2017.11.21#避妊#教育小学生がコンドーム装着実習…オランダの性教育がすごい!【映像アリ】見たら思わず…納得した著者倉田 直子プロフィールオランダ在住ライターPDF魚拓





小学校でコンドーム装着実習!?

オランダの子供向けニュース番組「NOS Jeugdjournaal」を夫と娘の3人で朝食を頬張りながら、眺めていたある朝。小学校で高学年とおぼしき子どもたちが、第二次性徴などに関する自由研究を発表しているニュースが流れ始めた。と、ここまでは何の感慨もなく見ていたのだが、なんとコーナーの後半に子供たちが模造ペニスにコンドームを付ける映像が流れたのだ!

その実際の映像がこれである。



途端に筆者と夫はフリーズしてしまった。この時、娘は7歳。いや、「絶対に娘に見せたくない!!」とかそういったことではないのだが、今まで性教育らしきものをほとんどせずにきてしまっていたので、いきなり「ペニスにコンドーム」というラスボス的強者が表れてしまい、二の句が継げなくなってしまったのだ。

幸い(?)我々の毛穴から噴き出す異様な空気を察知したのか、当の娘もそのコーナー映像には特に言及せずに、その場はやり過ごせた。

我々はスコットランドからオランダに移り住んで2年になる。思い返してみると、オランダに来てからこういったことは以前にも経験していた。

例えばアムステルダムにある、子供が大好きな科学博物館「NEMO」にも、ティーン向けの性教育コーナーがある。外部から中が見えないブース状になっているのだが、外からでもセクシャルな雰囲気は感じ取れる。いつも、娘が「入りたい」と言い出さないようにその前をそそくさと通り過ぎていた。

娘も先日9歳の誕生日を迎えた。あのコンドームの動画の女の子は、初等教育の8年生(日本でいう小学6年生)だというので11歳くらいか。どうやら筆者も、母として性教育に向き合う時が来ているようだ――。

こうして改めてオランダの性教育事情を調べてみると、そこには日本の「保健体育」とはかけ離れたものがあった。

早ければ4歳から始まる性教育

オランダは「子供への性教育スタートが早い国」としても知られている。早い学校では、初等教育の始まる4歳から初期の性教育を開始するところもあるのだ。



オランダの小学生たち

ただし、「性教育」といってもいきなり避妊や性行為のような踏み込んだ内容を教えるのではなく、その前提となる「愛情の大切さ」「自分の意思の伝え方」「他人の気持ちの尊重」といった「他者とのかかわり」から学び始めることが多いようだ。

では幼児たちにはどんな「性教育」を施しているのだろう。筆者が感心した4歳、5歳児にむけた性教育の様子がある。リンクを貼っている動画の4分20秒あたりから始まる一連のくだりは、以下のような流れだ。

「良く知らないおばさんが訪ねてきて、あなたに(あいさつの)キスをしたいと言っています。そんな時どうしますか?」という状況設定で、教師が小さな男児とロールプレイを試みる。そして男児はしっかりと「キスはいやだ」「でも握手ならいいよ」と自分の望まない形での肉体的接触を拒否する。

そういったやり取りを通じ、子供たちは肉体的接触について「自分の意思を述べて良い」「自分の意思を通す権利がある」ということを学ぶのだ。見ている我々も、こういう小さな意思決定・意思表示の積み重ねが、将来の不本意な性体験を回避する訓練になっているのだなと感じ取れる。つまりオランダの初期性教育は、同時に人権教育でもあると言える。
ただし、オランダは憲法で教育の自由を保障されているため、国で決めた性教育のカリキュラムや教科書といった類のものがない。初等教育でセクシャリティおよび性的多様性を学ぶ義務はあるが、性教育の開始学年、内容は学校単位で変わるというのも特徴だ。

先ほどの動画のように4歳から「愛情」や「人権」などの基礎から学ばせる学校もある一方、10歳ごろに生殖や妊娠出産の仕組み、要はセックスの仕組みという具体的な内容から始める学校もある。そして中等教育に入学後の12歳から14歳ころまでには、避妊に関してや性感染症のリスクといったような多岐にわたる内容を学ぶことが多いようだ。

毎年3月の春分頃には、性教育ウィーク「レンテクリーベルス」(Lentekriebels)が実施される。性教育研究や性的マイノリティの権利擁護を専門とする団体「Rutgers」の提唱で実施される啓蒙キャンペーンで、オランダ各地の小学校が参加している。

この「Rutgers」は、ちょうど2017年11月に設立50周年を迎えたばかり。50周年の記念イベントには現オランダ国王ウィレム・アレクサンダーも出席したと、オランダのメディアが報じた。つまりは国王自らが「オランダは性教育を大切にしている」と明らかにしているのである。



オランダの小学校にて。性教育に限らず、伸び伸びと自分で考えさせる教育が基本だ。

筆者が冒頭で紹介した、「小学生たちがコンドームをつける実習をしている動画」も、実はこの啓蒙キャンペーン「レンテクリーベルス」に参加した小学校の様子だ。
ちなみに「レンテクリーベルス」とはオランダ語で「春のくすぐったさ」を指し、恋に落ちそわそわするような気分を意味する。性行為というものが「感情」とつながっているということをアピールしている。

この動画の中で、8年生(初等教育最高学年、日本の小学6年生にあたる)のStijnという男子は「(性教育は)最初は恥ずかしくて笑っちゃったりしたけど、今では真面目にやってるよ」と自分たちの取り組みを堂々と語っていた。

コンドーム実習にかかんに挑んでいた、同じく8年生のIsaという女子は「こういった練習をしないと、いきなりそういう場面がきたら何も分からなくて困るでしょ?」と実に合理的な結論を述べていた。オランダの小学生は、なんともたくましい。

では、こういった性教育をうけた子供たちは、性の目覚めが早いのだろうか。奔放な性生活を送っているのだろうか?

