【現地取材】 NFT熱狂が中国にも到来、その裏側は?
2021年から世界的広範囲でNFTへの関心が高まっている。日本だけでなく、中国にいる筆者もNFTという言葉をニュースや友達の話から耳に入るようになった。もちろん、まだ一般大衆に知られているほど認知度は高くないが、投資家の注目によって市場が急拡大している。
NFTとは、そもそも何か?
中国NFT市場を語る前に、NFTとは何かについて少し説明する。
ウィキペディアによると、NFTとは非代替性トークン(英: non-fungible token、略称: NFT)のことで、ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位のことである。
これを読んでも実態や用途がわからず理解しにくいため、NFTを理解するには、まずブロックチェーンを理解する必要がある。
ブロックチェーンについては、下記の記事がわかりやすいので、是非ご参考にして下さい。
簡単にいうと、ブロックチェーンはユーザー共有のデータベースである。従来のインターネット上に保存されるデータベースより、ブロックチェーンに保存されるデータは、改ざんが非常に困難で、取引の記録を消すことができない、自律分散システムという特徴を持っている。
そのブロックチェーン上に記録されるNFTは、「唯一無二のデジタル資産を証明できる鑑定書&所有証明書付きのデジタルデータ」というわけである。
NFTの特徴は、主に以下の3点。(唯一無二という点において、同じくブロックチェーンを基に作られたビットコインなどの仮想通貨とは異なる)。
・唯一無二を証明
・改ざんできない
・データが永久に保存される
▲NFTとブロックチェーン、仮想通貨の関係(チャイトピより作成)
これらの特徴から、NFTは画像や動画、音声などの容易にコピーが可能なデジタルファイルを一意アイテムとして関連づけ、所有権の公的証明の提供が可能である。
例えば、デジタルアートにNFTをつけると、このデジタルアートの所有権をブロックチェーン上で証明できるというわけである。
▲NFTコード(weiboより)
現実世界ではあんまり用途を感じない技術かもしれないが、メタバースのような巨大仮想空間では、デジタルアイテムの所有権証明を提供できるNFTは、多大な価値を持つだろう。
急拡大する世界のNFT市場
一般人がNFTという言葉を耳にするきっかけとなったのは、2021年3月にアメリカのデジタルアーティストBeepleのNFT作品「Everydays:The First 5000 Days」が約6,935万ドル(約75億円)で落札された事からである。デジタルアートがこの多額の価値をつけられたことで世間を騒然とさせた。
▲2021年世界NFT市場の売上(出典:DappRadar)
また、市場調査会社DappRadarによると、2021年Q3から世界のNFT売上が急拡大。2021年の年間売上は249億ドルを記録し、前年比9,490万ドルから爆発的に成長を遂げた。
中国のNFTプロジェクト事例
中国では、アリババが去年の6月に1.6万個限定のNFTアートを販売し、すぐに完売したことで、国内のNFTに対する注目度が上昇。
このNFT熱狂により、アーティストのみならず、ブランドやIP保有者もNFT作品を打ち出す結果となった。以下はその一部の事例である。
▲(weiboより)
・敦煌美術研究院の壁画NFT画像
中国の有名な観光スポットである敦煌の美術研究院が去年6月にアリペイと連携し、壁画をモチーフにした2種類のNFT画像を9.9元(約170円)の価格で1.6万枚限定販売。これを購入すると、アリペイの支払い画面が普通の青い背景からこの画像に変更が可能だ。
発売と同時に完売となり、中国版メルカリの閑魚では150万元(約2690万円)の高額で転売されるというケースが発生した。(転売は禁止されたが、贈呈は可能であるため、水面下の取引が多い)
▲(weiboより)
・2022年アジア競技大会のNFTトーチ
杭州で開催予定の2022年アジア競技大会があと1年を切ったことを機に、イベントの聖火をモチーフにしたNFTが発売された。39元(約700円)で2万個の限定販売を行い、これもすぐに完売となった。
▲(weiboより)
・小説家・劉慈欣サイン付きのNFTカード
上海市の浦东新区科幻协会で16名のSF小説家のサイン付きNFTカードを数量限定で発売。その中でも特に「三体」の著者で有名な劉慈欣氏のサイン付きカードが一番の人気商品となった。
