『Eternally - 愛しさと刹那さと - 』(中)【ボイスドラマ】
Do Some Call
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音楽ユニットDo Some Call(chacch x kazma tamaki)の楽曲「Eternally」の詞世界をベースに生まれた短編小説「愛しさと刹那さと / 舞濱りん 作」を盟友Tacciの脚本によりボイスドラマ化。
原作:舞濱りん
脚本:Tacci
イメージイラスト : sio
メインキャスト : 琴猫(瞳) / なぐ(トーマ)
キャスト : Tacci(タツヤ) / 神乃ちよ(出待ちの女)
カメオ出演 : chacch & Kikanbo / kazma tamaki
BGM : Do Some Call / chacch / kazma tamaki
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愛しさと刹那さと / 舞濱りん
http://slib.net/48816
https://note.mu/shamu/n/nc96c63416e49
https://note.mu/shamu/n/nb96aaf90cce2
Eternally / Do Some Call
https://soundcloud.com/dosomecall/eternally
https://note.mu/kazma_tamaki/n/n3fe4b32a1c19
https://note.mu/chacch/n/n628afa820dfa
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もっとうまくなる。
もっと響かせる。
もっと聴かせる。
僕の音楽を――。
そんな希望を胸に飛び込んだ、プロミュージシャンの世界。
しかし、自分のパフォーマンスレベルが上がっても、「売れる」ということとは別だった。
レコーディングの話はあっても、それがバンドの皆の懐を暖かくすることには結びつかず、それが焦りに繋がっていった。
焦ることは禁物だとわかっていながらも、もっとライトの当たる場所に行きたいと望んだ。
それが真に認められることだと。
売れなくては意味がないと。
するといつしか、ライブがこなすだけのものとなってしまった。
聴きに来てくれる観客に感謝しつつも、このステージの意味は何だろうと思うようになったのだ。
そしてある日、ライブの後にいつも待っている女のひとりに囁かれたのだった。
「これって最高なのよ。イライラも解消できるし、すっごくすっきりするの」
最初は好奇心だった。
ライブで高揚できない自分にとって、これ以上ない誘惑だったのだ。
そして、
……常習するまで時間はかからなかった。
「トーマさん!」「トーマさん!!」
皆が自分を呼ぶ声は聞いているが、そこがどこなのかわからなかった。
「トーマさん! 今、救急車が来ますから!」
いや、だめだ。
病院はだめだ。
やめてくれ。
何が起きているのかわからなかった。
自分はステージにいるはずだった。
いや、無事に終わらせた。
アンコールの曲も演奏した。
だがその後…その後どうなった…?
自分は…どうなってしまったんだ…?
懲役2年、執行猶予3年。
音楽を続ける道は絶たれ、砂を噛んでいるような無味乾燥の日々を過ごし、自分は何のために生きているのかわからなくなっていた。
更生病院では楽器に触れさせてもらえず、あまりに餓えて狂気に駆られ、ギターを持ってきてくれと叫ぶ度に鎮静剤で眠らされた。
ギターを弾けない人生などいらない。
ギターを取り上げないでくれ。
頼むからギターを弾かせてくれ――!
