「いじめ防止対策推進法」を改正して下さい-いじめ自殺を「突然死」で公表しても許される法律に罰則を



開始日

2023年12月14日

この署名で変えたいこと



署名の発信者 子どもをいじめ自死で亡くした 両親

私たちは、2017年に子どもをいじめによる自死で亡くした両親です。

息子は当時、長崎市内の私立「海星学園」に通う高校2年生(16歳)でした。新学期が始まって間もない4月20日、自宅近所の公園で自ら命を絶ちました。息子が残したノートには、同級生たちからの日常的ないじめや教員からの理不尽な指導の事実が綴られていました。私たちは、息子が亡くなった理由の究明と再発防止のために、悲しみを堪えて立ちあがろうと決めました。

ところが海星高校も、私立校を管轄する長崎県も、再発防止に努めるどころか「いじめ防止対策推進法」を守らず、「壁」となって私たちの前に立ちはだかりました。

例えば海星高校は息子の自殺の公表を拒み、「突然死」や「転校」として発表することを私たちに提案しました。

私たちが驚いたのは、当初いじめの事実を認めていた海星高校が主張を変え、いじめを認めなくなったことです。息子の遺書については、生徒・保護者への説明会で教頭が「検証が必要だ」と主張しました。第三者委員会が出した「いじめが自死の主たる要因」という調査結果も否定し、現在に至っています。

長崎県は、私たち遺族の訴えを聞いてもなお、海星高校の側につきました。海星高校が長崎県に「対外的には突然死として説明する」と提案したのに対して、「突然死まではギリ許せる」と容認したのです。

「このままでは、息子と同じ目に遭う子どもが出てしまう」と感じた私たちは、自分たちで原因究明と再発防止のために動くことを決めました。

目指しているのは、「いじめ防止対策推進法」の改正です。いじめの撲滅よりも、組織や自分の立場を守ろうとする人たちが学校や教育行政にいる限り、法を遵守しなくても何ら責任を問われない現行法を変え、罰則規定を設けるべきです。実際、罰則に閉校措置がある国もあります。

それくらいしなければ、子どもをいじめから守り、子どもの命を守ることができないというのが、私たちの実感です。







息子が通っていた私立海星学園(引用:Tansa記事)



●学校と行政の法律違反の数々

いじめ防止対策推進法ができたのは、2013年です。きっかけは、2011年に起きた「大津市中2いじめ自殺事件」でした。この事件では、いじめによって自殺した生徒の学校や教育委員会が、いじめの隠蔽を図り、自分たちの責任から逃れようとしました。これを受け、学校、自治体、国がすべき対応と責任が盛り込まれた法律が制定されました。

しかし法律ができても、学校や行政は責任逃れに終始して再発防止に向き合いません。息子のケースでは、数々の法律違反の疑いが見受けられました。

①いじめの防止と早期発見に取り組んでいなかった第8条 学校及び学校の教職員の責務
学校及び学校の教職員は、基本理念にのっとり、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民、児童相談所その他の関係者との連携を図りつつ、学校全体でいじめの防止及び早期発見に取り組むとともに、当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、適切かつ迅速にこれに対処する責務を有する。


教職員は、息子が自死するまで、「いじめを認識していない」との回答ばかりでした。また、「この学校にはいじめはない」と断言する教員がほとんどでした。いじめの詳細が明らかになったのは、息子の自死から3カ月後、弁護士や臨床心理士、他校の元校長ら5人からなる第三者調査委員会が発足した後です。1年半におよぶ調査を実施し、複数の生徒が、息子へのいじめが日常的に行われていたことを証言しました。

②加害生徒を知らない担任と学年主任、いじめを否定する遺族不在の保護者説明会第15条2 学校におけるいじめの防止
学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校におけるいじめを防止するため、当該学校に在籍する児童等の保護者、地域住民その他の関係者との連携を図りつつ、いじめの防止に資する活動であって当該学校に在籍する児童等が自主的に行うものに対する支援、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員に対するいじめを防止することの重要性に関する理解を深めるための啓発その他必要な措置を講ずるものとする。


