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ケモナー界隈でひっそり話題の映画「バッドガイズ」を観てきた(ネタバレあり)

少し前からTwitterのタイムラインがざわめき始めた。
「最高にイケメンなケモノ集団が強盗を企てるクライムコメディCGアニメ映画があるらしいぞ」と。

その名は「バッドガイズ」

イケケモの集団(ヘビやピラニアとかもいるが)が華麗に強盗を働く、という筋書きだけでも興味をそそられたが、だんだんタイムラインがおかしくなってきた。

「ガキっぽい男同士のクソデカ感情のぶつかり合い」
「距離が近めの異種間腐れ縁ブロマンス」
「ルパンと次元のあの掛け合いを延々と引き伸ばして観られる感じ」
「邪悪なモルカー」

ブロマンス?クソデカ感情?評判がどんどん(性癖的に)おかしなことになってきている。これは気にならずにはいられない。
あと邪悪なモルカーって何だよ。

観てきました。絶対に観て損はないどころかブロマンス以前にこれ観る前と後では人生の中のCGアニメ観がガラリと変わるぞ。観よう。

あと邪悪なモルカーは邪悪なモルカーでした。


え?これ手描きアニメじゃないんですか?

オールCGだよ(多分。一部手描きですと言われたら信じる)

とりあえず公式サイトをどうぞ。

「ワルをやるなら思いきり」を合言葉に、次々とハデな盗みを成功させてきた怪盗集団<バッドガイズ>。
“天才的スリ”にしてカリスマ的リーダーのウルフが率いるのは、“金庫破り”のスネーク、“変装の達人”シャーク、“肉体派”ピラニア、そして“天才ハッカーの毒舌ガール”タランチュラだ。お尋ね者の5人組が次に狙うのは、名立たる強盗たちも奪えなかった伝説のお宝《黄金のイルカ》。しかし、あと一歩のところで大失敗…逮捕されてしまう!
彼らは街の名士マーマレード教授の更生プログラムを受けることになるも、ノったフリしてウラをかき、史上最大の犯罪をもくろむ。しかし彼らの知らないところで、さらなる巨悪が密かに動き始めていた――。

映画「バッドガイズ」公式サイトより

主人公であるキザでクールなウルフを筆頭に、ウルフの相棒的存在である鍵開けの名人スネーク、変装が得意でおっとり屋のシャーク、短気で天然キャラのピラニア、チームの紅一点であるハッカーのタランチュラ(愛称ウェブス)が一世一代の強盗計画を企てるうちに陰謀に巻き込まれ……というクライムアクションコメディ。ほかにも凛としたキツネの女知事ダイアン・フォクシントン、「マザーテレサの再来」と謳われるほどの博愛主義モルモットのマーマレード教授、レディハルクと見紛うほどのつよつよ署長すごくいいキャラしてるのに名前がない、めっちゃ悲しい)など個性強めのキャラが目白押し。
※  10/29、Twitterユーザーの方より「署長の名前はミスティー・ラギンズです!」との情報をいただきました。Wikipedia情報とのこと。日本語吹き替えのキャラ名しか見てなかったな……。この場を借りてお礼申し上げます!

ウルフとスネークの二人がダル話をしながらカフェで一休みしたあと、散歩でもするような足取りで悠々と銀行に向かい流れるように銀行強盗、という最高にブッ飛んでてイカしたオープニング。計画に加わっていた仲間たちも次々に車に飛び乗り、バッドガイズは紙幣をバラ撒きながらバッハハーイ!こんなんもう絶対ハイで面白いやつに決まってるやん……。さらにウルフがしれっと第四の壁を越えてこちらに話しかけてきたりもします。うん、そういうの大好き。
序盤の豪快な強盗シーンにスリル満点のカーチェイス、観客の予想を気持ちよくだまくらかしてくれる展開など、アニメ映画ではありますがクライムエンタメ映画としてもめちゃめちゃオススメです。パンフレットのコラムでも紹介されていますが映画「オーシャンズ」シリーズが好きな方ならハマるはず。

