を不正に受給させて貧困ビジネスをしている」などと誹謗中傷する動画投稿やSNS発信を大量にしています。これを面白がり、事実を確認しないまま誹謗中傷を拡散しているネットユーザーも大勢いる状況です。

事実無根の誹謗中傷が激化したことで日常業務にも深刻な支障が生じたため、Colaboは昨年11月29日、この男性を提訴しました。現在この裁判は東京地裁で係争中です。この提訴に至る経緯についての詳細や関連報道はこちらをご覧ください。

2022年11月29日記者会見



2.住民監査請求及び再調査によって「不正会計」など認められなかったこと

「暇空茜」氏は、Colaboが2021年度の都からの委託料2600万円に「『不正受給』がある」と、東京都福祉保健局を対象とする住民監査を請求しました。これについての監査の結果(2022年12月28日付)が公表され、監査請求人が主張した事実の大半は認められず、「会計の不正」は認定されませんでした。監査結果に基づいて都は再調査を行い、3月3日に再調査結果が公表されました。

この監査結果及び再調査結果の要旨をまとめると以下のものでした。

・監査請求人が主張する「不正会計」は認められない

・2021年度の支出約2900万円のうち約192万円は経費と認められないが、それを差し引いてもColaboが支出した経費が委託料(2600万円)を上回ったため、都には損害がなく、Colaboに対し委託金返還を求めない

・むしろ、Colaboは1300万円の人件費を委託事業のために持ち出していたといえる

・最初の監査結果で「妥当性が疑われる」とされた食事代や都外遠隔地の宿泊代も、再調査したところ、事業実施上の必要性が認められるので、経費として認める



つまり、2022年8月から半年以上ネット上に大量に流れている「Colaboが都の委託経費を不正に請求している」という誹謗中傷には根拠がないということが改めてあきらかになったのです。

なお、この再調査によって、経費と認められなかった中には、支援対象の女性たちのプライバシーに配慮して、Colaboが実名を特定できないよう処理したものがあります。これについて、東京都から女性の個人情報や記録を求められたため、Colaboは自主事業からの支出とすることにし、委託費から取り下げました。Colaboの支援を利用したらColaboの外の人物にも名前が知られてしまう————、そんなことになれば若年被害女性等支援事業は成り立たなくなってしまいます。個人を特定できる情報を提示しないという点は、女性たちとの信頼関係維持のため、Colaboとして譲ることができない一線です。委託事業を受託することになった2018年度以降も一貫してこのように対応してきており、行政からも理解が得られてきました。

住民監査結果及び再調査結果についての詳細は、Colabo弁護団による説明をご覧ください。

【弁護士声明】東京都に対する住民監査請求結果について(2023年1月4日)

【弁護団声明】令和3年度会計報告に関する東京都の再調査結果を受けた声明



3.バスカフェへの攻撃

以上に述べた通り、インターネットに流されている「会計不正」という誹謗中傷は全くの事実無根であり、むしろColaboが自主財源を持ち出しているということは監査によっても確認されました。

それにもかかわらず、デマに基づくColaboへの攻撃は、監査請求前後からインターネット上で激化しました。そして、攻撃はネットからリアルへと移行し、夜の新宿歌舞伎町(新宿区役所敷地)で開催している10代の少女向けの無料バスカフェに向けられています。

バスカフェとは、10代向けの無料カフェで、改装したバスを拠点に、渋谷、新宿で定期的に開催してきました。そこで休むこともでき、フード、ドリンク、衣類、コスメ、日用品などを無料で提供しています。

<バスカフェの様子はこちら>

10代無料の夜カフェ《Tsubomi Cafe》

[新型コロナ]コロナ禍でSOS急増 夜の街をさまよう少女たち【news23】

Colabo公式Twitter



このバスカフェに対し、昨年12月から3月にかけて、複数の男性たちによる、暴言や卑猥な言葉を叫んだり付き纏うなどする妨害が3月まで連続して8回にも渡り行われています

バスカフェへの攻撃の様子は以下の動画などをご覧ください。

・1月18日

https://www.youtube.com/watch?v=i4-BVLH1IwU&list=PLc16x9lu3HHnTWmS5npO-q9OujD_xAQ81

・2月8日https://mobile.twitter.com/colabo_yumeno/status/1623572981866958848

・3月8日 https://www.facebook.com/yumenyan/posts/pfbid0LM9Aqh1QeA7MsBvBaYhTqNT6sFSCsVLTQ2q4Tz7k9kid762PMyK2AYtMz7bG9grhl



このような攻撃を受け、女性たちの有志ボランティアが毎回20〜30人集まって、怒鳴ったり動画を撮影したりする嫌がらせに対抗しています。

しかし、バスカフェを攻撃してくる男性たちは「ブス」「ババア」などの暴言を吐いたり、テントのシートにライターで火を付ける真似や自慰行為の仕草をしながら「風俗王だ」などと叫んだりしていました。また、3月8日には、街をさまよう少女たちに声をかけて、つながるための声掛け(アウトリーチ)の活動中に10人以上の男性たちが、Colaboの女性たちを囲み、活動できないようにすることさえもありました。

重要なことは、このように嫌がらせが激しくなっている状況でも支援を必要とする少女たちは後を絶たず、バスカフェには一晩4時間で約50人が訪れる日もあったという事実です。現実にバスカフェを必要としている少女たちがいるのに、バスカフェが不当な妨害により継続できなくなれば、このような少女たちに必要な支援を提供することができません。



4.接近禁止命令

東京地裁は3月14日、バスカフェへの攻撃を中心的に行っている男性に対し、Colaboへの接近や妨害活動を自ら行ったり、第三者に行わせること禁止する命令を出しました。これによって、中心的にバスカフェ攻撃を行っていた男性とその仲間は、新宿区役所で行われるバスカフェの半径600mに近づけなくなりました。裁判所が、男性たちの妨害行為の危険性を認定したということです。



これは新宿駅や大久保公園などを含む範囲であり、このような広範囲の接近禁止命令が出たのは、バスカフェだけではなく、アウトリーチの活動を守るための判断を司法がしたためです。

接近禁止命令については各社が報道しています。

「Colabo」女性支援事業への「妨害行為」禁じる仮処分 東京地裁 バスを活用した女性支援活動に大声・撮影・卑猥な言動(TBSテレビ、2023/3/14)

女性支援活動へ「妨害禁止」 東京地裁、40代男性に仮処分(朝日新聞デジタル、2023/3/15)

女性支援団体コラボへの接近禁止 業務を「妨害」男性に仮処分(共同通信、2023/3/14)



5.都によるバスカフェ中止の申し入れ

ところが、攻撃者たちが行政に「Colaboに場所を貸すな」と連絡したり、「Colaboが通行妨害をしている」などと連絡している状況を受け、新宿区は東京都に「区民から区役所周辺の安全面を心配した意見が複数届き、今後騒動が大きくなった場合、庁舎管理にも支障が出る可能性がある」などとして申し入れを行い、それを受けた東京都はColaboに対応を求めていました。

そして、3月14日、接近禁止命令の発令を知る直前ですが、東京都から、Colaboに対し、「次回のバスカフェを中止にしていただきたい」と連絡がありました。

東京都は、中止の理由をこのように説明しました。

・今の状況でバスカフェを実施するのは危険だと考える

・警察に対応をお願いしていてもこの状況をどうしようもできないため、中止をお願いしたい

・彼らは面白がってやっている状況、対処することができない

・利用者の安全、区役所周辺の安全を守るための判断だ



なぜ警察も都も、嫌がらせをされているColaboを、支援を求めてきている少女たちを守ろうとしないのでしょうか?

彼らは「面白半分」ではなく、Colaboの事業を潰すために意図的にやっているのです。

また、妨害の中心人物は、自身のHPでも「料金をもらって凸(突撃)をやっている」と明言しています。

若年女性支援活動を自粛する前例ができると、彼らにとっては成功体験となり、今後もっと妨害は増え、深刻になるでしょう。

また、接近禁止命令が出たのは、これまで活動を続けてきた新宿区役所を拠点とする半径600mですので、この場所を動いてしまうと、接近禁止命令の効力が得られないどころか、妨害者たちが集まり、より危険な状況になることは容易に想像できます。

バスカフェは国や都が必要性を認識し、Colaboに委託している事業です。5月に成立した女性支援新法でも民間団体との協働がうたわれています。それにもかかわらず、行政が守ってくれないどころか、被害者であるColaboに活動の中止を求めるのは間違っています。



6.私たちが求めること

現在、Colaboは東京都と新宿区/渋谷区などと三者協定を結び、区からバスカフェの開催場所等の提供を受けています。2023年度以降は、委託事業が補助金化されるという報道がなされています。4月以降について東京都からは「補助金になると事業の実施主体が東京都ではなく、団体(Colabo)になるため、東京都として区に場所の貸し出し等について協力を依頼できなくなる」と聞いています。場所の貸し出しについては区の判断になると言われていますが、私たちは、来年度以降も、Colaboがこれまでと同じように活動できるように求めます。

東京都と新宿区は、声を上げる女性や若年女性を支える活動に対する攻撃に屈せず、妨害からバスカフェを守って下さい。

4月以降も、Colaboが新宿区役所前でバスカフェの開催を継続できるようにして下さい。

これからも支援を必要とする女性、困難を抱えた女性に向けた活動をしていけるよう、どうかみなさんの署名をお願いいたします。

https://www.change.org/p/%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E9%83%BD%E3%81%A8%E6%96%B0%E5%AE%BF%E5%8C%BA%E3%81%AF10%E4%BB%A3%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%82%92%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%81%99%E3%82%8B%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%92%E5%A6%A8%E5%AE%B3%E3%81%8B%E3%82%89%E5%AE%88%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%B8%8B%E3%81%95%E3%81%84-%E5%9B%B0%E9%9B%A3%E3%82%92%E6%8A%B1%E3%81%88%E3%82%8B%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%B8%E3%81%AE%E6%94%BB%E6%92%83%E3%82%92%E8%A8%B1%E3%81%95%E3%81%AA%E3%81%84?recruiter=1300752034&recruited_by_id=5dbb4140-c326-11ed-8b7f-6333f2a6c20d&utm_source=share_petition&utm_campaign=share_petition&utm_medium=copylink&utm_content=cl_sharecopy_35698177_ja-JP%3A6

東京都と新宿区は10代女性を支援するバスカフェを妨害から守って下さい! #困難を抱える女性への攻撃を許さない




 一般社団法人Colabo(コラボ、仁藤夢乃代表理事)が東京都からの委託事業として続けてきた活動の一つ、新宿での「バスカフェ」が3月22日、都からの指示をもとに中止となった。同日、都庁前では抗議集会が開かれた。

 インターネット上では昨年からコラボや仁藤氏を貶める内容の情報が飛び交っている。コラボ側は「暇空茜」と名乗る40代男性がデマや誹謗中傷を繰り返したとして損害賠償を求め提訴し、現在も係争中。一方、暇空氏が都に対して行なった住民監査請求の結果、不正は認められず、委託料(2600万円)よりコラボ側の経費が113万円上回る持ち出しで運営されていたことが明らかになった(本誌1月20日号など参照)。

 この結果が判明した後もネット上で誹謗中傷は止まず、2月頃からはコラボが新宿区役所前で行なっていたアウトリーチ事業の一環である「バスカフェ」への妨害行為が激しくなっていた。3月1日にはネット上で「煉獄コロアキ」と名乗る40代男性が、埼玉県草加市の河合ゆうすけ市議会議員ら複数の男女を伴ってバスカフェ周辺に現れた。顔を白塗りし鼻を赤く塗った姿の河合市議は、コラボ支援者の前で「フェミニストのせいで男が女嫌いになる」「みんなに嫌われているのはコラボの責任」などと声を荒げた。

 コラボ側は煉獄氏に接近禁止命令を求める仮処分を申し立て、14日に東京地裁はバスカフェの半径600メートル以内などに立ち入ることを禁じる決定をした。

 しかし17日、都はコラボに対し、22日に開催予定のバスカフェについて代替のアウトリーチ支援を検討することなどを指示した。これは実質的な休止要請だとコラボ側は反発。都と新宿区に対して「バスカフェを妨害から守ってください!」と訴えるオンライン署名は3月末までに3万筆を超えた。
苦境打開すべく寄付実施



 都福祉保健局担当者は取材に対して「(バスカフェのように)屋外では安心ではない。たとえばビルの一室を借りてなど、いろんな策はあった」とコラボ側から代替案の提案がなかった点を強調。

 一方、仁藤氏は「ビルの一室でやっても妨害者はその前まで来る。バスカフェのある区役所前は新宿区の敷地内ということもあり、簡単に人が入れない構造もあった。アウトリーチでつながった女性を最初から室内に案内するハードルも高い。都は他のやり方での実施が無理とわかっていて言ったのではないか」と対応を批判する。実際にバスカフェを取材すると、ラッピングバスと建物の間にテントが建てられ、路上からは利用者を観察することができない一方、利用者にとっては屋外にいる開放感があることがわかる。

 2019年から都の委託事業となったバスカフェには、虐待などで居場所のない若年女性たちが訪れる。高校生の頃にバスカフェでコラボとつながり、今はスタッフとして働く20代女性は「最初から自分の状況を話せる子ばかりではないので、ご飯を食べながら洋服を選びながら、そういう中で出てくる話がとても大事。バスカフェが開催できないことで、今自分の身に起こっていることを話せない女の子たちがもっと悪い方向へ行ってしまうことが心配」と話した。

 22日に続き29日のバスカフェも中止に。両日とも都庁前で抗議集会が開かれたが、この際も無断撮影した映像をネット上に流そうとしたり、大声を出したりするなど、複数人による妨害が行なわれた。

 一連の騒動の中でバスカフェは4月以降、都の委託事業ではなく、補助事業となる予定とされる。仁藤氏は「ネット上のデマを信じてコラボへ行くなと言われている子もいる。顔を見ないと打ち明けられない深刻な相談も多い中、バスカフェを実施できず悔しく思っている。4月からは委託事業ではなくなり、補助金申請はするが、受けられるかはまだわからない。今後は寄付金でやっていくしかない」と話す。

 コラボの公式サイト(※)では、裁判費用のカンパや事業継続のための寄付を募っている。

(『週刊金曜日』2023年4月7日号)

※https://colabo-official.net/

「バスカフェ」を妨害から守れ!
東京都の指示で委託事業中止に「Colabo」が抗議

小川たまか・ライター|2023年4月9日7:00AM



虐待や性搾取の被害女性らを支援する一般社団法人「Colabo(コラボ)」が19日夜、約1カ月ぶりに東京都内で活動を再開した。都の若年被害女性等支援事業を受託し「バスカフェ」を開いてきたが、妨害を理由に都が中止を要請し、3月8日で休止。委託自体も同月末で終了したため、自主事業として再始動させた。



 コラボは虐待などで居場所のない女性とつながり、支援が必要な女性らを見つけるアウトリーチ活動として、バスカフェを月3回ほど開催してきた。



 都内在住の男性が昨秋、同事業の委託料に「不正受給がある」として住民監査を請求、交流サイト(SNS)などで「不正疑惑」を拡散した。それを契機にバスカフェへの妨害行為が激化。監査では経費の一部は認めなかったが、会計に不正はなく返還請求もなかった。しかし、コラボへの悪質な攻撃はいまだに続いている。

https://www.kanaloco.jp/news/social/article-984248.html
Colaboバスカフェ再開 1カ月ぶりに自主事業として性的虐待
支援
市民団体


社会 | 神奈川新聞 | 2023年4月21日(金) 05:00



「バスカフェ」再開

コラボの若年女性支援活動

少女「こういう場があるのは救われる。感謝」

 虐待や性搾取に遭った少女らに寄り添い活動をしているColabo(コラボ)の事業で、少女らに居場所や食料を提供する「バスカフェ」が19日、約1カ月ぶりに再開しました。少女からは「(再開を)すごく待っていた」「久しぶりに人と話しながらごはんを食べられて良かった」との声が上がりました。








(写真)屋上での「バスカフェ」再開を前に、取材に応じるColabo(コラボ)の仁藤夢乃代表=19日、東京都新宿区

 同事業は東京都が若年女性支援事業としてコラボに委託していましたが、複数の男性による妨害の激化を理由に、都が休止を要請しました。これまでバスを止めていた東京・歌舞伎町の一角にある新宿区役所前が使えず、3月8日を最後にバスカフェは休止していました。

施設の屋上で

 今回は民間施設が協力を申し出て、バスではなく歌舞伎町から数百メートル離れた施設の屋上での再開となりました。

 再開にあたり仁藤夢乃代表は、「少女たちから妊娠したという相談もこの間何件かあった。彼女たちにとっての1カ月は長く、いろいろなことがあったと思うので、来てもらえたらいいな」と語りました。

 この日も、開催時間前から少女たちが訪れました。取材に「(休止していて)寂しかった。こういう場があるのは救われる。再開のために頑張って動いてくれて感謝」「(この活動は)いろんな人が助かる」(いずれも10代)などと答えました。

厚労省も通知

 バスカフェを巡っては、昨年末から妨害が相次ぎ、東京地裁が3月に中心人物の男性に対し接近禁止などの仮処分決定を発出。厚生労働省は3月31日付で、都道府県などに向けて、若年被害女性等支援事業への妨害により支援が届かなくなることは「あってはならない」と通知を出しています。

 今回の開催は寄付金で賄いました。

 仁藤さんは「都は(若年女性支援事業の)必要性を公的に認めたはずなのに、委託前の状態に戻ってしまった。都が妨害に屈することを残念に思う」と語りました。

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-11-01/2022110105_01_0.html
2023年4月21日(金)

「バスカフェ」再開

コラボの若年女性支援活動

少女「こういう場があるのは救われる。感謝」



【解説】売買春の完全非犯罪化を求めるイギリスの団体 DecrimNow は4月11日に、売買春に関する北欧モデルに反対する公開書簡を発表し、その署名欄にはセックスワーク派のロビー団体やLGBT団体だけでなく、ロクサーヌ・ゲイのような著名フェミニストや、イギリスの労働組合や労働党系の諸団体も含まれていました。その一つが、コービンの支持基盤でもある「モメンタム」という労働党左派の団体です。この事実は、イギリスの主流左翼の徹底した腐敗と堕落を示すものですが、以下に紹介する論考は、Nordic Model Now! の代表を務めるアナ・フィッシャーがイギリス共産党(イギリスで売買春の廃絶というマルクス主義の伝統的立場を堅持している唯一の左翼組織)の機関紙『モーニング・スター』に掲載した批判文です。筆者の許可を得て、ここに掲載します。