海星高校は、保護者や教職員に対していじめを防止するために必要な措置をとっていません。それどころか、遺族が参加していない保護者説明会でいじめの事実を否定しました。教職員に対しては、基本的な情報すら共有していませんでした。たとえば、息子の自死から1年経っても、担任と学年主任は加害生徒を把握していなかったのです。海星高校は幹部のみで情報を共有して現場の教員には伝えず、また現場の教員も自ら幹部に確認することはありませんでした。

③相談体制を整備していなかった第16条3 いじめの早期発見のための措置
学校の設置者及びその設置する学校は、当該学校に在籍する児童等及びその保護者並びに当該学校の教職員がいじめに係る相談を行うことができる体制(次項において「相談体制」という。)を整備するものとする。


息子が亡くなるまで、海星高校は生徒や保護者、教職員がいじめについて相談できる体制を整備していませんでした。

④第三者委員会の調査結果を認めない第28条 学校の設置者又はその設置する学校による対処
学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という。)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。


海星高校は、遺族が要望書を出したことでようやく第三者委員会を設置しました。第三者委員会は1年半に及ぶ調査を経て、「いじめが自死の主たる要因」という調査結果を出しました。ところが海星高校自身が依頼して発足した第三者委員会の調査結果を、海星高校は否定したまま現在に至っています。

⑤調査結果を隠蔽&虚偽の報告第28条2 学校の設置者又はその設置する学校による対処
学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。


本条文に基づいた調査を実りあるものにするためには、学校側に不都合なことがあったとしても、事実に向き合おうとする姿勢が重要です。学校側は、附属機関等に積極的に資料を提供するとともに、調査結果を重んじ、主体的に再発防止に取り組まなければなりません。ところが海星高校は、遺族に対して説明を一切行いませんでした。

また海星高校は、遺族に対して虚偽の報告を行いました。海星高校は第三者委員会の調査以前に、生徒を対象としたアンケート調査を実施していました。調査では、複数の生徒が息子へのいじめの事実を回答していました。しかし海星高校は、遺族に対して「何も出てこなかった」と報告しました。

第三者委員会による調査でも、息子へのいじめが認められ、「いじめが自死の主たる原因」だと結論づけられました。ところが学校側は報告書の内容を受け入れず、その旨を遺族側にFAXで伝えました。

⑥知事の傍観第31条3 私立の学校に係る対処
都道府県知事は、前項の規定による調査の結果を踏まえ、当該調査に係る学校法人又はその設置する学校が当該調査に係る重大事態への対処又は当該重大事態と同種の事態の発生の防止のために必要な措置を講ずることができるよう、私立学校法第六条に規定する権限の適切な行使その他の必要な措置を講ずるものとする。


長崎県の中村法道知事(当時)は、第三者委員会が出した「いじめが自死の主たる要因」という調査結果を海星高校が否定した後も、一切措置をとりませんでした。

⑦いじめの隠蔽第34条 学校評価における留意事項
学校の評価を行う場合においていじめの防止等のための対策を取り扱うに当たっては、いじめの事実が隠蔽されず、並びにいじめの実態の把握及びいじめに対する措置が適切に行われるよう、いじめの早期発見、いじめの再発を防止するための取組等について適正に評価が行われるようにしなければならない。


海星高校は、いじめの隠蔽を図りました。長崎県は、それを容認しました。







息子が命を絶った木(引用:Tansa記事)



●増え続ける子どものいじめと自殺

いじめ防止対策推進法が機能していないことは、データからも明らかです。

2023年10月、文部科学省が小中高生たちのいじめ等に関する調査結果を公表しました。

2022年度の小・中・高・特別支援学校におけるいじめの認知件数は68万1948件でした。前年度から10.8%増加しており、子ども1000人あたり53件ものいじめが発生しています。

さらに、いじめの中でも、より深刻なケースである「重大事態」は923件で、前年度から30.7%も増加していました。

しかし、「重大事態」のうち357件が、重大事態として把握する以前にはいじめとして認知していなかったものです。これは、見逃されているいじめが多数あることを意味しています。

例えば、長崎県のいじめ認知件数は子ども1000人あたり15件で、全国的にかなり低い数字となっています。しかし長崎県は、息子へのいじめの事実を隠蔽しようとする学校側に加担した行政です。いじめに対する認識が甘く把握できていないために、認知件数が少ないのではないでしょうか。

実際、いじめを認知していた学校は全体の82%に留まっており、高校では40%以上が見逃されています。文科省は、「学校としていじめの認知に課題がある」との見解を示しています。

