国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)へのレポート提出と、ミーティングにおけるスピーチ全文共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会2024年10月19日 20:08PDF魚拓


DV・虐待を許さない弁護士と当事者の会、Kids Voice Japan 及び Safe Parents Japanは、国連の女性差別撤廃委員会が行う8年ぶりの日本審査にあたり、共同親権と面会に関する問題を指摘する2通のレポートを提出し、その内容を委員に周知するためにジュネーブ入りしてロビイングを行いました。

また10日14日に行われた、委員会委員とNGOとのミーティングにおいてスピーチを行いました。

https://webtv.un.org/en/asset/k1s/k1sdy2d4ho
(00:41:45~)

(スピーチ全文)
I am speaking about issues regarding articles 2(d) and 16(d).

This year, Japan introduced the joint parental authority system post-divorce starting from 2026. We, the lawyers who have dealt with many family law cases for decades, are seriously concerned such a system may make mothers suffer more than ever, because our legal system lacks protection for DV victims and economically vulnerable women, and the abusers will be able to use the court to continue to harass their victims.

For more than a decade, family courts have been forcing parent-child visitations even when there is abuse in the family.

Regarding the lack of protection, half of single-mother households live in relative poverty, as 70% of them do not receive child support and cannot escape poverty even if they work so hard, because there is significant wage gap between men and women. 90% of divorces are done by mutual agreement without any legal scrutiny. Many women just want to get out of marriage and give up child support or sufficient division of property.

Members of the Committee, We sincerely ask you to make the necessary recommendations to the Japanese government, as we stated in our reports.

(和訳)
(女性差別撤廃条約の)2条(d)と16条(d)に関する問題について述べます。
 日本では今年、離婚後の共同親権制度が導入され、2026年から施行されます。何十年もの間、多くの家族法事件を扱ってきた私たち弁護士は、この制度が母親達をこれまで以上に苦しめることになるのではないかと深刻な懸念を抱いています。 DV被害者や経済的弱者である女性に対する保護が制度上不十分であり、加害者が裁判所を利用して被害者に嫌がらせをし続けることができるようになるからです。
 この10年以上、家庭裁判所は家庭内で虐待があっても、親子の面会を強要してきました。
 保護の不十分さについてですが、母子世帯の半数が相対的貧困状態にあり、その70%が養育費を受け取れず、男女間の賃金格差が大きいため一生懸命働いても貧困から抜け出せません。離婚の90%は、法的な審査を経ずに双方の合意だけで成立しています。 多くの女性は、ただ結婚生活から抜け出したいあまりに、養育費や十分な財産分与を放棄するのです。
 委員会の委員の皆さん、私たちがレポートで述べたように、日本政府に対して必要な提言を行っていただくよう、心からお願いいたします。

提出したレポートに関してはこちらをダウンロードして下さい。

国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)へのレポート提出と、ミーティングにおけるスピーチ全文