アナ・フィッシャー

『モーニング・スター』2021年4月14日

 本紙読者のほとんどは、「モメンタム」〔2017年に結成された労働党の最左派グループ〕を知っている。おそらく多くの人がそのメンバーであり、そうでない人も、公共サービスやインフラに適切な資金を供給するために富を再分配し、少数者ではなく多数者のために平等とエンパワーメントを追求するという同グループの目的を共有していることだろう。

 もしそうなら、月曜日に「モメンタム」が発信した、労働党のある女性議員〔ダイアナ・ジョンソン〕がイギリスの売買春に「北欧モデル」アプローチを導入しようとしていることに対抗するための「DecrimNow」キャンペーンへの署名を誇示するツイートと、いったいこれらの目的がどのように整合するのか気になることだろう。

 北欧モデル・アプローチは、買春されている人々を非犯罪化し、彼女たちにサポートや真の代替手段、離脱の道を提供するものだ。また、ピンプ〔女性に売春をさせてその売り上げをせしめるヒモのこと〕や人身売買業者を取り締まり、性を買うことを犯罪とすることで、男性の意識と態度を変えることをその主たる目的としている。

 このアプローチは、売買春を、何世紀にもわたって資本主義システムが男性を取り込み、女性の従属と労働者階級の分裂を確実にするために利用してきた抑圧の制度であるとする、社会主義フェミニズムの観点に基づいている。

 最近では、グローバル資本が、売買春、ポルノ、採卵、代理出産の産業化を通じて、資本の原始蓄積のために女性や少女の身体を採掘することを目指しており、女性は富の抽出源となっている。グローバル資本は、女性や少女の性的利用や虐待をエンターテイメントとして一般男性に売り込むことに成功し、世界の性産業は、Amazon の儲けが少額にしか見えないほど莫大な利益を上げている。

 しかし、「北欧モデル」は単に理論的に開発されたものではない。それは、実践的な調査研究から生まれたものだ。スウェーデンのフェミニストたちは、売買春に関する大規模な調査を実施し、性を売る人と買う人の両方から広く話を聞いた。性を売っている女性たちは、売春に至るまでの道のりについて語り、自分を買った男たち、ピンプやドラッグとの関係、売買春が自分に与えた影響、経験した暴力や恥辱、そして自分たちの生存戦略について語った。

 調査にあたった人々が発見したのは、売買春は一般的な男女関係の極端な濃縮バージョンであるということだった。したがって、女性を罰することには意味がない。なぜなら、女性の選択肢は限られており、いったん売買春に組み込まれてしまうと、そこから抜け出すことは難しく、時には不可能だからだ。

 調査にあたった人々にとって明らかになったのは、売春が存在するのは男性が性を買うからだという単純な事実だ。売買春(とそれに関連する人身売買や悲惨さ)を減らすためには、男性が他者から性を買う権利があるという考えを改めさせる必要があると気づいたのだ。それがこの法律の目的だ。パブでの喫煙を禁止する法律が、喫煙者を悪者にしたり犯罪者にしたりするためのものではないのと同じように、北欧モデルが主に人々の考え方や態度、行動を変えるためのものなのである。

 この法律は1999年にスウェーデンで導入されて以来、多くの国で導入されている。それぞれの国では、法律の枠組みが少しずつ異なっており、取り組みや成功の度合いも異なっている。この法律を妨害しようとする試みは後を絶たない。その理由のほとんどは、いわゆる「社会主義者」を含む男たちが、資本主義エリートから与えられた、より不幸な姉妹に対する性的アクセスの権利を手放したくないからであり、また、多くの女性たちも、自分たちを人間ではなく男性に利用され虐待されるための商品であると定義しているシステムの過酷な現実を直視することに抵抗を感じているからでもある。

 「モメンタム」のツイートには、「証拠が示すように、セックスにお金を払う人を犯罪者にすることは、セックスワーカーをより危険にさらすだけだ。この重要なキャンペーンに名前を連ねられたことを誇りに思う」とある。

 どうして彼らはこんなにも無邪気なのだろうか? だったら英国保守党も、国民医療サービス(NHS)を民営化したほうがみんなのためになり、社会主義モデルでは人々が「危険」にさらされることを示す「証拠」を簡単に提示することができることだろう。

 学者やNGOが買収されてきた長く恥ずかしい歴史がある。怪しげな「証拠」に頼るのではなく、真のオルタナティブが何であるかを考える必要がある。売買春を非犯罪化すれば、ピンプや人身売買業者が大手を振って活動するようになり、普通の人々がますます残虐になり、ネオリベ・エリートが女性や子どもの苦しみからこれまで以上に富を吸い取っていくようになるだろう。これこそが私たちの目の前にある選択肢だ。

 DecrimNow の公開書簡には、「人身売買は、セックスへの需要が原因なのではなく、人々の貧困や選択肢のなさが原因である」とある。だが、性的人身売買は、他の形態の人身売買に比べてはるかに儲かる産業であり、最近の調査では他の人身売買に比べて10倍近い儲けとなっている。これはまさに、多くの男性が弱い立場の女性や少女との性的アクセスに喜んでお金を払おうとするからだ。この「豊かな鉱脈」〔買春者の払う金〕につけこんで金儲けしようとする欲望が性的人身売買の原因ではないと言うのは、まったくもって軽率であり、狂気の沙汰だ。

 たしかに、貧困と残酷な移民法のせいで、多くの人々、とくに女性や子どもたちは、彼女らを収入源として利用しようとする人身売買業者に狙われやすい脆弱な状況に置かれている。しかし、これほど多くの男たちが熱心に売春を利用しなかったなら、彼女たちはこれほど素晴らしい収入源にはならなかったろう。貧困と残忍な移民法に対する解決策は、売買春を自由化することではなく、これらの不公平さに正面から取り組むことだ。

 「セックスワーカー」を安全にしたいと公開書簡は言うが、それは矛盾語法である。あらゆる形態の売買春は本質的に危険であり、最も基本的な「健康と安全のガイドライン」に沿ったものにすることさえできない。必要なのは、売買春システムの規模を縮小すると同時に、売買春に巻き込まれた人たちに現実的な離脱手段を提供することだ。これこそが、北欧モデルの目指していることであり、労働者階級からの確固たる支持を得て適切に実施されるならば、それは可能になる。

 男性左翼のみなさん、あなた方は、資本主義システムが女性や子どもに対する権力(彼女たちに対する性的アクセスを買う権力を含め)を使ってあなた方を買収しようとしているという不愉快な事実を直視しなければならない。これに屈することは、社会主義者としての闘争を放棄することを意味する。肝に銘じてほしい、女性も人間なのだ。

出典:https://www.morningstaronline.co.uk/article/f/woman-human-being-or-profit-centre

https://appinternational.org/2021/04/17/human_being_or_profit_centre/
アナ・フィッシャー「女性は人間なのか、それとも利潤の源泉なのか?――公開書簡批判」



【解説】売買春の完全非犯罪化を求めるイギリスの団体 DecrimNow が4月に出した公開書簡についてはすでに、Nordic Model Now! の代表であるアナ・フィッシャーさんがイギリス共産党の『モーニング・スター』に書いた記事をここに掲載しましたが、同じく Nordic Model Now!(NMN) としての声明の翻訳も紹介します。他にも、この恥ずべき公開書簡に対して、アボリショニストからの批判記事が複数出されています。Jo Bartosch, Stonewall backs the decriminalisation of prostitution, reports Jo Bartosch, lesbianandgaynews.com, 11 April 2021; Mary Harrington, Why are social justice warriors backing men who pay for sex over the women who are abused and exploited?, Daily Mail, 17 Apr 2021. 機会があればこれらの記事も紹介したいと思います。

Nordic Model Now!

2021年4月15日

 先週末、英国における性売買の完全非犯罪化を目指すロビー団体「DecrimNow」は、ウェストミンスターの国会議員たちに宛てた公開書簡を発表し、「北欧モデル型の法案を議会に導入しようとする継続的な試みに反対する」ことを呼びかけた。この公開書簡には、多くの学者や団体が署名している。

 私たちのフォロワーの方々から、この出来事に心を痛め、どのように対応すべきかを知りたいとの声がただちに寄せられた。そこで私たちは、この公開書簡がなぜ欠陥だらけなのかを簡潔に説明し、みなさんに何ができるのかを提案する。

  公開書簡のどこが問題なのか?

 公開書簡では、「人身売買の原因は、セックスへの需要ではなく、人々の貧困や選択肢の欠如にある。人々が人身売買業者の犠牲になるのには多くの理由が存在する」とある。

 性的人身売買は、他のどの人身売買に比べても非常に儲けが多く、最近の調査では10倍近い儲けであることがわかっている。これはまさに、多くの男性が弱い立場の女性や少女に対する性的アクセスに喜んでお金を払うからだ。この「豊かな鉱脈」〔買春者の払うお金〕につけこんで金儲けしようとすることが、人身売買の原因ではないと言うのは、極端なまでの無邪気さである。

 たしかに、貧困と残酷な移民法のために、多くの人々、特に女性や子どもは、彼女たちを収入源として利用しようとする人身売買業者に狙われやすい状況に置かれている。しかし、多くの男性が熱心に売春を利用しさえしなければ、彼女たちはこれほど素晴らしい収入源にはならなかったろう。貧困と残忍な移民法に対する解決策は、売買春を自由化することではなく、これらの不公平さに正面から取り組むことだ。

 「セックスワーカー」をより安全にしたいと公開書簡は言うが、それは矛盾語法である。あらゆる形態の売買春は本質的に危険であり、最も基本的な「健康と安全のガイドライン」に沿ったものにすることさえできない

さらに、すべての証拠が示唆するように、買春行為は男性をいっそう残忍にし、男性の特権を強化し、女性や少女をレイプしたり、ハラスメントをしたり、子どもを性的に虐待したりする可能性を高める。つまり、売買春制度にゴーサインを与えることは(明らかに完全非犯罪化をすればそうなるが)、より多くの女性や少女が性産業に引き込まれ、必然的に広範な被害を受けるだけでなく、一般社会における女性や少女に対する男性の暴力もより増加することを意味する。

 しかし、この公開書簡ではそのようなことはいっさい触れられていない。このことは、彼らが誰の利益を推進しているのかという疑問が生じる。最も弱い立場にある女性や少女の利益を促進しているようには思えない。彼らはどうやら、売買春を貧困や不利な立場に対する解決策として提唱し、それが法律や政策において公認され認められるべきだと主張しているようだ。

 これが本当に私たちの目指すべきものなのか? 貧しい女性や少女が生きるために性を売るしかない世界が? また、それに伴って、膨大な数の男たちがその可処分所得でもって女性と少女に対する性的アクセスを購入するような世界が? それは、私たちが住みたいと思う世界ではない。間違いなく、それによって男女間の不平等はいっそう広がるだろう。

 私たちは、男女間の平等が可能であり、生きるために人間の尊厳に反することを強いられる人がいない、男性の家父長制的な「性の権利」がもはや有効ではないと考えられる世界を目指すことができると信じている。

 この公開書簡では、アムネスティ・インターナショナル世界保健機構(WHO)が完全非犯罪化を支持していることが紹介されているが、これらの組織が、性売買の罪で15年の禁固刑を宣告されたピンプから助言を受けていたことや、彼らの調査が一般的に非常に質の低いものであること、そして彼らの立場が厳しく批判されていることには触れられていない。

 この公開書簡のメインとなる主張は、北欧モデルは「セックスワーカー」の危険性を高め、「セックスワーカー」を非犯罪化することにはならず、人身売買の被害者を助けず、最も弱い立場の人々に罰を与えるというものだ。

 これはとてもひどいものに聞こえるが、私たちはそれは真実ではないと考えているし、少なくとも彼らが主張するような単純なものではない。私たちは以前、これらの議論の多くとその根拠となっている情報源について、例えば以下の記事で取り上げてきた。

ダイアナ・ジョンソン議員の性的搾取防止法案への支持を

北欧モデルvs完全非犯罪化――性産業のサバイバーは何を語るか?

ドイツの元警察官が北欧モデルに反対する一般的な議論を打ち破る

ジュノ・マックとモリー・スミスによる『Revolting Prostitutes: The fight for sex workers’ rights』の批判的レビュー

性差別主義者のプリズム――売買春の取り締まりに関する警察のガイダンス

  彼らは私たちの主張を歪めている

 公開書簡の3ページ目には、私たちの記事からの引用と称するものが掲載されており、ここでは、太字で引用箇所を表示しておく。

「北欧モデルの提唱者は、『離脱サービス』の提供を重視している。しかし実際には、このような離脱サービスは存在しないか、反セックスワーカーのイデオロギーに基づいてサポートすることを条件としている。これには、コンドームなどの現実的な被害軽減手段の提供を拒否することも含まれる。アイルランドでは、北欧モデルの支持者たちも『アイルランドでこれらが実施されているという証拠はない』と認めている。」

 この引用箇所(太字部分)は、2019年の夏に私たちが発表した、アイルランドの女性が売春店経営のために刑務所に入っていることに関する声明がリンクされている。この声明には次のようなパラグラフがある。

「北欧モデル型の法律を制定するだけでは、けっして成功しない。それに伴う一連のトータルな諸措置が必要である。警察、検察、司法への研修、学校や大学での広報活動や教育、回復して外で新しい生活を築くための実際の物質的支援を含む、売春に関わった女性のための質の高いサービスのネットワークへの投資、女性の貧困や不平等に対処するための一般的な措置など。私たちは、アイルランドでこれらのすべてが実施されている証拠を見たことがない」。

 ここでも、彼らが再現した文章を太字にしておいた。彼らは「すべて」という言葉を削除し、私たちが離脱サービスについてのみ言及しているかのような印象を与えているが、私たちが言及しているのは、明らかに多くの一連の措置だ。アイルランド共和国には実際にいくつかの離脱サービスがあるし、私たちもそのことを否定したことはない。完璧ではないかもしれないが、離脱サービスは存在している。そしてその後、いくつかの施策の実施に大きな進展があったことも理解している。

 相手の主張を歪めて伝えることはみっともないことであり、自分の立場が実際には確固たる証拠に基づいていないことを示唆するものだ。しかし実際には、完全非犯罪化を推進する人々の間では、このようなことが平然と横行している(私たちはこの点について別の所で明らかにしている)。そして、彼らの主張がまったく辻褄があっていないからといって、驚くことではない。

  結論

 以上のように、多くの学者、NGO、労働組合がこのような公開書簡に署名したという事実から導き出される唯一の結論は、学術界が悲惨な状態にあり、ピンプの利益を促進する人々が市民社会の諸機関に恐ろしく浸透しているということである。これは、私たちのキャンペーンを強化することに向けた警鐘にならなければならない。

 売買春の被害と、効果的で人道的な解決策である「北欧モデル」についての認識を高めるために、みなさんの助けが必要だ。私たちのメッセージを広めるために、あなたの力をすべて発揮してほしい。

出典:https://nordicmodelnow.org/2021/04/15/response-to-the-decrimnow-open-letter-opposing-the-nordic-model/

https://appinternational.org/2021/04/20/response_to_decrimnow_open_letter/
北欧モデルを攻撃するDecrimNowの公開書簡に対するNMNの声明






売春店と買春者の非犯罪化を支持したアムネスティの決定に抗議するグローバルな行動デーが行われている。
男の買春権を擁護し最も性犯罪被害に合いやすい生得的生物学的女性の人権侵害されることを容認することをアムスティさんがやめることが重要。



【解説】以下の論文は、2015年に出版された Freedom Fallacy: The Limits of Liberal Feminism (Miranda Kiraly and Meagan Tyler (eds) , Connor Court Publishing) に掲載されたキャロライン・ノーマさんの論文です。2015年にアムネスティ・インターナショナルが売買春問題に関して全面的にセックスワーク論にもとづく「包括的非犯罪化」方針案を発表し、世界に衝撃を与えました。当時、フェミニスト・アボリショニストの側から多くの批判論文が書かれましたが、以下に紹介するのはその一つです。アムネスティはその最終案からは、ここで批判されているような買春権を擁護する一文を削りましたが、彼らの非犯罪化方針のバックにある考え方を示すものとして、それに対する批判は今なお重要です。

キャロライン・ノーマ

「性的な欲望と活動は根本的な人間的欲求である。より伝統的と認識されている手段を通じてこの必要性を満たすことができないか満たすつもりがなく、それゆえセックスを買っている人々、そういう人々を犯罪化することは、プライバシーの権利を侵害し、自由な表現と健康に対する諸権利を掘りくずすことになりかねない」[1]――アムネスティ・インターナショナル

 1999年以来、多くの国が買春する側の人々を違法化する法律を制定している。スウェーデン、韓国、ノルウェー、アイスランド、カナダ、アイルランド、北アイルランドはみな買春行為の方を犯罪化した〔その後、フランスとイスラエルが加わった〕。性産業とその顧客を犯罪化するが売買春の中にいる当事者を非犯罪化する方針はヨーロッパ連合(EU)と欧州評議会によって支持され、イクオリティ・ナウとヨーロッパ・ウィメンズ・ロビーによっても提唱されている。それは、売買春に関する法政策の画期的な方策であり、国際的に「北欧モデル」として知られている。

 北欧モデルの広がりは、男たちが長らく享受してきた権利、すなわち性的使用のために女性を買う法的権利が撤回されていっている事態を意味するものに他ならない。このことが性産業の事業者たちやその支持者たちからの攻撃を招くことになるのは驚くに当たらない。たとえば、一部の者は、北欧モデルはセックスワークの被害をむしろ悪化させていると論じている[2]。このような議論にあっては、性産業の「客」は売買春取引における善意の関係者とされている。売買春の中の女性にとって脅威となるのは、顧客が存在することではなく存在しないことであるとされる。たとえば、オーストラリアの学者バーバラ・サリバンは、「客はセックスワーカーの仕事に価値を与えている。なぜならかなりの額のお金を出してセックスワーカーのサービスを購入しているのだから」[3]と述べているが、そう言うことで彼女は、女性に対する買春男の暴力の脅威をまったく軽視しているのである。実際には、買春者は性産業の内部でも外部でも女性に対する重要な暴力リスクとなっている[4]。ところが、リベラル・フェミニストたちは、売買春が女性に付与する金銭的価値にもとづいて売買春を正当化する議論を繰り返している。

