オートバイのある風景19 GSシリーズと税務署
商売がうまく行き、羽振りの良い自営業者を落とし穴が待っていたというのはよく聞く話である。僕の場合も御多分に洩れず、調子に乗っていたところで落とし穴に落っこちた。
ハーレーに乗って二度目の東北旅の最中、白神山地へと入り込む林道にアプローチ出来なかった事から僕はアドベンチャーバイクに興味を持ち始めていた。ちょうど前年にBMWのR1150GSに初めてアドベンチャーモデルが登場したという頃だった。
チョイ乗りでの機動性や扱いやすさよりも高速性能と走破性という、年に一度のロングツーリングでの圧倒的なアドバンテージに魅力を感じ、僕はBMWのバイクを選択肢に入れ始めていた。市内のBMWディーラーに行くと、ちょうど1年落ちのアドベンチャーが中古車として店頭に並んでいた。
仕事も順調で、今思えば根拠のないものだったとはいえ自信のようなものがあった僕に、たった1年ちょいでハーレーからBMWに乗り換えることについての迷いは一切無かった。
いざ公道に乗り出すと、フルパニアのGSアドベンチャーは思ったよりデカくて重たかった。ショールームで跨るだけでは分からないものである。慎重に走って自宅に辿り着いた頃には相当疲れていて、駐輪場で出迎えてくれた子供達に
「乗るな、触るな、倒れちゃうよ!」
と言うほどで、カミさんにも
「そのくらいで倒しちゃうんだったらそんなのウッちゃっちゃえ(静岡弁で捨てちゃえ!の意)!」
と怒られる始末だった。
まぁ、最初がそんなだったから想像がつくと思うがこのGSは長続きしなかった。ローダウン加工をしようかどうか迷っていた時、ネットオークションで極上のR80GSベーシックが売りに出されているのを見つけてしまったのだ(自分から調べておいて見つけてしまった、というのも言い訳がましいが)。
車格やクラシックな出立ち、1996年に復活再販された際のエピソードなども含めて「俺が欲しかったのはこれだ!」とすら感じてしまったのだから、思い込みというのは恐ろしいものである。
ドゥカティからハーレー、アドベンチャーを経て最後は個人売買の80ベーシックと、ローンによる所有権が付いていないのを良い事に、短期間で馬鹿みたいな乗り換えである。追い金の合計で結局80ベーシックがいくら相当になっていたか、怖くて今でも計算していない。
80ベーシックは本当に良いバイクで、OHVボクサーエンジンの味わいや現行ボクサーとは違う重心の低い車体の乗り味などを理解して楽しむ事が出来た。乗り始めたのが晩秋だったので紅葉の秩父中津川渓谷や高峰温泉、冬間近の地獄谷温泉など、林道を含めたツーリングに大活躍した。
その翌年、この夏は80ベーシックでどこへ行こうかと考え始めた梅雨明けのある日、それは突然やって来た。
「こちら静岡税務署ですが、昨年の申告について調べたい事があります…」
という1本の電話。新手の詐欺に違いないと、電話番号を聞いて折り返してみたがやはり電話は静岡税務署に繋がった。急ぎ信用金庫に勤める兄貴に相談すると
「連中も手ぶらでは帰れないから、否認されたところは素直に認めて早めに切り上げてもらえ、さもないとトコトン調べられるぞ」
と言われた。
経験した事がある方なら分かると思うが、この税務調査というのは本当に腹が立つ。色んな事を遠回し遠回しに何回も聞き、言い訳ができない状態で間違いや解釈の違いを指摘して来る。僕は結局所得税について大幅な修正申告を余儀なくされた。
以前も書いたように何の計画もなく、日々をただ面白おかしく過ごして来ていたから店には何の蓄えもなく、納税のために僕は仕方なく80ベーシックを処分する事にした。そしてその代わりにディーラーの社長に泣きついて店の隅にあったR1100GSを格安で譲って貰ったのだった。
面白い話で、こんな理由で僕の手元にやって来た1100GSは、この騒動の中に登場した3台のGSの中で一番長い時間と距離を僕と共にする事になる。
税務調査で営業ナンバーの付いていない僕のバイクの減価償却費や経費が否認されたので、この1100GSは営業車登録をしたのだが「静岡り・・・1」が交付された。静岡の小型二輪で初の営業車だったのである。
営業ナンバーが付いた事と経費(人件費)節減のため僕もこのGSで走り回った。主にはバイトに任せにくい深夜の長距離便だったりしたから、帰りは空荷で(時にはバイク便のボックスを宅配便で事務所に送り)のんびり下道ツーリングを楽しみながら走ったりしたのだった。
こんな経験を共にした事、それから1150以降と比べたら切れ味は劣るが目一杯アクセルを開けられる安心感、そして安い中古車価格などから今でもお勧めのGSは?と聞かれたら迷わず「1100」と答えるのである。
それにしても税務署にはひとこと言いたい。僕は無知だっただけで
「何もやましい事はしてないんだぞー!」
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