また、自ら命を絶った子どもは、年間411人もいました。自殺の原因は定かではありませんが、いじめ防止対策推進法は軽んじられ、学校がいじめを認知できていない状況では、相当数の子どもがいじめを苦に自殺していると考えられます。







文部科学省「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」より



●海外では、学校閉鎖も

なぜ、学校や行政は、法を蔑ろにできるのでしょうか。

それは、責務を定めていても、罰則がないからではないのでしょうか。学校も、自治体も、国も、何ら罪に問われません。

例えばスウェーデンでは、いじめの発覚により有名校が一時的に閉鎖になりました。

裕福なエリートの子どもたちが通う私立学校「Lundsberg boarding school」では、上級生が下級生に対して熱いアイロンでやけどを負わすなどの事件が起きました。検査官が学校を視察し、いじめ・暴力を防止する措置が取られるまで学校を即刻閉鎖することを発表しました。

アメリカでは、いじめに対して適切な措置を取らなかった学校が閉校しています。

マサチューセッツ州にある「Mission Hill School in Boston」がその一つです。子どもによるいじめ・暴力が発生した際、教職員はそれを止めず、報告すらしなかったこともありました。教育長は、教職員の解雇や学校への専門チームの設置などの措置を検討しました。しかし事態の重大性を鑑み、教育長は「速やかに閉校する」ことを提言しました。最終的に、州の学校当局が学校の永久閉鎖を決議しました。



●新たな犠牲者を出さないために

法制定から10年が経ちました。この10年間で、どれくらいの子どもたちがいじめで悩み苦しみ、自ら命を絶ったのでしょうか。

文科省や新設されたこども家庭庁は、今後もいじめ防止対策推進法等に基づいて対策をとっていくという方針を示しています。

いじめ防止対策推進法が、子どもをいじめや自殺から守る法律にならなければいけません。

本来の役割を果たしていない法律は、変えなければいけないのではないでしょうか。

しかし、残念ながら行政や学校現場からはそのような声が上がりません。だからこそ、私たちはこの署名キャンペーンを立ち上げることを決意しました。

法改正を求めて、集まった署名は文部科学大臣はじめ与野党に提出します。

一人でも多くの方のご署名をどうぞよろしくお願いいたします。







2016年4月、息子の海星高校入学式にて



【参考】書籍『いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録』(著:石川陽一/文藝春秋、2022年11月発行)
連載報道「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」(報道機関Tansa /中川七海)


【出典】文部科学省「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」
the Guardian「Swedish boarding school shut down after bullying claims」
Hinckley Allen「PHASE I- INVESTIGATION REPORT(REDACTED)」




【関連記事】《ついに両親が提訴》教頭が「16歳少年の自殺隠し」を提案…遺族が明かす「長崎・海星高校」の非道
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https://www.change.org/p/%E3%81%84%E3%81%98%E3%82%81%E9%98%B2%E6%AD%A2%E5%AF%BE%E7%AD%96%E6%8E%A8%E9%80%B2%E6%B3%95-%E3%82%92%E6%94%B9%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84-%E3%81%84%E3%81%98%E3%82%81%E8%87%AA%E6%AE%BA%E3%82%92-%E7%AA%81%E7%84%B6%E6%AD%BB-%E3%81%A7%E5%85%AC%E8%A1%A8%E3%81%97%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%82%82%E8%A8%B1%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B%E3%81%AB%E7%BD%B0%E5%89%87%E3%82%92?utm_source=share_petition&utm_campaign=psf_combo_share_initial&utm_term=f159d2cc6a014cfea7f72db9784b40cc&utm_medium=copylink&utm_content=cl_sharecopy_37793086_ja-JP%3A4
「いじめ防止対策推進法」を改正してください! ―いじめ自殺を「突然死」で公表しようとしても許される法律に罰則を―







「加害者の実名入りの手記を見せると、武川氏も当初は『これはいじめだ』と認めました。それなのに、息子のクラスでのいじめに関する話し合いや、加害者への指導は一切やってくれません。『第三者委に全て任せているから』の一点張りです。自殺から約1年たっても、担任や学年主任に加害者の名前すら知らせていませんでした」(大助)

