見出し画像

日本的共創マネジメント033:「マイプログラム」~自己革新のシナリオ(No.2)~

「マイプログラム」~自己革新のシナリオ(No.2)~:

(前号では40歳直前での「自己革新のシナリオ(No.1)」でしたが、それから15年後の55歳時点での「自己革新のシナリオ(No.2)」の事例です。)

「P2M と観見マネジメント」〜自己革新のシナリオ〜
2006年5月12日

要旨 
本論は、第二の人生設計において、P2M(Program & Project Management)のフレームワークを用い、個人事業会社シンクリエイト(Syncreate)を創業した経緯を述べる。自らの人生そのものをプログラムと捉え、環境の変化に対して、現状を見据え、あるべき姿を描き、課題を明確にし、目標を設定し、行動する、というプログラムマネジメントを「自己革新のシナリオ」として取り組む状況を紹介したい。その中で、プログラムを「観の想」、プロジェクトを「見の想」と見立て、「観見マネジメント 」という概念を提案する。導出した観見マネジメントが自己革新の中核であることを述べる。そしてチームマネジメントの概念で語られるP2M に対して、パーソナルマネジメントとしての見観マネジメントの意義について述べる。

1. プロジェクト& プログラムマネジメントの概要
1.1  プロジェクトマネジメントの変遷
 伝統的なプロジェクトマネジメントでは、与えられた個別問題に対し、それをいかに効率的に達成するかという「問題ありき」からの問題解決型アプローチが中心であった。正しいやり方(How to do)に知恵を絞るプロセス志向のやり方である。ここでは「特定使命のための実践力」が問われた。しかしこのアプローチでは顕在化された問題解決が中心となリ、潜在的な課題には目が向きにくくなる。真のニーズや課題を把握しないままプロジェクトが計画されることになり、結果として正しい成果に結び付かないということが起こる訳である。
これに対して、第3 世代のプロジェクトマネジメント(P2M )では、より上流にプログラムマネジメントという概念を持込み、「あるべき姿」からの課題設定型アプローチを採る。正しい目的(Why to do )と正しい目標(What to do)に知恵を絞るミッション志向のやり方である。そこで導かれたミッション(全体使命)を複数の有機的なプロジェクトに分割し、プログラムとプロジェクトの二重構造で統合的なマネジメントを行う。環境変化に適応した、真のニーズに基づく「正しい目標を、正しいやり方」で実践することで、新たな価値創造を行おうという考え方である。ここでは「全体使命のための統合力」が問われる。

1.2 プログラムマネジメントへの拡張
 環境変化に適応した価値創造を行うためには、変化に適応した「正しい目標を、正しいやり方」で実践する必要がある。そのためにはプロジェクトからプログラムへの概念の拡張が必要だと述べたが、その拡張は二つの方向で行われる。一つは「視点(空間) の移動」であり、もう一つは「視野(時間) の拡張」である。
 視点の移動とは、プロジェクトマネジメントの視点(部門の視点:View at Middle)からプログラムマネジメントの視点(経営の視点: View at Top)への視点の移動を意味する。トップレベルの「高い視点」からの課題把握と全体最適のための目標設定を行う必要からである。このために、P2M では「プログラム統合マネジメント」という概念を導入する。
 視野の拡張とは、従来のモノ作り中心の価値創造から、サービスを含む仕組作りの価値創造への転換を意図した全体最適のための「広い視野」のアプローチを行う。伝統的なプロジェクトマネジメントが中流の「モノ作り」に焦点を絞っていたのに対し、一つは上流の「企画作り」へ、もう一つは下流の「サービス作り」へと視野の拡張を図る。P2M では、これを「プロジェクトモデル」として概念化している。プロジェクトモデルとは、上流の企画構想段階で企画作りを意図する「スキームモデル」、中流の計画遂行段階でモノ作りを意図する「システムモデル」、下流の運用保守段階でサービス作りを意図する「サービスモデル」、の三つを意味する。このプロジェクトモデルへの展開により、プロジェクトライフサイクルを従来の「計画〜実行」だけでなく、それ以前の構想段階、以後の運用段階まで広く捉え、全体最適を図ることで持続性の高い成果を生むことができる。

