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日本的共創マネジメント054:「PMとマーケティング」~コーポレートコックピットとしてのPMO (No.1)~

コーポレートコックピットとしてのPMO (No.1) 

 グローバル競争の下で環境変化が常態化し、全ての組織にとって、日常的に「変化」をマネジメントすることが求められています。このような中にあって、所謂PMO(Program Management Office)が注目されています。本論では、中流PMO、上流PMO、源流PMOの観点から、コーポレートコックピット(Corporate Cockpit)としてのPMOについて考察します。

1.PMOとは
 PMOには2つの意味合いがあります。プロジェクトを対象としたプロジェクトマネジメントオフィス(Project Management Office)と、プログラムを対象としたプログラムマネジメントオフィス(Program Management Office)です。その違いを、プロジェクトとプログラムに照らして整理しますと、下記のようになります。

PMOとは

プロジェクトマネジメントオフィスとしてのPMOとは、「管轄するプロジェクトを集中的にまとめて調整する、マネジメント活動の組織体」です。「IT用語辞典」よれば、「組織全体のプロジェクトマネジメントの能力と品質を向上し、個々のプロジェクトが円滑に実施されるよう支援することを目的に設置される専門部署」と定義されています。言い換えれば、プロジェクトマネジャーを支援する組織のことです。全社的なプロジェクトマネジメント手法の標準化、品質管理、人材育成などに責任を持つ、常設的な部署として組織化されるのが普通です。
プログラムマネジメントオフィスとしてのPMOとは、「プロジェクトより上流の、プログラムマネジメントを執行する組織体」です。組織の中長期的な目的・戦略を達成するため、全体最適の観点から、複数のプロジェクト間の整合性を確保しつつ、個別プロジェクトを成功へと導くだけでなく、組織全体の最適化を果たすための機能を担います。言い換えれば、上流PMOという位置づけです。具体的には、プロジェクト間の優先順位づけや資源配分の決定、プロジェクトの追加や中止の意思決定、およびプロジェクトの監視・統制・支援など、広範囲な機能にわたります。組織およびプロジェクト全体で最大の効果を上げていくための、最適化、統合化の管理専門部署のことです。

2.PMOとP2M
 P2M(Project & Program Management)とは、経済産業省の委託を受け、日本の文化・風土をベースに開発された、日本発のPM知識体系です。「PMOガイドブック(2006年度版)」を参照しつつ、PMOの業務とP2Mを照合すると、下図のようになります。

PMOとP2M

2.1 戦略系業務
戦略系業務では、組織全体の観点から必要とされる戦略、計画について、PMO自らが立案、策定を行う。
(1)事業戦略
内外環境を分析し、「ありのままの姿」と「あるべき姿」を抽出し、ビジネスモデルをデザインする。合わせて、その実現のためのプログラムをデザインする。
(2)情報戦略
事業戦略を実現するために、ビジネス要件を反映した情報システムの構築を狙う。組織全体の情報システムのビジョンや方針を示したものであり、内外の情報を集約して、組織を俯瞰した上で情報戦略を立案する。
(3)組織戦略
事業戦略推進のための組織と体制を整備・運用するために、組織計画を立案し、プログラムガバナンスを確立する。組織計画の策定では、現状組織、課題の整理を行い、人材配置を可視化し、人材の過不足を把握するとともに、人材のスキルを把握して専門性や責任に応じたキャリアパスを構築する。
(4)全体最適化戦略
組織内のリソースの全体最適化を行うことにより、組織全体の投資の効率化を狙い、サービスの高度化、業務プロセスの合理化を実現する。ここで行う全体最適化は、個別プロジェクトの最適化とは異なり、有機的に関連している複数のプロジェクトを連携、統合することにより、組織全体として効果を上げることを目的としている。