「神様とはそんなに便利な存在なのでしょうか」

 不誠実な対応の中でも、教職員の良心を信じて働きかけを続ける2人だったが、学校側を見限る決定的な出来事が起きる。

「知人に海星高では1999年にも自殺した生徒がいると聞き、武川氏に事実か尋ねました。すると、『そういうことはいちいちメモして記録してないから』と答えたのです。時間がたてば息子も同じように扱われる……。そんな確かな予感を抱きました」(さおり)

問題の私立海星学園 ©杉山拓也/文藝春秋

 遺族の心情を踏みにじる学校側だったが、唯一、熱心に取り組んでいたことがあったという。それは勇斗くんへの「お祈り」だ。

「海星高はカトリック・マリア会が経営するミッションスクールです。だからなのか、坪光正躬理事長をはじめ、学校幹部たちは『追悼のために祈りました』や『ミサを捧げました』などと何度も強調してくるのです。そんなことは頼んでいないし、祈る暇があるなら現実に目を向けて欲しかったです。『勇斗は天国に行ったので一件落着』とでも考えているのでしょう。神様とはそんなに便利な存在なのでしょうか」(さおり)

「宗教系の学校らしく、海星高は校訓に『神愛・人間愛』を掲げています。彼らは言葉の意味を本当に理解しているのでしょうか。実際の行動はこの理念とは真逆です」(大助)

https://bunshun.jp/articles/-/58622?page=2
《ついに両親が提訴》教頭が「16歳少年の自殺隠し」を提案…遺族が明かす「長崎・海星高校」の非道

『いじめの聖域』 #3

「文春オンライン」編集部



 2017年4月20日、長崎市の私立海星高2年の男子生徒=当時(16)=が市内の公園で自ら命を絶った。後に加害者とされる同級生の実名入りのいじめ被害を訴える手記が自宅で見つかり、学校が設置した第三者委員会は18年11月、「自死の主たる要因はいじめ」と認定する報告書をまとめた。それから2年が経過。現在も、学校側は「論理的な飛躍がある」などと主張し、自ら設置した第三者委の結論を拒絶する前代未聞の事態が続く。共同通信が入手した生徒の両親と学校側との会話記録からは、いじめ自殺を「無かったこと」にしようとする思惑が透ける。(2回続き、共同通信=石川陽一)

 ▽「突然死」「転校」提案も当初はいじめ認める

 両親は17年5月2日~18年12月14日に海星高の教職員や県の担当者と面会した際、会話を録音していた。記録を始めたのは、自殺から1週間後の出来事がきっかけだった。教頭だった武川真一郎(たけかわ・しんいちろう)現校長が父親(53)に、マスコミ対策として「突然死ということにしないか」と持ち掛け、翌日には「転校したことにもできる」と提案したのだ。

 最愛の息子を亡くしたばかりの両親は「身も心もボロボロだった」と当時を振り返る。母親(48)は食事と睡眠をろくに取れず、ふさぎ込んでやつれていった。そんな状況での武川氏の提案。父親は一瞬だが「そういうものなのかな。言うとおりにしておけば、学校は遺族の不利益になることはしないだろう」と考えたという。自殺が世間に知られれば、報道陣が押し寄せてくるのでは、との恐怖心や、親として子どもの悩みに気付けなかった自責の念もあった。

 一方で自殺の事実を偽ることへの違和感はぬぐえなかった。母親は知人に相談した。「絶対におかしい。受け入れたら全て無かったことにされるよ」と忠告され、目が覚めたという。「学校は隠蔽(いんぺい)しようとしているのでは」との不信感を抱くようになった。

加害者の実名が記された生徒の手記を手にする母親

 生徒が亡くなった現場には、いじめをにおわせる遺書が、自宅には「さんざんdis(ディス)られた」「どいつもこいつも顔を思い出すだけで頭痛がする」と心情を吐露したメモが残されていた。5月4日には、生徒の部屋で加害者とされる同級生の実名入りでいじめの被害を訴える手記も見つかった。そこには、中高一貫の海星中3年の時から授業中におなかが鳴る音をからかわれたなどの記載があった。

 両親は、息子の自殺はいじめが原因と確信。「二度と同じ悲劇を繰り返さないために、学校は再発防止に努めてほしい」との思いを強めた。

 2日後に武川氏と面会。手記のコピーを手渡して「学校側は今回の件をどう捉えているのか」と問いただした。武川氏は「これはいじめでしょうね」「私たちは生徒に相手がいじめと認識したらそれはいじめだと言っている」などと認め、言動について在校生を指導する考えも示した。

