日本的共創マネジメント072:「サムライPM」〜宮本武蔵 『五輪書』 (その 2)~
武道と士道の系譜 (宮本武蔵)
2.武道としての武士道 (008)
⑤ 宮本武蔵 『五輪書』 (1645) (その 2)
『五輪書』 (ごりんのしょ) は、宮本武蔵が著した兵法 (ひょうほう) 書である。1643年から死の直前の1645年にかけて、熊本市近郊の金峰山にある霊巌洞で執筆されたとされる。「五輪」とは、密教の「五大 (ごだい) 」に由来する。「五大」とは、宇宙 (あらゆる世界) を構成しているとする、地 (ち)・水 (すい)・火 (か)・風 (ふう)・空 (くう)の五つの要素を意味する。それになぞらえて「地之巻・水之巻・火之巻・風之巻・空之巻」の五巻に分かれる。
その概要は下記の如くである。
⑤-1. 地之巻 :
五輪書全体の地ならしをするガイダンス的な位置づけである。自らの流派を「二天一流」と名付けたこと、これまでの生涯、兵法のあらましが書かれている。「まっすぐな道を地面に書く」ということになぞらえて「地の巻」とされる。
⑤-2. 水之巻 :
二天一流での心の持ち方、太刀の持ち方や構えなど、実際の剣術に関することが書かれている。「二天一流の水を手本とする」剣さばき、体さばきを例えて「水の巻」とされる。
⑤-3. 火之巻:
戦いについて書かれている。勝つためにいかにすればよいか、個人対個人、集団対集団の戦いも同じであるとし、戦いにおいての心構えが書かれている。戦いのことを火の勢いに見立て「火の巻」とされる。
⑤-4. 風之巻 :
他の流派について書かれている。武蔵流兵法がいかに他と違うか、世間の兵法にどんなものがあるかを記している。「風」というのは、昔風、今風、家風などのこととされる。
⑤-5. 空之巻 :
五輪書の最終巻は兵法の本質としての「空」について書かれている。
武蔵は一切の甘えを切り捨て、ひたすら剣に生きた。敵を「切る」ことに必要の無いものはすべて捨て去り、徹底した実利主義と合理主義に生きた。『五輪書』では「朝鍛夕錬 (ちょうたんせきれん) 」の稽古を説く。「千日の稽古を鍛 (たん) とし、万日の稽古を錬 (れん) とす」 (水之巻) という。しかも稽古は「千里の道もひと足づつはこぶなり」でなければならない。一歩一歩、稽古を積むことによって次第に奥義を体得することができる。これらは武士道の基本となる「己を磨く」に通じる武士道精神である。
PMのキャリア形成もこれに通じるものがある。一歩一歩、実践の中からスキルアップし、PMのプロフェッショナル精神を体得しなければならない。どんな仕事も学問も芸術も、少しずつ不断に継続することによって大いなる力となる。激動の時代を武士道というプロフェッショナル精神で生き抜いた武蔵の言葉は、不確実な現代でPMというプロフェッショナル精神で生きるわれわれに、人生に立ち向かうヒントを与えてくれるように思う。
【 余話⑤-1 】 宮本武蔵 『独行道』
武蔵の辞世の書といわれる『独行道』とは、「独り我が道を行く」ということで、ひたすらおのれの力だけを信じた武蔵ならではの「自省自戒の書」である。孤高の求道者として生きた武蔵の処世訓が21ヵ条で述べられている。(解釈は筆者の独断です。間違っているかも知れません。)
01. 世々の道をそむく事なし (それぞれの道に背かない)
02. 身にたのしみをたくまず (自分自身の快楽を追い求めない)
03. よろづに依枯 (えこ) の心なし (あらゆる面で頼り切る気持ちを持たない)
04. 身をあさく思、世をふかく思ふ (自分のことより世の中のことを深く考える)
05. 一生の間よくしん (欲心) 思わず (なにごとにも執着心を持たない)
06. 我事におゐて後悔をせず (自分で為したことについて後悔することはしない)
07. 善惡に他をねたむ心なし (善いことも悪いことも他人に嫉妬心をもたない)
08. いつれの道にも、わかれをかなしまず (どんな場合でも別れを悲しまない)
09. 自他共にうらみかこつ心なし (自分にも他人にも不平不満を持たない)
10. れんぼ (恋慕) の道思ひよるこゝろなし (恋愛感情でゆく道に影響されない)
11. 物毎にすき (数寄) このむ事なし (それぞれに好き嫌いを持たない)
12. 私宅におゐてのぞむ心なし (住む場所に贅沢しない)
13. 身ひとつに美食をこのまず (美食家にならない)
14. 末々代物 (しろもの) なる古き道具を所持せず (骨董の類を持たない)
15. わが身にいたり物いみする事なし (自分に関わる迷信を信じない)
16. 兵具は格別、よ (余) の道具たしなまず (武具は別として余計なものを持たない)
17. 道におゐては、死をいとわず思ふ (我が道において死を恐れない)
18. 老身に財寳 (宝) 所領もちゆる心なし (過分な贅沢品や財産は持たない)
19. 佛神は貴し、佛神をたのまず (神仏は敬うが神仏を頼りとはしない)
20. 身を捨ても名利はすてず (死を賭しても向上心を失わない)
21. 常に兵法の道をはなれず (常に武士道を離れない)
この書を執筆した1週間後の1645年5月18日、武蔵は熊本城下の自宅で世を去った。享年62歳であった。