共同親権の問題について正しく知ってもらいたい弁護士の会

2024年10月19日 20:08



離婚後共同親権導入に伴う様々な懸念
DV 虐待を許さない弁護士と当事者の会
Kids Voice Japan
目次
1.離婚後共同親権制度導入の問題 ....................................................................... 2
2. どのように重大な影響をもたらすのか .............................................................. 3
3.日本政府は何をすべきか ............................................................................... 3
4.背景説明 ................................................................................................... 4
4-1 日本社会のジェンダー不平等と子育て責任を母親にのみ担わせる社会、シングルマザ
ーの貧困 .................................................................................................... 4
4-2 日本特有の家族法制や婚姻をめぐる社会構造の特殊性 ................................... 5
4-3 日本での共同親権導入について諸外国の人々はどのように誤解しているか.......... 5
4-4 報道における日本の家族法制度についての誤解 ............................................ 7
5 勧告に向けた提言 ........................................................................................ 8
5-1 離別後の嫌がらせ(ポスト・セパレーション・アビューズ、‘PSA‘)実態調査の実施 ..... 8
5-2 離婚後共同親権から単独親権へのスムーズな変更 ......................................... 9
5-3 家族法改正過程の検証 .......................................................................... 10
5-4 DV 対策 ............................................................................................ 10
5-5 裁判所等の手続において、DV 被害者の安全が保護され、また、不本意な合意に誘導
されることがないよう、早急に具体的な改善策を ................................................. 12
5-6 裁判所の改善 ...................................................................................... 13
5-7 DV ケースへの法執行機関や裁判所の介入の強化による被害者の安全確保 ........ 15
5-8 財産分与............................................................................................ 16
私たちは、CEDAW 第 89会期に対して、日本社会で現在女性がおかれている状況、とく
に親密な関係性におけるドメスティック・バイオレンス(DV)の状況や、離婚後の子の養育
にかかわる日本の政策について、深刻な懸念があることを主張する。日本では、2024 年
に離婚後の共同親権制度を含んだ家族法改正がなされ、2年以内に施行されることとな
った。私たちは、この家族法改正について、特に、ほとんどの場合で子の主たる養育者で
ある母親と、その母親が育てる大多数の子どもたちに深刻な悪影響を及ぼす可能性があ
ることについて、重大な懸念を表明する。私たちの懸念は、日本の著しい男女格差、女性
が直面する困難な状況、DV や虐待に対する不十分な対策といった事実に根差している。
これらの点は、CEDAW1によって強調された問題と一致しており、私たちは、子どもの健
やかな育ちを促進し、子どもの最善の利益を実現するとともに、男女平等を推進するとい
う 2 つの観点から、家族法の改正案を検討する。
用語の定義
- 親権(“Parental Authority”): 親権とは、養育、教育、法定代理権、居住地決定権、
就労許可権など、広範な親の権限と義務を指す。
- 監護(”custody”): 子どもを育てる責任を指す。
以下に詳述するように、日本の家族法制度に関する国際社会での重大な誤解は、これらの
用語と関連する法的概念の誤訳と誤解から生じている。私たちは CEDAW に対し、
親権、
監護、親子の面会交流についての正確な理解に基づく勧告を検討するよう強く求める。
1.離婚後共同親権制度導入の問題
日本では、2024 年に離婚後の共同親権選択制を含んだ家族法改正がなされ、2 年以内
に施行されることとなった。日本での法改正では「親権」(parental authority)という
用語が使われ、これには、監護教育の権利義務(民法 820 条)、居所指定権(822 条)、職
業許可権(823 条)、財産管理および代表(824 条)といった内容が含まれており、身上監
護、教育、法定代理検討を含んだ、非常に広範な権限が含まれている。離婚後共同親権の
導入により、離婚後も父母が共同親権者であれば、子に関するあらゆる事項を父母が共同
で決定することとなる。居所の指定、進学先の決定、医療行為等、共同決定事項は多岐に
わたる。「急迫の場合」と「日常の監護教育に関する行為」については共同親権であっても
父母が単独で決定できるが、単独決定事項の定めが曖昧であるため、結局子に関する事
項を決定できなくなったり、決定に関連して元配偶者からの嫌がらせがひきおこされるこ
とを私たちは強く懸念している。2日本では、離婚後にも別居親と子の面会を可能にする