声を嗄らしながらそう叫び続けた。
しかし、医者は、頑としてそれを聞き届けなかった。
そして、音楽活動をすることが、薬に近づく要因になりうるという洗脳をしていったのだった。
音楽が自分にとって、毒である、と。
退院し、自宅療養しているところへ、タツヤが見舞いに来てくれた。
潮が引くように消えていく交友関係の中で…タツヤは変わらずに接してくれていた。
「トーマさん。もしかして前に、オスカーとかいうバンドにいました?」
「え? ああ…うん。いたね」
瞳がいたバンド。
「僕のドラム仲間がそこのメンバーだったって」
「そうなの?」
「最近までそれを隠していて、でも、トーマさんと連絡取りたいって言われて」
「へえ……」
「トーマさん、フェイスブックやりませんか?」
「フェイスブック?」
「ええ。最近みんなやっているんですよ。結構宣伝にもなるし。僕もライブ情報とか載せているんです。ファンの人がコメントしてくれると嬉しくて…!」
「そっか…」
「で、その人もフェイスブックやっているんです!」
どきりとした。
「そ、そう」
もしかしたら、瞳もやっているかもしれない。
「じゃあ…試しにやってみようかな」
「是非! じゃあ、一番に友達にしてくださいね!」
「ははは。了解」
そして、彼女の投稿がタイムラインで流れてきたのだった。
「皆さんにお知らせします。わたくし真鍋瞳は、10月の町のイベントで歌うことになりましたー! 15年ぶりのステージで、今からドキドキです。一曲は新曲を歌うつもりですが、なかなかできあがらなくて焦っています。皆さんに無事成功したよ、と報告できるよう頑張ります!」
画面に釘付けになった。
15年ぶりの?
まさか、あれから歌っていなかった?
瞳の歌声が頭の中で鳴り出す。
すると、メロディが浮かんでくる。
稲妻が走ったような衝撃を感じた。
……なんだ、これは……?
夕立のような……。
夕立……。
瞳が夕立の中、走ってくる……。
最後に見た瞳の悲しい顔が浮かんでくる。
――哀しみをかき消すように降り出した夕立。
――一瞬でアスファルトを黒く覆い染めてしまう。
瞳。
……瞳。
――肌を焼く夏の日差し。
――記憶を呼び覚ますの。
――遠い街の空の下。
――二人で感じた温度と肌の匂い。
歌になっていく。
――愛しさも刹那さも、もう一度分かち合えるのなら……。
慌ててクローゼットにしまいこんだギターケースを取り出す。
相棒のフェンダー・テレキャスターが「待ってました」と喜んでいるように感じた。
もう一度、瞳の声に僕のギターを重ねたい。
居てもたってもいられず、瞳に友達申請をする。
お願いだ。
断らないでくれ。
瞳。
瞳。
瞳ーー!
注)kazmaの投稿も同内容です。
原作:舞濱りん
脚本:Tacci
イメージイラスト : sio
メインキャスト : 琴猫(瞳) / なぐ(トーマ)
キャスト : Tacci(タツヤ) / 神乃ちよ(出待ちの女)
カメオ出演 : chacch & Kikanbo / kazma tamaki
BGM : Do Some Call / chacch / kazma tamaki
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愛しさと刹那さと / 舞濱りん
http://slib.net/48816
https://note.mu/shamu/n/nc96c63416e49
https://note.mu/shamu/n/nb96aaf90cce2
Eternally / Do Some Call
https://soundcloud.com/dosomecall/eternally
https://note.mu/kazma_tamaki/n/n3fe4b32a1c19
https://note.mu/chacch/n/n628afa820dfa
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もっとうまくなる。
もっと響かせる。
もっと聴かせる。
僕の音楽を――。
そんな希望を胸に飛び込んだ、プロミュージシャンの世界。
しかし、自分のパフォーマンスレベルが上がっても、「売れる」ということとは別だった。
レコーディングの話はあっても、それがバンドの皆の懐を暖かくすることには結びつかず、それが焦りに繋がっていった。
焦ることは禁物だとわかっていながらも、もっとライトの当たる場所に行きたいと望んだ。
それが真に認められることだと。
売れなくては意味がないと。
するといつしか、ライブがこなすだけのものとなってしまった。
聴きに来てくれる観客に感謝しつつも、このステージの意味は何だろうと思うようになったのだ。
そしてある日、ライブの後にいつも待っている女のひとりに囁かれたのだった。
「これって最高なのよ。イライラも解消できるし、すっごくすっきりするの」
最初は好奇心だった。
ライブで高揚できない自分にとって、これ以上ない誘惑だったのだ。
そして、
……常習するまで時間はかからなかった。
「トーマさん!」「トーマさん!!」
皆が自分を呼ぶ声は聞いているが、そこがどこなのかわからなかった。
「トーマさん! 今、救急車が来ますから!」
いや、だめだ。
病院はだめだ。
やめてくれ。
何が起きているのかわからなかった。
自分はステージにいるはずだった。
いや、無事に終わらせた。
アンコールの曲も演奏した。
だがその後…その後どうなった…?