 典型的なのは、ジェイン・マリー・マー、シャロン・ピッカリング、アリソン・ジェラードの2013年の次のような主張である。「〔オーストラリアの売春店にいる〕東南アジア出身のワーカーたちの多くは、故郷にいる家族たちを扶養するためにお金を送金しており」、したがってこれらの女性たちは「この種の仕事を……家族を養うのに必要で、かつそのことゆえに受容可能なものであると」みなしている、と[5]。リベラル・フェミニストの見方にあっては、女性の自由は、性的搾取と引き換えに金銭的補償を受け取る「権利」から生じるのであり、したがって、この権利を公けに認めさせるために闘うことが売買春に対するリベラルなアプローチを特徴づけるものとなる。このようなアプローチにおいては、買春者は事実上不可視なものになる。

 この種のリベラルな売買春擁護論、すなわち、金銭上の利得と引き換えに「自分自身を売る」ことを個々の女性の「人権」として支持する議論は、この30年以上のあいだに欧米諸国で広く普及した。最近では、そこからさらに売買春を擁護する新たな議論が登場している。今度は買い手の権利を支持するものとしてである。この新たな、そして売り手の権利論と対をなす買春擁護論は、買春男性を正統な性的顧客として、すなわち、自らの個人的な「自由な表現と健康」を促進するために女性を買春する合理的な選択決定者として構築するものである。本稿は、アムネスティ・インターナショナル(以下、「アムネスティ」と略記)が最近まさにこの種の買春者擁護論を展開していることを叙述し、この擁護論が何よりも北欧モデルに対抗するために特別につくり出されたものであることを明らかにする。

  買春者の「自律性と健康」

 2012年4月、アムネスティは売買春に関する基本方針の見直しに着手した。それ以前の10年以上のあいだ、アムネスティは、売買春に関して「成人間の合意に基づくセックスを犯罪化することは人権侵害である」[6]という性的リベラリズムの立場をとってきた。同組織のイギリス(UK)支部は、この立場を、買春者を含む性産業の参加者たちの「権利」をより積極的に承認するものへと改訂することにとりわけ熱心だった。見直しに着手したのちの2013年に、ロンドンを拠点とするアムネスティの事務局は討議のためのいくつかの指針文書を発表したが、その中では、他人を買春することが「個人の自律性」の行使として描き出されており、性的サービスの購入を犯罪化する(北欧モデルの核心をなすポイント)という政府の政策は個人の自律性と健康とを国家が抑圧するものであるとして非難し、以下のように述べている。

「合意の上で成人からセックスを買う男女は個人の自律性を行使してもいる。……セックスワーカーとの関係性の中で自我のより力強い感覚を発展させ、生活の享受と尊厳を改善する者もいる。きわめて基本的なレベルにおいて、セクシュアリティとセックスの表現は人間的経験の第一の構成要素であり、それは個人の身体的・精神的健康と直接につながっている。したがって、合意の上で他の成人とセックスをする成人の選択に国家が干渉することは、このような個々人の自律性と健康に恣意的に干渉することである。」[7]

 アムネスティの事務局は後になって、これらの文書を発表したのは「売買春と人権」という問題をめぐる「グローバルな協議プロセス」を開始するためだったと説明している。しかしこれらの文書が、アムネスティの会員が買春者の犯罪化を支持する可能性をあらかじめ除外するものであったのは明らかである。たとえば、同文書は、国連エイズ合同計画(UNAIDS)の最近の主張、すなわち、「顧客」を犯罪化してセックスワーカーを非犯罪化する「需要抑制」アプローチは売春件数を減らすことも、「セックスワーカー」の生活を改善することもないとの主張を肯定的に引用している。アムネスティはそこからさらに進んで、買春者の行動を、「セックスワーカーからセックスを買うことは個人の自律性の行使である」[8]という論拠で擁護している。この主張を支持するものとして持ち出されているのが、買い手を犯罪化することで否定的な結果が生じている――HIVの感染が結果として増大しているとか、買い手と警察による被買春者へのゆすりが増大しているといったもの――という言い分なのである。だが、同文書はこうした主張を裏づける何らのソースも提示しておらず、実証的な調査にあまりもとづいたものではない[9]。

 アムネスティの事務局が組織の公式方針を変えることを提案したのは、アムネスティUKのメンバーであるダグラス・フォックス――イギリス最大手のエスコート型売春会社〔デリヘリ売春〕の創設者にしてその共同経営者――の活動に潜在的に影響されてのことではないかとの指摘が以前からなされている[10]。フォックスは自分がそのような役割を果たしたことを公然と吹聴していたが、アムネスティUKは2013年にそうした主張を否認する声明を出した[11]。

 それとは別に、アムネスティUKのペイズリー支部〔ペイズリーはスコットランドの都市〕が2012年に起こしたある行動が、アムネスティの非犯罪化路線のきっかけになった可能性もある。この支部は、スコットランド議会が開催した公聴会に北欧モデルの導入案を支持する意見書を提出した[12]。アムネスティUKは、北欧モデルを支持するこのような意見書の存在に危機感を抱き、ペイズリー支部に対してこの意見書を撤回するよう求めた。しかし同支部のメンバーはそれを拒否した。この事件以来、アムネスティUKは、買い手の犯罪化に反対する立場を公然と押し出す必要性に迫られていると感じたようだ。これら一連の事件からして、アムネスティの買春者擁護論は、まさに北欧モデルを受容する傾向に対抗する必要性から出てきたものと思われる。

 同じく、アムネスティによって着手された「売買春と人権」をめぐる国際的な討議プロセスも、北欧モデルに対抗するという企図にもとづいて組織されていたようだ。いくつかの国で討議を行なう仕事を任されたのは、売買春に対するラディカル・フェミニスト的アプローチに積極的に反対してきた諸組織と結びついた人々だった。たとえば、オーストラリアで討議プロセスを主導したのは、オーストラリアにおける性産業の非犯罪化を主張する長い歴史を持った「女性選挙ロビー(WEL)」という団体の役員だった。1974年のWELの全国大会は、売買春のあらゆる側面を非犯罪化することに賛成投票した[13]。カナダでの協議プロセスも、性産業の完全非犯罪化を主張していることで有名な人物によって主導された[14]。国際レベルでも、公式討議の開始に先立ってこの問題に関して複数の非犯罪化支持グループに意見が求められている。たとえば、グローバルネットワーク・オブ・セックスワーク・プロジェクトは、最初の指針文書の一つの中で言及されている[15]。同じく国際セックスワーカーズ・ユニオンも、アムネスティがそのウェブサイトで「セックスワーク」の非犯罪化に関する参考意見を求める相手として指名されている [16]、同団体はそれに答えて、「セックスワークと人権」に関する文書を発表した[17]。この文書は同団体のウェブサイトで公表されたが、その中で、この文書を起草したのはアムネスティから意見を求められた(しかも「国際的協議」がアナウンスされる以前に!)からだと述べている。

  買春者擁護論に対するラディカル・フェミニストの批判

 多くのラディカル・フェミニストは、アムネスティの買春者擁護論に対する批判を展開した。たとえば、ジュリー・ビンデルは次のように述べている――「本来的に、セックスのために喜んで金を払う男たちは最初から女性に対して侮蔑的見方をしている。彼らが望んでいるのは対等な関係ではなく、パートナーとの意味ある交流でもない」[18]。キャスリーン・バリーはさらにアムネスティの立場に一貫性がないことを指摘している。たとえばアムネスティは、ドメスティック・バイオレンスのような「女性に対する暴力」に反対する同団体のよく知られたキャンペーンにおいては、女性の同意を持ち出すことが不適切であることを認識しているのに、買春者の行動に関しては同意にこだわり、同意の有無が被害の存在(ないし不在)を決定するものだとしている。バリーはそうした議論に反対して、売買春に対するより根本的な「人権アプローチ」を推奨する。それは、他人の身体を性的使用のために買うことそのものが――それに対する被害者の「同意」があろうがなかろうが――暴力の一形態であるというものだ。彼女はこう述べている。

「これを機に、性犯罪のあらゆるケースから被害者の同意の問題を永遠に取り除こう。売買春を人権侵害とする新しい人権法を求める中で、私たちはミソジニストのパラダイムを人権パラダイムに置きかえつつあるのだ。」[19]

 アムネスティの買春者擁護論に対するさらなる批判は、アメリカ、カナダ、イギリスなどの売買春サバイバー団体から寄せられた。これらのサバイバー団体は近年、性産業に反対し世界中で北欧モデルを採用するよう求めるキャンペーンを展開している。これらの団体は、性産業による搾取の被害者であると自ら公然と宣言した人々によって構成されており、1990年代に性産業の非犯罪化を推進するために形成された「セックスワーカーの権利」団体に対抗する重要な勢力となった。たとえば、SPACEインターナショナル(Survivors of Prostitution-Abuse Calling for Enlightenment)や「性的人身売買サバイバーズ連合(Sex Trafficking Survivors United)」などがそうである。両団体は協力してアムネスティの提案に反対するオンライン請願署名を実施している。21世紀初頭から国際的に起こったサバイバーたちの団結した行動はすでに、北欧モデル実現のためのキャンペーンに飛躍的発展をもたらしており、アムネスティの提案に対して速やかに、そして効果的に対抗する動きをつくり出している。その結果、アムネスティが、女性の人権を擁護するよりも男性の射精を擁護することを優先させたことに対して、ソーシャルメディアを通じて大きな非難が巻き起こっている。

  結論

 買春者を性的サービスの「購入者」として擁護することは、売買春を外的な強制も構造的制約もなしに商業的な性的取引に入ることを合理的に選択した個々の成人の、同意にもとづく活動とみなすリベラルな見解にもとづいている。このような定式化にあっては、買春者は、彼らが買う人々と社会的に対等であり、女性に対して個人的にも集団的にもいかなる特殊な脅威もリスクも与えないとされる。リベラル・フェミニストの見解においては、売春に入ることを選ぶ個々の女性の権利が擁護されなければならないのと同じく、他人を買春する個々の男性の「権利」も支持されなければならない。このように被買春者と性産業利用者とを同等視する見方は、経済的ないし性的な不平等という観念を最初から排除し、売買春の廃絶という方向性を視野の外に置く。

 それに対して、北欧モデルは、売買春を通じて女性に対する性的支配権を行使する長年来にわたる男の「権利」にとって、そしてこの支配を通じて金を儲けることにとって、本格的な脅威をなすものである。したがって北欧モデルは、アボリショニストにとって、男の性的権利を問題の俎上に載せ、歴史的に男の権利として称揚されてきた買春行動と対決するうえで、重要な立法上の手段を与えるものである。北欧モデルは買春されている側の人々を非犯罪化することを主張しており、これは、性産業の事業者たちとその支持者たちに何らかの手を打つことを余儀なくさせた。性売買をその廃止の動きから守るために、「自分自身を売る」女性の「権利」という性産業の従来からの擁護論に加えて、買春者を擁護する議論を新たに構築する必要に迫られた。

 アムネスティ・インターナショナルが最近になってこの新たな擁護論の構築に貢献したのは、何よりも、北欧モデルに対抗する過程を通じてであった。だが、この世界最大の人権団体がこのような貢献をなしえたのは、女性には性的搾取から金銭的利益を得る「権利」があるとする主張がリベラル・フェミニズムの形で存在していたからであり、そのような「人権」言説が幅を利かせていたからに他ならない。リベラル・フェミニズムの売買春擁護論は北欧モデルに対抗する動きを支え続けており、根本的にフェミニスト的な意味での平等な社会関係を実現することに向けた障害物であり続けている。

[1] Amnesty International Secretariat, Decriminalisation of Sex Work: Policy Background Document (2013) Amnesty International. Document available from: https://sites.google.com/a/amnesty.org.au/aia-activist-portal/bulletinboard/consultationondraftsexworkpolicy?pli=1.

[2] Jay Levy, Criminalising the Purchase of Sex: Lessons from Sweden (Routledge, 2014).

[3] Barbara Sullivan, ‘Feminism and Female Prostitution’ in Roberta Perkins et al (eds), Sex Work and Sex Workers in Australia (University of New South Wales Press, 1994) 262.

[4] Brian Heilman et al, The Making of Sexual Violence: How Does a Boy Grow Up to Commit Rape? (International Centre for Research on Women, 2014) 14.

[5] JaneMaree Maher et al, Sex Work: Labour, Mobility and Sexual Services (Routledge, 2012) 50.

[6] Amnesty International, Have Your Say – Amnesty’s Sex Work Policy (2 April 2014), http://www.amnesty.org.au/leader/comments/34256/.

[7] Amnesty International Secretariat, Decriminalisation of Sex Work, above n 1.

[8] Amnesty International Secretariat, Background Information for Survey Participants: Amnesty International Consultation on Proposed Policy on Decriminalisation of Sex Work, Amnesty International. Document available from: https://sites.google.com/a/amnesty.org.au/aia-activist-portal/bulletin-board/consultationondraftsexworkpolicy?pli=1.

[9] Ibid.

[10] Kat Banyard, The Equality Illusion: The Truth About Men and Women Today (Faber & Faber, 2010) 140.

[11] Amnesty International UK, Douglas Fox and Amnesty International, Amnesty International (1 February 2014), http://www.amnesty.org.uk/douglas-fox.

[12] Melissa Gira Grant, ‘Amnesty, human rights and the criminalisation of sex work’, New Statesman (online), 12 June 2013, http://www.newstatesman.com/lifestyle/2013/06/amnesty-human-rights-and-criminalisation-sexwork.

[13] Barbara Sullivan, ‘Prostitution Politics in Australia’ in Joyce Outshoorn (ed), The Politics of Prostitution: Women’s Movements, Democratic States and the Globalisation of Sex Commerce (Cambridge University Press, 2004) 24.

[14] Kate Shannon et al, ‘Shannon, Bruckert & Shaver: Canada must set sex workers free’, National Post (online), 7 April 2013, http://fullcomment.nationalpost.com/2014/04/07/shannon-bruckert-shaver-canada-must-setsex-workers-free/.

[15] Amnesty International Secretariat, Background Information for Survey Participants, above n 8.

[16] International Union of Sex Workers, IUSW Response to the Amnesty International Consultation on Decriminalising Sex Work (8 April 2014), http://www.iusw.org/2014/04/iusw-response-to-the-amnesty-internationalconsultation-on-decriminalising-sexwork/.

[17] International Union of Sex Workers, Sex Work and Human Rights (March 2014), http://www.iusw.org/wp-content/uploads/2014/04/SexWorkAndHumanRightsIUSWMar14.pdf.

[18] Julie Bindel, ‘An abject inversion of its own principles’, Daily Mail (online), 24 January 2014, http://www.dailymail.co.uk/news/article-2544983/JULIE-BINDEL-An-abject-inversion-principles.html.

[19] Kathleen Barry, Why is Prostitution a Violation of Human Rights, Abolish Prostitution Now (2013) http://abolishprostitutionnow.wordpress.com/why-is-prostitution-a-violation-of-human-rights/

出典:Miranda Kiraly and Meagan Tyler (eds), Freedom Fallacy: The Limits of Liberal Feminism, Connor Court Publishing, 2015.

https://appinternational.org/2020/05/24/amnesty_international_sex_work/
キャロライン・ノーマ「男の買春権を擁護するアムネスティ・インターナショナル」



【解説】多くの左派男性が、アムネスティ・インターナショナルの方針(売買春そのものをセックスワークとして肯定したうえで、その中での強制的なものだけを排除するという政策)を肯定しているので、以下に、アムネスティ・インターナショナルの方針を作成するのに寄与した人物が実は、性的人身売買に関与し続け、15年の刑を宣告された犯罪者であることを指摘した5年前の記事を掲載します。人身売買業者は、売買春が合法化されさえすれば、いくらでも抜け道があることを熟知しているのです。

カット・バニャード

『ガーディアン』2015年10月22日

 アムネスティ・インターナショナル〔以下、アムネスティと略記〕は今月〔2015年10月〕、売買春に関するその新方針を最終決定する予定である。それはアムネスティ指導部による8月の投票を受けてのものだが、同指導部は――国際的な抗議にもかかわらず――、買春や売春店経営を含めて性売買を完全非犯罪化することを各国支部に勧告した。私の見解では、アムネスティの方針は危険なまでに誤っているだけではなく、それは、法的責任を問うべき当の人々〔人身売買業者〕からのエビデンスに依拠している。

 アムネスティの方針案は、売春施設の非犯罪化の呼びかけに対して「人権団体」から支持を得ていると述べている。「最も重要なことに」と同方針案は言う、「セックスワーク・プロジェクト・グローバル・ネットワーク(NSWP)を含むセックスワーカーの諸団体と諸ネットワークの大部分がセックスワークの非犯罪化を支持している」。しかし今年3月、NSWPの元副会長であるアレハンドラ・ギルは、性的人身売買の罪で15年の刑に処せられた。

 これはたまたま問題のある一団体に言及したとか、他の点では根拠のある一文書における小さな瑕疵という話ではない。アムネスティの方針案は次のものをエビデンスとして持ち出している。NSWPによって書かれた報告書、国連エイズ合同計画(UNエイズ)の「HIVとセックスワークに関するアドバイザリー・グループ」によって書かれた報告付録(NSWPはそのアドバイザリー・グループの共同議長団体)、世界保健機構(WHO)の報告書(その中でギルは、WHOの方針形成に寄与する「専門家」の1人としてわざわざ名指して言及されている)。NSWPのロゴは、WHO、UNエイズ、国連人口基金(UNPF)のロゴと並んでWHOの報告書の表紙に印刷されている。

 このことがはっきりと示しているのは、ギルの団体(NSWP)が、世界トップクラスの人権機関を通じて、商業的性搾取の合法化という目標課題を推進することに驚くほど成功したという事実である。「サリバンのマダム」〔「マダム」は売春宿の女経営者のこと〕として知られているギルは、報道によると、メキシコシティにおけるピンプ〔女性を支配して搾取する人、ポン引き〕のネットワークの中心人物であり、約200人もの女性を性的に搾取してきた。しかしながら、注目すべき決定的な点は、ギルは、NSWP内でピンプとしてその利害〔売買春の非犯罪化を求めること〕を何ら隠す必要がなかったことである。この団体は、ピンプ行為と売春店経営を通常の仕事として認めるようキャンペーンを行なっている。NSWPの方針によると、ピンプであるギルはまさに「マネージャー」業を営む「セックスワーカー」である。だとすると、どうしてUNエイズはこのような団体に正式のアドバイザーとしての役割を与えたのだろうか?