2.2  管理系業務
管理系業務では、組織全体として中長期的に管理する項目や個別プロジェクトの工程全般について、PMOが主体となって推進する。
(1)知識・ノウハウ管理
組織内の知識やノウハウを効率的に活用することを目的に、組織内にある知識を整理し、全体的な基本方針を作成する。また、知識やノウハウを蓄積、活用するためのガイドラインを整備するなど、個別プロジェクトで必要な知識を習得するための支援を行う。
(2)投資管理・業務管理
投資管理を行うために必要となるフレームワークやガイドラインを整備する。さらに、事前、実行時、事後という形でプロジェクトのライフサイクルの節目において、効果、コスト、リスクの観点から評価を行い、各プロジェクトのステータスを把握するほか、必要な対策、措置を講じるよう指示を行う。
(3)人材管理
組織内にある人材・知識を整理し、人材活用の基本方針を作成した上で、人材のスキルを評価し、育成方策の検討、不足部分の補強、外部人材の管理を実施する。また、組織の状況をみて不足する能力を研修などにより補強する。
(4)セキュリティ管理
セキュリティポリシーおよび各種対策基準を策定して、政策や最新動向などを受けて随時改定するとともに、それらが個別プロジェクトにおいて遵守されるように努める。また、個別プロジェクトにおける訓練などの実施についても、PMOとして蓄積している知見・ノウハウを活用しながら積極的に支援を行う。
(5)監査
事業戦略などに基づき、中長期の監査計画や基本計画を立案する。立案した計画に従い、個別プロジェクトで個別の監査計画を作成し、監査を実施する。一連のプロセスをモニタリングし、個別プロジェクトの監査報告書を評価する。また、それらの活動を通じて発見された監査プロセスにおける問題点についても、定期的な評価を行った上で、改善に努める。

2.3 支援系業務( ≒ Project Management Office)
支援系業務におけるPMOの機能は、個別プロジェクトに対して作業を効率化するためのガイドラインなどの提供や、進捗状況のモニタリング、アドバイスが中心となる。支援系業務は、プロジェクト単位で個別に支援するため、プロジェクトマネジメントオフィスの概念に近い機能である。
(1)構想・企画支援
作業を効率化するためのガイドラインなどの提供やアドバイスのほか、個別プロジェクトの予算要求案の評価やその優先順位の検討を行う。
(2)調達支援
個別プロジェクトの調達計画、仕様書をチェックするほか、事前に十分な検討がなされているか、ベンダーに作業を依頼するために必要な情報が網羅されているかなどを評価する。また、実際の調達プロセスにおいて、評価者として参画し、ベンダー選定の支援を行う。
(3)設計・開発支援
設計・開発業務を効率化するためのガイドラインなどの提供とケジュール管理やドキュメント作成等の付帯業務の支援を行う。また、個別プロジェクトの進捗状況のモニタリングやアドバイスを行う。
(4)運用・保守支援
運用・保守作業を効率化するためのガイドラインなどの提供と付帯業務の支援をおこなう。

 ここで紹介したPMOの業務には、プロジェクトとプログラムの両方が含まれます。プロジェクトとプログラムの違いはあくまでも概念の整理であり、実際にはプロジェクトマネジメントオフィスにおいても、プログラムマネジメントの一部を担うなど、必ずしも明確に機能を分離して実行するものではありません。また、敢えてPMOという表現を使わず、「標準化推進室」「品質管理部」「経営企画部」・・・という名称で、PMO的機能を担う組織体もあります。

3.P2Mのフレームワーク
 以上のようなPMOの業務に対して、P2Mの知識体系では、下記のようなフレームワークを準備しています。
(1) 戦略系業務
戦略系業務に対しては、プログラム統合マネジメントであるところの、ミッションプロファイリング、アーキテクチャマネジメント、プログラム戦略マネジメント、プログラム実行の統合マネジメント、アセスメントマネジメントがこれに当たる。
(2)管理系業務
管理系業務に対しては、P2Mの個別マネジメントが様々な知的支援を行う。個別マネジメントとは、戦略マネジメント、ファイナンスマネジメント、組織マネジメント、システムズマネジメント、資源マネジメント、リスクマネジメント、情報マネジメント、関係性マネジメント、バリューマネジメント、コミュニケーションマネジメントからなる。
(3)支援系業務
支援系業務に対しては、P2Mのプロジェクト目標マネジメントの知見が活用される。プロジェクト目標マネジメントとは、ライフサイクルマネジメント、スコープマネジメント、タイムマネジメント、コストマネジメント、アーンドバリューマネジメント、品質マネジメント、報告・変更・課題管理、引き渡し管理、から構成される。

 このようにPMOの機能とP2Mの提供するフレームワークは見事に整合がとれます。従って、P2Mの知識体系を共通基盤として、PMOの整備・構築を進めることは、極めて合理的な戦略と言えます。

           (2013年3月「PMAJオンラインジャーナル」寄稿)

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