オニオングラタンスープの作り方
きみは、オニオングラタンスープを知っているかい。
もちろんきみは知っている。そうだ、あのココットに入ったやつだ。
ココットが熱くて火傷しそうになったことが1回はあるだろう?
そうだ、みんなやる。
そんなに頻繁に食べるものではないが、その美味しさは格別だ。
では、この質問はどうかな。
きみは、オニオングラタンスープの作り方を知っているかい。
どうだい。ちょっと考えているね。
玉ねぎを飴色に炒めてから煮込む?いい線だ。
せっかくだから、しっかりと教えてあげよう。
まず、フレッシュな玉ねぎを用意するんだ。
みずみずしくて、包丁を入れるとサクリといい音がするやつだよ。
切った瞬間に断面からぴりっとした匂いが鼻に届くね、そう、青臭くて
鼻腔の奥を刺激する、尖ったやつだよ。
そいつをざくざくと刻んだらたっぷりのバターを入れた鍋にぶち込む。
お供のにんにく1かけも忘れずに。玉ねぎのいい相棒だ。
ここから玉ねぎの熱くて長い試練の旅が始まるんだ。
ちょっと塩をぱらりと入れると水分が抜けて早く炒められるのは覚えておいて損はないぞ。
さあ、ここから飴色になるまでひたすら炒める。
あんなにフレッシュだった玉ねぎが、どんどんしんなりと柔らかくなり、形も崩れてくる。バターの香りは芳しく、鍋はどんどん熱くなっていく。
ここで、いいことを教えよう。
鍋にはたくさんの茶色い焦げ付きが出てくるんだ。
料理において焦げなんて禁物だ、失敗だ、どうしよう。やめようか。火を止めようか。まだ玉ねぎはしっかり飴色になってないが、もう水を加えてスープにしてしまおうか。
君は鍋を前に途方にくれるだろう。
落ち着きたまえ。
スプーン2さじほどの水を加えて、鍋をしっかりかき混ぜてごらん。
じゅうという鍋の音と共に、焦げ付きは綺麗さっぱり、玉ねぎに吸収されるんだ。
そればかりじゃあない。
バターと水と玉ねぎが、いい具合にひとつになってなんともいえないとろみと香りが漂ってくるんだ。
そこからまた、君は姿勢を正し玉ねぎを炒める作業に戻ればいい。
炒めるにも少しコツがある。
せわしなく鍋の中を動かしてはダメだよ。少し玉ねぎに腰をすえさせるんだ。少しぐつぐつぶつぶつ働かせて、ダメそうだっていう瀬戸際で移動させる。ちょこまか動いていては、玉ねぎの甘みがでてこないからね。
またもう一度か二度、焦げ付きがくるかもしれない。
もうわかるね?スプーン2さじの水だよ。
もうそこまできたら上出来だ、玉ねぎはゴールデンブラウン色に輝いている。
素晴らしい色だよ、わかるかい?
あんなにみずみずしく白くツンとした香りをあたりに拡げていたやつが、
もったりと美しい茶色になっているんだ。
もう元の姿形はない。ペーストとなって艶やかに横たわってる。
水を加え、ブイヨンを加えたらもう終わりは近い。
ここからはもう最後の化粧だ。
軽く煮立てたらココットに移し、バゲットをトップに乗せ、チーズをふりかけ、オーブンに入れる。焼き色が着くまでちょっと白ワインでも開けながら待とうか。
さあできた。美しいオニオングラタンスープの出来上がりだ。
急がないで。出来立ては熱々だからね。
ひとくちスプーンを口に運んだ君は気付くだろう。
そう、焦げだよ。
あの君を煩わせ、焦らせ、絶望にまで追いやった忌々しい焦げは、素晴らしいコクと旨味に姿を変えているんだ。
あの焦げがなければ、この旨味は完成されない。
焦げを恐れて低温で調理し続けたらどうなっていたか?
出来上がったスープは青臭くて味気ないものだ。
二回、あるいは三回の焦げを、君はじっと我慢してそれを旨味に変えたんだ、だから見てごらん。最高のスープができた。
どうだい?
その顔を見ると、もう私が言いたいことはわかっただろう。
オニオンスープの作り方は、つまりは人生の生き方でもあるんだ。
もう一度、レシピの最初から読み直してみてごらん。
それでは、じっくり味わって。