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日本的共創マネジメント039:「PMとシステム思考」~システムズエンジニアリング(No.2)~

「PMとシステム思考」~システムズエンジニアリング~(No.2)

2.3. システムズエンジニアリングのフェーズ
システムズエンジニアリングは、「6つのフェーズ」として認識することができる。6つのフェーズとは、調査研究フェーズ、探求計画フェーズ、開発計画フェーズ、開発フェーズ、カレントエンジニアリングフェーズ、終結フェーズから構成される。

2.3.1. プロジェクトライフサイクルとの関係

システムズエンジニアリングを適用する課題においては、プロジェクトマネジメント技術の助けを借りるものが大半を占める。逆に、システムズエンジニアリングとは、プロジェクトの課題をシステムとして捉え、記述し、各要素を関係付けながらシステムを実現し、それが期待通りのものであるかを確認するプロセスと言うこともできる。特に、システムズエンジニアリングの各フェーズをプロジェクトライフサイクルと照合させながらマネジメントすることが一般的である。

システムズエンジニアリングのフェーズ

(システムズエンジニアリングのフェーズ)

実際、NASA の宇宙旅行計画においては、システムズエンジニアリングの方法論(Systems Engineering Handbook) とプロジェクトマネジメント方法論(Project Management Handbook)の必要性が認識され、平行しながら開発され発達してきた。このハンドブックは宇宙開発の持つ本質的な問題を解決するための実践ハンドブックである。この中で注目すべき手法は、 PPP(Phased Project Planning)という構想計画段階で成功を獲得する手法の確立である。宇宙開発というリスクの高いプロジェクトにおいては、失敗は許されない。そのために、構想計画に資源を重点投入し、各フェーズで達成すべき要求仕様を明確に定め、その要求仕様が達成されない限り次のフェーズに進めない、というプロジェクトマネジメントを徹底したことである。事実、Phase A(予備解析)、Phase B(仕様決定)に計画全体の15~20%の時間をかけて実施すると、開発プロジェクトといえどもコスト超過を10%以下に抑えることができることが実証されている。もう一つは、Phase C(設計)におけるPRR (Preliminary Requirement Review)、PDR( Preliminary Design Review)、CDR( Critical Design Review)である。PRR はNASA が主契約者を決めた後、主契約者と共同で行うレビュー作業である。NASA が作成した要求書を主契約者側から見ての問題点を指摘し、NASA、主契約者と関連企業で問題点を徹底して究明解決する。このようにフェーズA、B で仕様を徹底的に究明し、更にフェーズC で問題点の洗い出しを行って、「可視化」を実施していることが、数々のNASA プロジェクトの成功に寄与している。
一方、最近はスピードの速さが求められることから、特に民間企業では厳格なフェーズコントロールはスケジュール短縮という観点からは現実に則さなくなっている。そこで、プロジェクトの不確実性に伴うイテレーション(繰り返し)は当然と受けとめ、それを前提とした、アジャイル(俊敏な)プロジェクトマネジメントという概念も提唱されている。
このように、技術的な観点からプロジェクトの成果物を作成するための手順を規定したのがシステムズエンジニアリングのフェーズであり、それを実現していくマネジメントという観点からとらえたのがプロジェクトライフサイクルである。その内容は求められる成果物の対象によって大きく異なる。また、ライフサイクルのどの部分を企業としてビジネスの対象としているのか、プロジェクトを所有し投資している側なのか、プロジェクトを受注し請け負う立場なのかによってもプロセスの内容は異なる。従って、業種業態により多様なプロジェクトのプロセスとライフサイクルが存在することになる。

