(1) 入所者の内訳(構成)
以下に,犯罪白書(2020)のデータをもとに非行
の背景や関連事項について触れていく。少年院への
入院者は2001年から減少傾向が続いている。
入所者を年齢別で見ると,年少少年(14歳,15歳
の少年,入所時に14歳未満のものも含む)は2012年
から毎年減少しており,中間少年(16歳,17歳の少
年)と年長少年(18歳,19歳の少年,入所時に20歳
に達している者も含む)も,2002年から減少傾向に
ある。入院者人数の中で比較すると,2019年では年
長少年が約53%を占めており,次に中間少年が約
36%,年少少年は約11%となっている。
続いて,2019年の少年院入所者(男子1594名,女
子133名)のデータから,現状を見ていく。
教育程度別構成比では,男女ともに,高校中退が
最も多く,次に,中学卒業,高校在学と続いている。
高校中退は男子で40.1%,女子で40.6%を占めており,
中学卒業は,男子で24.7%,女子で21.1%,高校在学
は,男子で17.9%,女子で19.5%となっている。
就学・就労状況については,男子では有職が
47.4%,無職が28.2%,学生・生徒が24.3%となってい
る。一方で,女子は無職が最も多く39.1%,学生・生
徒が30.8%,有職が30.1%となっている。
不良集団関係別構成比では,男女ともに不良集団
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関係なしが最も多く,男子では57.9%,女子は72.5%
と,半数以上を占める。次に多いのは,地域不良集
団(男子29.6%,女子19. 8 %)である。
(2) いじめ
村山ら(2015)が行った,小学 4 年生から中学 3
年生の生徒を対象とした調査によると,10%前後の
児童・生徒がいじめに関わっていること,いじめに
関わる児童・生徒では抑うつ,攻撃性,自傷行為,
および非行性が強いことが認められている。非行性
に関しては,いじめ加害を行う中学生(加害生徒,
加害―被害生徒)は他の生徒よりも非行性が強いこ
とが示されている。
近年のいじめの傾向については,1989年以降増減
はあるものの,平成以降2013年にピークとなり,そ
の後減少している。主に中学生での報告が多く,そ
の次に高校生が多くなっていたが,2018年では小学
生が高校生よりも多くなっている。
(3) 虐待
2019年時点での少年院入院者データから,被虐待
経験(保護者以外の家族による少年に対する虐待
や,18歳以上の少年に対する虐待も含む)について
は,身体的虐待が男女ともに最も多く,男子では
27.9%,女子は39.8%を占めている。次に多いネグレ
クトは,男子で3.5%,女子では6.8%となっている。
心理的虐待,性的虐待については,男子よりも女子
の方が多い結果となっている。なお,虐待なしの回
答は,男子では65.4%,女子は45.1%である。ただし,
非虐待経験の有無・内容については,入院段階にお
ける少年院入院者自身の申告等により把握できたも
のに限られている点に留意する必要がある。
次に,少年院入所者に限らないデータではあるが,
犯罪白書(2020)にまとめられている家庭内暴力お
よび児童虐待の実際について述べる。家庭内暴力は,
2012年以降増加していることがわかっている。2020
年では中学生での報告が最も多く,次に高校生,小
学生と続いている。中でも,近年では小学生の推移
の増加が顕著となっている。児童虐待については
2014年から現在に至るまでの増加が顕著である。児
童虐待に係る事件の検挙人員について,罪名別にみ
ると,暴行や傷害が最も多い。また,2018年の段階
で加害者となっている者は,実父が総数の68.6%を占
めており,次に実母,養父・継父,母親の内縁の夫,
となっている。
厚生労働省の調査によると,児童相談所における
児童虐待相談対応件数は平成に入ってから増加して
おり,2020年度に対応した件数は,過去最多であっ
た。主な増加要因としては,心理的虐待に係る相談
対応件数の増加,警察等からの通告の増加によるも
のとされている。特に,警察からの面前DVの通告が
増加していることが要因の 1 つとして挙げられる。
児童相談所への相談は,2020年度では全体の49.8%が
警察からによるものとなっている。次に相談件数が
多いのは,近隣隣人からの13.0%,家族親戚からの
8.2%,学校7.2%となっている。
児童相談所のケース記録から,再犯を含む非行の
ケースについて分析を行った緒方(2018)によると,
被虐待歴のある少年では極端に再犯リスクが高いこ
とが示されている。
(4) 発達上の問題
思春期に入った非行少年では同年齢の集団に比し
て言語能力の低さが顕著になってくると考えられて
いる。少なくとも就学前には劣っていなかった言語
能力が,学童期に入り,学力不振が起こったり,非
行集団への参入によって学校生活への適応が悪化し
たりして,次第に低下していくものと推測される。
低下した言語能力のために学業成績がふるわず,学
校教育における正当な価値観を受け入れられなくな