法制度は存在するが、何らかの理由があって裁判所により子との関わりを制約された親
を含む、非親権者を中心とする団体等による熱心なロビーイングと世論形成によって、離
婚後の共同親権制度を含む法改正が行われた。欧米諸国では、子や同居親の生命や身体
1 CEDAW/C/JP/QPR/9、No.9、「女性に対するジェンダーに基づく暴力」、No.25、「結婚と家族関係」。
2 欧米諸国では、「親の子に対する権限・権利(Parental Authority・Parental Right)」から、「親による子の保護
(Custody)」、さらに「子に対する親の責任(Parental Responsibility)」へと変遷し、「共同での監護(Joint Custody)」か
ら「責任の分担(Shared Parental Responsibility)」ととらえるよう変遷している。
に危険を生じさせるような様々な問題が生じ、近年、離婚後の子の養育法制の見直しがな
されているにもかかわらず、日本においては、これらの問題点に対する意識が希薄なまま、
共同親権を積極的に推進する法改正がなされた。
2. どのように重大な影響をもたらすのか
共同親権制度の導入は、いくつかの深刻な結果をもたらす可能性がある:
(1)離別後の嫌がらせ・虐待(ポスト・セパレーション・アビューズ)が悪化・激増する可能
性: DV や対等でない関係性がある場合に共同親権を適用すると、親同士の緊張や対立
がエスカレートし、既存の虐待が悪化する可能性がある。
(2)共同親権の不適切な適用 不均等な力関係であったり、様々な DV や虐待など、適切
でない場合に適用され、一方の親に不本意な選択を強いることがある。
(3)別居や逃亡が困難に: DV や虐待の被害者は、加害者と別れることや、加害者から逃
れることがますます困難になる可能性がある。
(4)法的訴えによる嫌がらせの増加: 嫌がらせとして不当な訴えや訴訟が増加し、DV や
虐待に対する裁判所の理解不足から、被害が拡大する可能性がある。
3.日本政府は何をすべきか
(1) 離別後の嫌がらせの実態を調査すること: 日本政府は、離別後の嫌がらせの実
態を徹底的に調査し、その結果に基づいて対策を立てるべきである。
(2) 単独親権への移行を促進すること: 共同親権が不適当な場合に、円滑に単独親
権への移行ができるような措置を講じること。
(3)DV 被害者への支援の拡充:裁判所の判断においては、何よりも子どもと同居親の
安全と幸福が優先されるべきである。法的枠組みは、いかなる接触や面会交流の取り
決めも、被害者がさらなる被害や強制を受けないようにしなければならない。さらに、
DV被害者が安全な面会交流をするための公的支援を拡大すべきである。
(4)DV 対策の強化
a. 早急な法改正 法律を改正し、DV を刑事罰の対象とするか、DV が関わる刑事事
件に対する罰則を強化する。
b. シェルターにおける被害者保護の充実 シェルターにおける被害者の保護を強化
する。
c. シェルター退所後の被害者支援 経済的・社会的支援を提供し、被害者の生活再建
を支援する。
d. NGO を支援する: DV 被害者を支援する NGO への財政支援を行う。
(5)DV 事件に対する法執行と司法の介入を強化する:
a. 緊急保護命令の導入 DV 通報に即時に対応できるよう、緊急保護命令等の措置
を導入する。
b. 保護命令のガイドラインの策定: 審尋を経ずに保護命令を発令するための運用ガ
イドラインを策定し、その活用を促進する。
(6)財産分与実務の改善 特に経済力に格差がある夫婦について、財産分与の公平性
を確保するため、法律や裁判実務を改正する。現在の慣行は、収入の低い配偶者(一般
的には妻)に不利なことが多く、CEDAW 一般勧告第 29 号に沿うよう、大幅な改善
が必要である。
(7)裁判手続きの強化 裁判手続きにおける DV 被害者の安全を確保し、望まない合
意を強要されることを防ぐために、具体的な改善を行うべきである。
a. 専門的な研修: 裁判官、家庭裁判所調査官、調停委員に対して DV に関する専門
的な研修を行う。
b. 専門アドバイザーを配置する: 家庭裁判所に離婚、親権、DV 保護命令に関する
専門アドバイザーを配置する。
4.背景説明
4-1 日本社会のジェンダー不平等と子育て責任を母親にのみ担わせる社会、シングルマ
ザーの貧困
家庭内における日本女性の地位の低さの背景には、日本社会全体における女性の社会経
済的な地位が低いという社会構造がある。例えば、女性の国会議員の割合はわずか 10%
で、会社等での役職者(部長職)の割合は 8%など、社会の中でのリーダーシップは圧倒的
に男性が掌握しており、男性一般労働者の給与水準を 100 としたときの女性一般労働者
の給与水準は 74.83である。
その結果、日本では、子育ての負担は女性にばかり押し付けられ、女性の多くは、出産後
は離職したり就労による収入を減らし、経済的に夫の収入に依存する。日本の離婚ケース
のうちの相当多くの割合を占める 5 年未満の離婚では、女性が離婚以前と同様に子育て
の責任を担うことが当然視される傾向があるが、女性の就労環境は厳しいため、シングル
マザーは非常に経済的に厳しい状況におかれる。にもかかわらず、別居親(多くは父親)が
離婚後養育費を支払う割合は 28%4でしかなく、シングルマザー世帯の貧困の割合は極
3 内閣府男女共同参画局 「男女共同参画白書」. 2024. p.110, 122, 127.
4 厚生労働省 令和 3 年度「全国ひとり親世帯等調査」 P.60
めて高い5。今回の家族法改正においては、当事者を中心として養育費の強制徴収制度導
入の必要性が叫ばれたが実現しなかった。
4-2 日本特有の家族法制や婚姻をめぐる社会構造の特殊性
2024年に国会で議決された2年後の家族法改正は、DV を含め、夫婦間に力関係の不
均衡がある場合の離婚においては、重大な問題をもたらすと私たちは考えている。な
ぜ、私たちがそう思うのかが理解されるためには、他国とは異なる日本の家族制度や家
族関係の実態を踏まえる必要がある。
(1) まず、日本の婚姻は宗教的な意味や儀式を必要とせず、戸籍法に基づく届け出に
より成立する(民法 739 条)。
(2) 離婚の決定についても、多くの場合、裁判所は関与しない。夫婦が協議離婚届に必
要事項を記載して、行政機関に届出をするだけで、裁判所の関与なしに婚姻を解消で
きる。この協議離婚が全体の約 9 割を占めており、離婚の理由は何ら要求されてい
