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私たちはここにいるー無きものにされた北朝鮮難民の叫び #80

こんにちは。

過去の記事をご覧になった方はおわかりだと思いますが、私が単身脱北した後、日本で看護師になるまで支えてくれたのは北朝鮮難民救援基金(以下、基金)というNPO団体です。

基金は、名称が紛らわしく”北朝鮮を支援する団体”と勘違いされる場合も多いのです…が、一呼吸入れてじっくり字面を追っていきましょう。

北朝鮮 ー 難民 ー 救援 ー 基金

その心は、北朝鮮を亡命した難民(=脱北者)を救い、(第3国まで送り届けたり、日本で安定した生活を送れるよう)支援するという、至極真っ当な人権団体なのです。

私は少し前から恩返しの気持ちで、理事の一人として基金の活動に携わっています。

そして、基金は現在、緊急事態に見舞われています。
率直にいえば財政難です。お金がありません。

今まで基金の活動に関心を持ち、支えてくれた方々が高齢になったことで支援が難しくなったり、他界されたりするケースが増えてきたのが大きな理由です。

財政難に陥っているため、活動に大きな制約がかかり、困っている脱北者を支援するのも難しい状況にあります。

基金の理事会では、財政難をどのように乗り越えるかを巡って多数の意見が出ましたが、いまだ事態を収束させるような解決案は見出せない状況が続いています。

財政難を乗り越えるために私が出したアイディアは、多くのNPO法人が行なっている助成金への申請でした。

思ったらすぐに行動するタイプの私は、早速インターネット上で国際協力関連の助成金について調べました。

そして、「アジア貧困層の支援に取り組む国際協力NGO…」と謳っている募集を見つけのでした。提出期限もまだ間に合う!

提示されている助成額は多い方ではなかったのですが、それがあれば脱北者の交流や教育など、それなりの活動ができそうだと思い喜んだのも束の間…

なんと、助成対象国の中に北朝鮮が入っていないではありませんか…

2025年度助成対象事業募集要件から引用(あえて団体名は明かしません)

インド・中国・ミャンマー・パキスタン…アジアの各国が並ぶ中、カンボジアとタイの間ぐらいに入っていそうな北朝鮮の国名は見当たりませんでした。

ただ書き忘れただけでしょ☆ミ😋

アジア圏の最貧国として、どの国にも負けない自信がある北朝鮮ですよ。支援対象から外れるはずがない。微塵も疑うことなく、そう思って事務局に電話をかけました。

電話で「助成金に応募したいのだけれど、北朝鮮が支援対象国に表記されておらず…(以下略)」と話す私に、担当者から「日本にも北朝鮮を支援する団体がありますか?」と聞き返される始末。
しばらくして、「対象国に関してはもう決まっているので…どうにもできません。私はただの事務担当者なので、募集要項を変更する権限はないのです。諦めてください」とのこと。

「一応、確認なんですけど、貴団体におかれましては、アジアにおける貧困層の支援に取り組んでいかれるのですよね…?」

なんてセリフが喉元まで出掛かりながらも堪える私。

「次年度、対象国を決める際はぜひ北朝鮮も候補に入れてください」という言葉を絞り出して、電話を切りました。

その後、基金の理事長である加藤さんに本件について報告すると、「日本では北朝鮮を国として認めないから、助成金のようなものにはほとんど応募すら受け付けてもらえない。そのため、基金は今まで寄付に支えられて活動を続けてきた」と教えてくれました。

ヨーロッパを含む多くの国では、脱北者は国の弾圧から逃がれてきた”難民”として認められていますが、日本政府は違います。

現在、日本で暮らす約200人の脱北者が入国できたのは
北朝鮮難民の受入れの基本原則は、かつて日本に住み、『帰還事業』で北朝鮮に渡った約9万3000人の在日朝鮮人(特別永住者)と日本人配偶者本人、そこから数えて3代目までの家族である。受入れ後は、人道的措置として『特別在留許可』で定住する
という限定的な条件でのみ認められたということなのです。

まあ、日本政府が移民政策に否定的なのはわかっているんです…
わかっているんですけど、仮にも国際的な人道支援を謳っている団体が、右向け右で一緒に北朝鮮難民を見放してどうする!
(実際は見放しているのではなく、存在に気づいていない可能性が高そうです)

北朝鮮はアジアの一員として認めてもらえず、どのカテゴリーにも属すことができない。偶然そこで生まれ育った人たちが人権侵害を受けても救済の対象にならない。

透明人間みたいに、存在そのものがなかったことにされている気がします。

LGBTQ+の人たちが、かつて味わった(現在も味わっている?)苦悩はこんな感じだったのかもしれません。

あの国も多くの人が住んでいるのに…

辛い気持ちになりました。

以前も書きましたが、「人」という字は、人と人が支え合って生きていると意味があると聞いたことがあります。

今回の件は、人を支える活動は大変だなと改めて思い知らされた出来事でした。

多大な困難を伴う活動を、30年近くに渡って(直接・間接を問わず)支え続けてくださった多くの方々に頭が下がります。

そして、今回はがっかりする結果となりましたが、脱北者支援の今後のあり方について、真剣に向き合う必要性を改めて感じています。

私たち脱北者はここにいるのですから。
脱北できずに苦しんでいる同胞もたくさんいるのですから。


韓国の状況にも少しだけ触れておきます。

現在、韓国では発出された戒厳令に関する仔細を明らかにし、大統領の退陣を求めるデモが相次ぎ、大混乱に陥っています。

ここ最近、延々とそんな報道を眺めていたら、気分が落ち込んできてしまいました。今後もある程度は経過を追っていくつもりですが…正直、辟易しています。

脱北者の中にも国外移住を検討している人がチラホラいるようで…
こういう時、パスポートさえあればどこにでも行ける状況のありがたさが身に染みますね😭

何だか気が滅入る話ばかり続いたので、最後に少しだけ明るい話題をお伝えします。

少し前のニュースですが、脱北者初の”アイドル”が誕生したのはご存知でしょうか。

洪水や傭兵のニュースを優先していたので、記事に載せるタイミングが今回になってしまいました。

1VERSE(ユニバース)というこのグループは、脱北者2人と日本人、中国人の計4人で構成されています。

メンバーの一人であるHYUKは、私の記事によく登場するコチェビ出身だそうです。食べ物がなく常に飢えていたため、盗みを働くなどして何とか生き延びてきた、壮絶な過去を持つ青年です。

きっと芸能の仕事は一筋縄ではいかない大変な世界だと思うけれど、あの国を生き抜けたのだからきっと大丈夫。同郷の出身者としてエールを送ります。
今年の年末にアメリカでデビューする予定だそうで、今後の活躍を楽しみにしています。

そして、彼らのように脱北者初の「あれ」や「これ」が今後どんどん生まれてくるように願っています。

繰り返しになりますが、私たちはここにいるのですから。

前を向いて歩いていきたいものです。

最後に、人権問題に関心がある方がいらっしゃいましたら、基金で私たちと一緒に活動しませんか?
少しでも興味を持たれたら、遠慮なくコンタクトしてください🥺

ではまた👋

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