▲(weiboより)
・越王宝剑のNFT3D画像
湖北省博物館が所蔵品「越王宝剑」の3D画像NFT作品をアリババのNFT取引プラットフォームで発売。販売からスタート1秒で1万枚購入された。
▲(weiboより)
・トーク番組のNFT作品
テンセントはNFT取引プラットフォームの「幻核」をリリースしたと同時に、初のNFT作品として、トーク番組「十三邀」の音声ファイルをNFT化して発売を実施。
現在中国主流の取引プラットフォームで販売されているNFT作品の種類は主に以下である:
・伝統文化IP(銅像、壁画など)のデジタル画像
・プロモーション目的のブランド(自動車やアパレルなど)のNFT画像
・著名アーティストのデジタル絵画
・流行フィギュアのデジタル画像
・音楽・音声ファイル
他と異なる中国のNFT取引プラットフォーム
国際社会では、NFTは基本的イーサリアムのブロックチェーンを利用している。イーサリアムとは、分散型のパブリックチェーンであり、誰でもアクセスでき、自由に取引できるものである。そこを魅力として、たくさんのプロジェクトがイーサリアムを利用し、発行している。
しかし、中国という特別な国では、中央集権的な管理なしに誰でもアクセスでき、取引できるものは法律上のリスクが高いと言えるだろう。
中国のNFT業界が発展するためには、まず2つの課題があると考えられる。
1. インフラとなるパブリック型ブロックチェーンの合法性
2. 仮想通貨の使用禁止
(国際社会では、仮想通貨を利用してNFTを取引しているが、中国では禁止されている)
中国政府は去年ビットコイン、ETH(イーサリアムの通貨)を含む仮想通貨の取引を全面的に禁止し、さらに電力の大量消費による環境破壊を理由に仮想通貨のマイニングを禁止する方針を打ち出した。NFTのインフラであるパブリックチェーンは違法としていないが、存在自体は公的許可されていないというわけだ。
ちなみに、世界最大のNFT取引プラットフォームであるopenseaのスマホアプリは意外にも中国のiSOストアで提供されている。しかし、仮想通貨のウォレットが利用不可となったため購入や出品もできない状況となっている
▲中国の主要なNFT取引プラットフォーム(チャイトピ!より作成)
こうした中、中国において一般人は国内企業が提供する機能の制限されたNFT取引プラットフォームを利用するしかない。アリババやテンセントなど、IT大手はすでに関連アプリを出している。中国政府が警戒を示す背景下、誰でも自由に出品、購入できるopenseaと比べると、中国のNFT取引プラットフォームは以下の特徴があると言える:
・コンソーシアム型ブロックチェーンの利用(分散型のパブリックチェーンと違い、複数の管理主体が存在する)
・支払い通貨は人民元のみ対応
・販売されるNFTはコレクションや展示用に制限し、購入者による再販売の禁止
・NFTが販売されても、著作権は原著作者に属する
ブロックチェーンの種類については、下記の記事がわかりやすいので、ご参考にして下さい
これらの特徴から、「アリババやテンセントらが販売するNFTは本物のNFTではなく、ただのJPGだ」と皮肉る声もある。
中国で取引されているNFTは、政府が監督を強化する中で形成された「中国版NFT」と言った方が良いかもしれない。しかし、それでも投機目的のプレイヤーの参入によって、市場価格が釣り上がるケースが後を絶えない。このような投機によるリスクを考慮し、中国の取引プラットフォームは「NFT」という概念を避け、宣伝フレーズとしてNFTの名称を「デジタル・コレクティブルズ(digital collectibles・数字藏品)」に変更している。
パブリックチェーンを採用するConflux社
アリババやテンセントなど、著名IT企業が開発したNFT取引プラットフォームは、会社自体の知名度で脚光を浴びたが、実はConfluxという中国のブロックチェーンのスタートアップが存在する。
この会社が開発したパブリックチェーン「Conflux Network」は中国政府が支援する唯一の無認可の公的ブロックチェーンプロジェクトである。同社は2018年に創業し、その後上海市政府から500万ドルの投資を獲得。
▲「淘派」で販売されるNFT作品(チャイトピより撮影)
