中国茶のしつらえ 宝尽くし
お茶をするとき、1人だとデミタスカップがちょうど良く、色々な絵付けなども楽しめるので、よく使います
新年に、おめでたいデミタスカップでお茶をと思い楽しみました(もう1月半ばですが)
そこに描かれた「宝尽くし」のアイテムについて、調べたのでnoteします
「宝尽くし」は縁起の良い宝物を集めた紋様です。
同じテーマのモチーフを集めたものを「⚫︎⚫︎尽くし」といい、宝尽くしのほか、楽器尽くし、貝尽くしなど色々あります
同じものがたくさん(100ぐらい)描かれると縁起が良いという考えがあり、百犬図(伊藤若冲)や獅子がたくさん描かれた石橋図(曾我蕭白)などあります
俵屋宗達が下絵を描き本阿弥光悦が文字を記した《鶴下絵三十六歌仙和歌巻》は、単体でもめでたい鶴が何十羽も描かれ、とても縁起の良い絵巻でもあります
宝尽くしのこと
宝尽くしは、いろいろな宝物を並べた縁起のよい吉祥文様ですが、もとは中国の「八宝」や「雑八宝」に由来します。
これらが日本に伝わり、様々にアレンジされました。時代や地方によってモチーフは異なりますが、表されたモチーフは、いずれも縁起の良い「吉祥紋様」です
八宝/雑八宝
「八宝」は仏教での吉祥を八種類の荘厳具などで示したものです。「八吉祥」ともいいます
法輪(ほうりん) 釈迦と仏法を表すシンボル
宝傘 災難や病気から守るものの象徴
蓮華 聖潔を象徴
宝瓶 健康や長寿、富貴、繁栄、智慧、そして宇宙空間を象徴
双魚 賢固活発にして魔除けを意味する。仏教において魚は幸福の象徴とされる。
盤長 吉祥紐 長寿祈願を表す
法螺貝(ほらがい)妙音(絶妙な美しい音)を出す貝で、吉祥を表現する
勝幢 戦旗、または旗
仏陀が4人のマーラ、あるいは悟りに至るまでの障害に打ち克ったこと(降魔)を象徴している。
「雑八宝」とは珍重された物を8つ集めて意
匠化したものです
珊瑚(さんご)
丁子(ちょうじ)
方勝(ほうしょう)
繍球(しゅうきゅう) 獅子が戯れる球で、その中から獅子の子が産まれるという吉祥紋
角杯(かくはい) 動物の角を杯に用いたことが由来で、特に犀の角は薬材としてや毒を浄化するとも云われ珍重されました。
日本では犀角は希少なため馴染みがなく、丁子紋様と混同されたようです
火焔宝珠(かえんほうじゅ) 燃え上がる宝珠
厭勝銭(えんしょうせん)貨幣を文様にしたもので富裕さへの祈願
銀錠(ぎんじょう) 蔵の鍵です。つまり家の財産などが詰まった蔵を意味します
八への信仰
中国では「八」への信仰が強くあります。
元時代に始まったようですが、八仙や八方、八宝は「八宝茶」として様々な効果のあるものを入れたお茶があります。
中国で「八」が好まれるのは、「八」(バー ba1)の発音と、「発」(发 發)、の発音が似ているからです
「発」(发 發)、は「発財」の発(发 發)でお金を儲ける、金持ちになる を意味することから、八は縁起が良いとされます
日本で八は「末広がり」という理由で好まれますがそのような認識は中国には無いようです
「⚫︎⚫︎尽くし」は8種に限ったものでは無いですが、八宝茶などの8も、8種ではなく、たくさん、色々といったことを表しています。
宝尽くし紋様
ここからは宝尽くしの紋様を詳しくみてみます
「宝尽くし」には決まった宝は無いのですが、よく見かけるものなどをあげます
打出の小槌
打出の小槌は、振れば欲しいものが手に入るという縁起ものです
一寸法師や七福神の大黒天が持っている小槌が有名です
ものを打つことから「敵を打つ」に通じて吉祥文になったとも云われます
分銅
分銅は、両替屋などが、金や銀の重さを量るために使った「おもり」の形を表したものです
円の両側をくびれさせたような形は、現代の地図記号で、「銀行」を表す記号となっています
また家紋にも使用されています
丁字(ちょうじ)
亜熱帯原産のスパイスのクローブのこと
日本へは平安時代ごろに渡来し薬用、香料、染料、丁字油などに利用しました
正倉院には丁子が香料の他、薬品として「鎮痛剤」や「におい消し」のための貴重品とした記録が残ります
貴重な渡来品であり、多用途なことから、宝物のひとつになったと考えられます
源氏物語の中では、「丁子染め」として登場します。丁子染めは色が染まるだけでなく、香りがあるため「香染め」とも呼ばれます。
丁子で染めたものは、薄い茶色、もしくは濃い目のベージュで、ちょうどミルクティーのような色となります
クローブの花蕾は釘に似た形で、乾燥させたものは錆びた釘のような色をしていることから、中国では「釘子」を略して、釘と同義の「丁」の字を使って「丁子」の字があてられました。それを「チャウジ」と発音したことから、日本でも丁子と書いてチョウジと呼ばれます
金嚢(こんのう)・巾着(きんちゃく)
金嚢、巾着、宝袋(ほうたい)とも呼ぶ袋で、口を紐で結びます。中には財宝などを入れます。日本オリジナルの宝物紋様です
