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古き良き時代のスイス:中立の国の静かな誇り

1979年の旅、静寂に包まれたスイスの地を訪れたときの記憶は、今も私の心の中で生き生きとしています。その年に私が目にしたのは、マッターホルンの雄大な姿、アルプスの清純な少女ハイジの物語が息づく山々、そして世界が認める精密機械の国、スイスでした。狭い国土に、険しいアルプス山脈が広がるこの国は、地理的に見ればヨーロッパの中で特別恵まれているわけではありません。しかし、その独特な存在感は、永世中立国としての堂々たる地位によって、世界中から一目置かれています。

スイスという国は、経済的にも政治的にも軍事的にも中立を貫き、外国からの圧力に屈することなく、自らの道を歩んできました。この地には国際的な政治機関が集まり、オリンピック本部もここに構えています。2002年に国連に加盟したときも、そのタイミングは190番目という、他国から見れば驚くべきほど遅いものでした。周辺国がユーロ経済圏に参加し、共通通貨ユーロを使用している中、スイスは依然としてスイスフランを守り続けています。

しかし、その厳格な姿勢の裏側には、他国民との和やかな交流を望む心があります。スイス人の中には、自己中心的な強さを持ちつつも、できるだけ周囲と調和を図りたいという願いが根強くあります。彼らの優れたコミュニケーション能力は、そんな心情からくるものでしょう。

この国の人々は、自然環境を大切にし、その美しさを守ることにも熱心です。街の至る所でゴミ一つ見当たらず、住宅の窓辺には季節ごとの花が美しく飾られていました。アルプス山脈の絶景は言うまでもなく、晴れた日にはレマン湖から望むモンブランの美しさが心を打ちます。アルプスの女王と呼ばれるその景色は、見る者を魅了します。

物価の高さは旅行者にとって少し気になるところかもしれませんが、スイスは時間をかけてじっくりと訪れる価値のある国です。1979年の旅では、列車で移動するたびに、フィルムカメラの残り枚数を気にしながらでも、美しい景色を一枚でも多く残そうとしました。今ではSDカードやスマートフォンが記憶媒体となり、その心配はなくなりましたが、当時の旅の思い出は、今も私の中で色褪せることなく輝いています。

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