1.3 プログラム統合マネジメント
 プログラム統合マネジメントは、全体使命の定義から実現のためのプロジェクトに分割するまでのプログラムデザインフェーズと、分割された複数のプロジェクトを実施・評価しながら統合管理を行うプログラム管理のフェーズに分けられる。プログラムデザインフェーズでは、プロファイリングマネジメントにおいて、トップレベルの視点からの「あるべき姿」を描き、それをミッションとしてシナリオに展開する。次いで戦略マネジメントで、複数の選択肢の中から優先順位を付けて、あるべき姿に到達する方法を決める。更にアーキテクチャマネジメントにおいて、プログラムを実現するための複数のプロジェクトに構造化し、具体的な形を与える。この構造化の指針となるのが「プロジェクトモデル」である。プログラムを「スキームモデル」「システムモデル」「サービスモデル」に切り分け、それぞれのモデルを実現する具体的な形としてプロジェクトがデザインされる。プログラム管理フェーズでは、プログラムライフサイクルマネジメントにおいて、状況変化に対応しながら、プロジェクトの改変、統廃合を行う。またプラットフォームマネジメントにおいて、全ての関係者が情報や意見を交換できるコミュニティ(場) が用意される。これにより、プログラムは「あるべき姿」からの課題設定型のアプローチが可能になり、それに必要なプ囗ジェクトがトップダウンで構築されることになる。要約すると、プログラムデザインの成果物がプロジェクトモデルであり、それぞれのモデルを実現するプロジェクトがデザインされ、スキームモデルを中心にシステムモデル及びサービスモデルが統合的に管理されるという構図になる。

2. 自己革新のシナリオ
 著者は第二の人生設計において、P2M のフレームワークを用い、個人事業会社シンクリエイトを創業した。自らの人生そのものをプログラ厶と捉え、環境の変化に対して、現状を見据え、あるべき姿を描き、課題を明確にし、目標を設定し、行動する、というプログラムマネジメントを「自己革新のシナリオ」として取り組む状況を紹介したい。

2.1 プログラムデザイン
 30 年の会社人生を送った後リタイアし、第二の人生にどう取り組むかという課題に迫られていた。その折に、P2M の概念に遭遇した。「ありのままの姿」を認識し、「あるべき姿」を描き、そこに至る課題をシナリオ化し、実現のために行動するというP2Mのフレームワークに共感を覚え、自らの人生設計というプログラ厶デザインに着手した。
先ず、プロファイリングマネジメントとして、環境の変化に対して現状を見据え、「あるがままの姿」を描く。手掛かりは過去の棚卸作業である。自分でやってきたこと、やりたかったこと、やれること、やれなかったこと、好きなこと、嫌いなこと、気になること、等々、どのような些細なことでもよいからPCに向かって思いつくままに書き出してみる。この作業は簡単に、際限なく続くように思われるかも知れないが、実はそうではない。それぞれ数十個書き出すと頭打ちになり、それ以上は続かなくなる。そのようにしてリストアップされた情報を、過去、現在。未来の時系列に整理し直し、自分の「ありのままの姿」と将来に向けた「あるべき(ありたい) 姿」を描く。この二つを描くと、自分がこれから挑戦しようとする新たな山とでもいうべきものが、「ありのままの姿」と「ありたい姿」の差分(Gap )として明らかになる。
続いて、抽出された「あるべき姿」の山へ登頂するにおいては、最も自分に合ったルートを決めなければならない。色々な選択肢がある中、自分の強み弱みを分析し、経済的、身体的、年齢的な要因も考慮しながらシナリオとして描かなければならない。このシナリオが描けると、途中の道程標として長期、中期、短期の目的、目標が見えてくる。これを簡潔に文言化したものが、ビジョン(夢)、ミッション(目的)、オブジェクティブ(目標) である。これまでがプログラム戦略マネジメントである。
登るべき山とルートは決まった。更に、その登頂にチャレンジするためには具体的な実働部隊としてのパーティー(システムモデル) を組織化しなければならない,又、資金や設備を手当てし、全体を統括する組織(スキームモデル)も必要だ。 登頂の成果を活用した新たな資金調達を行うグループ(サービスモデル) も組織化されなければならない。これらがプロジェクトモデルであり、アーキテクチャマネジメントによって構造化される。

2.2 ビジョン・ミッション・オブジェクティブ
 以上のようなプログラムデザインプロセスを経て、第二の人生におけるビジョン・ミッション・オブジェクティブを下記のように導出した。