映画パンフレット(¥880・税込)。コラム記事のほかコンセプトアート、各キャラの初期案イメージなどなど見応え・読みごたえたっぷり。

そして何がすごいってこの映画、絵面が全くCGっぽくない。今まで私がイメージしていたCGアニメ映画は質感のリアルさをウリにしているというようなもの(ズートピアとか)だったんですが、「バッドガイズ」はその方向性を主線なし絵柄のカートゥーンアニメに全振りしたような映画です。
キャラクターに寄ったシーンではキャラクターのふわふわした毛並みなどが緻密に表現されているのですが、これが引いたアングルやカーチェイスなどの疾走感のあるシーンになると一気に平面的で動きのある絵面になります。例えば車から出た排気ガスがフワーッと立体的に広がるのではなく、雲のような輪郭で平面的に広がる。コミック的な表現という言い方が一番しっくり来るかも。キャラクターの顔に漫符(ガーン、の時に顔に出るアレ)が乗ったりするんですよ。ヌルヌル動く手描き風CG、これは本当に言葉で説明するのが難しい。私が説明したのを読むより一回でいいから実際に観てくれ。
冒頭のブロマンスうんぬんより先に「この手描き風CGアニメ、どうやって作って動かしてるねん……?」という所から目が離せなくなってしまいました。円盤が出たらメイキングも観れたりするのかしら……。

※調べて知ったんですが、原作はアーロン・ブレイビーという方のキッズ向けコミックス(児童書)なんですね。原作の絵柄はモノクロのペン画タッチです。よければ調べてみて!


カリスマ溢れるキザボーイ×皮肉屋な枯れかけおじさんを主軸にしたあらすじ感想(こっからネタバレ)

ここからは映画の詳しいあらすじ、そして異種族おじさん同士のやたら湿度の高い友情について思うさま書いていく。これこそがこの映画のキモだし、正直二人のクソデカ感情について詳しく語ろうと思ったらネタバレなしでは絶対に無理です。キャラクターの個性や終盤のどんでん返し以上にえげつないほどの男✖︎男のクソデカブロマンス感情が込められた映画でしたよ。都合のいい妄想を盛ってるんじゃないかって?「殺すぞ」と「愛してる」が同じ口から出る映画だぞ⁉︎

以下あらすじ。ネタバレ注意!!

劇中では語られないが、ウルフとスネークはどうやら古くからの付き合いらしい。他のメンバーも恐らく同様だと思うが、なかでもこの二人の結びつきはとりわけ強いように見える(後ほど明らかになる生年月日から彼らの年齢を逆算したというツイートがあり、ウルフは31歳、スネークは57歳らしい。親子ほど歳が離れてるじゃないか……。ピラニアは26歳、ウェブスとシャークは不明。なお公式情報ではないので注意)。
冒頭、カフェのお勘定をする際ウルフがスネークに「俺に奢らせるつもりなんだろ?」と文句を垂れつつも、銀行を訪れる際にはウルフがさりげなく先にドアを開けてスネークをエスコートする辺り(うわあって声にならない声が漏れた)からも二人の関係性、というか結びつきがよく伺えます。悪党の先輩、自分の親ほど年上ではあるけれども普段から軽口を叩きあう関係。
カフェでのダルい会話から始まるクライム映画といえば「レザボア・ドッグス」!パンフレット内のコラムによると、同じくタランティーノ監督の「パルプ・フィクション」のオマージュとのことです。この映画は各所に名作のオマージュが散りばめられていてめちゃめちゃ楽しいです。