 ▽過去の生徒自殺は「いちいちメモしてないから」

 5月15日には、生徒の死後、初めて当時の校長だった清水政幸(しみず・まさゆき)氏が両親の前に姿を現した。「心の悩みに気付くことができず、非常に大きな責任を感じている。本当に申し訳ない」「死を無駄にしないように、教職員一同、教育の原点に立ち戻る」などと陳謝した。

 だが、両親は「言葉通りに受け取ることはできなかった」と話す。この時点で内部進学生とその保護者のみにしか自殺を公表しておらず、いじめの事実を在校生に伏せていたからだ。文部科学省がガイドラインで学校側の義務と定めている自殺の原因究明や再発防止について、具体的な説明も一切なかった。自殺から約1カ月が経過して、ようやく校長が出てきたことに「何を今さら」という気持ちもあった。

 両親はその席で第三者委員会の設置や、いじめを公表して再発防止に努めることを文書で要請した。6月4日の面会でも改めていじめを在校生に伝えるよう求める文書を手渡した。学校側は7月7日、ようやく自殺といじめを示唆する手記の存在を全校生徒に公表。同24日には、学校が設置した弁護士ら有識者5人で構成する第三者委の初会合が開かれた。

 教職員が月命日のたびに自宅を訪れてお参りしていたこともあり、その後も月に数回の頻度で面会は続いた。会話の流れは毎回、似通っていた。いじめと向き合って再発防止に努めるよう両親が依頼し、学校側は適当にはぐらかすのがパターン化していた。

長崎市の私立海星高

 海星高では1999年にも生徒がマンションの屋上から飛び降り自殺していた。母親は10月20日の面会で事実なのか確認した。武川氏は「そういうことは、いちいちメモして記録してるわけじゃないから」と淡々と回答。「息子の件も時間がたてば同じように扱われるのかな」。両親は不信感を強めたという。

 11月以降は、第三者委の結論が出ていないことなどを理由に、両親の要求をきっぱりと拒むことが増えた。生徒指導の責任者に今後の方針を聞きたいとの要望は「第三者委の中からそういう話は出てきていませんので」(11月2日、清水氏)。自殺の説明のために全校保護者会を開かないのか、との質問には「今までそういうことはやっていませんので」(11月20日、清水氏)。

 両親が何度も頼み込んだ、加害者とされる同級生への指導についても同じ対応だった。「第三者委に言われない限りは(やらない)。全て任せてますので」(11月20日、清水氏)。「第三者委(の調査結果)が出た後はやっていこうと思う。どんな結論を出そうとも、それを尊重して動く」(18年1月31日、武川氏)

 災害共済給付制度を運営する日本スポーツ振興センターへの死亡見舞金の申請も「第三者委の報告書ができていない」(18年1月31日、武川氏)と拒否した。

 もう一つ、両親が重視したクラスでのいじめや命の大切さについての話し合いも、言い訳を重ねて、結局実施されることはなかった。

 ▽「損害賠償請求権を放棄するなら死亡見舞金の申請を考える」

 教職員間で情報共有をしていない実態も浮き彫りになった。自殺から11カ月となった18年3月20日には、当時の担任と学年主任が、加害者として挙がった同級生の名前を「知らされていない」などと述べ、担任は全ての遺書や手記を読んでいるわけではないと釈明。4月18日には、大森保則(おおもり・やすのり)教頭が「改めて名前は知らせていない」と発言し、幹部のみに情報をとどめていることを認めた。

 その対応が適切なのか。問いただすと、武川氏は「一般的な指導しか私たちはできない」と正面から答えようとしなかった。母親は「残された生徒の心をケアする気は無いのだなと思った。加害者が思い詰めたり、あるいはまたいじめを繰り返したりする可能性を考慮しなかったのか」とあきれ返った。

 翌月から学校側が月命日のお参りを取りやめ、面会は途切れた。次に両者が顔を合わせたのは、約1年4カ月の調査を経て第三者委が「いじめが自死の主たる要因」と認定した後だった。12月14日、両親は久しぶりに海星高を訪れた。結果的にこれが最後の直接のやりとりとなった。