 他方、NSWPは今なおこの元副議長を「人権擁護者」としつづけている。メキシコシティに人身売買されて連れてこられてギルに搾取された1人の女性は、メキシコのジャーナリストに次のように述べている。「彼女の仕事は車から私たちを監視することでした。彼女ないしその息子が私たちをホテルに運んで、私たちに売り上げを請求します。彼女はあらゆることを記録している帳面を持っていました。どれだけの時間がかかったかについてさえ書き留めていました」。ギルの被害者たちの担当弁護士は私に次のように説明した。ギルが有罪になったのは、「彼女が人身売買を通じて連れてこられた被害者を受け取り」、「彼女たちをだまして売春を通じて搾取していたから」だと。

 NSWPが行使している影響力の大きな部分は2007年にまで遡ることができる。その年、UNエイズは、HIV防止活動の一環として売買春に対する需要と闘うよう各国に求めるガイダンスを出版した。売買春への需要は、ギルのような「第三者の」利得者が利益を得るのに必要不可欠なものであり、その需要を断つことは、もちろんのこと、NSWPにとってとうてい受け入れがたいものであった。NSWPはUNエイズに抗議したのだが、驚くべきことに、UNエイズはそれに答えて、「HIVとセックスワークに関するアドバイザリー・グループ」の共同議長団体にNSWPを指名したのである。

 その後、ガイダンス本の改訂版が出版されたが、このアドバイザリー・グループ〔NSWP〕によって書かれた「付録」がそこに付いていた。それは「セックスワーカーと売春店の管理」を非犯罪化することと、「戦略的焦点をセックスワークへの需要削減から別のところに移すこと」を推薦している。この付録は、売春店経営とピンプ行為――つまり商業的性搾取そのもの――を合法化するよう求めるNSWPのキャンペーンに正統性を与える上で決定的なものであることがわかった。

 売買春に対する需要は不可避ではない。1990年代、イギリスにおいてセックスに金を払う男性の数はほとんど倍化した。拡大することが可能なら縮小することも可能である。そして、まさにそれが、スウェーデンやノルウェーのような国々で起こったことである。これらの国では性買者処罰法を適用しており、その法にあってはセックスを買われる側は非犯罪化され、セックスを買う側が犯罪化される。これは、「エンド・デマンド・アライアンス」に属する諸組織(ウィメンズ・エイド、イクオリティ・ナウ、「女性に対する暴力廃絶同盟」など)によって提唱されているアプローチでもある。女性平等党もこのような法を導入するべきだと述べている。イギリスにおいて需要に対処する政策がなされてこなかったことは、現実のうちに如実に反映している。2013~14年に、車での売春婦の物色〔裏道を車で流して売春婦に声をかけて売春を勧誘する行為〕で起訴された件数よりも、〔売春目的の〕勧誘や徘徊で女性が起訴された件数の方が2倍以上多かった。このことが意味しているのは、刑法上の制裁を受けるのは、女性を買う男性そのものよりも、圧倒的に、その男性によって買われる女性の側であるということだ。実際、2013~14年において、ピンプ行為、売春店経営、売春婦物色、売買春の広告による起訴件数をすべて合わせたよりも、勧誘と徘徊で起訴された件数の方が多かった。

 イギリス王立検察庁は正しくも売買春を女性に対する暴力と認識している。セックスにお金を払う男たちや、そのお金を懐に入れている売春店経営者たちは、消費者でもなければ実業家でもなく、犯罪者であり搾取者である。明日、活動家たちは、売春店と買春者の非犯罪化を支持したアムネスティの決定に抗議するグローバルな行動デーを展開する予定である。少なくともアムネスティとUNエイズは、自分たちがその政策の作成にあたって助言を求めた諸団体の問題に関してきちんと答えるべきだろう。しかし、何よりも私たちは、売買春を通じて搾取されている人々から処罰の重荷を取り除いて、それを本来の相手に、すなわち買春者に課すよう政府に求めなければならない。

出典:https://www.theguardian.com/commentisfree/2015/oct/22/pimp-amnesty-prostitution-policy-sex-trade-decriminalise-brothel-keepers

https://appinternational.org/2020/07/23/kat_banyard_amnesty_pimp/
カット・バニャード「誰がアムネスティの方針作成を助けたのか?」



【解説】以下の論考は、私たちがいつも参考にしているイギリスのアボリショニスト団体 Nordic Model Now! に掲載された論文の全訳です。表題は、日本の読者にわかりやすいように少し改めています。日本でも国外でも、老舗の国際人権団体であるアムネスティ・インターナショナルがセックスワーク論を採用して売買春の完全非犯罪化方針を取ったことで、あたかも完全非犯罪化がこの問題での正しい路線であるかのように思い込んでいる人々が非常に多いですが、実際には、アムネスティがその方針を採択する根拠になった調査はかなり問題の多いものでした。Nordic Model Now! のメンバーによって書かれた以下の論考は、そのことをわかりやすく指摘してくれています。かなり長いものですが、ぜひお読みください。

Nordic Model Now!

 この記事は、ノルウェーのフェミニスト組織である Kvinnefronten(Women’s Front)のウェブサイトに掲載されたアグネテ・ストレーム(Agnete Strøm)の投稿にもとづいて書かれたものです。彼女の労作に感謝します。

「ノルウェーに関する報告書を読んで、私たちはアムネスティの基盤全体に疑問を感じた。アムネスティのように女性の権利とジェンダー平等を擁護しながら、他方で、屈辱の生活、尊厳への攻撃、暴力の許容が割り当てられる人々の一カテゴリーを設定するとは考えられないことだ。」――アグネテ・ストレーム

  背景

 アムネスティ・インターナショナルは、売春に関する政策を策定する際にノルウェーで調査を行なった。この政策の策定と意見公募(協議)の方法には、多くの不正常なものがあった。その中でも特に重要なのは、(a)この政策はもともと、隆盛をきわめる性産業に強力な既得権益を持つ売春業者であるダグラス・フォックスによって提案されたものであること、(b)アムネスティ・インターナショナル事務局が調査を依頼し、会員と協議する前に、すでに2013年にその政策アプローチを決定していたこと、だ。

 これはゆゆしき問題である。これは明らかに、調査のからくりを説明するためのいくつかの方法を提供している。

 当時、アムネスティ内のより広範なコミュニティの意見は、次の2つの異なるアプローチ間で二極分化していた。

・北欧モデル……買春されている人々を非犯罪化し、性産業から抜け出すための質の高いサービスを提供し、セックスを購入すること(買春)を犯罪とするもので、社会規範を変え、性的人身売買の原因となる買春需要を減らすことを主な目的としている。このアプローチはまた、利益を得る者(ピンプ、売春店経営者、あっせん者)を取り締まるものである。

・完全非犯罪化……営利企業や買春者(セックスの買い手)を含む性売買全体を完全に非犯罪化するもの。これはダグラス・フォックスとアムネスティ・インターナショナル事務局が支持したアプローチである。この論考では、このアプローチを「完全非犯罪化」と呼ぶことにする。

 このような状況のもとでは、この2つの異なるアプローチを実施した場所で調査を行ない、両者の比較ができるようにするのが原則的なアプローチであったろう。

 しかし、アムネスティはそうする代わりに、パプアニューギニア、アルゼンチン、香港――いずれも禁止主義〔売り手も買い手も処罰の対象とする法体系〕の国――での調査と、2009年に北欧モデルを導入したノルウェーでの調査を選択した。アムネスティのコミュニティ内には、すべての当事者が犯罪者とされる禁止主義に対する大きな支持はなかったのだから、このような制度を導入している国でこれだけの努力と調査を行なうはっきりとした目的はなかったはずである。

 しかし、そのため、ノルウェーでの調査結果は、他の3つの国の禁止主義的アプローチ――セックスを売ることが違法であるため広範な腐敗が存在し、被買春女性が警察やその他の当局から暴力や脅迫を受けている――の結果と比較されることは必至であった。

 とくに、アムネスティが政策にしようと欲し、今では世界中の政府に推奨している、完全非犯罪化アプローチを採用している国について、いかなる調査も依頼しなかったことは、批判されるべきことである。

 このことが、アムネスティが調査を売買春に直接関係する法律に限定せず、アパート、路上生活者、移民政策などにまで広げた理由の説明になるかもしれない。もしこの調査が単に売買春法の影響を調べていたとしたら、ノルウェーと禁止主義諸国との結果の差は、北欧モデルが実際に効果的なアプローチであることを示していただろう。

 ヨーロッパのほとんどの国では、最も弱い立場にある人々に不釣り合いに適用される残忍で不公平な移民法がある。さらに、人種差別はノルウェーを含め、ヨーロッパ全土で問題となっている。これはすべて容認できないことだが、これらは売買春に特化した法律とは別個の問題であり、個別にそれぞれの分野で分析し取り組む必要がある。

 アムネスティが北欧モデルの有効性を真摯に調査していたならば、このアプローチの先駆者であり、制度を成功させるために必要なすべてのことを実施しようとする最大の政治的意志を持っているスウェーデンで調査を実施していたはずだ。広報キャンペーン、学校での教育、離脱サービスへの資金提供、警察と検察官の訓練、女性の雇用と訓練の機会など。

 そうする代わりにアムネスティが選んだのは、スウェーデンの10年後にこの法律を可決し、調査が実施されるわずか5年前に法律が成立したばかりの国ノルウェーだった。

 アグネテ・ストレームは、アムネスティがノルウェーを選んだのは、ノルウェーの著名なアムネスティ・メンバーが公然と北欧モデルに反対し、2013年にはノルウェーの次期政府が北欧モデル法を廃止することをマニフェストに掲げたからだと指摘している。アムネスティは、この次期政府が、同法が実質的に機能していることを理解して、事実上、このプランを放棄したことを知らなかったようだ。

 北欧モデルは、男性が女性や少女に性的にアクセスするための歴史的権利に挑戦する深遠なパラダイムシフトを含んでいる。多くの人々、とくに男性は、この変化に抵抗している。これは、アプローチが定着するまでに時間と政治的意志が必要であり、訓練と教育が必要であることを意味する。さらに、国、広域、地方のレベルで、このアプローチの精神とその実施が妨害されることは大いにありうる。アムネスティがこのことを理解していた証拠はまったく存在しない。



  方法論

 アムネスティが使用した調査方法は、調査の規範やグッドプラクティスに欠けている。標準的な研究プロトコルの下では通常、研究の目的と根拠、調査参加者の選択方法、参加者のプロフィールと人口構成、聞き取り調査の質問スケジュールを含む使用された研究方法、データの分析方法などに関する詳細な説明が期待されるが、これらのほとんどが欠落している。研究の目的は以下のように記述されている。

 「この報告書は、アムネスティ・インターナショナルが4カ国でセックスワーカーが経験した人権侵害を記録し、セックスワークに関する刑法とセックスワーカーへの処罰がこれらの侵害に関連して果たす役割を探るために行なった一連の調査報告書の一部である。」

 これは、売買春を問題のないものとして暗黙のうちに受け入れ、関係者がこうむる人権侵害を、売買春制度そのものとは無関係のものとみなすイデオロギー的立場を明らかにしている。このことは、調査結果の信頼性に疑問を投げかけるものだ。

 英国とは異なり、ノルウェーは1949年に国連の「人身売買および他人の売春の搾取の抑制に関する条約」を批准している。この条約は売買春を、世界人権宣言で謳われている人間の尊厳と価値とは相容れないものとみなしており、批准国には、売買春のために施設を貸す者や利益を得る者を取り締まる義務を課している。

 アムネスティは報告書全体の中でこの条約に一度も触れておらず、19ページにおける関連する人権条約のリストの中にさえ出てこない。また、報告書は、ノルウェーのアプローチが広範な国際的支持を得ていること、国連の人権枠組みの中で正当なアプローチとして認められていること、欧州議会によっても推奨されていることについても触れていない。これは、国際的に著名な人権団体に期待される公平なアプローチではない。

 15ページには、調査は量的調査ではなく質的調査であるとの記述がある。定性的研究は一定受け入れられている方法論ではあるが、一般化は研究対象よりも広い文脈では自信を持って行なうことができず、研究者の存在と視点が必然的に結果に大きな影響を与えることが認められている。このことは、私たちが記録してきた北欧モデル・アプローチに対する偏見と相まって、この研究は、しばしば主張されるような「北欧モデルは機能しない」ことを示すものとして合理的に解釈することはできないことを意味している。

  売春に関わる女性への聞き取り調査

 聞き取り調査は2014年11月から2015年2月までの3週間にわたってオスロで行なわれた。聞き取り調査の質問記録はなく、遺憾なことに、聞き取り調査を受けた人たちは、同意書に署名するように求められたのではなく、「口頭での同意」を求められただけだった。

 私たちは、アムネスティがセックスを売った経験のある30人の女性と「話した」と言われているが、アムネスティの誰が彼女たちと話したのか、話したのは男性か女性かどうか、彼らがどのような関連する訓練を受けていたのかは知らされていない。また、聞き取り調査がどこで行なわれたのか、他に誰がいたのか、聞き取り調査を受けた人が快適に感じ、安全を確保するためにどのような措置がとられたのかも知らされていない。聞き取り調査がどの言語で行なわれたか、通訳が必要だったかどうか、必要だった場合は男性か女性かどうかについての情報もない。

 30人の女性のうち、約3分の1が売春を経験していたこと、3人がトランスジェンダーであったこと、3人が人身売買されていたこと、23人が移民であったこと、その多くが3ヶ月間の観光ビザしか持っていなかったことなどがわかっている。

 この女性たちは3つの組織によって選定されたのだが、そのうちの1つであるPIONは、NSWP(Global Network of Sex Work Projects)のメンバーであり、そのメンバーはいずれも「売春は仕事(work)である」という見解を支持しており、思想的には北欧モデルに反対している。アムネスティが、特にPIONから紹介された聞き取り対象者が自由に発言できるようにするために、どのような措置をとったのかは明らかではない。同様に、聞き取り調査が録音されたかどうか、メモが取られたかどうか、取られた場合は誰が行なったかについても明らかにされていない。

 女性の年齢(聞き取り調査時の年齢や売春に入ったときの年齢)、売春に関わっていた期間、何がきっかけで売春に入ったのか、売春との関わりはどのような性質のものだったのか、ということも知らされていない。また、彼女たちが最も助けを必要としていたことは何か、北欧モデルが彼女たちにどのような影響を与えたのか、あるいは、北欧モデルが彼女たちを何らかの形で助けたのかどうか(例えば、離脱サービスを利用したかどうかなど)についても明らかにされていない。

 30人の女性のうち、報告書に引用されているのは16人だけだ。引用された内容はすべてアムネスティの立場を支持している。しかし、聞き取り調査を受けた女性の中には、その立場に同意しない人もいたことを示す証拠がある。例えば、アグネテ・ストレムは、ナイジェリア人女性が報告書の発表直後にノルウェーのメディアで、調査の一環として聞き取り調査を受けたと発言したと報告している。彼女は聞き取り調査担当者に「北欧モデルを支持している」「警察がピンプから逃れるのを助けてくれた」と話したという。しかし、アムネスティは彼女の話を引用したり、証言を載せたりしなかった。

 ほとんどの場合、ピンプ行為(pimping)は深刻な人権侵害である性的人身売買の要素を満たしている。北欧モデルがこの女性がピンプから逃れることを可能にしたことは、この研究の明示された目的に合致している。彼女の証言が報告書に含まれなかったのは、それが北欧モデルをよく見せるものであって、アムネスティがそれを悪く見せようとしていたからではないかという疑問が生じる。他にも省かれているものがあるのではないかという疑問に抱かないわけにはいかない。

 これは、アムネスティの調査が、北欧モデルの有効性について一般化された判断を下すのに使われるべきではない理由のさらなる証拠である。

  暴力

 報告書の中の「女性に対する暴力」に関するセクションは以下の文言で始まっている。

 「アムネスティ・インターナショナルが聞き取り調査した女性のかなりの割合が、近年オスロで性を売っている間に、暴力に遭遇し、場合によっては命を脅かすような深刻な暴力に遭遇したと述べている。」

 その後に続いて痛ましい事例が上げられているが、それは、最も一般的な加害者は買春者であるという見解に合致している。

 報告書のこのセクションは、ウーラ・ビョーンダールが2012年に発表した、売春に対する「被害軽減」アプローチを推進するノルウェーの団体プロセンター(プロセントレット)が委託した調査にもとづく報告書『危険な関係(デンジャラス・リエゾン)』〔「dangerous liaison」というのは「不義密通」という意味〕に大きく依存している。ビョーンダールは、北欧モデルの導入後、売春婦に対する暴力が増加したと主張している。この報告書はアムネスティによって合計29回も参照されている。

 しかし、目に見えるものがすべてではない。アグネテ・ストレムは、英語圏の人々には知られていないことを明らかにしている。

 「今日のノルウェーに関するアムネスティの報告書を読んでいる人なら誰でも知っていると思うが、2012年6月、『危険な関係』が発表された2日後に、プロセンターのリーダーであるビョルグ・ノルリは、結論の統計的根拠が非常に疑問であり、暴力が増えたと主張するいかなる根拠も与えていないことをメディアに公に認めざるをえなかった。」

 しかし、この話はこれで終わりではない。1年後の2013年4月、ノルリはこの報告書を英語で利用できるようにし、国際的に配布した。こうして再びこの偽りの統計が前面に押し出され、北アイルランドやフランスの売買春ロビーによって利用され、今なお世界中で利用されている。それは今でもプロセンターのホームページに掲載されている。

 フェミニスト研究者のサマンサ・バーグが、『危険な関係』の報告書を分析したところ、この調査は暴力の増加を示しているのではなく、それどころか、次のグラフに示すように、すべての深刻な暴力が減少していることを示していることを発見した。暴力が増加したというビョーンダールの主張は、データの恣意的操作に基づいていたのだ。バーグの記事の全文を読むことをお勧めする。