冒頭の銀行強盗は大成功。アジトに帰り着いたメンバーは和気あいあいとスネークの誕生日パーティーを始めます。本人死ぬほど嫌そうにしてるけど。
長年金庫破りでワルをしてきたスネークは、自他ともに認めるひねくれ者です。誕生日ケーキをごちそうしたいというウルフに対して「ケーキよりモルモットがいいね。俺はただのモルモットじゃなく善の象徴を食っているんだ」とのたまったり、ピラニアがバースデーソングを歌ってる途中にケーキの蝋燭を投げやりに吹き消してしまったり、果ては「アイスキャンデーが食べたい」とねだるシャークの目の前で美味そうにアイスを丸呑みして「間抜け」と煽ったり、なかなかガキっぽい大人げない56歳です。記念写真の時でさえにこりともしないスネークの事を仲間も「ミスター・ご機嫌ななめ」とからかい混じりに受け入れていますが、ウルフはそんなスネークの扱いをよく心得ている様子。
今日の彼らの悪行はすぐさまニュースで放送されますが、会見に登場したキツネの知事ダイアン・フォクシントンは彼らの犯行を「時代遅れで行き当たりばったり、独創性もチームワークもない」などメッタメタにこき下ろします。ウルフは生意気な知事の鼻をあかしてやるために「良き隣人賞(ノーベル平和賞みたいなものかな)」で授与されるお宝「黄金のイルカ」を盗んでやろうと持ちかけますが、スネークは「仕事に私情を挟むな」と渋い顔。しかしその授与式に参加するのがモルモットのマーマレード教授だと知るや否や(明らかに食欲を覚えて)作戦に参加します。「マズかったら殺すぞ」ってセリフがとても好き。
ウルフはスネークの扱いがまあ上手いというか、自分の子供ほどの年齢である相棒の手のひらの上でしっかり踊らされているひねくれおじさん、という構図がもう腐れ縁ブロマンス。ウルフがスネークの扱いに長けているのも、それだけ長い付き合いがあったという事なのでしょう。仲間たちのチームワークや知事ダイアンの過去など見どころが沢山あるのですが、この物語の軸となるのは間違いなくウルフとスネークです。

さて、マーマレード教授に授与される予定だったお宝「黄金のイルカ」強奪計画はなんとギリギリのところで失敗。あわや逮捕というところで、第二のマザーテレサたるマーマレード教授が彼らに助け舟を出します。悪人も善人として生まれ変われるんだという証明のために彼らを悪人更生プログラムに参加させ、近く開催されるチャリティーパーティーで「グッドガイズ」となった彼らのお披露目をしようじゃないか、と。
「彼らの心の中にある善の花を咲かせたいんだ」という教授の計らいにより悪人更生プログラムを受けることになったバッドガイズ。しかしウルフにとってはこれも計画のうち、善人になったフリをしてチャリティーパーティーの授与式で改めて黄金のイルカをいただき、そのままトンズラしようという算段です。

……しかし、ただの作戦に過ぎなかったはずの更生プログラムの中で、ウルフの心の中には徐々に「善人になりたい」「見た目で差別されることなく好かれたい」という感情が芽生えていきます。以前にパーティー会場で偶然助けたおばあちゃんから「とっても良い子ね、あなた」と褒められた際、ウルフはひそかに「人から感謝される嬉しさ」を覚えていました。ワルとしての人生を歩みながらも、心のどこかでは善に対する憧れを抱いていたウルフ。そしてウルフはついに「木から降りられなくなったネコを自ら助ける」という善行を自分の意志で行います。これによりバッドガイズの株は急上昇、世間の評価はうなぎ登り。これで「グッドガイズ」として認められる、作戦成功!と喜ぶメンバーでしたが、マーマレード教授から「君は才能がある、悪い仲間よりも自分のこれからを大切にしろ」とひそかに諭されるウルフの姿をスネークはじっと見ていたのです。

