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日本的共創マネジメント073:「サムライPM」〜宮本武蔵 『五輪書』 (その 3)~

武道と士道の系譜 (宮本武蔵)

2.武道としての武士道 (009)
⑤ 宮本武蔵 『五輪書』 (1645) (その 3)

霊厳洞

『五輪書』は、1643年から死の直前の1645年にかけて、熊本市近郊の金峰山にある「霊巌洞」で執筆されたとされる。武蔵自身が自分の兵法「二天一流」について書き残したものである。兵法は敵を倒す実技として発生したが、相手を倒すには実戦において精神と技術を最も有効にコントロールしなければならない。五輪書は、そのための実利実用の書であり、その精神は、武士道と結び付けられ、封建道徳の支柱になった。下記の五巻からなり、今日でもおどろくほどの新鮮さを持っている。

    ⑤-1. 地之巻 :
    ⑤-2. 水之巻 :
    ⑤-3. 火之巻:
    ⑤-4. 風之巻 :
    ⑤-5. 空之巻 :

⑤-1. 地之巻 : (その 1)
 五輪書のガイダンス的な位置づけになる。
「まっすぐな道を地面に描く」ということから「地の巻」とされる。
01 : 序文 (自  序)
02 : 地之巻の前文 (地之巻 序)
03 : 兵法の道とは 「兵法の道と云事」
04 : 大工に喩える 「兵法の道、大工にたとへたる事」
05 : 士卒の心得 「兵法の道、士卒たるもの」
06 : 五巻の概要 「此兵法の書、五卷に仕立事」
07 : 二刀一流という事 「此一流、二刀と名付る事」
08 : 兵法の利を知る事 「兵法二の字の利を知事」
09 : 武具の利を知る事 「兵法に武具の利を知と云事」
10 : 拍子という事 「兵法の拍子の事」
11 : 地之巻の後書 (地之巻 後書)

01 : 序文    (自  序)
 五輪書全体の序文である。自分の兵法の道を「二天 (二刀) 一流」と名付けること、自身の来し方を振り返って、その集大成として五輪書を書き始めること。この書を書くにあたっては、仏法・儒教・道教の言葉は借りず、軍記軍法の故事も使わず、自分自身の言葉で書き進める、という覚悟を明確にしている。

02 : 地之巻の前文    (地之巻 序)
 二天一流の基本的な考え方を展開している。武士たるものは「文武二道 (文武両道) 」の道をたしなみ、兵法の道を究めることが大切と説く。「何事においても人より優れること」が兵法の道であり、そのために「何時でも役に立つように朝鍛夕錬」しなければならない。しかも、ただの鍛錬ではなく、実践で勝利を得るために役立つものでなければならない、と実践主義を第一としている。

03 : 兵法の道とは    「兵法の道と云事」
 「兵法の道」とは何たるかを記している。武士である以上、兵法、つまり戦闘術を学ばなければならない、この戦闘術は総合的な武芸であって、剣術だけに限ったものではない。剣術だけに偏ると、その剣術でさえ知ることは難しい。士農工商にも、「農」の道、「商」の道、「士」の道、「工」の道、四つの道がある。心を広くして、これら全ての道から学び、兵法の道に活かすべきである。

04 : 大工に喩える    「兵法の道、大工にたとへたる事」
 兵法を「大工の道」にたとえて言いあらわす。大工は「大いにたくらむ」と書く。兵法の道も「大いなる企み」と同じである。人を見分けて使えば仕事は手際よくすすむ。仕事の能率がよいこと、手際がよいこと、物事に手を抜かないこと、大切なところを知ること、士気の上中下を知ること、励まし勇気を与えること、無理なことを知ること、これらのことは棟梁 (統領) の心得にあるものである。兵法の理もこれと同じである。棟梁 (統領) の心得とは、今日的に言えば、プログラムマネジメントに相当する。

05 : 士卒の心得    「兵法の道、士卒たるもの」
 大工の道に例えて、士卒の心得を解説している。大将は大工の棟梁 (親方) のようなもので、全体を把握して人を使うことであり、士卒は棟梁の指示に従い、自分の道具を常によく磨いて、小物までも立派にしあげることを責務としている。大工は自分の仕事道具を常に使える状態にしておくのと同じように、武士も常に研鑽して、自分の仕事、たとえ小さな仕事でも、を立派に果たすことが大切だという。士卒の心得は、今日的に言えば、プロジェクトメンバーとしての心得に相当する。

【余話】 棟梁の経営 (プログラムマネジメント)
 武蔵は「大工の棟梁も武家の棟梁も同じ」という。「大将は武家の棟梁として、天下の法や規範 (あるべき姿) をわきまえ、その国の利非・曲直を正し、その家の秩序を保つこと、まさに棟梁の道である。大工の棟梁は堂塔伽藍の寸法 (あるべき姿) を覚え、宮殿や楼閣の設計図を理解し、職人たちをつかって家々を建てる。これは大工の棟梁も武家の棟梁も同じことである。」 (地之巻)

 棟梁とは、建物の屋根の主要部分である棟 (むね) と梁 (はり) を指している。棟とは、屋根の最も高い水平部分であり、梁とは、上部の重みを支えるために棟と三角形をなす横木のことである。棟と梁は建物の最も高い部分にあり、かつ重要な部分である。このことから、棟梁とは、武士や僧侶の社会の筆頭格を指すようになった (例 : 将軍職は源氏の棟梁)。幕府や藩などの組織の重要な人物を指し、組織や仕事を束ねる、中心人物のことである。今日的には「大工の親方」という意味でも用いられ、大工・石工の元締めや現場監督、現場代理人などを指す。「頭領」「統領」という表記も用いられる。
 棟梁の経営とは、今日的には、プログラムマネジメントに相当するものである。武家の棟梁は、大きなプログラム、大工の棟梁は、小さなプログラムと言える。位相位相で大小さまざまなプログラムがあるが、全体を把握して人を動かすというその本質においては同じである。創業者の経営、創業家の経営も同様に、プロジェクトマネジメント以前の、日本的マネジメントのルーツと言えるものである。


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