 報告書は11月19日にまとまったが、学校側に「読み込むための時間がほしい」と要望され、この日が受け取りだった。「当然、再発防止のための対策や方針を示してもらえるのだろう」。父親は期待したという。

 だが、対応した坪光正躬(つぼこう・まさちか)理事長は「県や顧問弁護士の指導を得て検証を加え、適切に対応したい」と話し、いじめについて言及しなかった。いぶかしんだ母親が「いじめと自死の因果関係は認めてくれるのか」と尋ねると、武川氏が「具体的なことについては検証する」と答えるにとどめた。

報告書の「いじめが自死の主たる要因」と書かれた部分

 想定外の事態に両親は困惑した。報告書が学校側に求めた、いじめ防止を訴える「第三者委からのメッセージ」の生徒への配布は「顧問弁護士に相談する」、加害者とされる生徒への指導は「検討して精査する」(いずれも武川氏)。坪光氏は「対応がどういう形になるかというのは、今ここでお話しできない」と一方的に告げ、机上の書類を片付け始めたという。

 その後は双方の弁護士間でやりとりが始まり、学校側は翌19年1月、報告書の受け入れを拒否すると通知。さらに翌月、学校側は「損害賠償請求権を放棄するなら死亡見舞金の申請を考える」と持ち掛けたという。結局、両親は自ら日本スポーツ振興センターに申請。20年3月27日に第三者委によるいじめの認定を踏まえ、給付が決まった。学校側は現在もいじめ自殺を認めず、膠着(こうちゃく)状態となっている。

 学校側は自殺原因についての見解を両親に示していない。11月4日付で送付した共同通信の質問状にも答えていない。父親は「自分たちは間違っていないと主張するのなら、正々堂々と言い分を明らかにするべきだ。いつまでも逃げ続けるのは卑怯すぎる」と憤った。

© 一般社団法人共同通信社

https://nordot.app/705998087489897569
第三者委「いじめ自殺」報告を拒絶する長崎・海星高 遺族に向き合わず、隠蔽体質示す会話記録の一部始終

By 石川 陽一

2020/12/03




2017年4月に長崎市の私立海星高2年の男子生徒=当時(16)=が自殺した問題は、第三者委員会の「いじめが自死の主たる要因」という認定を学校側が拒絶したまま、2年が過ぎた。教頭だった武川真一郎(たけかわ・しんいちろう)校長は当初、遺族に「突然死ということにしないか」などと偽装を提案。私立校を監督する長崎県学事振興課も「突然死までは許せる」と追認したことが発覚し、謝罪に追い込まれた。現在の同課は態度を改め、いじめを認めるよう説得を続ける。だが、私立校は独自性が尊重されることから、法的な拘束力のない「お願い」にとどまるのが現状だ。(共同通信=石川陽一)

 ▽学校側を全面擁護する当時の県学事振興課の参事

 生徒は17年4月20日、長崎市内の公園で自らの命を絶った。現場には「学校にいくたびにトラウマの如く頭痛がする」「友達と話す機会も減り、dis(ディス)られるのを恐れ、緊張する」などといじめを示唆する遺書が残されていた。遺族側によると、4月27日、武川氏が生徒の父親(53)に、マスコミ対策として「突然死ということにしないか」と持ち掛け、翌日も「転校したことにもできる」と提案した。

長崎市の私立海星高(画像の一部を加工してあります)

 5月4日には、加害者とされる同級生の実名入りでいじめ被害を訴える手記が見つかり、遺族は学校側への不信感を強めた。原因究明と再発防止を要請すると、弁護士ら有識者5人による第三者委員会が設置されて7月から始動したものの、クラスでの話し合いや全校保護者会での公表は「調査結果が出るまでは動けない」などと理由を付けて拒み続けた。

 「自殺を無かったことにするつもりなのでは」と危惧した遺族は18年1月31日、県学事振興課の当時の参事(現県立高校長)ら県職員2人と共に武川氏と面会。共同通信が入手した録音データでは、当時の参事は「突然死まではぎり許せるけど、転校というのは事実と反するので(武川氏は)言うべきではなかった」と発言した。

 その席で遺族は、学校側が一部の保護者にしか自殺を公表していないことも問題視したが、当時の参事は「全校保護者会を緊急でやる必要はなかった。亡くなった事実が広がっていないので」。