ない。子の養育費や面会交流を含めた子の監護に関する事項についても当事者間の
話し合いに委ねられており、その内容の適格性等については、司法機関を含めた公的
な観点からの評価は何ら必要とされていない。
(3) また、日本では子どもを持つ親の圧倒的多くは法律婚を選択する。事実婚やシン
グルマザーでの出産の割合は非常に低い。日本における婚外子の割合は同じ年に生
まれる子どものうちの 2.4%程度に過ぎない。6
4-3 日本での共同親権導入について諸外国の人々はどのように誤解しているか
私たちは、2024 年成立民法改正が施行されると、特に DV 被害者と子どもに重大な影
響をもたらすと考えている。ところが、日本で離婚後共同親権の導入を推進する際のスロ
ーガンに「欧米諸国は“共同親権”なのに、日本はそうではない」ことが使われた。しかしそ
れは、自国の家族制度や夫婦関係を前提に考え、日本の制度を誤解した他国の人々の評
価や説明により導かれた誤った説明にすぎない。この誤った説明が横行しているため、こ
こでその誤りを指摘しておく必要がある。
5 「国民生活基礎調査」厚生労働省 2018 年 世帯年間平均所得
児童のいる世帯 745 万 9 千円 母子世帯 306 万円 「現在の暮らしの状況」
2019 年 同調査 母子世帯回答者「大変 苦しい」 41.9% 、「 やや苦しい 」 44.8%
6 人口動態統計及び OECD Family Database, 2020. OECD 平均では 41.9%
(1) 改正法施行前の現在においても、日本の共同親権率は他国に比べむしろ、高いとい
う事実がある7。「日本には共同親権制度がない」と他国の人々が言うことが多いが、日本
では子を持つ両親のほぼ全員が婚姻するため、離婚する夫婦を差し引いても、日本は子が
成人するまで婚姻関係を継続する割合は 75%であり、アメリカやフランスで婚姻中・非
婚・離婚後共同親権を合わせた割合は多めに見積もっても 58%(アメリカ)、72%(フラ
ンス)であることを考慮すれば、離婚後共同親権の必要性をあまり強調する必要はない、
と言える。
(2)日本と諸外国における共同親権
欧米の多くの国で採用されている共同監護は、日本でも法改正以前から可能である。現
行制度では、婚姻中は共同親権、離婚後は単独親権
となっているが、日本では単独親権で
あっても、法律上(民法第 766 条)、双方の合意によって監護の取り決めをすることがで
きるからである。実際には、別居親(親権を持たない親)は、面会交流などの一定の権利を
本来的に保持し、子の養育に参加し続けることができる。これらの権利により、別居親は、
相互の合意により、引き続き養育に関与することができる。
例えば、離婚後に母親が同居親(親権者)になった場合、両親は親権者
でない父親と共同
で子育てをすることに合意することができる。この取り決めは、事実上、欧米諸国におけ
7 木村草太 a (2024). 「非婚・離婚後の共同親権と子の利益――共同親権率の低い欧米から学ぶべきこと」, 『現代思想』,
52(5), 53–59.
る完全な共同監護に相当する。取り決めには、面会交流やその他の関与に関する条件も含
めることができ、それによって双方の親が子どもの養育責任を分担することができる。厳
密に言えば、日本の制度は、離婚後の共同養育協定が法的拘束力のある義務として裁判
所に強制される他の多くの国とは異なる。しかし、この違いは、前述のように、日本の法律
婚における共同親権の割合が例外的に高いことや、日本独自の法的枠組みや社会構造に
よるところが大きい。このような違いはあるものの、日本では離婚した夫婦の相当数が共
同養育を行っているとみられる8。
別居親と子との間の法律関係は本来的に継続し、別居親は経済的扶養などの義務を維持
し、親と子は相互に相続権を保持する。この意味で、現在の日本の親権制度は、一方の親
が主に同居親として子供の世話をし、もう一方が別居親として子育ての責任を果たす、欧
米諸国の親責任分担モデルと根本的に異なるものではない。
4-4 報道における日本の家族法制度についての誤解
特に欧米のメディアを中心に、日本の家族法制度について誤った理解に基づく報道が数
多くみられる。本来、日本政府は、外国に対し日本の親子法制につき正確な説明をして誤
解を正すべきである。
もっとも頻繁かつ大きな誤解は、「日本では単独親権制度のもと、離婚したが最後、非親権
者は子供に二度と会うことができない」というものである 。しかし、2011 年に民法で面
会交流の明文規定が制定され、面会交流を求める手続きをとれば、親権者の同意がなく
ても、原則として子どもに会うことができる運用がなされてきた。子が日本に連れ去られ
て会えない、と主張する外国籍の親の中には、日本の法制度に従い面会交流の調停や審
判を申し立てていない者すらいる。
また、次の大きな誤解は、「日本の単独親権のもとでは、直近で子どもを実際に監護して
いた親が、裁判所によって監護者と指定される」というものである。しかし、家庭裁判所で
は、子が生まれたときからの監護実績を検討し、原則として主たる監護者を監護権者に指
定する運用が確立している。 日本では、育児のほとんどを女性が担っている。子の養育を
主体的に担ってきた女性が子を連れて家を出ると、裁判所は女性を監護権者に指定する
8 法務省.
協議離婚に関する調査結果の概要. moj.go.jp/content/001346482.pdf
協議離婚した 1,000 人のうち: 71%が面会交流について何らかの合意をしている(問 41)。
そのうち 68.3%が定期的な面会交流に同意し、さらに 17.6%が宿泊に同意している(問 44)。
ことが多い。これを一部の外国メディアが、誤解に基づき「連れ去り勝ち」の運用と呼び、
批判している。
離婚後の子の養育について、日本の単独親権制に大きな問題があると欧米諸国から度々
指摘されてきた。ハーグ子奪取条約との関係でも、日本の単独親権制が、子の奪取を引き
起こしていると指摘され、欧米諸国や国際機関は、日本の単独親権制を改め、共同親権制
の導入を求めてきた。しかし、このことを議論する際には、現在日本で「親権」と呼ばれ改
正法に導入されたものと、諸外国で用いられている親権概念が同一でないことに注意す
る必要がある9。
諸外国政府や報道機関は、日本の制度や社会の現状に対する誤解のもと、日本の家族法
改正を要求をしてきた。2019 年の国連の子どもの権利委員会の第 80 回総括所見に先