Conflux社はConflux Networkを中心に様々なサービスを開発しており、最近はNFT取引プラットフォーム事業にも乗り出し、「淘派」(前出のグラフにも記載)というプラットフォームをリリース。チャイトピは「淘派」ブランドの運営責任者である劉暢氏にインタービューし、中国NFTの現状やパブリックチェーンの事情などについてお話を伺った。
▲「淘派」ブランドの運営責任者劉暢氏(本人より提供)
劉暢氏の話のポイントは以下5点である:
・パブリックチェーン関連の法整備が出きていない
・政府に禁止されたのは仮想通貨のみ。パブリックチェーンの発展は禁止せず
・現時点ではNFTの再販売は禁止されているが、今後は制限緩和の可能性がある
・メタバースが構築されたら、NFTの価値が拡大していく見込み
・Conflux社は政府の監督の下でNFT分野での模索を展開予定
以下はインタービューの詳細である:
チャイトピ:アリババやテンセントが開発した取引プラットフォームと比べて、「淘派」の優位性はなんですか
劉:最大の優位性は、淘派のインフラであるConflux Networkがイーサリアムのような分散型パブリックチェーンであることです。アリババやテンセントが利用したのは、コンソーシアム型ブロックチェーンであり、それを基にしたNFTは国際社会が言うNFTと違うと私は思っています。
チャイトピ:中国政府はパブリック型ブロックチェーンの公的許可をしておらず、法律的にはグレーゾーンだと言われていますが、御社が開発したパブリックチェーンは上海政府から出資を受けていますね、これについてどうお考えですか
劉:中国では、ブロックチェーン関連の法整備がまだ出きていないと思っています。現在政府に禁止されているのは仮想通貨であり、パブリックチェーンの発展は禁止されてないんです。
チャイトピ:中国のNFT取引プラットフォームは、購入者による再販売を禁止しており、その上著作権は元の著作者のままなので、NFTの価値が下がったと言われていますが、これについてどうお考えですか
劉:短期的に見ると、そうかもしれませんが、中国NFT業界はまだ模索段階です。一部地方の文化産権取引所(*政府が認可し、設立した総合的な文化産権取引サービス機関)がNFTの二次販売を試験的にやっているので、今後は二次販売の制限が緩和される可能性があると思います。
チャイトピ:「淘派」のアクセス方法と対応している支払い通貨はなんですか
劉:ホームページ、またはwechatのミニプログラムからアクセスできます。支払い通貨に関しては、法律に従い、現在は人民元だけ対応しています。
チャイトピ:「淘派」でリリースされた作品はどんなものですか
劉:若者に支持されるアパレルブランドなどが「淘派」でNFT作品をリリースしました。メタバースが大ブームとなったことで、ブランドもこれに乗ってNFTプロモーションを行っています。また、個人のNFT作品製作とリリースが「淘派」と契約することによって可能です。将来、我々はより多くの個人アーティストをサポートしてNFT作品をリリースしていきたいと思っています。
チャイトピ:NFT作品はデジタル画像以外、他にどのような形がありますか
劉:現在のNFT作品はデジタル画像が最も多いですが、実は車や土地など、なんでもNFT化して取引できます。
チャイトピ:政府が警戒を強める中、中国NFT市場はどうなると思いますか、そして御社は今後どう事業を展開していきますか
劉: NFTの価値は信用問題を解決できることにあると思います。政府や法律がなくても、データの改ざんが不可能という特徴で信用問題を解決できます。今後はデジタル・コレクティブルズだけではなく、たくさんの分野で活用できるのではないでしょうか。長期的に見ると、メタバースが確立したらNFTの価値がさらに拡大していくと思います。我々も政府監督の中、NFTの模索を続けていく予定です。
中国のNFT購入者はどんな人?
ビジネス的な視点で見ると、中国のNFTビジネスはまだ初期段階である。それでも一部の取引プラットフォームでは、NFT作品がリリースされてすぐ完売となり、ネットでホットな話題となっている。
では、購入者はどんな人たちなのか、筆者は実際にNFT関連のチャットグループに入り、購入者の属性や何のために購入したのかを探ってみた。
そこでわかったことは以下4点である:
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