UXリサーチのために「信頼性」と「妥当性」を考えてみる
はじめに
下記の記事では、主観と客観の対立構造を越えて、間主観性という概念を紹介し、それがUXリサーチに大切であろうことを書きました。引き続き、同じ「質的研究の考え方」の書籍から、信頼性や妥当性という概念を引っ張り出してみます。
以下の書籍からの引用が多くなります。
説明1.信頼性と妥当性
信頼性とは、的で例えれば「どれだけある場所を中心に的が当たっているか」です。その中心は、的自体の中心ではないところであっても構いません。つまり、ある場所を中心に的が当たっていれば、それは信頼性が高いということになります。信頼性は再現性とも言い換えられます。
この辺りの言葉の解像度をあげるために、近しい概念である妥当性という概念を導入します。妥当性とは「ある測定したいものを正確に測定できているか」であり、的で例えれば、「平均すれば的の中心を捉えられているか」とも言えそうです。平均してしまうので、仮に適度にバラけてしまっていてもよいと、思考実験上では言えてしまいます。
以下に、信頼性と妥当性を4象限に分けた図に、的の例を付記しました。
(「質的研究の考え方」p.67 5.2相互に独立した概念としての信頼性と妥当性より)
図中にも記載しましたが、質的研究においては、そもそも「的」がわかっているのか、という問題があります。
量的研究は、当てるべき的がハッキリしています。ですので、弓道の的のようなモデルで説明可能です。
一方、質的研究は、当てるべき的は、調査の中でハッキリしていくもので、その意味では、的は複数あるような前提があります。射的のモデルで説明可能です。
説明2.測定と分析
量的調査・分析では、その手続において、測定においても分析においても、信頼性・妥当性・客観性があるべきで、求められます。
質的調査・分析では、測定においては、信頼性=再現性(同じ人に同じことを聞いて同じことが返ってくるか)は求められません。その点、妥当性のみ求められています。分析においては、測定と同様に信頼性(=再現性、違う人が分析しても同じ結果が得られるか)は求められず、妥当性と客観性が求められています。
(「質的研究の考え方」p.77 表2 測定と分析における信頼性・妥当性・客観性より)
まとめ
以上から、信頼性と妥当性という概念を整理して、量的調査・分析と、質的調査・分析においては、求められるものが異なることを書きました。
質的な調査分析結果を出すと、再現性やN=1調査の是非により、否定されがちです。しかし、質的な調査は、量的なそれとは別の方法で世の中の真理を突き詰めようとしており、別の形で評価すべきですが、それが広まっていないように思います。
質的調査の有用性もある中、もったいないと感じたので、本記事を書きました。