立つ議論においても、「日本では共同監護が認められていない」と誤解している委員の発
言があり、この不正確な認識の下、「別居親との人的な関係及び直接の接触を維持するた
めの児童の権利が定期的に行使できることを確保すること」との勧告がなされた。これ
は、既に日本では別居親と子の交流をするための法制度が存在することを知らないまま
になされたものである10。日本政府もこの委員の不正確な認識を正す説明をしなかった重
大な責任がある。
CEDAW には、親権や親子交流に関する日本の法制度及び日本の社会構造を正しく理解
した上で勧告を検討することを強く要望する。
5 勧告に向けた提言
5-1 離別後の嫌がらせ(ポスト・セパレーション・アビューズ、‘PSA‘)実態調査の
実施
日本は、離別後の嫌がらせの実態を把握するような全国的な調査を行い、早急に対策を
とるべきである。
理由
2026 年までに施行される離婚後共同親権制度の導入にあたり、離別後の嫌がらせの増
加が予想される。にもかかわらず、現在日本では、離別後の嫌がらせに関する公的な調査
9 小川富之「日本および諸外国(米国、英国、オーストラリアなど)における現状と法制度」熊上崇・岡村晴美編『面会交流と共同
親権』明石書店、2023 年 1 月 31 日、p.56
10 小川, p. 60-63
が存在しない。インターネット調査会社を通じて実施した調査11によると、子どもがいる離
婚経験者 1000 名の回答者の内、58%が PSA の被害に遭っていた。内訳は「精神的な
もの」35.3%、「経済的なもの」21.7%、「面会交流のこと」15.4%であった。PSA に遭
った 582 人のうち、子の面前でも経験したと回答した方は 431 人(74.1%)と高い水
準であった。別居原因が DV・虐待の層では、「精神的なもの」53.7%、「経済的なもの」
31.6%、「面会交流のこと」19.4%、等の嫌がらせがあった。離別原因が DV の層では、
DV でなかった層の 4.7 倍もの性被害が起きている。離婚後共同親権制度がない今まで
では法的な嫌がらせは 5%であったが、2026 年度以降はこの割合が上がることが強く
懸念される。
日本では、妻又は元妻は低収入であることが多い。ひとり親家庭の 2 組に 1 組は相対的
貧困状態にある。調停のために仕事を休むことは、多くのシングルマザーにとっては死活
問題となりかねないレベルの深刻な経済的負担を生じさせることを意味する。離婚後共
同親権制度の導入を機に、調停などを利用した場合の政府による休業補償の措置等や、
別居後の法的嫌がらせの性質がある調停申立を裁判所の判断で受け付けないことを可能
にする制度等の具体的な対策が強く求められる。
5-2 離婚後共同親権から単独親権へのスムーズな変更
離婚後共同親権制度の導入にあたり、共同親権を適用すべきでない状況になった場合に
は、スムーズに単独親権に変更できるような施策をとるべきである。
理由
日本では、裁判所も弁護士も関与しない「協議離婚」が全離婚の 9 割を占める。このため、
法的知識に欠けた当事者が、共同親権の意味を理解しないまま安易に共同親権に合意し
てしまったり、不本意に共同親権に合意した形となってしまう事案が生じる可能性がある。
また、いったん離婚後共同親権に合意した後に、父母の関係が悪化するなどして、共同親
権を適用するべきではない状況になることもあり得る。もともと共同親権を適用すべきで
ない事案で共同親権と合意されてしまった場合や、離婚後に共同親権を適用すべきでな
い状況になった場合などには、弱い立場の子どもにその不利益が及ぶことを懸念する。こ
のような場合にはスムーズに単独親権への移行をしやすいようにする施策を講じるべき
11 「ポストセパレーションアビューズおよび共同親権法案に関する実態調査」2024 年 5 月 13 日 ちょっと待って共同親権プロ
ジェクト、共同親権から子どもを守る実行委員会 papermark.io/view/cm0gcmvxv0002rj95b8p298hv
である。
5-3 家族法改正過程の検証
離婚後共同親権の導入をする法改正に関する法制審議会には、DV 被害当事者、虐待を受
けた子どもが立法過程で委員として参画できず、別居親の代表団体のみが参画を許され
ていた。なぜこのようなことが起きたのか、問題を真摯に検証し、公表すべきである。
理由
(1)法案の骨子を提案する、国会提案に先立つ政府の法制審議会の議論において、DV 被
害当事者、虐待を受けた子ども、共同親権導入を懸念する同居親は参考人として話を聞
かれたのみで、委員としては参加できなかった。他方で、共同親権導入を推進する別居親
団体代表は委員となり、導入を精力的に主張した12。
(2) 法制審議会では、DV 被害者支援団体の代表と、DV 被害者支援に詳しい研究者が答
申に反対したにも関わらず、その反対の意見は無視されて要綱案が成立し、政府に提出さ
れた。全会一致でないまま要綱案が成立するのは異例のことであった13。
(3)法制審議会で骨子案について、2023 年にパブリックコメントの募集がなされ、そこ
に寄せられた約 8,000 件の個人の意見の内 2/3 が導入に反対であった。14ところが、そ
の詳細を法務省は公表していない。
5-4 DV 対策
日本では、DV 等女性に対する暴力の被害者がどの地域に住んでいても等しく必要な支
援が受けられる状態にはない。すべての被害者に専門的、包括的な支援をできるようにす
るため、以下の対策を速やかに講じるべきである。
(1)公設の緊急避難シェルターで様々な原因から入所を許されない状況はただちに改善
すべきである。日本政府はそのためにどのような対策を講じているのか明らかにすべき
である。
12千田由紀. 「第 1 回法制審議会家族法制部会における ドメスティック・バイオレンス(DV)にかかわる議論」『武蔵大学総合
研究機構紀要』 武蔵大学総合研究機構 (2022): No.31、pp.33-39.
13 竹内努答弁. 参議院法務委員会, 2024 年 5 月 9 日, 国会会議録情報システム,
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=121315206X01020240509&spkNum=7&current=5.
14 「「共同親権」パブコメ、全容公開しないまま審議 導入ありきに疑問の声」生活ニューコモンズ 2023 年 9 月 9 日記事
Commons, s-newscommons.com/article/303