2.3.2. 6 つのフェーズ
(1) Phase 1:調査研究フェーズとステアリング
最初の調査研究フェーズ(プログラム計画)は、概念構想を固めるフェーズである。「全体はどうなっているのか」、「全体の概念は何か」、からアプローチしプログラムの基本構想(プログラム計画)を策定する。予備解析(FS:Feasibility Study)とも表現され、計画の実現可能性の検討も行われる。実行しようとしている仕事の全プログラムを調査し、全体の意見を統一する。そして、必要な情報を収集する。
一つのシステムを構築するだけでは、問題を完全に解決できない場合がある。その場合、解決を急ぐ部分問題に焦点を絞り、逐次解決するアプローチをとることが望ましい。つまり、問題解決のシナリオを作り、いくつかのプロジェクトを連続的に関連もたせて発足させる「プログラム計画」を立てることになる。
しかし、社会や企業の環境が変化し、問題状況が変わるので、プログラム計画どおりにプロジェクトを発足させることを許されない場合もある。したがって、プログラム計画の責任者はプログラム計画を見直し、プロジェクト活動を方向づけするとともに軌道修正する、問題解決の「ステアリング」の役割を持たなければならない。すなわち、プログラム計画フェーズは計画を立てた段階で終了するのでなく、プログラムに従うプロジェクトが活動している全期間にわたって存続することになる。
(2) Phase2:探求計画フェーズと問題解決
探求計画フェーズ(プロジェクト計画Ⅰ)は、プログラム計画の概念に基づき、「問題は何か」をその解決策も含めて明らかにする定義フェーズである。問題解決の見通しがないプロジェクトに多大な資源をつぎ込むことは危険である。この危険性を低くするためには、あらかじめ問題解決の可能性を探り、実現可能な解決策として構築すべきシステムのアウトラインと実現方法を定める「リサーチプロジェクト」や「問題解決計画プロジェクト」を立ち上げることが望ましい。特に検討の結果、問題解決の見通しがない場合、次のフェーズに移行すべきではない。
問題解決策として何らかのシステムが必要であると認められた場合は、開発計画フェーズに移る。ただし、解決策として複数の開発計画プロジェクトを立ち上げることになる場合があるので、プロジェクト計画は前のフェーズで立てた「プログラム計画」にフィードバックしなければならない。
このフェーズの目標成果物は、問題解決可能な「システム構想」である。単にシステム案を描くだけではなく、複数のシステム案をつくり、評価し、プロジェクトとしての最適案を選び、その思考過程を含めて意思決定者に提示しなければならない。
このフェーズでは、対象システムに関わる諸概念を明らかにする、あるいは、新しい概念を形成し、システムのユーザーや開発部門に分かり易い方法で記述することが重要である。プロジェクトの課題は関係者にとって未知である場合が多いので、対象システムそのものについて新しい概念を形成しなければならない。したがって「概念形成」がこのフェーズの主題である。
「概念形成」とそれを記述する「概念規定」に重点を置いて、このフェーズの活動は行われる。また、具体的な活動は、プロジェクトマネジャーとシステムズエンジニアリングに関わる担当者との共同作業として実現されるべきものであり、プロジェクトマネジャーは十分にその検討内容を把握しておく必要がある。
(3) Phase 3:開発計画フェーズ
開発計画フェーズ(プロジェクト計画Ⅱ)は、プロジェクト計画を「具体的にどう進めるのか」という観点からのプロジェクト設計を行うフェーズである。開発の実行が決定した後のみ、このフェーズを行う。
開発計画フェーズの諸活動は、明確な解決策に従って、開発の目的と手段を明確にした実行のための計画を作成する。実行のための計画はより詳細に行い、また、人材や費用、スケジュールや仕事の優先順位を明らかにする。
(4) Phase 4:開発フェーズ
開発フェーズ(実行Ⅰ)は、具体的なシステムの開発や製作を「実行し、評価する」フェーズである。
この仕事はシステム工学の手から離れ、開発部門に移管される。システム
工学の役割は要求事項を詳細にし、開発の実行を評価・支援することである。すべての問題の実態が前のフェーズで明らかになっているとは限らない。実行段階でさまざまな発見があり、また問題の症状が変化する。気づかれた問題はプロジェクトマネジャーにフィードバックされ、プロジェクト計画は軌道修正される必要がある。場合によっては前のフェーズの計画も立て直さなければならない。
(5) Phase 5:運用フェーズ
運用フェーズ (実行Ⅱ)は、システムを導入運用し、「改善を重ねる」フェーズである。
これまでの仕事がすべて終了した時に始まり、開発されたシステムが使われているかぎり続く。システムの運用を通して、さらに性能を高め、改善を目的とした活動である。
以上の活動においても、プロジェクトマネジメントとシステムズエンジニアリングの関係は上記の通り密接である。
プロジェクトの目的はこのフェーズにおいて達成されるが、複数のプロジェクトが問題解決に関わる場合、単一のプロジェクトの成果物を導入設置するだけでは不十分である。開発計画フェーズにおいて、他のプロジェクトが開発するシステムとの関係を考慮し適切な導入計画を立て、実行フェーズにおいて必要な連結の道具や仕組みを準備しておく必要がある。
(6) Phase 6:終結フェーズ
どのようなシステムでも、時間の経過とともに劣化し、やがては新しいシステムに取って代わられる。この終結は顧客に評価されて終了すべきである。終結のフェーズには、重要な目的がある。それは「学習(レッスンズラーンド)」すること、学習した内容を次のプロジェクトやプログラムに引き継ぐことである。特に物的なシステムは環境負荷を考慮した「廃棄・再利用」の工夫がなされなければならない。プログラムの構想段階から、廃棄のし易いシステム、再利用を意図したシステムの構想・開発がサステイナブルな循環型社会の実現に欠かせない要因となっている。

                  (2006年「P2M研究報告書」寄稿)

(次号に続く⇒)

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