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日本的共創マネジメント048:「PMとマーケティング」~マーケティング指向プロファイリング~

マーケティング指向プロファイリング

1.2つの基本機能
 P.F.ドラッカーは、日本のマネジメントに大きな影響を与えた経営学者(哲学者)です。多くの示唆に富むコンセプトを残していますが、最もポピュラーなものに下記があります。
・ 企業の目的は「顧客の創造」である
・ そのために2つの機能(「マーケティング」と「イノベーション」)をもつ
・ マーケティングとは、「顧客は何を買いたいかを問う」ことである
・ イノベーションとは、「顧客の新しい満足を生み出す」ことである
 
伝統的なPM体系のスコープでは、この2つの基本機能の中で、「イノベーション」の概念は取り込まれていますが「マーケティング」の概念が含まれていません。このことが日本企業の体質を著しく「イノベーション偏重」にしてしまったのではないかと考えます。米国の後追いモデルで成長できたという背景もあって、この体質はいつの間にかしっかりと組織風土にインプリメントされてしまったようです。会社に入れば自動的に、OJTまたは社内教育を通じて、イノベーションのプロセスは学ぶことができます。しかしマーケティングについて体系的に学ぶ機会はありません。組織対応もイノベーション指向であり、マーケティングに配慮した組織編成は少ないようです。
欧米企業ではR&D部門の中にマーケティングやビジネスディベロップメント機能を持つことは普通ですが、日本企業で研究開発部門の中にマーケティング機能を併存させているところがどれだけあるでしょうか。 併せて、日本人の意識全般としても、イノベーションに高い価値を置きがちです。これはこれで重要なことですが、それもバランスを欠くと、片肺飛行となり、ドラッカーの教示と異なってしまいます。その間隙を突いてきたのが、昨今の韓国企業等の動きだと思います。韓国企業は「ものづくり」より「売れるものづくり」を徹底した結果、新興国市場で大きな強みを発揮するようになりました。われわれも再度「マーケティング」に注力し、「顧客視点」に戻るべきではないでしょうか!?

2.マーケティングとイノベーション
 マーケティングもイノベーションもよく使われる言葉ですが、その定義が共有されているかというと疑問です。そこで私なりに整理してみました。

マーケティング指向とイノベーション指向

このように2つの機能は全く逆の視点を持ちます。
 ドラッカーの言うマーケティングとは、顧客の欲求を満足させる商品・サービスを作り、それが顧客の買いたいという気持ちによって、自然と売れるようにすることです。
そのためには、「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う必要であるとします。真のマーケティングは「顧客から出発」し、自分たちが注力する「集中の目標」と「市場地位の目標」を決め、「われわれの事業は何か」を問えと言っています。
 一方のイノベーションとは、今までなかった顧客の欲求を創り出して、それを満足させることです。新しい技術を発明してやろう、新しい技術を使ってやろうという気持ちだけではなく、自分たちで人々の行動を変えてやろう、社会を変えてやろう、という視点から「新しい満足を生み出す」ことだといいます。
 そのために、3つの「イノベーションの目標」があるとします。
① 製品とサービスにおけるイノベーション
② 製品を市場に持っていくまでの間におけるイノベーション
③ 市場や消費者の行動や価値観におけるイノベーション
この観点に照らすと、日本企業のイノベーションの目標が、①製品とサービスにおけるイノベーション、に留まっているのではないかと危惧します。その理由のひとつに、マーケティング指向の弱さがあると思います。スコープの定義においてマーケティングの視点が欠落しているという主旨です。結果、狭い範囲での思い込みによるイノベーション指向となり、成果に結びつきません。詰まりは、部分最適のシナリオに終わるわけです。

3.マーケティング指向プロファイリング(Marketing Oriented Profiling)
因果律の下では、「正しいことを、正しく行う(Do the right things right)」場合にのみ、「正しい成果(The right result)」を得ることができます。従って、マネジメントとは、「正しい成果を得るために、正しいことを、正しく行うこと」と定義できます。この場合、「正しい成果とは何か?」ということが問題になります。「成果」とは、さまざまな場面で、さまざまな表現がなされます。目的・目標、アウトプット、ゴール、To-Be、ミッション、・・・
ドラッカーの指摘に従うと「企業の正しい成果(目的)」とは「顧客の創造」ということになります。「正しい成果」を得るための「顧客の価値」を炙り出し、「顧客を創造」するのがプロファイリングマネジメント(Profiling Management)の役割ですが、それは3つの視点から構成されるべきと考えます。
① MOP(Marketing Oriented Profiling):マーケティング指向プロファイリング
② IOP(Innovation Oriented Profiling):イノベーション指向プロファイリング
③ POP(Program Oriented Profiling):プログラム指向プロファイリング
の3つです。

マーケティング指向プロファイリング

MOPはニーズ指向であり、顧客からスタートします。「顧客の欲しいもの」を問います。一方、IOPはシーズ指向であり、技術からスタートします。「新しい満足を生み出すこと」に注力する訳です。既に述べたように、MOPとIOPは真逆の視点を持ちますから、そのままでは反発し合うだけで、両立させることはできません。これを止揚統合(アブダクション)するのがPOPです。ビジネス指向であり、全体最適からスタートします。
この3つがうまくバランスするときに正しいプロファイリングが行われ、それをプログラムミッションとして受け渡すことが可能になります。

これまでの日本企業のプロファイリングにおいて、MOPの視点が弱く、IOPに偏重した結果、いびつなプログラムしか描けなかったのではないでしょうか。この弱点を除去するには、MOP能力を強化する以外にないと考えます。市場動向を迅速に把握し、自社の優位性が発揮出来る特定の地域セグメントやその地域に即した商品セグメントに素早くリソースを集中させ、自社が勝てる土俵で徹底的に戦うプログラム戦略が必要です。併せて、グローバル競争に於いては、顧客のニーズのみならず、地政学的なパワーバランスや地球環境の保全や生物多様性への配慮など、ドラッカーの時代より更に複雑に絡む要因に対処していかなければなりません。この観点からも、マーケティング指向プロファイリング(MOP)の再構築は、喫緊の課題としてクローズアップされている訳です。

          (2011年02月「PMAJオンラインジャーナル」寄稿)

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