初体験が遅く、望まない妊娠も少ない

大胆な性教育を実施するからといって、子供たちは早熟になるわけではない。意外かもしれないが、オランダの少年少女の初体験はむしろ遅い。WHO(世界保健機構)が2016年に発表した、欧州および北米の40地域の15歳を対象とした調査によると、全体平均で女子17%、男子24%が(15歳の時点で)性交渉を済ませている。その一方、オランダは女子16%、男子15%といずれも平均を下回っているのだ。

前述の性教育シンクタンク「Rutgers」と「SOAAIDS」(エイズ予防と性的健康の専門家団体)が2017年に発表した「25歳以下のセックス」(Seks onder je 25e)という12歳から25歳が対象の調査研究では、オランダの子供の初体験年齢の平均は18.6歳。2012年の同調査では17.1歳だったので、より不本意な性行為を避けることができるようになってきていると専門家は分析している。

オランダのカップルは避妊もしっかりするので、10代の望まない妊娠も少ない。オランダ政府の統計機関「CBS」によると、中絶率は10代全体の0.7%。イギリスやエストニアなどは2%を超えているので、他のEU諸国と比べても低い。北欧の国の中には、スウェーデンのように10代女子の出産率は低くても、中絶率は高いという国もある。そうみると、オランダの性教育は成功していると言えるのではないだろうか。

前述のように、オランダは学校ごとに「教育の自由」が認められているので、全ての小学校がここまで性教育に熱心だとは言い切れない。

オランダのティーンの低妊娠率・低中絶率がなしとげられている理由のもうひとつは、学校以外にも子供の性教育の礎となる場所があるからだ。そう、それは各家庭に他ならない。
16歳の子の親の9割が「恋人の宿泊OK」

学校だけではなく、家庭環境もオランダの子供たちの性教育にとって重要なキーワードになってくる。家族間での性に対してオープンな態度が子供たちに安心感を与えているといわれている。

アメリカの「国立生物工学情報センター」(NCBI)で閲覧できる記事によると、10代の若者の性的健康にとって「暖かい家族環境」を持つことが重要であるという研究結果報告があるという。両親の愛情と支えを受けたティーンエイジャーは、「セックス経験が少なく、性交渉相手との交渉力が強く、避妊薬をよく使い、セックスを余儀なくされることは少ない」のだとか。

前述の「25歳以下のセックス」2017年度版にも「14歳までに性交経験のある子ども」は、「親とセクシャリティに関する話をする時間が少ない」「自分の意思からではなく、誰かのために性交する」という考察があったので、それを逆説的に裏付けていると言えるだろう。

オランダの親たちが本格的に性教育を考え始めるのは、子供が10歳をすぎてからが多いようだ。9歳の娘の同級生家族にも聞いてみたけれど、まだ具体的に家で何かを始めている人は見つからなかった。ティーンエイジャーの子供がいる母親に聞いてみると、「過去の取り組み」を教えてくれた。

「子供たちが初等教育の頃は、絵本などを使って妊娠のシステムを教えた程度。具体的にセックスについて話し始めたのは中等教育(12歳から)に入った後ね」

小学生のときに妊娠のシステムを、中学生になったら具体的なセックスについて親が教える? セックスの話がタブー視されている日本では、なかなかないことだろう。ちなみにこの友人が使ったのは「It's So Amazing!」という児童書のオランダ語版。7歳から10歳が読者対象だ。



2004年というやや古い調査ではあるが、同じく「国立生物工学情報センター」内の記事によれば、16歳の子供を持つオランダ人の親の9割が(仮の想定として)「家に泊まりに来た子供の恋人が子供と同じ寝室に泊まることを許容する」というデータもある。これは、親が子供を信頼するのはもちろんのこと、子供のほうも親を信頼していないとできないことだ。

そういうオープンな家庭を羨ましく思いつつも、オランダの家庭もこういった雰囲気を一朝一夕に築き上げたわけではないことは想像に難くない。

オランダでは父親も母親も平等に、子育てに積極的に関わっている。朝と午後の学校の送迎の半分近くは父親が来ている。例え父親と母親が離婚しても、両家が近くに住み、子供の学校行事に元夫婦がそろって出席することだって決して珍しくはないのだ。両親ともに努力して子育てにかかわる姿は、日本で生まれ育った筆者の目には非常に眩しく映る。

とはいえ、オランダの家庭でセックスの話をオープンにできるのも、学校で性教育が盛んだったり、子供向け博物館でそんな展示があったりと、「セックス=タブーではない」という空気があるからでもある。セックスが隠されたことゆえにきちんとした知識のないままに性交し、中絶に苦しむ10代の日本人女性も少なくなく、日本でも性教育の改革が問われている。

鶏が先か卵が先かではないが、学校での性教育と、家庭での性教育、どちらも真剣に考えなければならない局面にあるのかもしれない。

筆者においては、学校で始まるであろう性教育に向けて、オランダ人の友人のように、子供に妊娠の仕組みなどを教えてあげるための本などをそろえていくつもりだ。そして子供と、性の話を語り合えるような関係を築き上げていきたいと思う。

https://gendai.media/articles/-/53527?medi2017.11.21

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小学生がコンドーム装着実習…オランダの性教育がすごい!

【映像アリ】見たら思わず…納得した



倉田 直子

プロフィール

オランダ在住ライターa=frau