深夜、ウルフの思わぬ姿を目撃してしまったスネークはなかなか寝つけません。ワルの仲間として長年連れ添ってきた相棒が悪党稼業から足を洗うなんて、スネークにとっては信じたくないことです(31歳ならまだ人生やり直せるけど56歳じゃいまさら生き方変えられないよな、みたいなツイートを見かけてうわあって思った)。もしや相棒が心変わりしてしまったのではないかと不安にかられたスネークは、わざわざウルフが寝てるベッド脇まで這っていって「これも計画のうちだよな、そうだろ?もし計画を変更するなら言ってくれよ」と問いかけます。ひねくれ者で皮肉屋なくせして実は誰より寂しがり屋な男、スネーク(パンフにもしっかり「実は寂しがり屋」と書かれちゃってる。かわいい)。
それに対して「当たり前だろ、俺が立てた計画だぜ?」と、揺れる自分の本心をあくまで押し殺してスネークを諭すウルフ。仲間の存在は何より大事だけど、本当はもっと正しく愛されたいという気持ちに気づいてしまった……。このシーンのどこか寂しげなグータッチは本当に胸がキュウッとなりました。再びベッドへ戻るスネークに、さりげなく「みんなから好かれてみたいと思わないか?」と問いかけるウルフですが、スネークの返事は「早くもとの暮らしに戻りたいよ」とつれないもの。ウルフは授与式で知事ダイアンからしれっとスッてきたダイヤの指輪を眺めつつ「早くもとの暮らしに戻ろう」と自分に言い聞かせるように呟きます。
※なおこの指輪ですが、ダイアン訪問の際になんと彼女はウルフから指輪をスり返してます。「狼とキツネって、実は似た者同士なのよね」と茶目っ気たっぷりに呟きながら指輪をトスして返すダイアン。お、おもしれー女………(恋に落ちる音)

そして計画の日。晴れてグッドガイズ」となったメンバーはチャリティパーティーのお披露目会でまんまと「黄金のイルカ」を盗み出す……はずだったのですが、これまでの心の揺れ、そしてウルフ達の更生をひそかに応援していたというダイアンとのダンスを経て(ここのダンスシーンは本当に活き活きと描かれていて見惚れました。ピラニアのハイトーンボイスにも注目)ウルフはダイアンから盗んだ指輪を返し、さらに仲間達に無断で強奪計画を降りてしまいます。思わぬ心変わりに困惑するメンバー。ウルフが自分の気持ちに正直になった結果のことですが、仲間達にとっては突然の出来事、ことにウルフを最も信頼していたスネークが受けたショックはとてつもなくデカいです。
すると突如、会場内で停電が起こり、明かりが復旧した時には「黄金のイルカ」……ではなく、かつて街に飛来した平和の象徴「ラブハート隕石」が盗まれていました(大災害をもたらした隕石の中に平和の象徴を見出す、という風に「善性と悪性の二面性」という映画のテーマは劇中で繰り返し語られます)。
嫌疑の目は一斉にグッドガイズに注がれます。いくら弁明しようと、彼らは元々悪党。話を聞いてくれる者はおりません。

グッドガイズ、逮捕。

「違うんだ、俺たちじゃない」と叫ぶウルフですが、周囲の目はひどく冷たいもの。先程パーティー会場で彼らを歓迎していた雰囲気はもうどこにもありません。もはや打つ手なしの彼らに、マーマレード教授は五分だけの面会を申し出ました。しかし彼らの更生をサポートしていたはずの教授の口から語られたのは「あの隕石は凄まじいパワーを持っている」「お前らはまんまと罠にはまった」「隕石は私が盗んだ。お前らバッドガイズにその罪をなすりつけ、私は隕石の持つ力で史上最大の強盗を企てるのだ」という恐ろしい強盗計画でした。善の花の話なんて全くのデタラメ。教授は表向きには小さくカワユイモルモットを演じつつも、更生プログラムが始まる前から根が優しいウルフに目を付けており、善の心によって彼が判断を誤るようひそかに仕向けていたのです。自らの心を弄ばれた上にこれまでずっと教授の手のひらの上で踊らされていたことに気付くや否や「食い殺してやる!」と恐ろしい剣幕で怒鳴りかかるウルフでしたが、時すでに遅し。怒りに任せてマーマレード教授を襲おうとしていたウルフの様子は世界中に中継され、バッドガイズの評判は再び地に落ちてしまったのです。
(やはり人は変われません、見た目の判断と固定概念は大事ですと喋るニュースリポーターが怖い。手のひら返しのオンパレードやん)