自分は…どうなってしまったんだ…?
懲役2年、執行猶予3年。
音楽を続ける道は絶たれ、砂を噛んでいるような無味乾燥の日々を過ごし、自分は何のために生きているのかわからなくなっていた。
更生病院では楽器に触れさせてもらえず、あまりに餓えて狂気に駆られ、ギターを持ってきてくれと叫ぶ度に鎮静剤で眠らされた。
ギターを弾けない人生などいらない。
ギターを取り上げないでくれ。
頼むからギターを弾かせてくれ――!
声を嗄らしながらそう叫び続けた。
しかし、医者は、頑としてそれを聞き届けなかった。
そして、音楽活動をすることが、薬に近づく要因になりうるという洗脳をしていったのだった。
音楽が自分にとって、毒である、と。
退院し、自宅療養しているところへ、タツヤが見舞いに来てくれた。
潮が引くように消えていく交友関係の中で…タツヤは変わらずに接してくれていた。
「トーマさん。もしかして前に、オスカーとかいうバンドにいました?」
「え? ああ…うん。いたね」
瞳がいたバンド。
「僕のドラム仲間がそこのメンバーだったって」
「そうなの?」
「最近までそれを隠していて、でも、トーマさんと連絡取りたいって言われて」
「へえ……」
「トーマさん、フェイスブックやりませんか?」
「フェイスブック?」
「ええ。最近みんなやっているんですよ。結構宣伝にもなるし。僕もライブ情報とか載せているんです。ファンの人がコメントしてくれると嬉しくて…!」
「そっか…」
「で、その人もフェイスブックやっているんです!」
どきりとした。
「そ、そう」
もしかしたら、瞳もやっているかもしれない。
「じゃあ…試しにやってみようかな」
「是非! じゃあ、一番に友達にしてくださいね!」
「ははは。了解」
そして、彼女の投稿がタイムラインで流れてきたのだった。
「皆さんにお知らせします。わたくし真鍋瞳は、10月の町のイベントで歌うことになりましたー! 15年ぶりのステージで、今からドキドキです。一曲は新曲を歌うつもりですが、なかなかできあがらなくて焦っています。皆さんに無事成功したよ、と報告できるよう頑張ります!」
画面に釘付けになった。
15年ぶりの?
まさか、あれから歌っていなかった?
瞳の歌声が頭の中で鳴り出す。
すると、メロディが浮かんでくる。
稲妻が走ったような衝撃を感じた。
……なんだ、これは……?
夕立のような……。
夕立……。
瞳が夕立の中、走ってくる……。
最後に見た瞳の悲しい顔が浮かんでくる。
――哀しみをかき消すように降り出した夕立。
――一瞬でアスファルトを黒く覆い染めてしまう。
瞳。
……瞳。
――肌を焼く夏の日差し。
――記憶を呼び覚ますの。
――遠い街の空の下。
――二人で感じた温度と肌の匂い。
歌になっていく。
――愛しさも刹那さも、もう一度分かち合えるのなら……。
慌ててクローゼットにしまいこんだギターケースを取り出す。
相棒のフェンダー・テレキャスターが「待ってました」と喜んでいるように感じた。
もう一度、瞳の声に僕のギターを重ねたい。
居てもたってもいられず、瞳に友達申請をする。
お願いだ。
断らないでくれ。
瞳。
瞳。
瞳ーー!
注)kazmaの投稿も同内容です。
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