 ノルウェー政府は2014年、社会調査機関のビスタ・アナライズに北欧モデルの評価を依頼した。この調査は、暴力が増えたという明確な証拠がないことを確認した。

 「この分析では、法律の導入後、路上市場で女性に対する暴力が増えたといういかなる明確な証拠も見つかっていない。違法行為を問われるのは顧客であり、それゆえ顧客は売春婦から警察に通報されることを最も恐れている。警察は、性的サービスの購入が禁止された後に、より暴力的になったという兆候をまったく示していない。」

 アムネスティは、女性たちが報告した暴力のレベルを深刻な人権侵害と表現し、これらの暴力行為に対する効果的な警察の保護がないことを嘆いている。これは、売買春が本来的に暴力的であり、何ものもそれを安全にすることはできないという現実を直視することを拒否している点で、自己矛盾である。売春に内在する暴力を防止する唯一の効果的な方法は、売買春のシステムそのものを根絶することである。これが北欧モデルの究極の目的である。

  立ち退き

 ノルウェーの法律では、先に述べた1949年の国連条約で義務づけられているように、故意に売買春を目的として施設を貸すことを禁止している。罰則は罰金または6年以下の懲役であり、売買春を促進することを禁止する法律の一部だ。

 アムネスティはこの法律に憤慨しており、女性への暴力よりも立ち退きに関する問題の方に約2倍のページを割いている。北欧モデルが導入される2年も前に始まり、アムネスティが調査を行なう数年前に終了したにもかかわらず、「Operasjon Husløs」(ホームレス作戦)と呼ばれる警察の作戦についてかなり詳細に書かれている。

 残念ながら、ビスタ・アナライズの報告書の全文はノルウェー語で、英語では要約しか掲載されていない。しかし、アグネテ・ストレームは、報告書の全文を見ると、女性が大量に家を失ったわけではないことが明らかになっていると説明している。彼女は関連する文章を次のように翻訳している。

 「オスロ警察は、性を売っている外国人女性が住んでいるアパートから追い出され、その結果、彼女たちが家を失ったと批判されている。これは、アパートの所有者が、そのアパートが性売買に使われていたことを知らされた場合に起こりうる。しかし、警察が女性から家を取り上げているというのは正しくないと警察は指摘する。というのも、市場の9割は売春のためにあちこちに移動している女性たちであり、したがって家は1日から14日程度の短期間しか仕事場として使われず、14日を超えることがあっても、いずれにせよ短い期間だけだからだ。アパートから追い出された場合のマイナスの影響は、女性が支払った保証金を失うことかもしれない。というのもアパートの家主はこの保証金を返金するのを拒否する場合があるからだ。」

 アムネスティは、それが言及している立ち退きの多くが、契約違反に基づく短期賃貸によるものであることを明確にしていない。しかし、綿密な調査は、実際にはそうであったことを示唆している。影響を受けた5人の女性のうち、4人はナイジェリア人で、1人は「アフリカ系」の女性だった。

 同報告書のエグゼクティブ・サマリー(7ページ)は以下のように始まる。

「『昨年は私にとって本当に地獄だった』――ナイジェリア人のセックスワーカーであるマーシーは、ノルウェーでの差別、社会的排除、人権侵害の経験をこう語っている。彼女の話は、2014年に自宅から強制的に追い出されたことで頂点に達した。マーシーが正当な手続きや通知なしにホームレスにされたという事実は、国際法の下での人権侵害を構成している。」

 ここに出てくるマーシーが「性を売るためにノルウェーに旅行してきた若いナイジェリア人女性」であること、「彼女はシェンゲン地域に居住しており、したがってノルウェーに3ヵ月間滞在することができる」ということを知ることができるのは、38ページも後のことだ。

 つまりマーシーは観光ビザを得て一時的に滞在していたので、彼女が追い出された物件の賃貸条件は短期的なものであり、報告書がそう誤解を与えているような恒久的なものではなかった。これは起こったことを容認できるものにするわけではないが、被買春女性が恒久的な家から広範囲に立ち退きが行なわれていることを示すものではない。

 スウェーデンにも、性売買を抑止する目的で、売買春を目的とした施設を賃貸することを禁止する法律がある。調査によると、実際には、スウェーデンの警察はこの法律の下で被買春女性を追及することはなく、ピンプや人身売買業者に対してこの法律を用いている。この点では明らかにノルウェーがスウェーデンから学べることがあるようだ。

 多くの被買春女性が、安全のために他の被買春女性といっしょに仕事できるようにしたいと言っていた。女性たちがいっしょに働いた方が安全だという考えは、小規模売春店を非犯罪化するための共通の議論であり、一見すると説得力があるように見える。しかし、もっと深く掘り下げると、物事は最初にそう見えるものほど単純ではないことが明らかになる。この点については、「数が多ければ安全」説の問題点を参照してほしい。

 アムネスティは、「合意の上でのセックスワーク」には何の問題もないという根拠に基づいて、売買春の促進を禁止するノルウェーの法律を、搾取的行為のみを禁止する法律に置き換えることを勧告している。このことはわれわれを、北欧モデルと完全非犯罪化という2つの対立するアプローチの背後にある異なる世界観の核心に導く。

 意見の相違の核心にあるのは、売買春が人権と両立することができるのか、また、男性が性的使用のために(圧倒的に若く、貧困で、民族的マイノリティが多い)女性たちを購入する権利があると考えている場合、男女平等に基づく社会が成り立つのかという問題だ。

 ノルウェーはこのようなことはありえないと考えており、売買春制度の廃止を目指している。目的が廃止であるとはどういうことかというと、売買春に巻き込まれた諸個人とより広範な社会の双方にとって、売買春に内在する加害性と暴力性を認識し、売買春を根絶するための具体的な諸措置を採用し、売買春に巻き込まれた人々を処罰の対象から外して、新しい生活を送れるよう支援するという新しい社会的コンセンサスを勝ち取ることを意味する。

 これは、単にすべての行為者を犯罪者にすることによってそれを抑止することを目的とした禁止主義とは異なる。奇妙なことに、アムネスティは禁止主義的アプローチと廃止主義的(アボリショニスト)アプローチの間にある深い相違を認識することを拒否している。報告書は頻繁に北欧モデルを禁止主義として言及しているが、これは不正確で誤解を招くものだ。

 北欧モデルの本質は、売買春の中の人々に質の高いサービスを提供することであり、それには真の離脱手段の提供も含まれている。目的は、買春された人々を処罰することではなく、買春された人々がその外部で新しい人生を築けるようにすることである。不可解なことに、アムネスティは18ページにおける北欧モデルの定義からこの重要な側面を省いている。

 アムネスティが提供している証拠の中にはたしかに、これらのサービスが売買春に巻き込まれたすべての人々、とくに移民女性のニーズを満たしていないことを示唆するものもある。このことが示しているのは、各種サービスに、そして、売春以外の手段で生計を立てるための実行可能な機会を女性に確保するために、もっと多くの資金が投じられるべきだということである。

 このことは、GRETA(欧州人身売買禁止条約)の2012年の報告書でも認識されており、「ノルウェーは本当に必要としているものを満たすために、離脱プログラムを拡充すべきである」と書かれている。アムネスティがこのことに言及しなかったのは、おそらく、売春は仕事であり、売春には何の問題もないと考えているからで、女性には離脱への支援や実行可能な代替手段は必要ないと考えているからであろう。



  性的人身売買

 アムネスティは、人身売買と「同意に基づくセックスワーク」とはまったく別物であり、けっして「いっしょくた」にしてはならないと必死で訴えており、その切迫ぶりは何か絶望の悲鳴に近いものがある。しかし、実際にはどのように区別するべきなのか彼らは説明していない。人身売買された女性のための別個の市場など存在しないし、「パンター・フォーラム」での買春者自身の言葉を見れば、多くの(おそらくほとんどの)買春者が、自分が買春した女性たちがそこにいることを望んでいるかどうかなんて気にしていないことは明らかである。

 そしてアムネスティは、性産業が巨大で冷酷な資本主義的金儲けマシンであり、そこで販売されている商品が、若く脆弱な(主として)女性への性的アクセスであることにはけっして言及しない。

「人身売買は非常に儲かる。本当に考えてみれば、1キロのヘロインを1回売ることができ、13歳の少女を1晩に20回、1年365日売ることができる」――『デイリー・コス』2018年2月6日付

 アムネスティは、業界全体を動かしているのは観客が支払うお金であることに言及していない。もし言及していたら、セックスを買うことを犯罪にすることへの彼らの激しい反対が、非合理的で非倫理的なものであることが明らかになっただろう。このこと、そして、この残虐な業界の行き過ぎを取り締まるための効果的かつ実用的な手段を真剣に検討していないことは、「女性と少女の権利」と「両性の真の平等」のために闘うことへの彼らのコミットメントと倫理に重大な疑義を残す。

 アムネスティは、北欧モデルを実施するのではなく、人身売買の被害者からセックスを買うことを犯罪化するべきだと提案しているが、これはイギリスとフィンランドですでに試みられ、効果がないことが示されている方法だ。

 売春が合法化されたり、完全に非犯罪化されたりすると、人身売買が増加するという明確な証拠がある。性的人身売買に本当に取り組むためには、ピンプ行為や売春店の経営にゼロトレランスのアプローチが必要であることは言うまでもない。少なくとも、それらの行為は、国連のCEDAWによって禁止されているからであり、ピンプ行為はたいてい、パレルモ人身売買議定書の中で定義されている性的人身売買の要件を満たしているからだ。読者は、アムネスティの報告書を読んだだけでは、このことを知ることはできないだろう。

 まるでアムネスティが、あらかじめ決められた政策を正当化するために、これらの拘束力のある国連人権条約を故意に無視しているかのようだ。

 しかし、私たちは、ノルウェーでは性産業に従事する移民女性が移民取り締まりの対象となり、しばしば強制送還されているという点では、アムネスティの批判に同意する。これは、女性が性売買の被害者である場合にはとくに許しがたいものだ。移民女性や被買春女性に対する強引な取り締まりとともに、これをやめさせるべきだ。

  その他の聞き取り調査と机上調査

 報告書の8ページ目には、アムネスティが調査の過程でノルウェーで話を聞いた他のさまざまな人物が掲載されている。その一人は法務大臣だ。アグネテ・ストレームの説明によると、アムネスティの報告書が発表された直後に、彼は自分の貢献がアムネスティによってどのように扱われたかについてメディアで不満を訴えた。彼はアグネテに次のように語っている。

 「アムネスティは私に自分の引用をチェックする機会を与えてくれたが、その後は、どのように引用を使用するか、どのような設定で使用するか、どのような焦点で使用するかなどについては私の手はまったく及ばなかった。アムネスティ・インターナショナルは、自分たちのイデオロギーと政治をすでに作り上げていて、自分たちの政策に合わせて引用文を使っていたのだと思う。」

 彼らが聞き取り調査した、唯一の親「北欧モデル」のノルウェー人学者も、ほとんど同じように扱われた。アグネテ・ストレームは次のように説明している。

 「Kotsadam という研究者は、売買春に関してフェミニスト的見解を持っていて、ノルウェーの北欧モデル型立法が及ぼした影響について研究した唯一の学者だ。彼は若い経済学者で、若い男性の社会変化、需要、市場、お金と犯罪組織、ヨーロッパ諸国での人身売買、売春に関する法律などを研究していて、彼の研究は興味深いものだった。彼のものは何も引用されていないが、アムネスティは彼の論文の一つに、2009年の法律施行から8ヶ月後には、売ることも買うことも両方犯罪化すべきだと考える人がわずかに増えていることを発見した。私が彼にコメントを求めたところ、彼はこう述べた――『彼らが引用しているものには嘘はないとはいえ、彼らは自分たちに都合のいい部分だけをピックアップして利用したのです』。」

 それとは対照的に、北欧モデルにイデオロギー的に反対している3人のノルウェー人学者は大々的に引用されている。ビョーンダールについてはすでに論じた。アムネスティは、他の2人、スキルブレ―(Skilbrei)とヤンセン(Jahnsen)について、それぞれ42回と24回言及している。

 欧州議会がハニーボール報告書(性的搾取と売買春およびそれらがジェンダー平等に及ぼす影響に関する報告書)を議論して、北欧モデルの採用をEU諸国に勧告することになったのだが、スキルブレーとヤンセンは、北欧モデルは効果がなく危険であるという理由で、それに反対する請願書を組織した。

 前述したように、ノルウェー政府は2014年に北欧モデル法の運用評価をビスタ・アナライズに依頼した。その主な結果は以下のようなものだった。

 「性的サービスの購入禁止は、セックスに対する需要を減少させ、その結果、ノルウェーにおける売買春の程度を減少させることに貢献している。この法律が施行されたことで、人身売買やピンプ行為に対する法律と相まって、ノルウェーは売買春に基づく人身売買にとって、法律が採用されていなかった場合に比べて魅力的な国ではなくなった。さらに、この法律が施行されたことで、ノルウェーの売買春の経済的条件が低下した。これらの効果は法律の意図に沿ったものであり、意図しない副作用とはみなせない。本報告書では、買春の禁止が施行されて以降、売春婦に対する暴力が増加したという証拠は見つかっていない。」

 スキルブレーとヤンセンはこの評価を激しく批判し、アムネスティはその批判を熱烈に引用した。あたかも、スキルブレーとヤンセンがイデオロギー的にひどく偏った思考の持ち主ではないかのように。

 以上の話は十分ひどいものだが、これよりひどいものがないかのように考えるとすれば、間違っている。というのもアグネテ・ストレムは、アムネスティが参照している調査の多くが実は2009年に北欧モデルが導入される以前に実施されたものであることを発見しているからである。

  結論

 この記事は、アムネスティのノルウェーでの調査を全面的に批判するものではない。その目的はただ、アムネスティの調査におけるとくに顕著な欠点を指摘することだけだ。

 私たちは、買春されている個々の人が買春されているという理由で差別されたり標的にされたりすべきではないという点ではアムネスティに同意するが、アムネスティの分析の多く、とくに、売買春から大金を稼いでいる業者と買春者をも完全に非犯罪化しようとするその姿勢には同意できない。

 私たちは、「セックスワーク」や「セックスワーカー」という言葉を拒否する。なぜなら、それらの言葉は現実を混乱させ、曖昧にし、売買春は例えばウェイトレスと同じような仕事であるかのように示唆しているからだ。これ以上真実からかけ離れたものはない。

 また、私たちは、この種の主張の根底にあると思われる前提にも同意しない。すなわち「セックスワーク」は単なる一職業以上のものであり、「セックスワーカー」であることはアイデンティティの一形態であるというような前提だ。これは、売買春と、そこにいる人々とを同一視するようなものであって、私たちはそれを絶対的に拒否する。

 世界で売春をしている人々の大多数にとって、売買春は惨事であり、不運と複数の構造的不平等とが交差した結果である。私たちは、買春される人々は、男性の性的満足やその自己満足のために利用される以上の価値があると信じている。

 弱い立場にある人々に対する性的アクセスを購入する男性の権利のために闘うのではなく、そしてピンプ行為や売春店の経営者がこれらの弱い立場の人々の苦痛と苦しみから金を稼ぐのを助けるために闘うのでもなく、アムネスティは、人々を売春に追い込む構造的不平等の土台を破壊し、その悪夢の中で身動きが取れなくなっている人々のために真の代替案を求めて闘うべきであり、私たちはアムネスティがそうすることを願っている。

 以上見たように、アムネスティのノルウェー調査はきわめて偏った質の低いものであり、それを利用して「北欧モデルは機能していない」とか「北欧モデルは売買春の中の女性を危険にさらす」などと主張する正当な根拠は存在しない。

出典:https://nordicmodelnow.org/myths-about-prostitution/myth-amnestys-research-in-norway-has-proved-the-nordic-model-is-harmful-to-sex-workers/

https://appinternational.org/2020/10/28/mith_of_amnestys_research_in_norway/
アムネスティによるノルウェー調査の欺瞞























【解説】ここに訳すのは、Nordic Model Now! に最近掲載されたものです。昨年末、イギリス議会に最初の北欧モデル型の立法案がダイアナ・ジョンソン議員(労働党)によって提出され、第一読会(法案の最初の討議。提案者によって趣旨説明がなされる)が開催されました。この討議の中で、反対討論に立ったのは同じ労働党のリン・ブラウン議員でした。この記事では、リン・ブラウン議員による異論に直接反論し、北欧モデル法への支持を訴えています。

アナ・フィッシャー

Nordic Model Now!, 2021年1月11日

  はじめに

 ダイアナ・ジョンソン国会議員は最近、英国議会に性的搾取防止法案を上程した。もし可決されれば、イングランドとウェールズの売春法と売買春政策に北欧モデル型のアプローチが導入されることになる。その内容は次のように説明されている。

 「セックスを買うことを犯罪化し、セックスを売ることを非犯罪化し、他人の性的搾取を可能にしたり、他人の性的搾取から利益を得たりすることに関わる罪状を創設し、オンラインでの性的搾取に関連する条項を設け、性的搾取の被害者への支援サービスを提供し、およびその他関連する目的のための法案。」

 この法案は、10分ルールの下、私人議員法案として導入された。議会のウェブサイトでは、「10分ルールの法案は、法案を成立させようとする真剣な試みというよりも、既存の法律の主題や側面について意見を述べる機会であることが多い」と説明されている。

 いずれにしてもこの法案は、北欧モデルのアプローチの認知度を高め、それがかなりの国民の支持を得ていることを示す絶好の機会を提供している。したがって、私たちはすべての国内支持者に、自分の選挙区の国会議員に手紙を書いて、同法案を支持するように訴えることを奨励したい。

 2020年12月9日の第一読会〔イギリスの立法過程の一つで、下院で最初に法案の説明と質疑がなされる場〕では、ダイアナ・ジョンソンが力強く同法案を支持し、ウエストハム選出の労働党議員リン・ブラウンが反対意見を述べた。

 この記事では、リン・ブラウンが行なった主張(他の人もしばしば同じ主張をしている)のいくつかを取り上げ、その多くが誇張されていること、あるいは堅固なエビデンスによって裏づけられていないことを示す。

 「過去を忘れる者は、それを繰り返す運命にある」

 ジョージ・サンタヤナ〔アメリカの哲学者〕が「過去を忘れる者は、それを繰り返す運命にある」と言ったことは有名である。これは、莫大な利益を上げる危険な産業を扱うとき最も真実味を帯びる。

 アスベスト産業を考えてみよう。1906年にはアスベスト繊維が人々の健康に与える影響が懸念されるようになっており、1950年にはすでに、アスベストが致命的な肺疾患を引き起こし、ゆっくりと痛みを伴う早死にを引き起こすことは疑いの余地がないものになっていた。しかし、英国でそれが全面禁止にされたのはようやく1999年になってのことなのである。

 科学的厳密さを誇る近代民主主義国家において、どうしてこの危険で不必要な材料の使用が禁止されるのに何十年もの長い年月を要したのだろうか? これを理解する鍵となるのは、アスベストが非常に儲かる素材だったということだ。莫大な富がアスベストからつくり出されている一方で、アスベストによって生命を脅かされた人々の大多数は貧しい労働者階級の男女だった。彼ら・彼女らの貧困と沈黙は、アスベストがもたらす慢性的な健康悪化と痛みを伴う早死によっていっそう悪化した。

 言いかえれば、それは非常に不平等な土俵だった。資本家たちは自分たちの声を聴かせることができたし、ジャーナリストや学者、政治家を買収することができた。彼らのプロパガンダは、アスベストが誰にとっても生活をより安全にする奇跡の物質であるという安直なストーリーを作ることができた。いったい誰がこの幸せで高揚感のある物語を中断して、労働者階級の男女が慢性的な病気に苦しみ、ゆっくりと苦しい早死を遂げ、その結果として家族が貧困に陥り、苦しんでいるという話を聞きたいと思うだろうか?