CEDAWレポート 離婚後共同親権導入に伴う様々な懸念.pdf


はじめに
私たちは、CEDAW 第 89 会期に対して、日本では、別居または離婚後に別居親と子が面会するこ
とに関して様々な問題が起きているにも関わらず、政府が全く対策をとっていないため、特に DV
被害者や子どもなど、弱い立場の人達が苦しめられていること、また、2026 年までに施行される
離婚後共同親権制度をてこに、本来リスクがあり面会交流をすべきでない事案でも実施される危
険性が以前より高まり、その被害が深刻化する懸念があることを主張する。これに関し CEDAW が
日本に対し適切な勧告を出すこと求める。
この文書では、「親権」及び「監護」を以下の意味で用いる。
• 「親権」(parental authority):監護教育の権利義務(民法 820 条)、居所指定権(822 条)、
職業許可権(823 条)、財産管理および代表(824 条)といった内容が含まれており、身上
監護、教育、法定代理権等を含んだ、非常に広範な権限
• 「監護」(custody):子どもを養育する責任
求められる勧告
1 面会交流原則実施の実態調査
日本政府は、民法 766 条改正後、家庭裁判所の実務運用が、いわゆる「面会交流原則実施」とな
って以降、監護親と子どもにとって、その実態がどのようなものであったのか調査するべきである。
(理由)
2011 年に民法 766 条が改正された後、家庭裁判所の実務運用は、「子の福祉を害する特段の事
情がない限り面会交流を認める」という、いわゆる「面会交流原則実施」となった。子どもが面会交
流を強く拒絶している事案や、DV虐待の存在する事案でも、面会交流に応じるよう同居親への強
い働きかけがなされたり、直接交流を命ずる審判が出されるようになっていた。
日本弁護士連合会の両性の平等に関する委員会委員有志にて、2016 年に家庭裁判所における
面会交流事件に関する調査を実施したところ、委員 65 名からの回答があった1。この調査結果は、
子どもが面会を拒否していたり DV 被害者が面会に不安を感じていても家庭裁判所における調停、
審判で面会交流が決められてしまう実態を明らかにするものであった。
調査結果によれば、49 名の弁護士が、(元)配偶者へのDVや子どもへの虐待があった事案であ
るにもかかわらず、調停委員、調査官、裁判官などから、子どもを別居親と面会させるよう求めら
れた経験があったと回答し、うち直接の面会交流を行うこととなったとの回答が 43 名であった。
1 可児康則.「面会交流に関する家裁実務の批判的考察」
判例時報, No.2229, (2016).
また、35 名は、履行が困難と感じる内容の面会交流調停が成立したり、審判が出された経験があ
ると回答した。具体的には、別居親のDVが原因で保護命令(接近禁止)が出ている事案であるに
もかかわらず、直接的な面会交流が認容されたり、面会交流の頻度が多すぎるため監護親が疲
弊したり、低年齢の子どもについて遠距離・頻回の面会交流をする調停等が成立していた。監護
親が同居中の DV 被害の恐怖から十分に回復できおらず、精神的負担が大きく、面会をする都度
監護親の体調が悪化する事案も報告された。
なお、3 項において後述するとおり、2016 年から 2017 年にかけて、面会交流中の殺人事件が複
数発生した後、2020 年には、家庭裁判所は「ニュートラル・フラットな立場(同居親及び別居親の
いずれの側にも偏ることなく、ひたすら子の利益を優先に考慮する立場)で臨む」との方針を示し
たが、その実態はあまり変わっていない。
2022 年にシングルマザーサポート団体全国協議会(全国 31 団体)が実施した調査2において、家
庭裁判所の調停や調査は中立ではなく、同居親(主に母親)に対してのみ面会交流等で譲歩を促
す非対称性や、子どもが拒否していても面会交流を促している実情が明らかになった。DV は軽視
され、保護命令が出ている事案でも面会交流するように言われたり、面会交流ができないなら親
権は得られないと調停で言われた事案も報告された。
2 子の福祉にとって有害な面会交流が行われている実態についての調査
日本政府は、離別後も監護親及び子どもにとり虐待的な面会交流が継続することの害悪に関す
る調査をするべきである。
(理由)
上述の弁護士調査では、調停条項または審判に基づく面会交流の実施により、子どもに悪影響
が及んだ事案があると回答した弁護士は 22 人であった。具体的には、子どもが自身の意向が無
視され面会交流をさせられることから反抗的になり生活が著しく荒れた、面会交流の後で泣く・お
ねしょをする(4 歳)、監護親と子どもとの間で親子関係が悪化する、子どもが不眠、頻尿を訴え、
心療内科での治療が必要となった(診断名は不安神経症、抑うつ状態)、じんましん、発熱、赤ち
ゃん返り(退行)等の症状が出た、医師により心因反応との診断を受けた、不登園、トイレの失敗
等(退行)、友達への暴力的態度、脱力等、情緒的不安、頻回な興奮状態等であった。
また、調停条項または審判に基づく面会交流の実施により、監護親が心身に不調をきたした事案
があると回答した弁護士は 28 人いた。具体的には、うつ病になった、不眠・不安症、偏頭痛、頻回
頭痛、嘔吐症、強いストレスによる不眠や悪夢、面会の日が近づくにつれて鬱状態のようになる、
感情の起伏が極端に乏しくなったり、激しくなったりする等、PTSD の典型的なあるいはこれに類
2 シングルマザーサポート団体全国協議会.「家庭裁判所の子の監護に関する手続きを経験した人への調査結果ならびに
家庭裁判所への要望」 www.moj.go.jp/content/001383775.pdf
