オートバイのある風景 28 SR400と伊香保の夜 その1
SR探しの旅は実に印象深い旅となった。
まず、ネットで見つけた物件を下見に行くことからこの旅は始まる。初期型SR400、しかもマルーンカラーのSRを探し始めた僕はその後しばらくしてほぼ希望通りの個体に辿り着いた。出品地は群馬県渋川市である。電車でも行けるが、息子から引き継いだゴルフ2で行く事にした。というのもちょうどこの日は息子の車の納車日で、彼を伊那の車屋さんまで送る必要があったからだ。
息子はゴルフ2と初期型ロードスター(NA6C)の2台持ちと言う強者だったが転勤と同時に世帯を持つこととなり実家にゴルフを残し、ロードスターは初期型から現行モデルに乗り換えていた。しかし血は争えないのか、現行ロードスターに満足出来なくなった彼はジムニーに乗り換える事にしたのだった。しかも伊那のちょっとこだわりのあるお店でJA22という古いジムニーの程度の良い物を手に入れたと言う。
そこでこの日はゴルフ2で息子を伊那まで送り、僕はその後渋川まで移動してSR400の現車確認をするという中々面白そうなドライブ計画を立てたのだった。
息子を伊那に送り納車を見届け、近くの蕎麦屋で美味しい蕎麦を食べ、
「じゃ、また。」
と別れて群馬に向けて出発したのが13時過ぎ。普通に行けば待ち合わせの夜7時には充分間に合う。僕は渋川に向けてゴルフ2のドライブを楽しんでいた。
しかし佐久から上信越道に乗り、確か横川のSAで給油をした直後だったと思う。ゴルフ2のシフトレバーが急にスコンと抜けたのだ。
「やっちまったか?」
少し前からシフトの感触がおかしかったのだが、ここに来てとうとう言う事を聞かなくなってしまった。ミッションではなくあくまでもシフトレバーのトラブルなので、そう慌てる事なく現状を確認するとシフトレバーの横の動きが効かなくなっていて、3速と4速には入ることが分かった。3速発進して4速80km/hで走れば高速上は何とかなるだろう。そう思い僕は取り敢えず待ち合わせ場所の渋川インター出口のセブンイレブンを目指した。
セブンに到着した僕は今後の予定を思案した。SR400の現車確認が済んだら当初の予定通りこのまま3、4速のみで静岡まで帰るか?しかしバックも出来ないんじゃ無理だろう、仕方が無いがロードサービスを使おう。
これで今夜は帰れない。翌日の静岡での予定をキャンセルし、次に加入している任意保険のロードサービスを手配した。幸い僕の入っている保険では車両運搬の他に乗員の移動宿泊費用まで賄えるものだったので、僕は近くのルートインに当日宿泊の予約を入れ、レッカー車の到着を待った。
季節は10月の中旬。日が暮れてずいぶん冷えて来た。ゴルフ2がレッカーでドナドナされ居場所を失った僕は寒さに耐えながら出品者さんの到着を待った。すると予定より早く、ペイトンプレイスのマフラーから弾き出されるSR400の排気音が聞こえて来た。
やって来たのは同年代だがスラっとした高身長のイケメンである。
「遠いところようこそ。」
「こちらこそ、お仕事帰りに無理を言ってすみません。」
と挨拶もそこそこに現車を見せてもらう。
1982年式SR400、型式は2H6、モデル年式は3X7で本来なら黒に赤と金のストライプの入ったモデルあるが、前オーナーの手によって初期型のマコマルーンの外装に載せ替えられていた。
年式からするとかなり綺麗な部類だ。外装も載せ替えてあるしフレームの塗装にもツヤがある、セミレストア車両なのだろうか?まぁ、何にせよ40年以上前の車両なので、履歴より現状だろう。試乗もしたが問題も無く、しかも出品者さんとバイクや車の趣味もドンピシャで信頼のおける方だったので、この個体を購入する事に決めた。
支払いや引き取りのスケジュールなどを確認し、今日ここまでの顛末を説明すると彼がホテルまで送ってくれると言う。お言葉に甘えてSRに男二人タンデムでルートインに向かったのだった。
あ、ここまででずいぶん文字数を使ってしまった。
今回はここまで。続きはまた続編でお楽しみ下さい。
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