 しかし、アスベストの被害を否定することができなくなってくると、資本家たちはこれまで以上に独創的な戦術を考え出した。彼らは、アスベストには確かに危険なものもあるが、業界で使用されているのはその種の危険なものではないと言ったのだ。彼らはアスベスト研究調査協会のような中立的な名称のロビー団体を設立した。不都合な結果を発表した科学者を中傷したり嫌がらせをし、逆に、言うことを聞く科学者には資金をたっぷり提供して、リスクはないと主張させたり、たとえリスクがあっても、それは小規模でごくたまに起こるものでしかなく、容易に軽減することができると主張させたりした。

 このため、人々は何が起こっているのか真実を見て理解することが非常に難しくなり、その結果、アスベストの使用が広まっていった。このような手練手管と戦術を理解することは重要だ。似たような戦術は、たばこロビーも使っていたし、今日でも、性産業のためにロビー活動を行なう人々を含め、他の多くの儲かる分野で使われているからだ。

 アスベストやたばこ産業と同じように、性産業も莫大な利益を生み出す。しかも、しばしばごくわずかなリスクでそうした莫大な利益を上げることができる。たとえば、ダイアナ・ジョンソン議員は演説の中で、自分の売春店から1年間で160万ポンドを稼いだイギリス人男性について言及した。

 もちろん、彼や他のすべてのピンプや売春店のオーナーたちは、合法的なビジネスマンとして見られたいのであって、最も弱い立場にある女性や少女の苦しみから搾り取る薄汚い犯罪者として見られたくはない。もちろん、彼らは長い刑期を刑務所で過ごすことを望んでいない。それゆえ、彼らは自分たちの利益のために容赦なく闘うだろう。だから、昔のアスベスト資本家たちが好んで用いた戦術の多くを用いても不思議ではない。

 そしてもちろんのこと、売買春やポルノ、ストリップダンスなどで満足している男たちは、それを神から与えられた「権利」と考え、自分たちの「自由」を制限しようとするいかなる試みとも闘う。多くの男性が、性産業ロビイストの歪曲と甘言を繰り返したがるのは、驚くべきことではない。そして悲しいことに、多くの女性たちも自分たちを取り巻く男性に頼っており、自分たちの均衡を乱すことになるのを直感的に恐れている。そして、彼女たちもまた、誤った情報と嘘の網から自分たちの本当の利益をまだ解き放たっていないがゆえに、性売買ロビイストのプロパガンダを繰り返しているのである。

  アカデミズムにおける性売買ロビイストの支配

 性売買ロビー団体はメインストリームの物語(ナラティブ)を支配することに成功してきた。それゆえ、多くの研究・教育機関において、「セックスワーク」は女性にとってエンパワーメントになり、普通の仕事の一種であり、唯一の問題は、セックスワークに内在する何らかの問題ではなく、それに対する取り締まり方や人々の否定的な態度(「スティグマ」)であるという見方が支配的になっている。そして、その見方から離れてしまうと、研究者が仕事を得たり、仕事を維持したりすることは困難であり、資金を提供されなくなり、研究者として認められることさえ難しくなるのだ。

 私たちはこれまで、イギリスにおける多くの売買春研究が、知的誠実さや厳密さを驚くほど欠いており、その主たる主張でさえ何らエビデンスによって裏づけられていないことを明らかにしてきた。たとえば、ハダースフィールド大学によるホルベックの赤線地帯に関する最近の研究、ベルファストのクイーンズ大学による北アイルランドにおける北欧モデルの実施に関する研究、アムネスティ・インターナショナルによるノルウェーにおける北欧モデルに関する研究などがそうである。

 したがって、完全な非犯罪化が最善のアプローチであり、北欧モデル(ピンプは刑務所に放り込まれ、買春者は摘発される)が最悪だと学術的に証明されていると主張する性売買擁護派の人々の主張を耳にしても、私たちは一定の懐疑心を持ち続ける必要がある。

  フランス

 リン・ブラウン議員はその演説の中で、2016年に北欧モデルがフランスで導入されて以来、「セックスワーカー」はより多くの暴力にさらされ、警察との関係を悪化させ、コンドームを使用する可能性が低くなっていることを示唆するフランスのNGO「世界の医療団」の調査からの統計を引用した。それらが示唆しているのは、北欧モデルがこれらいっさいの原因であるということだ。しかし、別のフランスのNGOであるAmicale du Nidは、「世界の医療団」の調査に対する回答を書いている。それが示しているのは、ホルベック、北アイルランド、ノルウェーの調査研究の場合と同じく、そこでなされている大げさな警告の多くが実際のデータと矛盾している事実である。

 さらに、それらの聞き取りや調査はすべて2018年2月末までに完了しているが、それは北欧モデル法が可決されてから2年も経っていない。以前とはあまりにも異なる制度を導入しているというのに、ほとんど時間が経っていないということだ。フランスは、6600万人もの人口と18もの行政地域に分かれ、各地域がさらに多数の部門に分かれている大国だ。この新制度を実施する責任の多くは地方自治体や広域自治体に委ねられており、どの程度徹底してこれが実施されているかには地域によってかなりのばらつきがある。

 このことは2019年の公式評価でも確認されており、検察官や県(préfets)役人を含む主要な高官からのアプローチへのサポートが不足している場合には、実施はあまり成功していないことが明らかにされている。フランスの一部の地域は、買春者を起訴し、売春に従事している女性のためのサービスを提供することにほとんど、ないしまったくコミットしていないようだ。このことが意味するのは、フランスの一部地域では北欧モデルが実際に実行に移されていないということだ。

 たしかに「世界の医療団」の調査では、「セックスワーカー」が暴力にさらされていることが明らかになったが、これが大幅に増加したことや、北欧モデルの結果であることを示唆するエビデンスは何もなかった。実際、公式の評価でも、そのような暴力が増加したというエビデンスは見つかっていない。

 暴力は売買春そのものに内在しているのであり、実施されている政策や立法のいかんに関わらずそうだ。だからこそ、私たちが考える唯一の倫理的アプローチは、売買春の量そのものを減らし、売春に巻き込まれる新たな女性や少女の数を減らすことであり、その一方で、すでに売春に巻き込まれている人々には、離脱と真の代替手段を提供することなのである。これこそが、北欧モデル型アプローチが達成しようとしていることだ。

 「世界の医療団」の調査に対する全面的な批判については、Amicale du Nidの回答を参照してほしい。

 北欧モデルは売春を「地下」に追いやる、等々の主張

 リン・ブラウン議員は、性売買の完全な非犯罪化を主張する人たちがよく口にする他のいくつかの主張を繰り返した。たとえば、北欧モデルは売春に従事する女性への暴力を増加させるだけでなく、彼女たちをより貧しくさせ、警察との関係を改善することができず、売春を「地下」へと追いやる、云々と。

 スウェーデンは、北欧モデルのアプローチを導入した最初の国であり、フランスその他の国でまだ見られる法施行上の問題の多くを解決するための十分な時間と政治的な意志を持っていた。そこで私は、スウェーデンの売春経験を持つ人々の団体「#intedinhora」の代表であるリアさんと連絡を取って、彼女にこれらの主張を伝えた。彼女は熱心にそれらの主張を正した。

 彼女は、スウェーデンでの売春の価格は、性売買が容認されているヨーロッパ諸国よりもはるかに高いと述べた。「このことは買春男たちを怒らせています」。「オンラインフォーラムでは、ここスウェーデンの『娼婦』がいかに『甘やかされているか』や、価格がスウェーデンの半分以下であるドイツのようになればいいのにと話しているのをよく見かけます。このことが意味しているのは、私たちが生きていくためには、あまり多くの買春男を相手にする必要がないということであり、私たちが不快なときにはノーと言うことができるということです」。

 彼女は、北欧モデルが売春を地下に押しやっているという主張に対して、買春男が公然と買春したいと思っている国が世界のどこかにあるかと問うことで反論した。彼女は言う、「彼らは妻やガールフレンド、雇用主に知られたくないし、いずれにせよほとんどの人がプライベートで買春したいと思っているので、法律はこの点ではほとんど違いはありません」と述べた。「いくつかの国では、買春が公共の場で行なわれるという事実は、売春がより安全であることを意味するものではありません。アムステルダムの赤線地区の小さな部屋でで毎年女たちは殺されています。しかし、スウェーデンでは1999年に買春者処罰法が制定されて以来、売春者が殺される事件はまだ1件も報告されていないのです」。

  ニュージーランド

 議会での討論では、リン・ブラウンがニュージーランドでの売買春の取り組みについて肯定的に語った。

 「私は、女性が自分の望む人生を切り開く力を持てるような政策を作らなければならないと思っています。ニュージーランドでは、被害を減らし、セックスワーカーが自分たちの権利と正義にアクセスできるようにすることに重点が置かれています。このような改革により、セックスワーカーは訴追の恐れなく、より安全に共同で働くことができるようになりました。ニュージーランドでは、人々にセックスワークを強制したり、受け取ったお金の分け前を提供したりすることはもちろん違法であり、セックスワークは通常の労働形態として扱われ、課税されているため、通常の法律がすべて適用されます。私の見解では、ニュージーランドの証拠はポジティブであり、警察への信頼が向上し、犯罪の報告が増え、セックスワーカーの安全と健康が改善され、何よりもセックスワーカーが顧客を拒否する能力が増したことが挙げられます」。

 これは私たちが何度も何度も耳にしてきた言葉だ。しかし、ニュージーランドの状況は本当にそんなにバラ色なのだろうか? エビデンスは何を語っているだろうか?

 ニュージーランドは2003年に法律を改訂して、性産業のすべての側面を非犯罪化する売春改革法(PRA)を可決した。この法律の背景にある意図は、売買春に従事する女性のために事態を改善することであり、これがこの法律に投票した多くの人々の動機であった。このことに疑いの余地はないし、法律の影響と売春女性の数を長期的に監視するための条項が盛り込まれていた。

 しかし、ヘレン・ジョンソンとトニー・ピットによるPRAの運用に関する新しい学術研究によると、このアプローチの利点は非常に誇張され、その欠点は「無視され、否定され、隠されてきた」ことがわかった。

 PRAの運用に関する公式の調査は、13年前の2008年に行なわれた1回だけである。フランスの「世界の医療団」の調査と同様に、その主要な結論はデータによって十分裏づけられたものではなかった。

 2008年の調査では、たとえば、かなりの闇市場が存在するというエビデンスが見つかっており、女性が暴力を通報しやすくなっているというエビデンスは何もなかった。PRAは、女性が個々の客や行為を断る権利を明記しているにもかかわらず、女性が自分の意思に反して客を取ることを強要されたり、危険で不愉快な行為に従事したりすることを強要されていることを発見した。しかもしばしば売春店の経営者によってそれがなされていた。報告書は多くの提言をしているが、12年経った今日でも実行に移されていない。

 2008年以降、PRAの運用に関するさらなる公式評価は行なわれておらず、情報公開の要請に答えてニュージーランド司法省は、今後もその予定はないと述べている。

 ジョンソンとピットはまた、この業界に関わる女性の数を追跡しようとする真剣な試みが何らなされていないことを明らかにした。2008年の調査で報告された数字(2332人)は今でも頻繁に引用されているが、NZPCは2019年上半期だけで7416人が売春に従事したと報告している。つまり、従事者の数は少なくとも2008年の3倍、おそらくそれ以上に大幅に増加しているということだ。

 PRAは売春店の定期的な検査を義務づけている。しかし、ジョンソンとピットの調査によると、2015年まで3大都市(オークランド、ウェリントン、クライストチャーチ)では1件も売春店の検査が実施されておらず、それ以降は公的資金が投入されていないため、実施されていない可能性が高いという。ニュージーランドの他の地域では、2015年以前の10年間に11件の売春店の検査が行なわれただけである。

 PRAは女性に客や特定の行為を断る権利を与えているが、実際にはピンプや売春店の経営者による強要が横行しており、女性は耐えられなくなったら他の売春店に移るのが一般的である。ジョンソンとピットは、「2009年以降、性行為の強要が多発しているとの報告があるにもかかわらず、法の下で起訴されたのは2件しかない」と述べている。

 ニュージーランド政府は、売買春に関する問題については、ほとんどNZPC(New Zealand Sex Workers’ Collective)に頼っている。NZPCは、売春女性から出された苦情、照会、懸念に関するデータを収集する契約を結んでいる。ジョンソンとピットは、彼らが契約に基づいてこの義務やその他の義務を果たしておらず、ニュージーランド政府は契約に基づいて彼らのパフォーマンスを監視していないことを明らかにした。

 NZPCはニュージーランドの売買春に関する問題を独占しているロビー団体である。彼らは年間100万ドル以上の政府資金を受け取っている。女性の売春産業からの離脱を支援することがPRAの目的の一つであり、2008年の聞き取り調査では85%の人が売春からの離脱を希望していると答えているにもかかわらず、NZPCは性産業からの女性の離脱を支援するサービスを何ら提供していない。そしてニュージーランドには公的資金で運営されている離脱支援サービスは他に存在しないのだ。その一方で、NZPCは売春店経営者や売春店の開業を検討している人に多大な支援を提供している。

 NZPCは、ニュージーランドの売春に多くのギャングが関与していることや、売買春での子供の搾取や人身売買が実際に問題になっていることを否定しているが、メディアや米国のTIP報告書では、これらのことを示す重大で非常に厄介なエビデンスが暴露されている。にもかかわらず、NZPCがこれほど効果的に国際的な支持を獲得することができたこと、そしてジョンソンとピットが言うように、今なお獲得しつづけていることは非常に憂慮すべきことである。

 「法律の影響を誤って伝え、大規模な国際会議で定期的に講演を行なって、ニュージーランドの非犯罪化システムの成功を謳っているが、安全衛生検査が行なわれていないのに検査が行なわれているとほのめかしたり、離脱サポートを提供していない事実や、PRAが強制、暴力、虐待を減少させたというエビデンスがないという事実を無視するなど、誤解を招くような情報を用いている」。

 ジョンソンとピットは以下のように結論づけている。

 「このような状況では、法律の『成功』に関して行なわれた主張を正当化するのは難しい。というのも、法律の影響がまったく調査されていないのが現状だからだ。性産業への手放しのアプローチは、その中で起こっている搾取や虐待を含め、性産業についてのきちんとした調査や監視が行なわれていないことを意味する。事実上、エビデンスの収集が行なわれていないことは、実際には収集すべき被害のエビデンスがないということを意味すると解釈されてきた。これは端的に言っておかしい。」

  最後に…

 アスベストで人生を台無しにされた人たちを擁護する人たちがお金を儲けることがなかったのと同じく、売買春やその他の性産業によって人生を台無しにされた女性や子供たちを擁護する人たちがお金を儲けることはない。またその活動にはいかなる華やかさもない。それどころか、それは多くの非難と攻撃を受ける。

 私たちはしょっちゅう、男を憎む反セックス嫌悪者として描かれ、「極右」から巨額の資金を受け取っているなどと非難されている。ノルディックモデル・ナウ!は完全に無給のボランティアによって運営されている草の根組織であり、私たちはかつかつの財政状況で運営されており、唯一の資金源は、個々の支持者からの寄付(ほとんどが少額の)であることを示す年次財務諸表を公開しているにもかかわらずだ。

 私たちは、性産業で搾取されている女性や子供たちの苦しみを増大させているとさえ非難されている。たとえば、完全な非犯罪化を提唱しているゲイの男性ポルノ俳優「ジェイソン・ドミノ」は最近、こんなツイートをしている。



 これは、アスベストによって生活を破壊された女性や男性を擁護する人たちが、彼ら・彼女らをより貧しくし、より病気にさせ、仕事を奪おうとしていると言うようなものだ。あまりにもナンセンスで、どこから手をつけていいのかわからないほどだ。しかし、性産業のロビイストたちはこうやって反対派をつぶすことで、自分たちのプロパガンダを見破る人がますます少なくなることを確信している。

 ほとんどの人は、この国の何千・何万人もの「普通の」男たちが毎日お金を払って、弱者である女性や子供を性的に利用し虐待して生涯にわたって被害を与えているとみなすことに抵抗を感じている。むしろ、売春に携わっている女性たちは旺盛な性欲と進取の気性に富んだ人々で、家族を養うため、貧しい孤独な男性に必要とされるサービスを自ら提供しているのだと考える方が、恐ろしい現実を直視するよりもはるかに容易だ。

 性産業における女性と少女の性的搾取から直接ないし間接に利益を得ている多くの個人、ビジネス、企業は、自分たちが、人々の苦しみや病気、早死から利益を得ていたアスベスト産業の所有者や投資家とほとんど変わらないことを理解しようとしない。彼らは、自分たちが餌食にしている人々の苦しみの現実を見ようとしないし、他の人々にも見てもらいたくないと思っている。アスベスト資本家たちが人々に真実を理解してほしくなかったのと同じだ。