裁判もなく(カットされただけかも)アルカトラズ刑務所みたいな絶海の孤島に送られるバッドガイズ。なぜヘマをしたんだ、お前のせいだとなじるスネークに対してウルフは「悪人役はもういやだ、みんなに愛されるのは気分が良かっただろう?」と諭しますが、スネークの心には全く響きません、それもそうでしょう、なによりウルフは「計画の変更があったら絶対に言ってくれよ」というスネークとの約束をその翌日に破っているのですから。嗚呼……。
ウルフの説得はいつしかスネークとの言い争いに発展。「悪い仲間よりも自分の人生を大事にしろって教授に吹き込まれてたよな!俺らとはもう終わりってことか⁉︎」というスネークの言葉にカッとなったウルフは思わず「そうかもな!お前らなんかうんざりだ!」と返してしまいます。激昂するスネーク。ウルフに殴りかかりながらのセリフが「取り消せ‼︎」「謝れ‼︎なのが悲しすぎる。誰よりも心を許していたはずのウルフから決別を突きつけられた瞬間の憤り、悲しみ……そうだよな、嘘だって思いたいよな……。取っ組み合う二人を看守が引き離そうとしますが、その瞬間、謎の黒い影が颯爽と現れて看守をバッタバッタと打ち倒していきます。
(このシーンは映画中屈指の見どころです。先述したアニメタッチで繰り広げられる技斗のキレの良さ、巻き戻して何度でも観たい)

その正体はなんと……というか薄々察してはいたけどダイアン知事でした。なんと彼女はかつて悪名高い怪盗「クリムゾン・パウ」として名を轟かせた人物でしたが、以前に「黄金のイルカ」を盗み出した際、今の自分は世間がステレオイメージとして抱く「ずるがしこいキツネ」そのものであるという事に気付き、更生して人のために仕事をするようになったとの事。すごいけど怪盗から知事って振れ幅大きすぎやしないか。元々マイナスイメージを持たれていたキツネという種族だけにそこから今の地位に上り詰めるのは大変なことだったろう……としみじみする間もなく脱獄直後に刑務所を豪快に爆破するダイアン知事。理知的でお固いフォクシントン知事としてではなく、お茶目でキュートな、怪盗としてのダイアンの一面が見えて心を奪われるシーンです。なぜダイアンのグッズがない!!!!!
ダイアンの助けを借りて刑務所から逃げ延びたメンバー。マーマレード教授の野望を阻止するために急ごう!とウルフはメンバーに呼びかけます。