2.2.1 ビジヨン(夢)
     Syncreate(日本的共創)
     共創=共有の構想(Shared Concept)
       +共有の意思(Shared Plan)
       +共有の行動(Shared Action)


「共創」とは、「共有の構想(Shared Concept)」と「共有の意思(Shared Plan)」と「共有の行動(Shared Action)」からなる価値創造事業と定義する。単独(個人又は分野)では成しえない有効解を、多様な異分野から集まった個体間の相互作用の結果、システム全体として新たな有効解を創出することを言う。このコラボレーションコンセプトを、多様性(Diversity)を許容し、持続可能性(Sustainability)を探り、共生(Symbiosis)の智恵を創出(creation)するという意味から、Syncreate(共創)と呼ぶ。
「共創(Syncreate)」とは、「Syn-(共に)+create(創造)」を意味する造語である。「共に創る」という意味と、「共生のための創造(Symbiotic Creation)」の意味を持つ。21世紀は多様性(Diversity)を許容し、あらゆる面で持続可能性(Sustainability)が問われる状況にある。このような多様性と持続可能性を両立する概念として、共生(Symbiosis)という考え方がある。そのような複雑で困難な問題に対処し、21世紀社会を実現していくアプローチとして「共創(Syncreate)」というコンセプトを提案する。

2.2.2 ミッション(目的)
     Syncreate Management(日本的共創マネジメント)
     共創マネジメント=共創フレーム(P3M)
             +共創インフラ(p3m)


 多様性の中の対立・矛盾をエネルギーとして、更なる創造的な関係を積極的に生み出し、持続可能な社会を実現することが、21世紀の最大の課題となりつつある。このような複雑で困難な問題に対処し、21世紀社会を実現していくアプローチとして、日本的共創マネジメント(Syncreate Management)を提案する。

2.2.3 オブジェクティブ(目標)
 共創マネジメントは、共創フレームとしての「P3M (Profiling, Program and Project Management)」と、共創インフラ(場)としての「p3m(process, people, and platform management)」から構成される。それぞれの最先端(the state of the art)を、日本の文化風土に立脚しながら、研究・開発し提供することを目標とする。

     「P3M(共創フレーム)」+「p3m(共創の場)」
     =①Profiling Management(プロファイリング)
     +②Program Management(プログラム)
     +③Project Management(プロジェクト)
     +④process management(プロセス)
     +⑤people management(ピープル)
     +⑥platform management(プラットフォーム)
 

「共創」とは、「共有の構想」「共有の意思」「共有の行動」からなる価値創造事業であるから、
共有の構想(Shared Concept)を、
   ①Profiling Management(プロファイリングマネジメント)が、
共有の意思(Shared Plan)を、
   ②Program Management(プログラムマネジメント)が、
共有の行動(Shared Action)を、
   ③Project Management(プロジェクトマネジメント)が、
担うことになる。

我々は、個人や組織に対して、P3M(共創フレーム)やp3m(共創インフラ)を、トレーニングやコンサルティングを通じて、提供していくことをミッションとする。このミッションの基に、いつまでも飽くなきチャレンジをするクリエーターや起業家が集まり続け、次から次に新たな共創(Syncreate)を成し遂げること、それが持続可能な21世紀への チャレンジであると信じる。

3.見観マネジメント

 自らの人生そのものをプログラムと捉え、自己革新のシナリオとしてプログラムデザインする中で、プログラム&ロジェクトの概念が「観見の想」に符合することに思い至った。プログラムを「観の想」、プロジェクトを「見の想」と見立て、「観見マネジメント」という概念を提案する。導出した観見マネジメントが自己革新の中核であることを述べる。そしてチームマネジメントの概念で語られるP2M に対して、パーソナルマネジメントとしての観見マネジメントの意義について述べる。

3.1 観見の目
 宮本武蔵「五輪書」に、「観見の目」という言葉がある。
「目の付けようは、大きに広く付くる目也。観見二つの事、観の目つよく、見の目よわく、遠き所を近く見、近き所を遠く見る事、兵法の専也。敵の太刀をしり、聊かも敵の太刀を見ずという事、兵法の大事也。工夫有るべし。」(戦いのときの目のくばり方は、大きく広くくばるのである。目には観の目と見の目とがあるが、観の目強くし、見の目は弱くする。離れたところの動きをはっきりとつかみ、また身近な動きにとらわれず、それをはなして見ることが兵法の上で最も大切である。敵の太刀の動きを知るが、少しも敵の太刀の動きにまどわされないことが兵法の大事なのである。工夫しなければならない。) (訳: 金田茂雄)

