日本的共創マネジメント052:「PMとマーケティング」~サービスマーケティング~
サービスマーケティング
日本企業(組織)の弱点と思われる「マーケティング指向とサービス指向」について述べてきました。
・ 「マーケティング指向プロファイリング(Marketing Oriented Profiling)」
・ 「マーケティングマネジメント(Marketing Management)」
・ 「サービスマネジメント(Services Management)」
今号では更に、
・ 「サービスマーケティング(Services Marketing)」、について考察したいと思います。
1.マーケティングとは
既に述べましたが、現代経営学の祖であるピーター・F・ドラッカー(1909‐2005)は、事業の目的は「顧客を創造すること」であるとして、そのための二つの基本機能「マーケティングとイノベーション」の必要性を、50年以上前に提起しています。そして、そのマーケティングとは「顧客本位の経営を行うこと」と定義しています。真のマーケティングは顧客視点から、「人間、現実、欲求、価値」を起点として出発するといわれます。
それを受け継いで、フィリップ・コトラー(Philip Kotler、1931年 - )は、下記のようなマーケティング体系を提案しました。
① 戦略としての「ターゲットマーケティング(TM: Target Marketing)」、
② 戦術としての「マーケティングミックス(MM: Marketing Mix)」、
③ 作戦としての「プロモーションミックス(PM: Promotion Mix)」、
の3つの概念からなるフレームワークです。
2.サービスとは
伝統的な経済学では物質的財の生産こそ社会生活の基礎であるとの考え方から、専ら物質的財が重視される傾向にありました。それは、サービスなどの非物質的財が、人間の生命維持にとって、間接的重要性をもつに過ぎず、その意味で社会生活の基礎を構成する主要要素と見なされなかったからでしょう。
しかし、サービスとは人とモノをつなぐ重要な要素です。モノが単独で存在していても、消費者の手元には届きません。モノを消費者の手元に届かせるためには、サービスが必要になります。サービスというのは、ある人間の行為を商品として売り出すことにあります。それは「行為、プロセス、パフォーマンス」という形態をとります。モノに人間の情報を加えて、付加価値、交換価値を高めることをサービスといいます。従って、サービスにはヒトが介在することになります。「誰が、いつ、どこで、どのように」 提供したかによってクオリティが異なります。製造業のように画一化された生産プロセスで製造するわけではありませんので、標準的なクオリティを継続的に維持することも困難になります。
2.1 サービスの革新性
サービスは本来、差別化のための高い革新性を持ちます。特に中小企業(零細企業)にとって、これから成長発展を図るときの有力な方向性が、サービスを起点とした経営革新です。中小企業(零細企業)の場合は、モノだと価格競争・品揃え競争に勝てません。特に投資に伴う資金的リスクという制約があります。そのような場合、経営者のアイデアで、地域に根差した信頼というソフトの強みを活かし、関連分野でのプラスアルファ的な取り組みで、差別化を図れる可能性がサービスにはあります。従って、サービスとは何かを理解し、それを戦略的に活用することが求められている訳です。
2.2 サービスの特性
モノという物質的(有形)財に対し、非物質的(無形)財としてのサービスは、さまざまな特性を持つことが分かります。
2.3 サービスの品質
サービス品質を測る要素として、下記5つのDimensionがあります。
2.4 サービスの分類
サービスは、大きく2つの軸で分けることが可能です。
3.サービスマーケティングとは
サービスマーケティングとは、サービス業や製品の付随機能としてのサービスに関するマーケティング戦略を指します。サービスの活動とは、顧客接点であり、企業や個人にとって極めて重要なプロセスと考えられます。従って、サービスマーケティングの戦略においては、自社の事業形態や事業コンセプトに沿ったサービスマーケティングが必要となります。立地や競合、業種・業態をセグメンテーションし、あるいは自社のポジショニングによって、サービスを強化し差別化・付加価値戦略を実行すべきか、回転率を重視した個別対応の効率化を図るべきかのターゲティングを明確にします。
3.1 サービスマーケティングミックス
サービスは複合/多面性を持つことから、戦術としてのサービスマーケティングミックスにおいては、従来のモノのマーケティングミックスである「4P」、製品(product)、価格(price)、プロモーション(promotion)、流通(place)に加えて、サービスマーケティングミックスとして、参加者(participants, people)、物的な環境(physical evidence)、サービスの組み立てのプロセス(process of service assembly)の3つのPを加えた、「7P」アプローチが必要となります。
例えば、レストランではそこで出される料理だけでなく、他の顧客(参加者)や店の雰囲気(物的な環境)、料理やワインを選んだりするプロセス(サービスの組立のプロセス)によっても顧客満足は大きく左右されます。現場で顧客接点を持つ販売員や接客要員のことをコンタクトパーソネル(CP: contact personnel)といいます。顧客の多くは、企業が提供する製品(財)の 価値と併せて、CPのクオリティを評価対象とします。従って、CPのスキル向上が極めて重要と言えます。サービスそのものだけでなく、スタッフの態度や能力により満足度が変わりますので、顧客満足度の高いサービスを提供するためには、スタッフの効果的なマネジメントとともに、顧客行動のマネジメントも重要となります。
更に、ヒトが介在するとは言え、やはりクオリティの均一化は重要です。自社が考える最も適正と言えるクオリティを明確にし、それを均一化する必要があります。社内の可能な範囲内でのルール策定、効率化、合理化を図ることが 必要です。
3.2 サービスマネジメント
従来の企業と顧客間のマーケティングをエクスターナル・マーケティング(external marketing)といいます。
次に、企業とCPの間をインターナルマーケティング(internal marketing)といいます。インターナルマーケティングによって顧客との接点である従業員(CP)の満足度を向上させることも重要です。
更に、CPと顧客との間をインタラクティブマーケティング(interactive marketing)と分けて考える必要があります。
この3分野を擦り合わせながら、最適なサービスマネジメントをデザイン・実践していくことがこれからの課題となります。
4.共創サービスマネジメント
以上の考察から、サービスマネジメントの課題として、図のような複合したテーマがクローズアップされてきました。これらの課題に取り組むためには、顧客接点を中心として、関係する多様なステークホルダー間での共創が欠かせません。
サービスは本質的に、顧客の参画なくしては成り立たないものです。顧客がサービスの生産と消費に同時に参画して、満足を生み出します。そこでは、リアルタイムでの双方向のコミュニケーションがライブとして行われることを意味します。従って、サービスとは顧客接点で、臨場感とリアリティを持った「行為、プロセス、パフォーマンスが共創される場」と考えることができます。そのためには、顧客との共創が可能になるようなマーケティング戦略を構築していく必要があります。そのような壮大なシナリオ描き、演出していくのがプロデューサー(演出家)としての経営者の役割です。その意味で、これからの経営者は「共創サービス」を演出するビジネスプロデューサーへと脱皮する必要があるのかも知れません。
(2011年9月「PMAJオンラインジャーナル」寄稿)