り,非行化が進んでいく可能性も考えられる(緒方,
2015)。また,言語能力の低下の背景には,その他の
能力と比較して言語能力の向上が認められず,結果
としてより大きく差が生じた可能性も考えられる。
藤川(2009)は,近年,重大かつ特異的な印象の
少年犯罪について,PDD(広汎性発達障害:アスペ
ルガー障害,高機能自閉症など)を主とする発達障
害が鑑定あるいは鑑別・診断されることが続いてい
ると指摘している。
内藤ら(2018)は少年院および少年鑑別所におけ
る発達障害等の発達上の課題・困難を有する少年の
実態と支援に関する調査研究を行った。その結果,
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「発達障害等の発達上の課題・困難を有する少年と
非行の関係」は決して直接的でなく,貧困・劣悪な
家庭環境・養護問題,虐待・ネグレクト,愛着問題,
いじめ・体罰等の二次的障害として非行に至る可能
性が示されている。
非行と発達上の問題について,伊藤(2015)は,
発達障害等ゆえに非行に走るとか,障害の直接の結
果として非行を行うとみるのは妥当ではないと指摘
している。発達障害と非行の関連については,発達
障害等の「二次障害」として,身近な生活世界にお
いて拒絶,排除されたり,不適応を起こしたりして,
その結果として非行などの問題行動につながるとい
う因果であるとしている。
内藤ら(2018)は,全国の保護観察所・更生保護
施設・自律準備ホームの職員・保護司を対象に調査
を行った。生活環境調整を行う中での困難として,
「環境調整に入る段階以前で障害に気づかれていな
い・診断されていない」ことを挙げている。さらに
生活面の困難では,「金銭管理等の金銭問題」「基本
的生活スキルの未修得」を挙げている。「生活に対す
る動機付け」に関しては,更生保護施設職員からは
「見通しがうまくもてない」ことで目の前のことしか
考えられず,今後の準備などができない困難さ,自
分のやりたいことを優先してしまい,そのために噓
や言い訳をしてしまうことなども回答された。また,
本人は意欲そのものはあるものの,実際の行動との
間に大きなズレを感じているという回答もあった。
対人面の困難・ニーズでは,とても困っているが適
切に「助けを求められない」ことにより「暴言」「防
衛的行動」に至り,「対人トラブル」につながってい
ること等が回答された。
(5) 非行少年の持つ「被害者性」
伊藤(2015)は,非行少年自身が自力ではどうす
ることもできない状況にあるとし,この「受動性」
は「被害性」に言い換えることができるとしている。
また,堀尾(2014)によると,非行少年の「被害者
性」とは,非行少年がこれまでに受けてきた被害経
験によって,加害者であるはずの非行少年に被害者
的要素が内在化し,その被害的経験の影響によって
もたらされた特性のことをいう。
堀尾(2014)は非行少年の加害と被害についての
研究動向をまとめている。一般的な非行少年の「被
害者性」について注目した研究を,大きく「いじめ」
と「虐待」に分けている。また,いじめの被害者は
家庭でも不適切養育や虐待の被害を受けていること
が多かったと報告している。このように非行少年は,
多数の「被害者性」を重ね持っていることが考えら
れる。このように,多重に被害を受けることを多重
被害と言う(Finkelhor, et al.,2011)。
堀尾(2011)は,非行のない一般青年と比べて,
非行少年の方が被虐待経験やいじめの被害経験,犯
罪被害にあった経験が多いことを明らかにしてい
る。すなわち,非行少年は“多重被害”を受けてい
る割合が多いと指摘している。このような非行少年
の多重被害の特性について,非行臨床の専門家,す
なわち非行少年に関わることを専門とする人たち
(例えば,家庭裁判所調査官,少年鑑別所心理技官,
児童自立支援施設職員等)の間では,以前から当然
のこととして受け止められてきた(堀尾,2014)。
加害側である非行少年の持つ,「被害者性」や「多
重被害」という特性について,世の中の理解につい
て概観していく。18歳と40歳の犯罪についての印象
を比較検討した柳澤・水口(2017)によると,18歳
の少年による犯罪では,【犯人自身>犯人の親>犯
人を取り巻く社会>犯人の住んでいる地域】の順に
責任を高く帰属させたことがわかった。40歳の成人
による犯罪では,【犯人自身>犯人を取り巻く社会
>犯人の住んでいる地域>犯人の親】の順に責任を
高く帰属させたことがわかった。いずれも罪を犯し
た本人に原因を帰属させていることには違いはな
い。しかし,成人の犯罪と比べ,少年の犯罪の場合
では,周囲の環境からの影響,特に少年自身の意志
だけではどうしようもできないような環境が影響し
ていると考えている人が多いということがわかった。
田中(2021)は,加害行為に至ったものにある被
害体験と被害者意識をいかに理解し取り扱っていく
のかは心理臨床実践において,とりわけ司法・矯正
や児童福祉領域,家族臨床において重要な実践的課
題であるとしている。