……しかし、スネークの返事はNO。ただの喧嘩だろ、よくあることじゃないか、と茶化してみせるウルフにスネークはただ渋い顔を向けるだけです。一度吐いた言葉は取り返せず、スネークとウルフの間には深くて暗い溝ができてしまっていました。怒るでもなく、罵るでもなく、ただ苦悩に満ちた顔で「たった一人、心から信頼してきた奴に裏切られた悲しみが分かるか」と別れを告げるスネークの後を追い、仲間達も次々とウルフの元を去っていきます(ウェブスの「ごめんね、ウルフ……」が悲しい。というか他に仲間がいる前でウルフだけに「たった一人信頼してきた奴」って言っちゃう辺り……スネーク、あんたって男は……)。自らの過ちで唯一無二の相棒を失ってしまったという喪失感に打ちひしがれるウルフ。文字通り一匹狼となってしまったウルフはマーマレード教授の元から隕石を盗み返すためにダイアンと行動を開始しますが、メンバーはそれを横目にアジトへ戻る……と、アジトに蓄えておいたはずのこれまでの戦利品が跡形もなく持ち去られてる!実はウルフが捕らえられる際、自らの潔白とこれまでの反省を示すために、ダイアンに自らのアジトの位置を示した地図を渡して「全部返すよ!」と伝えていたのですね。それが元でダイアンは彼らを助けるに至ったわけですが、メンバーは自分達が「正々堂々奪った」戦利品をウルフが勝手に返してしまったことに憤ります。
打ちひしがれる仲間達。泣きじゃくるシャークをなだめるため、スネークは自身の大好物であったアイスキャンデーをシャークに食わせます。
それを見て「あんた、いい事してるじゃん!」と驚いたように叫ぶウェブス。誰よりもひねくれ者で、皮肉屋で、嫌われ者のスネークが、自分の好物を人に譲ったのです。
ウルフと同じように、自らの中にも善行を喜ぶ心があったことに気付くメンバー達。ウルフは間違っていなかった、自分達は悪役と呼ばれるだけの存在ではない、という新たな発見に喜ぶメンバーでしたが(尻尾の代わりに背ビレを振るシャークがシュールでかわいいけど、それ以上に自分の尻尾をきつく押さえつけてまで抵抗するスネークから目が離せない)ただ一人スネークだけはそれに賛同しません。
半世紀あまりも人から嫌われ続け、悪役として生きる人生しか知らなかったスネークにとって、自らの中に隠されていた善を喜ぶ気持ちは到底受け入れ難いものだったのでしょう。結局スネークは「俺は悪党なんだ!」と吐き捨てると、一人きりでアジトを出て行ってしまいます。

さてその頃、街ではペットや実験動物として飼われていたモルモットが突如暴走し始めるというモンスターパニック映画さながらの怪現象が勃発。ラブハート隕石のエネルギーを使って街中のモルモットを操り、自身のチャリティーパーティーで募った寄付金がしかるべき所に届く前にまるごと盗んでしまおうというマーマレード教授のまわりくどい大胆不敵な計画が今まさに進行していたのです。エネルギー源である隕石を盗み出すため、マーマレード教授の住処に侵入するウルフとダイアン。トラップに引っかかった二人はあえなく捕まってしまいますが、そんな彼らの目の前に高笑いしながら現れたのは諸悪の根源マーマレード教授と……なんとスネークでした。より大きな盗みをするために教授と手を組んだ、こいつが俺の新しい相棒だ、とウルフの前で親しげに教授と寄り添ってみせるスネーク。かつての相棒が敵となって再び目の前に現れる(しかも憎き宿敵の相棒となって)という胸熱なシチュエーション、正直リアルで目撃したのはこれが初めてかもしれない。
ウルフの言葉に耳を貸すどころか、あまつさえ二人を処理するための殺人マシーンを起動して悠々とその場を去ってゆく二人。万事休す……そんな二人の危機を救ったのは、ピラニア、シャーク、ウェブス。ウルフの思いに共鳴したメンバー達が、彼らの元に戻ってきたのです。

バッドガイズ、再結成。

唖然とするマーマレード教授とスネークの前で颯爽とラブハート隕石を奪い去り、メンバーは自らの濡れ衣を晴らすために警察署へ向かいます。しかしそこで無数のモルモットが操縦する現金輸送車の大群に遭遇。どうやら隕石を盗んでもモルモットのコントロールは止まらないようで、メンバーは輸送車をしかるべき所へ返すためにダイアン&ウェブスの女子旅コンビ(「ウェブス、女子旅なんてどう?」という誘い文句が最高に洒落ててすき)とアスタ・ラ・ビスタ・ベイビーな男子諸君(「俺も女子旅がいい〜」と駄々をこねるピラニアが最高に可愛い)に別れて行動を開始します。ここのシーン、ダイアンの超絶ドライビングテクニック(しかも折り畳みバイク!)が最高にクールに描かれてて(というか基本的にダイアンが主役のシーンはもう文句なしに全部カッコいいです、何故ダイアンのグッズがない)音楽とのシンクロ率も相まって非常に爽快感のあるシーンとなっています。

