Wリーグ最終順位決定のモヤモヤを考える
おはプレイド・ライゼスト✋ちゃんじろです!
ウェルプレイド・ライゼストという会社でeスポーツ大会や番組のディレクターをやっています。
みなさん、「Wリーグ」というものをご存じでしょうか?
女子バスケと言えば、東京オリンピックでの銀メダルが記憶に新しいですね。直近では、富士通レッドウェーブのガード、町田瑠唯選手のWNBA挑戦が大きなニュースとなり、ますます期待が高まっていると思います。
そんなWリーグですが、そして3月27日にレギュラーシーズンすべての試合日程が終了し、シーズン順位が確定し、プレーオフのトーナメント表も決定しました。
…しかしながら、どうしてもこの順位決定に対してはモヤモヤしてしまい、Wリーグのいちファンとしてスッキリとした気持ちになれていないのが正直なところです。
なぜモヤモヤしているのか、順を追って説明していきます。その上で別案や他事例を示して建設的な内容にしていければと思っています。
eスポーツ関係者の方など、「競技のルールを設計する人」には参考になるかと思います。
はじめに
まずは、このコロナ禍の状況の中で果敢に試合を実施し、観客も入れつつ最大限のゲームを成立させてきたWJBLおよびその他ご関係者の皆様に心から尊敬の念を表明いたします。
また同じく、不安な状況の中でも練習・試合に手を抜くことなくシーズンを走り切った各チームにも、心からの感謝と応援を申し上げます。
何がモヤモヤしたのか
Wリーグの2021-2022年レギュラーシーズンの最終順位表は、以下の通りとなりました。
そして、この結果によりプレーオフのトーナメントは以下の通りに決定しました。
…この結果、なんだか直感的におかしいと思いませんか?!
例えば、
・1位のENEOSよりも2位のトヨタ自動車の方が勝ち数が多い
・5位の富士通よりも負け数が8つ多いシャンソンが、富士通と同じ順位
・各チームの消化試合数が異なっている
など。もちろん見方にもよりますが、なんだか納得感が薄いような気がします。まさにここにモヤモヤしております。
なぜこのようなことが起こったのか、説明していきます。
大会のルールはどうだったか
まずは大会フォーマットを確認してみましょう。以下の通りです。
特に具体的見てほしいのは、「勝ち点」についての記述です。
勝ち点は以下の通り。
勝ち:2
負け:1
不成立:0
お気づきの方もいるかもしれませんが、今回の結果で悪さをしているのは、「負け:1」および「不成立:0」の部分です。
「試合が不成立となるようなイレギュラーなケースなんてあるのか?」と思う方もいるかもしれません。しかしこれが、今シーズンにおいては無視できないほど多く発生することとなりました。
これはもちろん、コロナウイルスの影響によるものです。
試合を行ういずれかのチームに所属する選手に、「検査での陽性判定・または濃厚接触判定などがあった場合にその対戦組み合わせを実施できない」という状況が発生してしまい、その結果としていくつかの対戦組み合わせが不成立となりました。
そして不成立となった組み合わせにおいては、両チームに勝ち点が与えられないこととなりました。
試合をして負けたチームに勝ち点1が与えられ、コロナの影響で試合ができなかったチームには勝ち点はナシ。
これにより、前述した最終結果のような「ねじれ」が起きてしまったのです。
僕個人の意見ですが、率直に不成立よりも負けの方が価値が高いのは、競技ルールとして違和感があると思っています。
また、レギュラーシーズンの順位によってトーナメント表のどこに入るのかが決まるため、順位は各チームにとって非常に重要なものであり、最大限に公平・公正に取り扱われるべきであると思います。
決定していることを覆すことはできないというのはもちろん理解しておりますが、「少なくとも選手やチーム(およびそのファン)がより納得感を得やすいルール設定があったのではないか」と思ってしまいます。
結果の整理
より分かりやすく、レギュラーシーズンの結果を整理してみましょう。
まずは正規の結果からです。表に「不成立数」を追加し、より試合結果を分かりやすくしています。
