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喜び組、その実態は?#22

私は北朝鮮にいる時、金正日には奥さんが何人もいると聞いたことがあります。こっそり聞いた韓国のラジオ放送で知ったことでした。

中国の日本領事館で保護されていた時、週に一度のペースで館内の図書館に行く機会がありました。そこには韓国の書籍コーナがあり、もともと本を読むことが好きだった私は毎回数冊を借りていたのです。

その中でとても印象に残った本が一冊あります。
『ツツジの花が咲く時まで』という本で、金正日の喜び組にいた著者がその実態について赤裸々に告白した内容でした。

今回はこちらの本について簡単にご紹介したいと思います。

著者は、「万寿台舞踊団」というグループでダンサーをしていました。
彼女の夫は外交官をしていたため、一緒に外国に滞在することが多く、その機会を活かして脱北し、韓国にたどり着いた後にこの本を書きました。

北朝鮮で暮らす一般庶民にとって、喜び組とは”名前は聞いたことあるけど、よくわからない”という存在です。

私個人と「喜び組」との接点は、小中学校の授業中に”5課(喜び組のメンバーを選抜する部署)”のスーツを着込んだ男性職員が定期的にやってきて、「男の子は座って女の子だけ立つように」という指示をし、一人一人品定めをするという一幕ぐらいでした。
指名された女の子は校長室に連れていかれます。光栄にも私は何度か校長室に連れて行かれる機会がありました。

その際は
身長を聞かれる⇒両親について聞かれる⇒日本からの帰国者一家であることが判明する⇒一瞬で5課職員の顔つきが変わる⇒「帰っていいよ」と言われる
というパターンの繰り返しです。
毎回、コピー&ペーストしたかのように全く同じ流れでした(笑)

私が北朝鮮で暮らした期間において、喜び組に対する記憶は以上。
つまり、ほぼ何も知らないに等しいのです。

今回この話を書こうと思ったきっかけは、家族の体調不良でしばらくnoteを休んでいた期間に、YouTubeで『ツツジの花が咲く時まで』を基に作られた韓国ドラマ(KBS、1998年)を目にしたことでした。
そこでこの本の存在を思い出し、紹介ようと思い立ったのです。現在に至るまで、日本語訳はされていないようです。

北朝鮮ではこのドラマをビデオにダビングし、販売していた主婦が公開処刑されるという事件が起こりました。
以前から書いている通り、北朝鮮で韓国ドラマを観たり、販売することは固く禁じられています。その罪として、収容所送りになるケースはままありますが、公開処刑まで発展するのはよっぽどのことです。

金一家や北朝鮮に関する内容、またはポルノを扱った場合は重罪に処される傾向があるようです。ちなみに大ヒットした「愛の不時着」についても、かなり厳しく取り締まっていると聞いたことがあります。

さて、前置きが長くなりましたが、ここから簡単に本の内容をご紹介します。

北朝鮮国民が神のように崇拝した将軍様、金正日は”朝鮮労働党のために尽くす指導者”という表向きに発信されるイメージと異なり、遊び人でした。

金正日は”秘密のパーティ”を好みました。
彼は深夜に週5回ほどパーティを開いていたことが知られています。

金正日は高位の幹部を自分の味方にするための手段としてパーティを開いており、参加できるのは金正日が信頼できると思った人に限られていました。

喜び組の一員としてこのパーティによく参加していた著者は、以下のように目にした光景について綴っています。

ーーーーーーーー◇引用◇ーーーーーーーーー

「パーティ会場の外には軍隊が立っているが、参加者の前には長いグラスとアルコール度数が高いウィスキーのような酒が置いてあり、その酒を一気飲みしないと中に入ることができなかった。
宴会場はたいてい壁が鏡になっており、窓がない部屋であった。ラグジュアリーなシャンデリアがあったが、明るさは薄暗い感じで、中央には高さ10㎝ほどの舞台が用意されていた。

その舞台を囲むようにテーブルが置かれていた。
テーブルは指定席になっており、幹部たちが座る席と少し離れた場所に進行役や演者の席があった。

幹部たちの酒が進んでほろ酔いになったタイミングで金正日は登場する。

喜び組は入る時にメモを一枚ずつ渡され、そこには”どのテーブルに座ってだれだれを接待する”といった指示が書かれていた。

金正日のすぐそばのテーブルには最も信頼の厚い側近たちが座っていた。
(著者が喜び組に在籍していたのは1984〜86年)
当時のパーティにはいつも20人ほどが参加していた。

夜の8時ごろ、全テーブルの人が着席すると金正日が登場する。
時々、彼と一緒に一人の女性が登場し、服をハンガーにかけるなどしていた。彼女が金正恩の母である高英姫だったという。妹である金敬姫も7歳の娘を連れてパーティに参加したことがある。

金正日が登場するとみんなが立ち拍手をする。彼は出席者に座るように合図をして、彼が座った途端、外国の音楽の生演奏が始まる。「白銅山7中奏団」と呼ばれるオーケストラは、このパーティのために構成されていた。全員、小柄な20代前半くらいの女性で、グレーのドレスに紺色のボレロを着ていた。

料理は北朝鮮では想像もできないほど豪華なものが多かった。
パーティに参加した幹部らは、金正日のところに行きお酒を注ぐなど穏やかな雰囲気で進んでいく。幹部たちは韓国の歌を歌うこともあり、著者が最初に参加した時はとても驚いた。
舞台でダンスを踊ると金正日はとても喜び、拍手をしたりお酒を飲むように言われたりした。

パーティが進むと5人組のダンスグループが登場する。彼女たちは上半身は小さいブラジャーのみに下半身は裸で、薄いショールのようなものを着用しており、足を上げるなどしながら激しく踊る。金正日は喜んで踊り方の指導をしていた。

同じ喜び組にいながら私は、彼女たち『ギョウエ組(名称が意味するものは不明)』が何をしていたのか知る由もなかった。しかし、舞台に立った彼女たちの衣装は服と呼べるものではない。ブラジャーでギリギリに乳首を隠し、腰には赤いショールがかけてあるだけだった。

『ギョウエ組』は別のパーティーでは、胸がギリギリ隠れる黒の短いジャケットを着てイギリス紳士風の帽子を被り、(ブラジャーとショーツはせずに)黒のストッキングを履いて、杖を振り回しながら軽快に踊っていた。」

ーーーーーーーー◇◇◇ーーーーーーーーー

また著者は幹部に強姦される時の様子も書いている。

ーーーーーーーー◇引用◇ーーーーーーーーー

「『〇〇部長、私を離してください。お願いします』と私は震えながら懇願したが、彼は聞きもせず私の上着を脱がした」

ーーーーーーーー◇◇◇ーーーーーーーーー

どこぞの官能小説のような一節ですが、これらは全て著者の実体験に基づく内容です。

本の内容を一部ご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。

中国の日本領事館でこの本を手にした時、安全であることを知りながら、どこかで”捕まるのではないか”という不安が抑えきれず、布団の中でこっそり読んだことを覚えています。

前述の通り日本語訳は出版されていませんが、喜び組に興味があり、かつ韓国語に堪能な方は一読の価値があると思います。

書籍を基にした韓国ドラマもYouTubeにアップロードされています。
(…が、残念ながらこちらも日本語字幕はありません)


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