無事にラブハート隕石を警察署へ届けに来たバッドガイズ。祝ってもらえるかな、パーティーだ、クラッカーだ!などとはしゃぐメンバーはふと思い出します、誰よりお祝いが嫌いで誰よりひねくれていた「ミスター・ご機嫌ななめ」の事を……。スネークをこのまま放ってなんておけません。ウルフは車を急旋回させると、マーマレード教授とスネークが乗っているヘリを目指して仲間達と共に道を疾走します。マーマレード教授のコントロールで襲い来るタタリ神ライクな無数のモルモットの集合体轢き潰しかいくぐり、ようやくヘリに追いついたウルフ達。マーマレード教授の後ろでスネークは「あいつの運転じゃとうてい捕まりっこないぞ」とハラハラしながらウルフ達を見守っています。こういうシーンでさりげなく相棒を褒めるのはずるい。
「スネーク、俺が悪かった、戻ってきてくれ!」と懇願するウルフ。しかしマーマレード教授は、隕石を取り返す交渉材料としてスネークをヘリから蹴落とそうとします。この映画、悪役がとことんゲスくて良いですね。
口だけでヘリからぶら下がる絶体絶命のスネーク!こいつを助けたきゃさっさと隕石をよこせとなじるマーマレード教授に「スネークを引き上げろ、そうしないと隕石は渡さないぞ!」とあくまで引かないウルフ。そんなウルフを前に、マーマレード教授の容赦のない蹴りがスネークへ……。
ヘリから弾き出され、まっすぐ地面へと落下してゆくスネークの後を追ってウルフ達も無我夢中で車を走らせますが、その先は例の隕石が衝突した深いクレーター跡。車は谷底へ真っ逆さまに落下し、ウルフ達は空中へ投げ出されます。
落下しつつもようやく再会することができたウルフとスネーク。「言えなかったんだ、本当のことを。嫌われるんじゃないかと思って……」というウルフにスネークは「分かってる。愛してるぜ、相棒」と応じ、二人はありったけの思いを込めてハグをします。このシーンこそブロマンスと言わずしてなんと言おうか。
ウルフが隠し持っていたフックガンによってメンバーは間一髪クレーターから生還するのですが、そこに待ち受けていたのはバッドガイズを逮捕したくてウズウズしていた鬼署長。すぐさま彼らを護送車にブチ込もうとする署長ですが、そこにダイアンが待ったをかけます。彼らの濡れ衣を晴らすには、知事である自分が彼らとどう関わっていたのかを明かさなくてはならない……。その思いから自らの正体を明かしかけるダイアンですが、その言葉はウルフによって遮られます。

