「西成物語」 -2-
2:林のおっちゃん
林のおっちゃんは乾物屋さんで、おっちゃんとこの店は、すばる荘と栄湯のちょうど間ぐらい。角にあって、四角いお店の2面が道に面しているので、あっちからもこっちからもお客さんは入りやすい。冬場以外、戸なんか閉めてへんかったけど。
1階がお店と、奥に4畳半と6畳ぐらいの和室があって、そのさらに奥が炊事場。おっちゃんは6畳の部屋でご飯食べたりテレビ見たり。2階はおっちゃんと奥さんが寝泊まりする部屋、て感じ。
乾物屋さんやから、煮干、かつおぶし、鯛のでんぶ、塩こぶ、とろろこぶ、はるさめ、スパゲティー、干ししいたけ、こうや豆腐、お茶、インスタントコーヒー、お砂糖、お塩、味の素などなど、色んなもんが、うわ~っと置いてあって、わりかし繁盛してたと思う。
マヨネーズ、江戸むらさき、みかんの缶詰みたいに全然乾いてなくて、日持ちするもんも売ってた。瓶のコーラ、サイダー、ネーポン、コーヒ牛乳なんかもあったと思う。
あたしは、このおっちゃんとこでよく時間を過ごしたもんや。学校帰り、家にカバンも置きに帰らんと、まずおっちゃんとこに行く。
「おぉ、りく三郎、いま帰りか?まぁ入れ」
おっちゃんは、体も顔も声も態度も何もかも大きい。
いつも、店と奥の座敷の境目のさん(桟)のとこに座ってた。あたしもその隣に座る。
お店の中からの景色は、外から見た時とはだいぶ印象が違う。中から見ると、棚の上には色々なもんが積んであったり、表を歩いていく人の様子もわかるし、おもしろい。
「学校はどないや?」
おっちゃんは、口は悪いけど優しいとこがいっぱいあって、学校で嫌なことがあったりした時には聞いてくれたり、慰めてくれた。
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