ノコギリヤシ広告訴訟での勝訴から学ぶ、景表法の核心ポイント
こんにちは、チャボです。
今日は久々の朝活で週内のニュースを振り返っていました。
その中で今週出たニュース、特に訴訟周りで重要な案件があったので過去の経緯とポイント整理してまとめようと思います。それがこちら。
「ノコギリヤシエキス」を使用した商品の暗示広告。
その広告を消費者団体が、広告表示の差し止め請求を行った件です。
約5年間にわたるやりとりでしたが、メーカー側(暗示広告をしていた側)が勝訴しました。
健康食品の広告はその効果や効能をどこまで伝えていいのか、常に議論の的となっています。特に、頻尿の改善を謳うサプリメントの広告が「医薬品的な効能」を暗示しているとして訴訟に発展したケースなのでよくある事例からも敗戦濃厚。と思うかもしれません。
果たして、企業はなぜ勝訴を勝ち取れたのでしょうか?そして、この判決から企業や消費者が学ぶべきこととは何なのでしょう?
本記事では、裁判の経緯を整理しながら、その重要なポイントを掘り下げていきます。
それではいきましょう。
事件の発端〜ここまでの経緯
⓪発端と訴訟開始(2019年〜)
この事件の発端は、適格消費者団体「消費者ネットおかやま」が、インシップに対して広告表示の是正を求めたことに始まります。
ノコギリヤシエキスを販売するインシップは、自社製品の新聞広告で「頻尿改善」を暗示する内容を記載していました。(夜中に何度も・・・、中高年男性のスッキリしない悩みに!など)
これに対して、適格消費者団体「消費者ネットおかやま」は、景品表示法における「優良誤認表示」に該当するとして、広告の差し止めを求めて提訴しました。
争点は景表法で、広告が医薬品的な効能を暗示していたかどうかとなります。
①第一審 岡山地方裁判所(2022年9月)
一審の岡山地方裁判所では、広告には「具体的な疾病名や治療効果の記載がなく、抽象表現となっていたこと」「効果効能を保証するものではありませんと注釈が明記されていた」点が評価されました。これにより、医薬品と誤認される可能性は低いとの判断が下されました。
ここでのポイントは以下3点です。
「疾病の治療・予防を記載しない」
「抽象表現にとどめる」
「注釈をはっきり明記する」
②第二審 広島高等裁判所(2023年12月)
控訴審の広島高等裁判所では、インシップが提出した科学的なエビデンスが焦点となりました。
要するに「根拠あるのか?根拠ないだろ?」というブーメランのような控訴です。
しかし、ここはちゃんとした原料メーカー。
同社原料を活用してエビデンスを抑えた臨床試験データに基づき、広告において一定の根拠があると認められたのです。
この結果、二審でも消費者団体の訴えは退けられました。
ここでのポイントは
「暗示広告といえども臨床試験などできちんとしたエビデンスを抑えておく」
③最高裁 高裁の見解を維持し結論(24年11月)
消費者団体はさらに上告しましたが、最高裁判所でも「ノコギリヤシエキスの頻尿改善効果を示すヒト臨床試験」を評価し、「ノコギリヤシエキスには頻尿改善効果が存在しうる」とした広島高等裁判所の判決を維持し、インシップ勝訴判決が確定しました。
ここから学ぶポイント 攻め所と守り所のバランス ※1点重要ポイントあり
上記が一連の流れになります。ここから学べることは以下3点です。
●表現においては「ダイレクトに言わない」「抽象表現にとどめる」
●「注釈は念のため抑える」については要検討
●暗示したい機能は「しっかりとしたエビデンス」を抑えておく
1点目は基本中の基本です。今回は景表法が争点になっていたので、直接表現をしていたら確実にやられていました。そのため機能性表示でない以上抽象表現で留めながら広告作りは行うべきです。
2点目は打ち消しの注釈は危険だったと個人的に思います。
「注釈表現があること」が良いことと裁判の判決では着地しましたが、「個人の感想であり〜」の注釈は意見が割れると思っています。
というのも、打ち消し表現の注釈を入れること自体が、「消費者が誤認する可能性があることを暗に認めているのでは?」という揚げ足取りに使われかねないからです。行政からの指摘やセミナーでも都度この話はあります。
今回は消費者団体がこの視点がなかったので助かったというとこはあるのではないでしょうか。
暗示表現&打ち消し表示についての見解を求め続ける。これをやられると今回インシップさんかなり苦しかったと思います。上記ではなくエビデンスが争点になったのは会社側からしたら(ラッキー♪)みたいなとこでしょう。
3点目は、企業姿勢でもありますが守りどころの重要な部分です。
企業は広告制作時に、製品の効果を立証できる資料を事前に準備する必要があります。エビデンスが弱かったりツッコミどころが多いような試験系の論文を根拠に暗示表現を行うのはリスクでしかないです。絶対に避けましょう。
最後に
いかがでしたでしょうか。ちょっとニッチかもですが、私の見解では今回の勝訴のポイントってこっちだと思います。
●行政ではなく消費者団体(やや素人)が訴訟してきた
●景表法なのに、争点が暗示ではなく効果効能の有無となったこと
もちろん広告でダイレクトな表現を言わないとか、暗示にとどめるという部分は勝訴に繋がってるのですが、そこは前提というか当たり前の部分で。
上記2点がちょっとラッキーに近い形の訴訟だったのかなと感じました。
健康食品の法令周りは、行政とのやり取りやセミナーなどで蓄積がある方が勝つゲームだと思ってます。きちんとこの辺は蓄積しておくと良いですね。
法律知らずに殺人犯して何が悪かったのか分かってない。みたいなことになりかねません。(たまにメーカーでも見かけますが・・・苦笑)
それではまた。