 「観の目」と「見の目」とはどういうことかというと、目で見るのを「見」、心で観るのは「観」ということである。われわれは普通、目で見て、耳で聞いていると考えている。しかし、われわれの目や耳というのは自分の好きなように見、好きなように聞いているだけで、それは全部エゴで見聞きしているわけである。だからわれわれは、目も耳も確実に客観をとらえていると思っているが、それは間違いである。どんなに見えても聞こえても、関心がないことは目に入らず、耳に入らない。そうなると、見るとか聞くとかいうことも、決して正しく行われているとはいえないわけである。そのように曖昧な見聞きをあてにして生死を掛けた戦いを挑んでは、勝つことは難しい。
 武道では、「観は心で聞く」という。観は相手の動作を見るのではない。相手の気の動きを見るのである。相手の動作を見るのは「見」にほかならない。目で一ヶ所を見るのではなく、観で全体をそのまま把握するのである。心で見るのが根本であり、目で見るのは心の見た後でなければならない。 さらに重要なことは、「遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事」である。遠い離れたところもはっきりと見る訓練をしなければならない。近いところの敵の動きにだけ気がとらわれていると遠いところは見えなくなる。敵の動きの全体をつかむことが肝要なのである。「近きところを遠く見よ」というのは、すぐ前の動きに心がとらわれることを防ぐ意味でこのようにいう。相手の太刀が上段から下段にかわると、その変化にすべてが奪われてしまうようになる。すると心がそこに個縛されてその他の全体の動きが見えなくなる。見の目ではだめで、観の目が必要な所以となる。「敵の太刀をしり、聊かも敵の太刀を見ず」ということが兵法の大事であると武蔵はいうが、敵の太刀の動きや太刀すじを知ることは大切であるが、敵の太刀の動きに心がとらわれてはならない。太刀の動きだけを見の目で追い求めてゆくとき、全体が見えなくなる。これは何も兵法に限らない。どんなことをする場合にも、このことは重要なのである。見の目だけで見ていては目先しか見えなくなる。観の目をとぎすましてこそ、遠いところが見えてくる。全体が見えてくる。未来が見えてくる。

3.2 見観マネジメント

見観マネジメント

 自己革新のシナリオとして、自らの人生をプログラムと捉え、ビジョン・ミッション・オブジェクティブを描き、取り組むべきプロジエクトモデルをデザインする中で、その「視点の拡張、視野の拡大」という観点から、「プログラム&プロジェクト」が「観見の目」に符合することに思い至った。それを「観見マネジメント」として提案したい。「観の想」はプログラム、「見の想」はプロジェクト、に相当する概念という理解である。このように理解すると、プログラムとプロジェクトの関係が自らの観見の想として、見事に統合した概念として腑に落ちる。
 「観の想」という概念に注目すると、大局観という言葉がある。全体のなりゆきについての見通しや判断のことであるが、この大局観を有するか否かは人物評において重要な要素である。又、着眼大局着手小局という言葉がある。戦略と戦術の複眼思考を持ってことにあたるということである。木を見て森を観ずという戒めの言葉もある。ミクロに捕らわれ、マクロを見失うなということである。
 環境変化に適応した価値創造を行うためには、変化に適応した「正しい目標を、正しいやり方」で実践する必要がある。そのためにはプロジェクトからプログラムへの概念の拡張が必要だと述べたが、これは自己革新というパーソナルマネジメントにおいても同様である。パーソナルマネジメントにおける拡張とは、「見の想(目で見る)」から「観の想(心で観る)」への視点の移動を意味する。自らの世界観に基づく、大局的な目標設定を行う必要があるからである。「観の想(プログラム)」を描き、その下に日々の「見の想(プロジェクト)」を配する二重構造を描くことが、パーソナルマネジメントにおける「自己革新」の要諦といえる。