 19年4月が時効となっていた日本スポーツ振興センター(JSC)への死亡見舞金の申請を学校側が拒んでいたことに対しては「いじめが主原因と証明が無いと最終的には(見舞金が)出ない」「理屈で言えば、(時効の)2年が迫った段階ですれば良い」と説明。

 遺族が学校側に加害者とされる同級生への指導を求めると「第三者委の結果が出ないと個別の指導はやっぱり厳しい」「海星としては、いじめをなくそうという教育をやってきた意識がある」などと学校側の擁護に終始した。

 文部科学省のガイドラインは「学校が噓をつくと信頼を失いかねない」と明記。自殺を「事故死や転校などと伝えてはならない」と定める。同省の担当者も「『突然死』の肯定は、いじめ防止対策推進法の趣旨を理解していないと言わざるを得ない」と語った。

 生徒の母親(48)は「遺族の主張を全て打ち消し、ひたすら武川氏の肩ばかり持った。当時の参事は海星高の共犯者となって、隠蔽(いんぺい)を助長したと思っている」と話す。

自殺した私立海星高2年の男子生徒の命日を迎え、長崎県庁で記者会見する両親=4月20日

 ▽「帰宅後に亡くなったから学校の管轄外」と校長

 遺族の意向を無視した学校側を、誰もとがめないまま、月日は進んだ。そして、18年11月19日、第三者委の報告書がまとまった。生徒は一貫校の海星中3年時から同級生におなかの音をからかわれるなどのいじめを受け、海星高に内部進学後は教員による理不尽な指導もあったと認定。「いじめが自死の主たる要因であることは間違いない」と結論付けた。

 「学園が自主的に取り組むべき課題は数多く存在したが、調査は本委員会に任せるとし、再発防止策の検討などの取り組みを何ら行っていない」「本件が重大事態であるという認識が不十分で、大切な生徒を預かり、育てる自覚に欠ける」。学校の対応を批判する文章が並び、生徒へのいじめ教育や教職員のいじめに対する認識も不足していると指摘した。

 さらに、生徒が残した手記に加害者として実名を挙げた同級生への指導や、第三者委によるいじめ防止を訴えるメッセージの全校生徒への配布、今回の問題を検証した上で具体的な対策案を遺族に文書で示すことなどを学校側に求めた。

 報告書でやっと息子の死が報われ、良い学校になってくれる―。そんな両親の期待はあっさりと裏切られた。19年1月、学校側は報告書を拒絶することを通知。内部進学生の保護者を対象にした翌2月の説明会で、武川氏は「ある人のノートに名前が出てるだけで(同級生を)呼び出して、何を言うのか。人権侵害だ」「(生徒は)帰宅後に亡くなっているので、はっきり言うと学校の管轄外」などと主張した。

 文科省のガイドラインが望ましいとしている調査結果の公表も当初は拒み、報告書が完成してから約1年後の19年11月、ようやく学校のホームページに掲載。ただし、約1週間で削除された。「お知らせ②」との見出しで、クリックして初めて報告書と分かるようになっていた。第三者委のメンバー5人の実名を挙げた上で、「いじめの行為が特定されておらず、論理的飛躍がある」「報告書には問題があり、理解できない」と主張する見解文が添えられていた。

 学校側はその後、第三者委に報告書の根拠や裏付けとなった資料の開示を要求し、長崎簡易裁判所に調停を申し立てた。ヒアリングなどの調査で誰がどのような回答をしたかの特定につながりかねないため、第三者委はこれを拒否。調停は不成立に終わった。

 遺族は弁護士や県を通じて報告書の受け入れを求め続けているが、現在に至るまで学校側の態度は変わっていない。自殺原因についての見解も示されたことはない。

釈明の記者会見をする長崎県の大田圭総務部長=18日午後、長崎県庁

 ▽行政介入できず、でも億単位の助成金

 共同通信が11月17日に当時の参事の「突然死」追認発言を報じると、県は翌18日、釈明の会見を開いた。大田圭(おおた・けい)総務部長は「海星高の提案はマスコミから遺族を守るためだった」との見解を示した上で、発言自体は「不適切だった」と認めた。「ガイドラインは学校側が守るべきものであり、県は対象にならない」とも強調し、「自殺の公表を望む遺族の意向を把握していなかった」と説明。一方、遺族によると、両親は追認発言があった会合の約2カ月前にも当時の参事と面会。生徒の遺書や手記を示した上で「海星高の対応は納得できない」と訴えており、「意向を知らなかったはずはない」という。矛盾だらけの苦しい言い訳が続き、当時の参事の処分については「事実関係を確認した上で必要性を検討する」と述べるにとどめた。

