オートバイのある風景10 府中のホライゾンとFZX
大学に入ってすぐに買ったCBX400Fは、途中一回車検を受ければ卒業まで4年間乗れる事になる。就職したら新しいバイクに乗り換えよう、漠然とそう思っていたのだが、CBXが2回目の車検を迎えた時、僕は何故かまだ2年生だった。
海外留学や休学をしていた訳ではない、ただただ遊び呆けて留年していたのだ。その間学費を納め続けてくれた両親には申し訳ないと思っている。いや、本当に。
そんな話はさておいてCBXの車検である。お金も無いのだから継続車検を受ければ良いのだが、愛車CBXは改造しまくった結果、車検に通らない状態になっていた。
これは馴染みのバイク屋の店長、Sさんの悪ノリも大いに影響しているが、今さら言っても始まらない。
次のバイクは何にしよう。
前年に登場したホンダCB-1とカワサキのゼファーに絞って検討を始めたが、やはり新車は予算的に無理。そこで中古車雑誌を調べると、750ccの中古車がどれもかなりお買い得なことに気が付いた。
当時は大型自動二輪免許が「限定解除」と言われていて試験場での一発試験しかなく、その合格率の低さも影響して大型バイクの中古車価格が中型車より安かったのである。
そんな訳で僕の限定解除挑戦が始まった。
試験場は悪名高き府中試験場だ。
当時、限定解除の合格率は5〜6%と言われていた。事実、初めて受験した日も午前の部で約50名が挑戦して合格者は3人で、改めて6%は本当なんだと思い知らされた。
単純に15回行けばそのうち取れるというところか。まぁいいだろう。こちとら時間だけはたっぷりある。
そうは言っても、僕としても早く免許を取ってナナハンデビューを果たしたいわけで、試験場近くの東八道路沿いにある限定解除虎の穴ともいうべき「鬼の杉本教習所」に通う事にした。試験日の早朝に単発で1コマ乗るのだ。
府中の試験車はホンダCBX750ホライゾンとヤマハFZX750を選ぶことが出来たので、朝イチここで重たいホライゾンに乗っておけば、本番のFZXがより軽く感じるだろうという魂胆である。
要はホライゾンがネクストバッターサークルのマスコットバットの役目なのである。良いバイクなのに、ごめんなさい。
初挑戦からすでに2ヶ月以上経っていただろうか。挑戦中は街乗りでも試験対策でレバーは4本指のクソ握り、背筋を伸ばしてニーグリップを効かせて乗っていた。いわゆるプレス乗りからはかけ離れたダサいライディングフォームである。
あー、早く自由に乗りたい!
そんな中で迎えた6回目の試験日。
当時の試験は確か初っ端に一本橋、波状路、スラロームが続きかなりの受験者がここで振り落とされる。減点が不合格ラインまで達すると試験中止、スピーカーで番号を呼ばれて発着所まで戻るというやり方だった。
その日僕は外周まで出ることが出来た。あとはアクセルをしっかり開けて、メリハリのある運転を心がけるだけ!
そして急制動や坂道発進などの課題も無難にこなして無事完走することが出来た。発着所に戻ると、他の受験生(この頃には顔なじみも数名いた)から
「おめでとう!」
と声があがった。
合格者は最後に集められて諸々の手続きがあるのだが、ここで初めて運転の履歴が照会される。僕の過去の違反歴を見た1人の試験官が、心配そうに
「気をつけて乗れよ」
と言ってくれた。僕はしっかり
「はい!」と返事をして、免許証の裏に「限定解除」のハンコを打ってもらった。生まれてこの方いろいろな試験で合格も不合格も経験したが、この限定解除に勝る喜びの合格は未だ無い。