3.3 彼知知己

知彼知己

 見観マネジメントがパーソナルマネジメントにおける要諦だと述べたが、その根拠は約2500 年前の中国の知見に求めることができる。孫子の兵法書に「知彼知己、百戦不殆(彼(かれ) を知り、己(おのれ) を知らば、百戦(ひゃくせん) 殆(あやう) からず)」という言葉がある。「敵を知り己を知らば、百回戦っても負けることはない」と訳されることが多いが、ここでいう「彼」とは、必ずしも「敵」である必要はない。P2M のプロファイリングマネジメント風に「彼」を「あるべき姿」、「己」を「あるがままの姿」と理解すると、P2Mの概念が古の思想に通じていることが分かる。つまり「あるべき姿(彼) を知り、あるがままの姿(己) を知らば、負けることはない」という意味になる。環境の変化に対応した「あるべき姿(彼)」を描き、現実を見据えた「あるがままの姿(己)」を直視することで、その差分(GAP )が課題として認識され、その課題に対応する適切な戦略が導かれる、この「彼己」の認識に無知や驕りによる曖昧さや誤りがあると、結果として差分認識を誤り、誤った課題設定(What to do)を導き、誤った戦略策定(How to do)を行うことになる。これが敗因となる道理である。
同様に、「不知彼而知己、一勝一負」は「あるべき姿は知らないが、あるがままの姿を知っていれば、引き分けることができる」又「知彼而不知己、一勝一負」は「あるべき姿は知っているが、あるがままの姿を知らなければ、勝ったり負けたりする」更に、「不知彼、不知己、毎戦必敗」は「あるべき姿もあるがままの姿も知らなければ、必ず負ける」という解釈になる。これらは戦略要諦として、「ポジショニングを客観化し、ポジショニングに合った戦い方をする」という原理原則の徹底に他ならない。従って、自己革新においても先ず「ありたい姿(観)」と「あるがままの姿(見)」を冷厳に描く切ることが重要になる。

3.4 系を超える

系を超える

 現代社会は、「系(組織又はシステム)」が入れ子構造に幾重にも張り巡らされて、個人はその中に囲い込まれている。このために個人は自らの世界観としての「観の想(プログラム)」を描くことなく、その部分は組織に委ねたまま、謂わば魂を売った状態で、日々の「見の想(プロジェクト)」のみで、組織と一体化してやってきた。しかし今や、終身雇用・年功序列制も崩壊し、組織に委ねた「観の想」も喪失しかねない状況で個人が漂流し始めた。それに替わる規範をどこに求めるかとなると、自らの入生をプログラムと認識し、自らの世界観・人生観を描き、自らのプロジェクトを実践するしかないであろう。パーソナルマネジメントで観見マネジメントが実践されると、既存の系を超え、自立を促す作用が強く働く。何故なら、特定使命のための「見の想(プロジェクト)」から、全体使命のための「観の想(プログラム)」へという視点・視野の拡張が求められるからである。「観の想」はビジョン指向(Vision Oriented ) で自らが描かなければならない。自らがプログラムのオーナーとなる。詰まりは人生を自分のものとして再構築するのである。
 戦後教育は「観の想」を養う指導をやってこなかった。「見の想」としての知識の詰め込みや受験競争のみに駆り立て、大局観を持つ人材育成を怠ってきた。結果として、問題解決には秀でるが、課題設定は苦手な人材を多く輩出してきた。一方、知識情報祉会においては、自立した価値観を持つ人材でなければ、情報の選択も評価も活用もできない時代である。いつまでも、外国の思想や技術を輸入するだけではすまなくなっている。今や、日本入は自らの世界観を言葉に表すべきものとして確立しなければならない。そのような日本人の思想的態度の表明を諸外国も期待している。その意味で「観見の想」を、われわれは今日の方法で再構築する必要があると考える。グローバル化時代こそ真の自己の確立が必要だ。

4.結論
 現代組織が抱える病「部分最適」を克服し、「全体最適」向けた改革の実現が、日本にとっての緊急の課題であり、新たな競争力の源泉として見直されつつある。個人も組織も思い切って、大胆に新しい発想で新しい仕組みを考えて、環境の変化に対応した改革を推進していかなければならない。そのためには、個人べ一スでの自己革新が必要である。既存の系を超え、自立した個人の世界観(観) と使命感(見) を持ち、その二重構造のダイナミズムを体得した、強靭で柔軟な個人が前提になる。それには、自らの「観見の想」を描くところから始めなければならない。先ず、「隗より始めよ!」である。ここに観見マネジメントの概念とP2M のフレームワークが有用であることを示唆したい。
                 (2006年05月「国際P2M学会」出稿)

続きはこちら⇒

いいなと思ったら応援しよう!