 県は同日、遺族に陳謝したが、当時の参事は現れなかった。生徒の父親は「大田氏の主張を聞くと、問題の本質が理解できていないと思う。発言した本人に出てきてほしかったし、形だけの謝罪なら必要なかった」と切り捨てた。母親も「当時の参事が無罪放免なのは納得できない。法律やガイドラインもろくに知らず、いじめ自殺の偽装に加担するような人が県立高校の校長をやっているのは恐ろしい。通っている子供たちがかわいそう」と憤った。

 一方、19年4月に着任した県学事振興課の現在の男性参事は、定期的に海星高を訪問し、再三に渡って文書や口頭でいじめを認めるよう求めている。父親も「現参事は遺族の心情に寄り添ってくれている。最初からこの人が対応に当たってくれていれば、学校側はここまでひどい態度を取れなかったのではないか」と全幅の信頼を寄せる。

 ただ、私立校は公立校と比べて独自性が尊重されている。文科省のガイドラインは、子どもが自殺していじめが疑われる場合の調査主体を公立校は教育委員会と想定。私立校は学校法人としており、行政は介入できない。

 同省によると、いじめ防止対策推進法は、学校側が調査結果を受け入れない状況を想定していないという。同省の担当者は「法の理念に従わない私立校には地方自治体の担当課が指導するべきだが、強制力はない。言うことを聞かない場合は、当事者同士で解決してもらうしかない」と話す。

 海星高に対して行政は「お手上げ状態」となっている。が、同校は税金を財源とした助成を受けている。長崎県の公金支出情報公開システムによると、19年度は海星高を運営する学校法人海星学園に計約6億2千万円を県から交付。奨学金や就学支援金も含まれるが、このうち約4億6千万円は学校法人を対象とした補助金だ。県学事振興課によると、いじめ防止対策推進法には罰則規定がないため、違反してもこのお金をカットすることはできないという。

尾木直樹さん

 教育評論家の尾木直樹(おぎ・なおき)さんは「第三者委の報告書を受け入れない海星高の態度は常軌を逸している。調査結果の尊重は常識で、拒否するのは裁判の判決に従わないのと同じ。法治国家の日本で教育機関を名乗る資格はない」とばっさり。「いじめ防止対策推進法を改正し、違反時の罰則規定を設け、第三者委の結論に一定の効力を持たせるべきだ。行政の過度な介入は私立校の自主性を脅かす恐れもあるが、法の理念に外れた行為は見過ごせない」と訴えた。長崎県に対しては「解決に向けて、有識者による専門の対策チームを設置してはどうか」と提案した。

 ▽取材を終えて

 私立校への取材の難しさを感じた。海星高は今回の自殺問題で一度も記者会見を開いておらず、共同通信が11月4日付で送付した質問状にも回答していない。校内で情報を統制しているため、ほとんどの生徒や教職員は詳しく事情を知らず、幹部は逃げ回る。県に情報公開請求をしても、学校側が出した書類は全て黒塗りか開示拒否だった。

 記事を書けたのは、遺族が会話を克明に記録していたからだ。もし学校トラブルに見舞われている人がいたら、自衛のためにも録音を心掛けてほしい。

 海星高では、19年5月にも校内で別の男子生徒が自殺した。きっと内部にもこの学校はおかしいと感じている人はいるはずだ。心ある関係者は勇気を出して声を上げてほしい。表だって動けないのなら、告発でも良い。共同通信長崎支局はお電話をお待ちしています。全ては二度と犠牲者を出さないために。(終わり)

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第三者委「いじめ自殺」報告を拒絶する長崎・海星高 遺族に向き合わず、隠蔽体質示す会話記録の一部始終https://www.47news.jp/47reporters/5561926.html

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いじめ自殺の真相究明阻む「私立校の壁」 「常軌逸した」長崎・海星高を一時、県が追認した理由

By 石川 陽一

2020/12/04

Published

2020/12/04 07