やはり注目すべきは富士通 レッドウェーブでしょうか。不成立数が4と全チームで単独最大となっており、勝ち点を得る機会を逸していることがわかります。
仮に不成立だった試合が全部成立し、その結果敗北だった場合を考えてみます。その場合でも勝ち点は+4され、合計41点となります。つまり、全試合が成立している4位のトヨタ紡織 サンシャインラビッツよりも上に来ます。
この関係性は、2位のトヨタ自動車 アンテロープスと1位のENEOSサンフラワーズの間でも同じことが起こっています。7位の三菱電機 コアラーズと6位のシャンソン化粧品 シャンソンVマジックの間でも同様です。
順位決定の別案① 成立した対戦の勝率順
このようなことも踏まえ、試しに「成立した対戦の勝率順」でソートしてみました。その結果は以下の通りです。
いかがでしょうか。直感的には公平になったような気がします。
三菱電機とシャンソンが入れ替わりつつ、上位5チームはかなり派手に動いています。
よく見ると、これは「負け数の少ない順」にもなっています。1敗の重みが非常に感じられる結果となりました。
この方法の注意点としては、「プレーオフを決める上位争いにおいては強いチームとの対戦が不成立となったチームが得をしやすい」ということが挙げられます。
実際にトヨタ自動車 vs. 富士通、富士通 vs. デンソー対戦が不成立となっており、勝率順だとこの3チームがTOP3に来ております。
「好成績をあげている強いチームの潰し合い」がなくなると、その他チームが不利を受ける、と言い換えればイメージしやすいかと思います。
順位決定の別案② 勝2点/負1点/不成立1.5点
続いて、上記のような点数配分でソートしてみます。
このコンセプトは、「不成立=引き分け」と同じニュアンスと捉えることです。勝ちと負けのちょうど間の点数に設定しました。
結果は以下の通りです。
2位~4位が勝ち点としては三つ巴となりましたが、ここは前述したレギュラーシーズンの規定に基づくと以下のようになります。(細かいので読み飛ばし可です)
こちらもなかなか公平な気がしますね。
勝ち点同点が生まれる確率が高いことから細かなルールを適用しなければならないので、サッカーなどでおなじみの「勝ち:3点、負け:0点、引き分け(不成立):1点」としてもいいかもしれません。(検証しましたが順位は案②と同順となりました)
Jリーグの事例
その他のスポーツはどうだろうと思いJリーグの事例を調べたところ、以下のようになっていました。
まとめると、Wリーグと大きく異なる点は2つかと思います。
・代替日程にて試合を行う前提がある
・不成立となった場合でも「みなし開催」として試合結果を決定する
1点目については、リーグのスケジュールや予算状況等のもろもろの事情があるため、どうにもならないように思えます。少なくとも自分は軽々しく「代替日程でまた試合やればいいじゃん」とは口が裂けても言えないです。
2点目について、これも意見が分かれるような気がします。一方のチームの選手が陽性判定・濃厚接触判定などになった場合、それがチームの責に帰すべき事由としてしまって良いかは大変難しい。正解はないと思います。
とはいえ、別のやり方として非常に参考になる事例だと思います。
ファンとしての僕の思い
これまでの事例調査や検討を踏まえて一言でいうのであれば、「ルールによって納得感のある結果を生んでほしい」と考えています。
そのために必要なことは、
・参加者ファーストでルールを構築すること
・時には柔軟にルールの是非を判断すること
かなと思います。
選手やチームにとっては、「決まった結果に対してどうこういうよりも次の対戦に向けて準備する」ことにプライオリティを高く置いた方が現実的には効率が良く、それが美しいとされる風潮もあります。
参加者が発信しづらい部分もあると思いますので、ファンが発信するということは一つ意味があるかなと思っています。
この記事だけではスッキリとした結論が出るわけではないですが、僕もeスポーツディレクターとしては競技設計者の端くれ。こういったところに妥協しない姿勢を忘れたくないなと思いました!
最後に、Wリーグに参加されたすべてのチームの皆様。レギュラーシーズン大変お疲れさまでした。これから行われるプレーオフも楽しみにしております。応援します!