「悪党が改心するって物語が好きなんだよな、知事さん?俺はもう逃げない、これまでの罪を償って一から出直すよ。逮捕してくれ」

次々に両手を差し出す仲間達。彼らの善き行いは、自らが犯したこれまでの罪を清算する所から始まるのです。呆気に取られながらも彼らをパトカー(護送車じゃなくなってる!)に乗せていく警官達。そこへ突如としてラブハート隕石をヘリからぶら下げたマーマレード教授が登場し「自分がバッドガイズから隕石を取り返してきたのだ」とのたまいます。その言葉を鵜呑みにして教授を褒め称える人々でしたが、なんとここで衝撃の事実が判明。教授が取り返してきたと豪語する隕石は実は真っ赤なニセモノだったのです。誰もが予期しなかったすり替え計画を画策したのは、なんとスネークただ一人。実はメンバーと決別しながらもひそかにウルフの正しさに気づいていたスネークは、ウルフ達を裏切ったフリをしてマーマレード教授に取り入ると、秘密裏に隕石をニセモノとすり替え、あろうことか本物の隕石は教授の目の前で(邸宅ごと)爆破してしまいました。
ウルフ達だけじゃなく我々までガッツリ騙されていた。してやったりと笑うスネーク。呆然としてしまった教授のポケットからは奇跡的に間の悪いことに、ダイアンを捕獲した時に拝借したダイヤモンドが転がり出てきました。
クリムゾン・パウ=マーマレード教授説、爆誕。パウの正体は誰も知らず、盗まれたダイヤはクリムゾン・パウ以外に持っているはずがない。そして教授は隕石をニセモノとすり替えた(と見なされている)。数え役満。「違うんだ、僕はクリムゾン・パウじゃない!パウは知事だ〜!」という情けない叫び声は護送車の外には届かず、第二のマザーテレサと謳われたマーマレード教授はあえなくお縄になったのです。

そして一年後。
模範囚として刑期が短縮(署長いわく終身刑だった気がするんですが)されたウルフとスネークは無事に釈放、刑務所の外で同じく釈放されていた仲間達と落ち合います。「これからどうする?車でも盗む?」とのたまうピラニアをたしなめる一行。そこに現れたのは、メンバーを迎えに来た知事ダイアンでした。
「前よりもワルじゃなくなった」バッドガイズ。一行はゴキゲンな音楽にのせて、ダイアンと共に大都会へと戻ってゆくのでした。






ネタバレここまで。
いやあ……見事に騙されたなあ……(遠い目)。


音楽、ストーリー、キャラのモーション、どれを取っても超ゴキゲンなクライムコメディ!

観てよかった。全体の流れを頭に入れておいてから再度観賞すると(特に後半が)見どころ倍増で、他にも細かな小ネタが随所に散りばめられているのを探しながら観るのも楽しいです。なにより映画に込められたこの熱量、一回じゃとても観切れない!
2回観てきましたがまた今度3回目行きます。世が世なら応援上映できる映画だよ……。
なによりドリームワークスからあんな湿度高めのブロマンス映画が出るとは予想だにしなかった。息ぴったりなバディ物映画が好きなら絶対に観るべき一本です。
また本作は吹き替えの素晴らしさも魅力。いわゆるプロ声優以外のキャスティングが目立つ本作ですが、そのクオリティはとてつもなく高い!いかにもキザボイスなウルフ役の尾上松也さんをはじめ、ややハスキーなしわがれ声が魅力のスネークを演じたのは安田顕さん、シャーク役を演じたチョコレートプラネットの長田庄平さんは劇中でボイスパーカッションまで披露します。ボーイッシュなウェブスの声はファーストサマーウイカさん、振り切れた雄叫びからハイトーンのミュージカルパートまで幅広い声のピラニアを演じたのはA.B.C-Zの河合郁人さん。公式パンフレットに特別コラムが書かれるほど、本作の吹き替えのポテンシャルは突出したものとなっております。「映画の声」ではなく、まるでキャラクターが目の前で生きて動いているように実在感のある声。ここまで吹き替え版が推されるのも納得です(でもセリフや言い回しの違いを確かめるために字幕版も観たい)。ピラニアの声がジャニーズっていうのが一番意外だったよ……。

悪人達の改心で終わる本作ですが、円盤が出たらメンバーのその後について語られる特典映像などが追加されたら嬉しいですね。海外版の特典映像では劇中に出てくるアイスキャンディーの作り方をスネークがレクチャーする映像があるらしい。なにそれかわいい。つかあれ自前なのか。さらにかわいい。
まだ語りたいことは多々ありますが、とりあえずこの辺で。円盤出たら買おうな!!

江古田にコーヒーおごってあげてもいいよ、という方はどうぞこちらから。あなたの善意がガラ通りの取材を後押しします。