 ピンプとその工作員たちは、最高レベルの国内組織や国際組織に深く浸透し、そこでのアジェンダを設定することに成功している。たとえば、アムネスティ・インターナショナルは、完全な非犯罪化のためにロビー活動を行なう方針をとっている。このアムネスティの政策の元となった原案を書いたのが、当時イギリス最大のエスコート売春会社の一つであったChristony Companionsの創設者でありビジネスパートナーであったダグラス・フォックスであったことは広く知られている。ダグラス・フォックスが「国際セックスワーカーズ・ユニオン」の活動家であったことは注目に値する。この中立的に聞こえる名称は、アスベスト資本家たちの「アスベスト研究協会」を彷彿とさせる。

 UNエイズと世界保健機関(WHO)のガイドラインは、ニュージーランド式の完全非犯罪化を提唱しているが、このガイドラインは、ピンプであったアレハンドラ・ジルが共同議長を務めるグローバル・ネットワーク・オブ・セックスワーク・プロジェクト(NSWP)の諮問グループによって作成されたものだ。フェミニストの作家であり活動家でもあるカット・バニャードはこれを人権スキャンダルと表現しているが、実に言い得て妙だ。しかし、リン・ブラウン議員はWHOが北欧モデルに反対していることを利用して、討議における自分の主張に重みを与えることに躊躇しなかった。

 リン・ブラウンはまた、ロイヤル・カレッジ・オブ・ナーシング(RCN)〔イギリスの看護師労働組合〕が性売買の完全な非犯罪化を支持していることも、自分の主張を裏づけるために利用した。しかし、RCNの方針は、誤解と混乱を招くような動議に基づいた一方的な「討論会」(30分ほどしかなされなかった)の後に可決されたものだ。その動議が何をめざすものであるかを明確かつ詳細に説明していたとしたら、成立していたかどうかは疑問である。

 このようなやり方では良い政策は生まれようもない。私たちはリン・ブラウン議員に対して、さらなる調査を行なうこと、そして、性産業から離脱して安全な場所にいることで自分たちがかつていた状況について考察し理解することができている女性たちから話を聞くことを求めたい。私たちも、彼女や他の政治家たちと面会して説明したいと切に願っている。

出典:https://nordicmodelnow.org/2021/01/11/dame-diana-johnsons-sexual-exploitation-bill-the-debate/

https://appinternational.org/2021/02/07/diana_johnsons_sexual_exploitation_bill/
アナ・フィッシャー「ダイアナ・ジョンソン議員の性的搾取防止法案への支持を」




https://www.ucd.ie/geary/static/serp/Shifting_the_Burden_Summary.pdf







【解説】2016年にフランスで北欧モデル型立法が成立しましたが、それに対して世界中のセックスワーク派が執拗な批判と攻撃を加えています。彼らの言い分は常に同じでワンパターンですが、フランスに即した議論はこのサイトでは行なっていませんでした。このたび、フランスの立法に対する典型的な批判を行なった「世界の医療団」の調査報告書に対するフランスのアボリショニスト団体 Amicale du Nid の反論が Nordic Model Now! に掲載されたので、NMN および Amicale du Nid の許可を得て、ここに訳出します。

Nordic Model Now!, 2021年1月2日

 2018年4月、「世界の医療団(メドゥサン・デュ・モンド)」〔フランスの医師によって1980年にフランスで設立された国際NGO団体〕は、2年前にフランス国民議会で可決された「北欧モデル」型立法の運用について、彼らが行なった調査結果を公表した。80ページにおよぶ報告書は「セックスワーカーはフランス売買春法についてどのように考えているか(What do sex workers think about the French Prostitution Act)」と題されており、北欧モデルは機能しておらず、「セックスワーカー」にとってより危険な状況を作っていることを示すものとして、広く引用されている。

 私たちは、報告書の全文が英訳されているかどうか知らないが、8ページの英語のサマリーは利用できる。残念ながら、サマリーの見出しの主張は誤解を招くものであり、報告書全体のデータによって裏づけられていない。その結果、英語圏では知らず知らずのうちに見出しの主張が額面通りに受け取られていることが多い。たとえば、ウェストハムの労働党議員リン・ブラウンは、2020年12月9日に行なわれたダイアナ・ジョンソン議員の性的搾取防止法案に関する討論会での演説の中で、このサマリーを引用している。

 フランスでは、「世界の医療団」の調査に対する本格的な批判が行なわれているが、これまで英語では公開されていなかった。そこで、フランスのNGOであるAmicale du Nidが、この調査に関する覚書の英訳版を公表する許可を与えてくれたことを光栄に思う。

「世界の医療団」の調査に関する覚書

Amicale du Nid

  方法論

 この調査には質的要素と量的要素がある。質的要素は次のようなものである。

・70人の売春従事者への個人聞き取りと、ワークショップや集団聞き取りを通じた38人の相談。

・フランス全体の売春従事者を支援する諸団体との24回の個人聞き取りと集団聞き取り。

 10の団体が調査を監督した。特筆すべきは、運営委員会に参加している10の団体のうち9つがみなこの法律の導入前に同法に反対の立場をとっていたことである。

 量的調査は、9つの団体を通じて売春従事者に配布されたアンケートで構成されている。このアンケートには583人の回答があった(そのうち16%近くがSTRASS経由での回答)。

 報告書の筆者たちはバイアスがある可能性に注意している。聞き取りとアンケートは、売春に関わる人々を支援している団体が手配し、配布したものである。回答した人々は、一般的に、彼女らにこの調査のことを紹介した団体がすでに信頼関係を築いていた人々であった。その結果、「回答者が、この団体の公の目的に沿って回答する可能性がある」。

 量的調査について、報告書は「この結果は、[…]フランスで売春に関与しているすべての人々を十分に代表しているとは考えられない」とし、「この法律の成立前と成立後における自分たちの行動を覚えているかどうかを尋ねているため、記憶にバイアスがかかっている可能性がある」としている。

  調査の時間枠

 聞き取り調査は2016年7月~2018年2月に実施された。アンケートは2018年1月11日~2月2日に配布された。

 報告書では、売春従事者の離脱サービスの実施状況を評価するのは時期尚早だとしている。しかし、買い手への処罰については、大きく異なるスタンスを取っている。法律が適用されている地域は限られているものの、購入者に処罰が課せられる可能性があるというだけですでに売春従事者に悪影響を与えていると想定している。

I. 性行為の購入禁止

 買春客の数について

・本調査の仮説(他のいっさいが導き出される主要な仮説)……セックスの購入が禁止されたことで、客の数が減少した。

・データが実際に言っていること……この減少は、路上売春の関係者によって「ほぼすべての聞き取り調査で言及されている」。インターネットを介した売春に関わっている人からの回答は「より多様である」。

 この仮説を裏づける量的データはない。

・補足……回答者の主観的な感覚を超えるためには、より詳細な量的調査が必要である。本調査では、主要な仮説(買春客の減少は2016年4月13日の法律の直接的な結果であるという)を検証する明確な証拠を提供していない。

 客の減少が確認されたとしても、法律との関連性を検証することはできない。本調査は次のように認めている。「サーベイをした2人は、客の減少と法律との関連性に疑問を投げかけている。彼らは、その説明の代わりに、客が減少したのは競争の激化と経済危機のせいではないかと考えている。[…]客の減少が法律の結果なのか、それとも新しい法律がすでに進行中であった傾向とインターネットを通じたコンタクトへの移動を促したにすぎないのか、疑問である」。

 しかし、もし本当に客の減少が確認されるのであれば、それは朗報だ。需要の減少は、売春システムとの闘いを目的とした同法の望ましい効果の一つである。

  不安定性(precariousness)について

・本調査の仮説……客数の減少は、売春に関わる人々の収入の減少につながり、その結果、不安定さにつながる。

・データが実際に言っていること……データはたしかに不安定さを示している。質問された売春従事者の78.2%が2016年4月以降の収入の減少を報告し、62.9%が「生活の質」の悪化を報告した。わずか4つの例外を除いて、聞き取り調査を受けた人全員が収入の減少を報告している。

・補足……売春に携わる大多数の人々がきわめて不安定な状況に置かれているのは、新法を待つまでもなかった。この調査でも、「2016年4月以前は、多くの者〔売春に携わる人々〕が貧困の中で生活していた」と認識されている。

 現段階では、収入の減少と法の施行との関連性は検証できず、時期についても疑問が残る。筆者らは、一部では2013年以降の所得の低下について言及している(2013年は国会審議の開始時期に相当すると主張しつつ)。この法律と買春者の減少との関連性についての議論は、ここでも同様に当てはまる。

 しかし、性行為の購入を禁止することが、売春の中の人々の不安定さの増大につながる可能性があることを考慮しなければならない。したがって問題は売買春に対するオルタナティブである。買い手の犯罪化と並行して、これらの人々に何を提供するかである。

 フランスの法律は4つの柱に基づいている。「人身売買との闘いの強化」「予防」「売春に携わる人々への支援」「性行為の購入禁止」である。しかし、法律の施行には問題がある。とくに、抑制的・社会的な側面の適用と、社会的支援に割かれる資源の不足との間にギャップがある(これらの知見は、以下で説明するように、この覚書の執筆者も共有している)。

  暴力への曝露について

 本調査の仮説……買春客の数の減少とその結果としての不安定さの増加は、売春に携わる人々がより多くのリスクを冒し、より孤立していることを意味し、それが彼らがこうむる暴力の増加につながっている。

・データが実際に示していること……量的調査は、暴力が増加しているという結論を裏づけるものではない。45.5%の人がアンケートで変化がなかった、9.3%が改善した、42.3%が悪化したと回答している。

 質的調査は暴力の増加について語っているが、次のように注意書きをしている。

 「多くのソーシャルワーカーは、新法と暴力の増加との関連性について慎重な姿勢を保っている。というのも、同じ期間中に、被害者が暴力について語れて支援を受けられるようなスペースを多くの団体が構築してきたからである。そのような措置を取らなかった諸団体は次のように示唆している。この間、信頼感がアップして、それが暴力について回答する人が増大したことの背景にあるかもしれないと」。

 このことが示唆しているのは、暴力が増加したというよりも、被害者が暴力について自由に話すことができるようになったと感じているため、暴力がより目に見えるようになったことだと思われる。

・補足……ここでの分析は、売買春に関連する暴力のみを考慮に入れている。売春に携わる人々は、立法状況のいかんに関わらず、そのような暴力に過剰にさらされている。2016年以前のフランスですでに彼女らは暴力に過剰にさらされていた。

  売春婦と客の間の力関係について

・本調査の仮説……買春客と売春従事者との交渉における力関係が悪化し、売春従事者にとって不利益なものになっている(あるいは以前は売春従事者にとって有利だったのにそれが逆転した)、というのは、買い手は法の下で制裁を受けるリスクを負っているのは自分たちだと考えているから〔それなりのサービスをするべきだと売り手に無理に迫ってくるから〕である。

・データが実際に示していること……この調査では、交渉の指標としてコンドームの使用に焦点を当てている。量的調査では、そのような変化があったと結論づけることはできない。回答者の50%はそのような変化を観察していない、38.3%は以前ほど容易ではないことがわかったと答え、6%は以前より容易になったと言っている。質的調査では具体的に「大多数の人々はそういうのが以前から常にあったことを覚えている」と述べられている。

・補足……筆者たちは、法律以前には、売春従事者にとって力関係は有利だったのではないかと示唆している。これは間違っている。売買春システムの根底には、家父長制と経済的不平等がある。権力を持っているのは常に買春客である。

  売春の場所について

・本調査の仮説……買春客の減少と売春従事者の不安定さから、客との接触に関して、より隔離された場所やインターネットを介したものを求めるようになっている。

・データが実際に述べていること……質的調査では、「一部の人々は[…]目につかない場所に移動した」あるいは「インターネットに移動した」としているが、「団体への聞き取りによると、このような変化は都市によって大きく異なるようだ」としている。本調査はまた、「調査を受けた人たちは、アパートで交渉したいという客の需要の増加に言及している」とも述べている。

 この仮説を裏付ける量的なデータはない。

・補足……実際には、目につかない形での売買春は現在ではほとんど当たり前になっている。目につく売買春の減少と、とくにインターネットを通じた目につかない形での売買春の増加は、2016年の法律に端を発したものではない(たとえば、2011年のBousquet / Geoffroy議会報告書や2015年のProstcost調査を参照)。

  売春に費やされる時間

・本調査の仮説……客数の減少と売春に関わる人の不安定さが、売春活動に費やす時間の増加につながる。

・データが実際に言っていること……量的研究はこの結論を支持していない。37.6%の人が売春に費やした時間の増加を宣言し、33.7%が減少、25.8%が変化なし。

  身体的・精神的健康への影響

・本調査の仮説……客数の減少と不安定さの増加は、売春に関わる人々のストレスレベルを高め、健康に有害な結果をもたらす。

・データが実際に言っていること……売春従事者は、不安と身体的苦痛の状態にあることについて語っている。「アルコールや薬物の消費量が増えたと言う人もいる。それは鬱状態を助長している」「ナントのパロマ協会は自殺願望の増加を報告している」。

 この仮説を支持する量的データはまったくない。

 報告書で言及されている健康への影響は、法律が制定されるずっと前から現場で観察されてきたものであり、それには当然の理由がある。

  ピンプ行為について

・本調査の仮説……客数の減少と不安定さの増大は、売春従事者はいっそう「仲介者への依存」(インターネット、マッサージパーラー、海外の売春店などで買い手を探すこと)に陥るようになる。そのため、「自律」の可能性は以前よりも制限されている。

・データが実際に語っていること……質的調査はこの仮説を裏づけるものではない。「法律が成立して以降、調査対象者は仲介者への依存が増えたことに気づいていなかった」「客の犯罪化に反対する人々の仮説の一つに反して、法律は明らかにピンプ行為を助長するものではなかった」。

 この仮説を裏づける量的データはまったくない。

 筆者たちが言及する「自律性の選択」は現実には存在しない。売買春の中にいる人々の大多数はピンプの支配下にあり、そうでない場合でも、自分を偽ることなしに「選択」や「自律性」について語ることはできない(売買春システムの支配力、その中にいる女性たちの脆弱性の諸要因、売春システムへの参入原因などがあるため)。したがって、「仲介者への依存」という表現を用いることは、選択の幻想を強化するだけである。

 むしろ、法律がより寛容な地域(たとえばドイツなど)では、犯罪ネットワークが繁栄していることがわかる。2016年4月13日に施行されたフランスの法律は、ピンプ行為との闘争のための既存の法的手段を強化した。したがって、もし新法がピンプ行為の増大をもたらしたとすれば、まったく予期せぬものだ。それは、同法の目的にまったく反するものだ!

  警察との関係

・本調査の仮説……勧誘罪が廃止されても、客に処罰が科せられても、警察の見方は変わっていない。警察の圧力は依然として高く、増加しているとさえ言える。

・データが実際に語っていること……警察との関係性について収集したデータは以下の通り。アンケート回答者の49.5%が変化が見られない、20.6%が悪化、8.9%が改善と回答した。質的調査では、いくつかの都市で売春禁止命令が続いていることや、身元調査が増えていることが語られている。警察に対する恐怖や不信感は聞き取り調査で語られている。

・補足……これは一般的に私たちも観察していることである。多くの地域では、警察は売春従事者を保護することや、彼女らとの良好な関係を構築することよりも、公の秩序を優先している。

 新しい立法の視点が実際に実施されるように、警察や国家憲兵隊を啓発し訓練する必要がある。これは長期的にのみ可能である。

II. 売春離脱プログラム(PSP)

 離脱プログラムについては、本調査の知見はわれわれと同様である。

1、現実的な評価を行うための視点が不足している。

2、売春離脱プログラム(PSP)は、離脱支援の必要性を表明した売春従事者に応えている (法のこの規定は、「調査対象者がしばしば表明した要求に応えることができた」「調査対象者の大多数が他の仕事をしたいと表明した」「提案された解決策は、表明された要求に応じている」、質問された団体の中では、「誰もがこのプログラムが有益であることを認識している」)。

3、問題はプログラムの実施方法にある。

①情報が不足しており、権利へのアクセスが困難である。

②財政的な手当が少なすぎる。

③追加の資金がなくても、組織はより多くの仕事をしなければならない。

④PSPの具体的な実施のための一般的な資源の不足(特に居住施設へのアクセス)。

⑤部門別の売春防止委員会や、ピンプ行為の禁止、人身売買防止対策の実施が遅れている。

⑥部局間の不平等な扱い。

⑦移民政策との矛盾

⑧PSPプログラムを利用するためには、すべての売春活動をやめることを約束しなければならない。しかし、そのような約束をすることは困難だ(一朝一夕にはできない。売買春から離脱するまでのプロセスは長く、何度も往復する可能性があるからだ。PSPへの参加には準備が必要である)。

⑨社会的統制への恐れと、人々の最善の利益のために、PSPの委員会に何を言ってもよくて何を言ってはいけないのかという問題。(これはAmicale du Nidの見解でもある)。

Ⅲ、結論

1、買春客への処罰については、この法律が売春従事者にマイナスの影響を与えていると断言するには、データが明らかに不十分である。唯一の具体的データは、不安定性に関する数字だけであるが、その解釈には困難があり、データは法律との関連性を確立していない。

 この研究の主な問題点は以下の通りである。現実とはかけ離れた売春肯定言説による偏った分析。それは現実と乖離している。良い客と良い条件での売買春が可能であるとか、売春従事者の自律性と自由な選択というナイーブな信念。
この分析を、何のエビデンスもなく、得られた量的・質的データとも矛盾するのに、非常に大げさな形で提示する報告書のやり方。


2、売春からの離脱ルートを確立する問題については、Amicale du Nid が発見したものと同様の結果が得られている。

出典:https://nordicmodelnow.org/2021/01/02/critique-of-the-medecins-du-monde-study-into-the-nordic-model-law-in-france/

https://appinternational.org/2021/01/20/critique_of_the_medecins_du_monde/
フランス北欧モデル法に関する「世界の医療団」調査報告書への批判

https://www.igas.gouv.fr/IMG/pdf/2019-032r-prostitution-d.pdf


https://2009-2017.state.gov/documents/organization/192597.pdf





【解説】以下の記事は、ドイツのアボリショニストであるエリー・アローさんがNordic Model Now! に書いた記事の全訳です。同サイトの許可に基づいてアップします。もともとはエリー・アローさんのブログに掲載されていたものを編集し直したものです。今回、翻訳するにあたって、もとのブログ記事から一部を補っています。

