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オートバイのある風景 25 娘のエストレヤ

 息子が限定解除(とは言わないんですね、今は)してスポーツスターに乗り始めた翌年の春、大学3年生になっていた次女がバイクに乗ると言い出した。運動もあまり得意ではなく、家族で一番バイクには縁がないと思っていた彼女がバイクに乗りたいと言い出した事に僕は嬉しいというより正直驚いた。ここから先は息子の時と同様、おとーさんはダメと言い、おかーさんがオッケーを出すという我が家お約束の流れで彼女も無事教習所に通い出した。
 バイクに乗りたいと思ったきっかけが僕の影響だったらまだしも、彼女はうちの子供たちの中で唯一僕の後ろに乗った事がない。免許取得も大学の友人とそんな話で盛り上がった事や、大学への通学路に原付不可のバイパスがあってジョルノでは通学に不便だった事などが主な理由だったから、正直僕は教習所でとりあえずバイクに触れて大変な思いをして、免許は取ったけど公道はいいや、となってくれる事を願っていた。
 教習は授業とバイトの合間で遅々として進まず、娘の公道デビューという恐ろしいイベントが少しでも先延ばしになっている事に僕は少しだけ安堵しつつ、それでもクラッチ操作を練習したいと言われれば河川敷のスポーツ広場にSRを持ち込んでの練習に付き合ったりという日が続いた。

 ところで僕は細々と自営業を営んでいるのだが、このように平日昼間に娘とバイクの練習をしたり、真夜中に酔っ払ってタクシーも拾えなくなっている息子を街まで迎えに行ったり、そういった事が日常的に出来る境遇でいられる事にしみじみ感謝したのもこの時期だった。
 同じくフリーランスで働く幼馴染みともよく話をするのだが、子育てにあたって家族といる時間を大事にしたくてフリーランスにはなってみたものの、サラリーマンとして多忙を極め単身赴任も経験した昔の仲間の家族を見てみれば、親子の関係が悪くなったり子供がグレちゃったりしてるかと言うとそんな事はなく、結局俺たちがやりたい事をやってるだけなんだよな、と笑い合うのである。

 そんな話は置いておいて、娘の教習はゆっくり本当にゆっくり進捗し、期限が切れてしまうのでは、と思い始めたその年の暮れに無事免許取得と相なったのであった。
 で、バイクはどうするの?という話になったら何故かカミさんが妙に乗り気なのである。バイクをローンで買うなら在学中はおかーさんが払ったげる、卒業したら自分で払いなさい。36回払いならちょうど半分ずつだし、と言うのだ。その頃の我が家には僕のスポーツスター、SR400、仕事用のタイカブ100、息子もスポーツスターとGB250の2台持ちで駐輪場はバイクで溢れかえっていた。どうやらカミさんは娘とのツーリングを楽しみにしていたようなのだ。

 それならとーさんも手伝うよ、と古くからの付き合いのバイク屋さんに頼み系列の他店舗から3台の候補車を最寄りの店舗に揃えてもらった。
スズキのグラストラッカービッグボーイ、カワサキのTR250、同じくカワサキのエストレヤである。3台並べて順に20万、30万、40万円だ、どれがいい?と娘とカミさんに選んでもらった。
 そして娘が選んだのがグリーンのエストレヤだった。納車後は早速浜松のバイク神社に初ツーリング、その後カミさんも交え念願の親娘ツーリング、そしてGWには息子も交えて親子4台で富士山周遊ツーリングにも出掛けた。

疲れ気味の息子と嬉しそうな僕


 元々マスツーリングはあまり好きではなく、ましてや初心者をアテンドしてののんびりツーリングなんて勘弁して欲しいと思っている僕だが、こうして家族で走るとこれが不思議と楽しいのである。行楽のマイカーにも煽られてしまうようなペースで、インカムで母娘のワチャワチャした会話を聞かされながらでも、楽しいのである。
 インカムの台数が足りなく、唯一走行中の会話に入らなかった息子は休憩のたびに疲れた表情をしてはいたが…。

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