宝巻(ほうかん)・巻軸(まきじく)
宝巻はありがたいお経が書かれたもの、巻軸は秘伝などを記したものです
筒守(つつもり)で表現されることもあります。
筒守は「祇園祭」で知られる京都の八坂神社の守り紋に、この文様が使われていることから「祇園守文」とも呼ばれます
隠れ笠(隠れがさ) 隠れ蓑(かくれみの)
隠れ笠も隠れ蓑も、着用する他人から姿が見えなくなる(姿を消す)ことから、「厄災から身を隠し守ってくれる」という宝物です。
これらも、日本オリジナルの宝物です。
蓑は藁や茅などで作られており、雨具としたり防寒などにも使われます
天狗が持っていると伝えられます。
隠れ笠は隠れ蓑と同じような素材で作られています
ちなみに
「笠」は頭にかぶって紐でとめるので「かぶりかがさ」といいます
「傘」は柄がついていて頭上にかざして使うので「さしがさ」という違いがあります
方勝(ほうしょう
中国の「雑八宝」のひとつで、菱形を連結した飾りです。
「勝」はもと西王母の用いた髪飾り(簪)で、西王母のトレードマークでもあります。不老不死の西王母の持ち物なので、祥瑞とされました
「方」とは四角形の事です。中国では、古来より四という数字に「まとまりが良い数」というおもいがあるようです
四君子、文房四宝、四霊獣、四神、四芸などなど 四でひとまとまりとするものが、とても多くあります
宝珠(ほうじゅ)
宝の珠、宝玉ともいいます
球形で先が尖っており、それを火焔で包むように表現されますが、火炎がないものもあります
金銀財宝など望むものを出すことができるといわれる不思議な珠で、一説には龍が生み出した願いを叶える、いわゆる「ドラゴンボール」とも云われます
先が尖ったかたちの宝珠は「無意宝珠」に由来する名称で、如意輪観音や地蔵菩薩が携えていることから、「如意宝珠」とも呼ばれます
宝鍵(ほうやく)
宝物庫や蔵など、宝が入っている場所を開ける鍵です
宝瓶(ほうへい)
袋に入った瓶の姿で描かれること多く、その瓶には繁栄と不老不死をもたらす聖水が入っているようです
密教では「灌頂」という儀式があり、その水を入れる瓶を「宝瓶」と言います
観音さまも左手に水瓶(花瓶)を持ちます。これは経典にも記された観音の図像の決まりですが、この水瓶には、人々の願いを叶える「聖水」が入っている。とも云われます。
ちなみに、観音は人々の声を聞き、即、救いにやってきてくれる。という性質の仏様です※ 観音の水瓶と、宝瓶や灌頂の儀式などとの関連は分からないです
七宝(しっぽう)
円を組み合わせた紋様で、繋がって表現されるものは「七宝繋ぎ」といいます
円が永遠につながることから、「円満・縁・調和」などといった縁起の良い吉祥文様とされています。
円が四方八方につながるので、シホウハッポウ→シッポウと呼ばれるようになったと云われます
七宝はもともとは仏教に出てくる、金(こん)・銀(ごん)・瑠璃(るり)・玻瓈(はり)・硨磲(しゃこ)あるいは珊瑚、赤珠(しゃくしゅ)あるいは真珠、碼碯(めのう) の七つの宝です。七珍ともいいます
仏教の経典に記された極楽浄土の荘厳には
「楼閣あり、また金、銀、瑠璃、玻瓈、硨磲、赤珠、碼碯をもってこれを厳飾(ごんじき)せり」 とあります
七宝焼は「七宝を集めたように美しい」ということでついた工芸技術です。中国では琺瑯彩(ほうろう)、西洋ではエナメル彩といわれます
銅・銀などをベースに、銅線などで区切り、その中にガラス質の釉を流し模様を作って高温で焼くという技法です
明治期には超絶技巧の七宝焼が焼かれ、海外へ輸出され大人気のとなりました
また、迎賓館赤坂離宮の花鳥の間には渡辺省亭が下絵を手がけ、七宝焼きの天才といわれた涛川惣助(なみかわ そうすけ)が焼いた、素晴らしい七宝焼の絵が並んでいます
他にも、松や橘などの植物や、鶴や亀などの動物、神獣など、「宝尽くし」には、縁起が良いものが様々に取り込まれています
機会があれば、じっくりと、ひとつひとつのアイテムを観察するのも楽しいでしょう
縁起の良いものが並ぶだけで、気分が晴れやかになります
楽しいお茶の時間に、キラキラ気分があがるものを添えて、よりたのしいお茶の時間を過ごしては?
中国茶のしつらえ
宝尽くしの器でお茶
新年の最初に汲む水を「若水」や「初水」などといいます
正月の早朝に井戸などから汲み上げる水で、邪気を払ったり、生命を再生させる効果 があると信じられています
現代の都会では、なかなか若水を汲みにゆくことは無いのですが、新年の最初に水でお茶をいれ、その年の健康などを願います
お正月らしく、縁起の良い宝尽くしの器で一服
お茶はその時々の気分ですが、八宝茶も華やかで良いと思います
お茶のカップに合わせて、急須は品の良い白磁のもので、クラシックで正当な雰囲気に
せっかくなので、ディスプレイ感強めのしつらえにして、新年の飾りの一部のようにしつらえるのも、たのしいのでは。