エリー・アロー

『ノルディック・モデル・ナウ』2019年12月17日

 この記事では、ドイツとニュージーランドからのエビデンスに着目して、以下のことを論じる。成人の売買春を合法化ないし非犯罪化することは、児童買春(または有料レイプ)の蔓延を可能にするような隠れ蓑を作り出し、子供を性的に虐待することに対する男性の個人的・集団的な抵抗力を弱めている。したがって、商業的な性産業を開放することは、常に子供の保護に深いダメージを与えることを意味し、それとは反対の主張が嘘であることを明らかにする。

「どこの売春店の受付に聞いても教えてくれるだろうが、買春客が尋ねる最も一般的な質問は、店にいる最年少の女の子が何歳かということだ。そして、彼らは常に新しい女の子を求めている。彼らができるだけ若い子を好むのは、彼女らを操って、本当はしたくないことをさせるのがより容易になるからだ」――ジャクリーン・グイン

注:国際人権法の下では、児童とは18歳未満の者を指し、児童の売買春に第三者が関与した場合は、力や強制があったかどうかに関わらず、自動的に人身売買の定義に該当する。

  ドイツの合法化体制における子供たち

 「ティーニーランド」はケルンの売春店だ。「ロリータ」と呼ばれる女性は全員、18歳か19歳で、中にはまだ高校生の子もいれば、「合法になってからまだ数日しか経っていない」という子もいる。ここは、女性たちが買春客に虐待される子供のふりをしなければならないドイツの多くの売春店の一つにすぎないが、それがより露骨なのだ。

 このような演技に従事させることは若い女性たちに極度の苦痛と心理的ダメージを与えることになるのだが、それは驚くべきことではない。とくに、研究サバイバーの証言によると、性売買に携わる女性たちは、子供の頃に性的虐待を受けた可能性が高いことが明らかになっているからだ。

 このようにして男性が児童性的虐待(CSA)を演じられるようにすることで、「はけ口」が与えられ、現実の子供に性的虐待をする可能性が低くなると主張されている。しかし、エビデンスはその反対であることを示唆している。そのような行為は、思春期前や思春期の子供たちへの買春者の性的反応を強化し補強し、そうした性的反応に基づいて行動することへの彼らの抵抗力を弱めることが示されている。

 車のテレビCMを見れば、その車を買う可能性が高くなるとすれば、子供の性的虐待を示すポルノを見れば、必然的に近隣の子供たちが性的虐待を受けるリスクが高まると想定するしかない。そして、お金を払って買春で実在の(あるいはその振りをした)子供たちを性的に利用したり虐待したりすることは、もっと強い影響を及ぼすことになるだろう。

 「ティーニーランド」や類似の売春店の存在は、ドイツの合法的売春店から子供たちを遠ざけているわけではない。少なくとも9つのメガ売春店が子供の性売買で逮捕者を出しているが、当局に目がつけられていないもっと多くのケースが存在するだろう。

 通常、性売買を合法化することで、当局は市場を明確に把握し、誰が、なぜ、どこで、どのように売春をしているのかを詳細に把握できるようになると思われているが、実際にはそうではない。

 最近まで、ドイツ当局は売春産業に関するデータをほとんど収集していなかった。たとえば、アパートの売春店の場所を追跡する試みも、メガ売春店で提供される女性の絶えず変化する数を把握する試みもなされなかった。インターネット上で情報を入手することが可能だったにもかかわらずである(というのも買春客はまさにそれを使って売春店を探すからだ)。このデータを追跡しようとする政治的な意志が欠如していただけなのだ。ドイツにおいて売買春の中にいる人々の数は誰も知らないし、引用されている数字は20万人から40万人以上と大きな幅がある。

 2017年には売買春に関する新しい法が制定された。ドイツの売買春を市場の猛威に開放した2001年の法律の負の結果の一部を是正するというのが、表向きの目的だった。売春店の経営者や売買春の中の諸個人は、今では地方自治体に登録しなければならなくなった。これまでに約1600の売春店が登録し、3万3000人の個人が登録しているが、そのうち76%が21~44歳、6%が18~20歳である。つまり、推定16万7000~36万7000人が未登録であり、政府のいかなる監督もなしに無認可で違法に営業している売春店の数は不明である。

 登録を監督しているソーシャルワーカーが報告しているところによると、ピンプが事務所の外に潜んで女性を待ち、その後連れ去っていく姿がよく見られるという。これは、登録制度が女性をピンプから保護することにほとんど役立っていないことを示している。

 市場の大部分は依然として闇の中にあり、登録された店はいまだに日常的な管理の対象にはなっていない。警察が売春店の捜査を簡単に行なえるようになったとはいえ、人身売買業者に対する起訴には被害者が名乗り出る必要があり、多くの人は報復を恐れて名乗り出ることを拒否している。ピンプ行為、人身売買、子供の性的搾取に対する警察の捜査は現在減少しつつあるが、これらの犯罪そのものが減少したことを示すいかなるエビデンスもない

 ドイツは「ヨーロッパの売春宿」と呼ばれているが、スイスは手ごわい競争相手だ。スイスでは、1992年以来、買春だけでなく第三者が売買春から利益を得ることも合法化されており、2013年までは、16歳か17歳の子供をお金を払ってレイプすることさえも完全に合法化だった。

  買春男(ジョン)は何と言っているか?

 カナダでの調査によると、売買春で成人と性的に接触するために金を払う男性の15%が、子供を買うことにも金を払うという。ドイツやスイスの買春客(パンター)は、「パンターフォーラム」という買春者の交流サイトでこのことを自由に話している。ここにいくつかの事例がある(短く編集)。

「18歳と思われる何人かの〔女の子〕とやった。一人がかなり高い値段を要求してきて、年齢が18歳と3週間だから当然だと言ってきたので、IDを見せるよう言った。これより若いのを捕まえるのは難しい。個人的に一番若かったのは17になりかけの16歳だ。俺は28だった。彼女は18歳のふりをしていた。残念だが、もしそのことを知ってたら、もっともっと射精を楽しめたのに」――ドイツの買春男、2018年。

「13~14歳くらいの、とても子供っぽい女の子がいた。まだオッパイも膨らんでいなかったし、毛もまったく生えていなかった。彼女の穴は超キツくて、奥まで突っ込むことができなかった。彼女はとても痛がって、俺を押しのけた。それ以外は、したいことを何でもしてもいい、思いついたことは何でも、と言われた」――スイスの買春男、2016年

「そこの女の子たちはとっても可愛い。残念なことに、そのうち一人は俺の大切なタマタマを傷つけた。歯の矯正具をつけてたからだ。何人かの女の子が未成年のように見えたこと以外は何も不満はないが、気にすることはない」――ドイツの買春男、2018年

  ではニュージーランドはもっとましなのか?

 2003年にニュージーランドで先駆的に実施された売買春の完全非犯罪化は、ドイツやスイス式の合法化とは根本的に異なる画期的なアプローチとして注目され、有力なオルタナティブとして賞賛されているが、児童の有料レイプ〔児童買春〕に関してはどのような意味があるのか?

 『売春改革法(PRA)に関する2008年ニュージーランド政府調査報告書』は、大人と子供の人身売買が増加しているという懸念が現実になっていない証拠としてよく引用されている。しかし実際には、この報告文書は、ニュージーランドの性売買で搾取されている子供たちに関して重大な懸念を引き起こすものだ。

 調査検討委員会は、性的に搾取された子供を「セックスワーカー」とは考えていないと述べているにもかかわらず、報告書では実際にそのような子供たちを「セックスワーカー」と呼んでいる。したがって、彼らが金を払って子供たちをレイプしている連中をレイプ犯と明確に名指しするのではなく、「客」と呼んでいるのは驚くべきことではない。もし彼らをレイプ犯と名づけたら、18歳になってから性的に搾取された子供をレイプするためにお金を払っている男たちや、ピンプや経済的困窮によって売春を強要された成人女性をどう呼ぶべきかという疑問が生じるだろうし、そうなれば「カルタの家」全体が崩れ落ちてしまうだろう。

 報告書は、性的に搾取された子供に関するデータを収集することは常に困難であることを認めているが、売春改革法(PRA)の下ではいっそう悪化していると述べている。少なくともそのようなデータを収集するための体系的な努力がなされていないからだ。支援機関の調査では、児童買春が増加しているかどうかについては意見が分かれているが、報告書は増加していないと結論づけている。しかし、2012年の米国の『人身売買報告書』は、ニュージーランドの人身売買に関する法律の甘さを指摘し、子供たち、とくに先住民の子供たちの性的搾取について警告をしている

 このような法を児童買春の取り締まりに用いるのは困難である。とくに憂慮すべきなのは、そもそも児童買春の加害者と被害者を特定するための情報が欠如していることである。これは 売春改革法(PRA) の諸条項に由来する独自の障壁のせいなのだが、成人女性の匿名性の保持と警察の嫌がらせや暴力からの安全を確保するためだと公式には説明されている。

「警察官は、商業的な性的サービスを提供している未成年者と疑われる人物に年齢確認書類を要求してもいいが、要求する権限はない。そのせいで、未成年の売買春に関与している、または関与する危険性がある若者を積極的に保護することを困難にしていると警察は報告している。〔…〕警察は、未成年者を売春に利用する事件を起訴することが困難であると報告している」(109ページ)。

 子供に対するこれらの犯罪への判決も甘い。売春改革法(PRA)は子供を強姦した場合の最高刑を5年から7年に引き上げたが、2008年までに言い渡された最長の刑期はわずか2年で、判決の大部分は単なる罰金、保護観察、社会奉仕、または自宅拘留であった。

 起訴率が低いのは、 売春改革法(PRA) のいくつかの条項が子供の被害者を特定するための現実的な障壁となっているからである。たとえば、警察は、児童が搾取されていると疑われても、令状なしに売春店に立ち入ることができない。酒類の免許を確認するためなら令状なしでも立ち入ることができるというのに!

 これらの措置は、警察が女性に対して権力を濫用する機会を減らすためのものだとされている。しかし、ピンプや売春店オーナーによる権力濫用の機会を減らそうとする試みは何らなされなかった。

 PRA当局は、売春店の労働条件や安全衛生基準の遵守状況を監視することを目的として衛生検査官を指名している(コンドーム使用義務の遵守状況をどのようにチェックするのかは不明だが)。しかし、売春店で働く被買春女性たちの年齢を確認するのは店側の責任ではないし、売春店はそうした記録をつけることを求められていないので、確認したくてもできない。そしていずれにしても、衛生検査はほとんど実施されていない。

 PRAに情報を提供した研究では、売買春の中にいる多くの女性たちが深刻な経済的困窮状態にあることが記録されていたにもかかわらず、非犯罪化モデルでは、貧困が「強制売春」を構成するのに十分な強制性を持っているとは考えられていない。調査検討委員会は、被害者自身がピンプの直接的な支配を訴え出た場合のみ、「強制労働」の条件が満たされるとみなしている。ピンプの支配がより巧妙である場合や、被害者が自己の置かれた状況の強制性を認識できない場合が多いことなどは無視されている。

 非犯罪化モデルは、性売買の大多数の人々が同意を得ている成人であり、成人でない人や同意を得ていない人、人権が何らかの形で侵害されている人は、支援サービスや法執行機関に自ら相談することができる、あるいは他の誰か(おそらく買春者)が彼女らに代わって当局に通報してくれるという誤った前提の上に成り立っている。あらゆるエビデンスがそのようなことがありそうもないことを示しているにもかかわらず、である。

 この調査検討委員会でさえ、子供が助けを求めて泣くのを待つことに問題があることを認めている。

「検察は、未成年者が証人として法廷で証拠を提出することに依存している。未成年者は、商業的な性的サービスを提供し続けることを希望している場合、起訴に協力したがらないかもしれない。また、未成年者は自分が被害者であるとは考えていないことが多いため、訴えを起こそうとしないことにも注意が必要だ。」(109ページ)

 しかし、このような構造的な欠陥があるにもかかわらず、認可を受けた売春店やストリップ・クラブは税金を払わなければならない。このことは、ニュージーランド政府がドイツ政府と同様に、女性差別撤廃条約(CEDAW)の義務に違反して、子供や弱い立場の成人の売買春から金銭的な利益を得ていることを意味している。もっと端的に言えば、ニュージーランド政府とドイツ政府はピンプなのであり、政府として性的人身売買を助長しているのだ。

  既得権益団体と政策の取り込み

 法律や政策立案者には、既得権益を持つ人々(ロビー団体)の人質にされないよう、冷静に行動し、弱い立場の人々が搾取されるのを可能とするような法律の隙間を残さないようにする義務がある。しかし、ニュージーランドではそうなっていない。

 「ニュージーランド売春婦コレクティブ」(NZPC)は自らを、ニュージーランドにおける売春関係者の決定的な声として位置づけ、売春産業のあらゆる側面の完全な非犯罪化を提唱している。NZPCは、売買春が本質的に有害であることを否定していること、性感染症(STI)のことを告げずに働き続ける女性を支援していること、自分たちの立場に同意しない者には敵意をむき出しにし、売春産業から抜け出すことを希望する女性や少女に離脱の機会を提供していないこと、等々で批判されてきた。NZPCのこのような立場は、女性たちがより長く性売買にとどまるという効果を持つ。調査検討委員会はこのNZPCに取り込まれてしまったようだ。

「路上での未成年売買春に関して言えば、NZPCは警察による客の逮捕者を増やすことは適切な解決策ではないと考えている。NZPCは、逮捕者を増やすことは、子供をより目立たない場所(したがってより安全でない場所)に追いやるだけであり、需要を大幅に減少させることにはならないと主張している」(110ページ)。

 政府の公式の調査検討機関が、子供に対する暴力的犯罪に関する法律を施行すべきではないとするロビー団体の勧告をそのまま報告することなど考えられるだろうか。児童買春の代わりに子供に対する他の暴力犯罪を先の文章に入れてみたらどうなるか試してみよう。

 「子供の殴打に関しては、NZPCは警察が子供を殴る大人の逮捕者を増やすことは適切な解決策ではないと考えている。NZPCは、逮捕者を増やすことは、殴られた子供たちをより目立たない場所(したがってより安全でない場所)に追いやるだけであり、子供の殴打という犯罪を大幅に減少させることにはならないと主張している。」

 これはまともな論理だろうか? 他にも、大人が子供にドラッグを与えることはどうか? 被害者が、薬物依存者の巣窟に横たわっているのではなく、路上で堂々とやっていた、ヘロインの有害性は減るのだろうか? 成人男性による子供のレイプは、パトロール中の警官の目の前で堂々と行なわれるようになったら、子供の身体や精神への被害は少なくなるのか?

  「ニュージーランド売春婦コレクティブ」(NZPC) の立場は残酷でまったく無責任で保護基準に違反していると調査検討委員会は思わなかったのだろうか? 理解しがたいように思える。だが、NZPCがこの調査検討委員会の不可欠の一部であることを知れば、十分に理解可能にある。ジャニス・レイモンドは次のように述べている。

「NZPCは情報を収集し、司法省が任命した調査チームと協力してこの調査研究を実施した。そして最終的には売春法調査検討委員会の評価者としての席を確保し、この調査を評価し勧告を行なう任務を与えられた」。

 たしかに、法執行機関や司法制度が適切にアプローチしていない場合、さまざまな反暴力立法が被害者に害を加える可能性はある。このことは、たとえば男性の親密なパートナーからの暴力に関わる多くのケースに示されている通りだ。しかし、それに対する答えは犯罪を非犯罪化することではなく、法執行機関や関連サービスの訓練を改善し、ちゃんとした予防策を講じることである。

 訓練された目でもって、街頭で被買春女性が置かれている状況を観察するならば、組織犯罪の傾向を見てとることができる。そこからわかるのは、ピンプや人身売買業者は合法化によって抑制されていないこと、むしろその反対だということだ。路上売春がなされている地域の近くに住む住民やアウトリーチ組織は、合法性にもかかわらず、成人や子供に対する恐るべき犯罪が根強く残っているし、しばしば目に見える場所で行なわれている事実について報告している

 調査検討委員会は、PRAは子供たちに性売買に入ることを奨励していないと結論づけており、そのほとんどは、それが持つ魅力によってではなく、依然として、何よりも経済的困窮によって動機づけられているとしている(104ページ)。

 しかし、性売買のサバイバーたちは――たしかに貧困や差別も要因であるとはいえ――、メディアやより広い社会の中での語り方や、この問題を法律がどのように枠づけしているかが、子供(と大人)に影響を与え、性売買への参入に一役買っていることを、長年にわたり指摘してきた。

  性売買のサバイバーは何を語っているか

 2018年のイベントで、売買春のサバイバーたちは、メディアや法律がいかに子供や若者たちの心中で性売買をノーマル(普通)なものしているかを説明した。18歳の時に恋人によって性売買に引き込まれたドイツの売買春サバイバーで、現在は法学部の学生であるサンドラ・ノラクさんは次のように説明している。

「恋人に連れられて初めて売春店に行ったとき、私はただ逃げ出したかった。私は若くて不安定で、何をするのかも知りませんでした。そして、自分がどのような危険な状況にいるのかもわかりませんでした」。

「彼は言いました。これはまったくごく普通のことなんだと。キーワードは『普通』です。いわく、売春は普通のことで、他のどの仕事とも同じなんだと」。

「この国の政府の見方からすれば、売春はただの仕事です。ピンプや売春店経営者はテレビに登場して、犯罪者ではなくビジネスマンのように扱われています。赤線地区は『それほど悪くない』場所と表現されています。そして、他の多くの女性と同じく、私は、犯罪的で暴力的な環境に入り込もうとしていることに気づくことができませんでした」。

「社会が私に『売春は危険で、暴力的で、人間の尊厳の侵害だ』と教えてくれていたなら、あの人身売買業者たちが私を売春に引き込むのはもっと難しくなっていたことでしょう。私はもっと警戒したでしょう」。

※この記事は、エリー・アローさんのブログに掲載されている一連の素晴らしい投稿を編集したものです。

出典:https://nordicmodelnow.org/2019/12/17/the-child-sexual-abuse-hidden-behind-the-sex-work-facade/

https://appinternational.org/2020/12/17/child_sexual_abuse_hidden_behind_sex_work_facade/
エリー・アロー「『セックスワーク』を隠れ蓑にした児童買春の蔓延――ドイツとニュージーランド」