似する諸症状、精神的に不安定になる、動悸、眩暈により救急搬送され、入院を余儀なくされた、
PTSD 症状やうつ、不眠等の精神的不調が起き、そのことが日常生活に影響している様子が見ら
れた、うつ状態/パニック障害などの持病が治らない、悪化する、精神的に疲弊して、しばらく仕
事を休むことになった等であった。
また、非監護親が面会交流時に立ち会う監護親に対して暴言を吐く、嫌がらせをする等の事案も
報告された。
家庭裁判所は、面会交流実施の審判を出した後、その判断が真に子どもの福祉にかなうもので
あるかどうかの追跡調査は一切行っていない。後記 3 記載の通り、面会交流時の殺人事件も複
数起こっている状況もある。このように非常に深刻な実態があるにもかかわらず、これまで国によ
る実態調査はなされていない。対策をとるために、まずは公的な実態調査を行うべきである。
3 面会交流時に起きた殺人事件についての検証の必要性
日本政府は、面会交流中に子どもが殺害されるケースを防止するために、過去の事例を調査し、
速やかに具体的な対策を講じるべきである。
(理由)
高葛藤・高紛争で DV があった事案では、別居や離婚に不満を持つ親が、元配偶者を傷つけ復讐
する目的で、面会交流中に子どもを殺害するということは各国で起きており、その対策が重要な
課題となっている。
日本でも近年以下のような事件が発生している。
(1)2016 年 6 月 大阪府堺市
面会交流中の父親が小 1 の息子と共に海中に沈んだ車から遺体で発見され、無理心中が疑われ
た3。
(2)2017 年 1 月 長崎県長崎市
離婚後に 2 歳の子どもを会わせるために父親の自宅を訪問したところ刺殺され、父親もその後に
自殺した。離婚時に元夫に定期的に面会交流をさせる「面会交流」を取り決めていた。母親は、元
夫のストーカー行為や脅迫に悩んでいたが、面会交流実施のために元夫に会わざるを得ず、被
害に遭った4。
3 産経 WEST.「海中の車に小 1 男児と父の遺体か 堺、今月 5 日から行方不明」(2016 年 6 月 24 日)。
4 「離婚後の父が復讐鬼? 子供との「面会交流」で殺害の悲劇が止まらない」、
産経ニュース、2017 年 5 月 23 日、
www.sankei.com/article/20170523-OGODUTQJRZLAFHVEJ2RXRBWXUE/。
(3)2017 年 4 月 兵庫県伊丹市
面会交流中の父親が 4 歳の娘を殺害し、自身も自殺。父親は同居中、夜通しの説教や家具を壊
す等の暴力をふるった。協議離婚後に家庭裁判所で面会交流の実施が決まり、その初回の面会
交流において事件が起きた5。
特に(3)の事件では、家庭裁判所が面会交流実施の決定に関与したにもかかわらず、リスクを見
抜けなかったことが問題である。家庭裁判所が面会交流の実施の可否、方法について判断する
際、どのようにリスク評価を実施するかは、(3)の事件を機に真摯に検討されるべきである。
日本では親権制度の法改正がなされ、2026 年までに新たに共同親権制度が導入されることとな
った。これについては、DV 被害当事者、支援者らから、「共同親権制度の導入によって、DV や虐
待被害者が加害者から逃げられなくなる」という強い懸念が表明され、拙速な導入に反対する署
名に 24 万筆が集まった6。従来の単独親権制度も選択可能な制度ではあるものの、DV 被害者が
「離婚してほしいなら共同親権にしろ。単独親権で離婚してほしいなら、面会交流を自由にさせろ」
等と要求し、共同親権制度をてこに、本来面会交流をすべきでないリスクがある事案でも実施さ
れる危険性が以前より更に高まることとなった。
ところが、政府は、「これまでに親子交流中に殺人などの痛ましい事件が起きたことがあることは、
報道を通じて承知をしております。こうした事件等について、法務省において網羅的に調査、検証
したことはない」(2024 年 4 月 5 日衆議院法務委員会 小泉法務大臣答弁)と述べ、今まで、面会
交流に際して起きた殺人事件について調査、検証していないことが判明した。
今後、実施すべきではない面会交流において子どもの命が奪われるという悲劇を 1 件でも起こさ
ないために、過去の事例についての調査、検証を実施し、具体的な対策を速やかに実施する必
要がある。
4 面会交流に関し困難を抱える当事者を支援する体制を構築する必要性
日本政府は、DV や PSA(ポスト・セパレーション・アビューズ。離別後の嫌がらせ)がある事案にお
いて、面会交流が困難であるにもかかわらず実施を迫られる当事者の困難を解決するよう、具体
的な対策を拡充するべきである。
(理由)
婚姻している父母が別居している場合、あるいは父母が離婚している場合、別居親は、未成年の
子との面会を求めて家庭裁判所に調停又は審判を求めることができる。実務では、家庭裁判所
5 一般社団法人共同通信社.「DV で別れた元夫は、4 歳の娘をなぜ道連れにしたのか 面会交流中の殺人、悲劇を無視
して進む「親権」議論の危うさ」(2024 年 12 月 30 日)
6 #ちょっと待って共同親権 プロジェクト.「 #STOP 共同親権 〜両親のハンコなしでは進学も治療も引越しもできな
い!実質的な離婚禁止制度〜」
Change.org. change.org/kyodoshinken
は、同居親や未成年の子が面会に消極的な意見であっても、明確な DV や虐待が確認される事
案でなければ、別居親と子との面会に協力するよう同居親に命じる傾向があり、調停でも同居親
に面会交流を実施するよう説得することも珍しくない。そのため、被害者が DV や虐待の明確な証
拠が残らず証明できない場合には、DV や虐待があった事案であっても、面会交流を実施せざる
を得ない状況に当事者が置かれてしまう。
このような場合、当事者は以下の困難を抱える。
①面会交流を支援する体制が貧弱である
日本には、他の国々にみられるような、離婚後の親子の面会を支援する公的機関が存在しない。
例えばオーストラリアでは、高葛藤の家族が面会交流を実施するためのコンタクト・センターと呼
ばれる施設があり、家庭裁判所のカウンセラーの利用もできる。
しかし日本では、面会交流を安全に実施できるよう支援するための公的機関は存在しない。
面会の実施を支援する民間機関は存在するが、専門性の高さや、DV に対する理解の度合いは
機関によって相当の差がある。民間機関の数は地域によって偏りがあり、まったく利用できない地
域さえある。しかも民間機関の利用は有料であり、低所得のひとり親には利用しづらい。
これらの理由により、家庭裁判所が面会交流を命じたあと、当事者は、たとえ DV や PSA がある
事案であっても、なんらの支援もないまま、自力でその履行に伴う日程調整等の諸連絡や面会へ
の立ち会いを自ら行わなくてはならない。
DV や虐待の加害者は、面会の機会を利用して元配偶者に復縁を要求したり、新たに加害行為に
及ぶこともあり、面会は DV や虐待の被害者には大きな苦痛を生じさせる機会となってしまい、新
たな暴力被害が発生することさえある。
②当事者が困難を抱える面会交流であっても実施しないと間接強制金の支払を命じられ、経済的
に困窮する
家庭裁判所の調停または審判で決定された面会が実施されない場合には、別居親は、同居親が
面会を実施することを求めて強制執行の申立をすることができる。裁判所は、同居親に対し、決
定された内容での面会を実施しない場合には「間接強制金」の支払を命じることができる。「間接
強制」とは,債務を履行しない義務者に対し,一定の期間内に履行しなければその債務とは別に
間接強制金を課すことを警告(決定)することで義務者に心理的圧迫を加え,自発的な債務の履
行を促すものである。
同居親が面会交流を実施しない場合には、間接強制金の支払を命じられる。子どもが面会交流
を嫌がっていても面会交流の実施を決定される事案も報告されており、その場合、同居親は、高
額な間接強制金を支払うか、子どもが嫌がる面会交流を無理矢理実施するかという過酷な二者
択一を迫られることになってしまう。
同居親は、面会交流の決定を変更する申立をすることもできるが、家庭裁判所は人的体制が現
状の紛争件数に対応するには貧弱すぎ、調停や審判の申立をしても、1 年で 3,4 回程度しか実
施できない地域もあるほどであり、実態にあう適切な面会に変更するには長期間を要する。そして
その期間、同居親は、負担が大きい間接強制金の支払を強いられ続けてしまう。
面会交流の間接強制金は近年高額化が著しく、子の福祉を損なう大きな危険性をはらむ。
典型的な例として、平成 29 年 3 月 17 日名古屋高裁決定が、それまで実施されていた面会交流
による子の心身への悪影響を認め、以前の審判が命じた直接の面会交流を禁止したケースが挙
げられる。このケースでは、別居している父親が家庭裁判所に面会交流調停を 7 年間で 4 回申し
立て、子の強い拒否感や身体症状があったにもかかわらずその訴えは無視され、面会が命令さ
れた。同居している母親は子を守るために計 172 万円もの間接強制金を支払わざるを得なかった
が、自身の給与のみからでは支払うことができず親族から借り入れるほど経済的に追い詰められ
た。この事実は子の精神をもさらに追い詰めた。
このように、本来面会交流の実施が不適切であっても、裁判所によって命令されているケースは
数多く存在する。2022 年に当事者団体 Safe Parents Japan が実施したオンライン署名「DV 虐待
加害者と子どもの面会交流を強制しないでください」では 4 万人超の賛同が集まり7、法務大臣に
署名の提出が行われた。しかし、国や裁判所は何の検証も行わず、現在も望まない面会交流に
より心身に取り返しのつかない被害を受け続けている子らがいる。
上記のケースのように、間接強制金の高額化はこのような状況に追い打ちをかける。無理な面会
を命令され調停で決め直そうと思っても、最低でも数か月の時間がかかり、その間強制金は積も
り続ける。その強制金については調査や統計が存在せず、金額の相場は現場の弁護士にとって
も不明である。これらの実態を無視して強制金が高額化することで、加害者から子を守ろうとする
同居親――多くは経済的に苦しい状況にある母親――はますます追い詰められ、深刻な二次被
害を受けている。さらに、面会を望まない子が面会に応じざるを得なくなり、精神的・身体的に危
機にさらされる状況を作り出すことにもつながっている。
高額化は同居親への苛烈な制裁である。不信感のみならず処罰感情すら抱いている父母の間に
高い葛藤が存在することは言うまでもない。そのようなケースにおいて、子が負担なく面会するこ
とは不可能であるばかりか、強制が生み出す反動で将来的な拒絶に至る場合もある。人間関係
を金や法で解決することの限界から目を背けず、高額化さらには根本にある面会交流の強制に
ついて、緊急の見直しと対策が必要である。
7 Safe Parents Japan. 「DV 虐待加害者と子どもの面会交流を強制しないでください」
Change.org.
change.org/kyodoshinken (Accessed: 14 August 2024).

CEDAWレポート 子どもとDV被害者を守るために(面会交流の問題点).pdf