今やパーパス並み。ESは“選ばれる企業”の条件
こんにちは。ContentsGeneration事務局の田口雅典です。
アジサイが美しい時期になりました。
アジサイってパンフラワーやクレイフラワーの題材になりますが、
アジサイを見てるとその気持ちがよく分かりますね。
さてさて。先日、有名な旅行関連のグローバルプラットフォーマーを取材しました。
オフィスは渋谷のランドマークになっているタワーにあり、高層階からの景色は圧巻でした。
この取材で驚いたのは、ESです。
ESとはEmployee Satisfaction、つまり「従業員満足度」です。日本でも最近はかなり意識されるようになったエンゲージメントに直結する重要なテーマですが、コロナに揺さぶられたこの2、3年は、この言葉の価値を改めて考え直すきっかけにもなったようです。
コロナがパンデミックの様相を呈したとき、世界中がフリーズし、それが引き金となって事業縮小や廃業が多発、世界的に人員整理が進んで人材の流動化が加速しました。一時アメリカなどでも「大退職時代」と称されるような状況が見られました。
日本では当時、「大変だ!大首切り大会が始まった!」などと緊張が走りましたが、日本がコロナに警戒しているうちに海の向こうでは経済活動を再開し、超人手不足状態に陥っていきました。私はこのとき、企業と社員のエンゲージメントに大きなパラダイムシフトが起こったのではと見ています。
企業は大急ぎで優秀な人材の確保に走り、人材領域は大きく売り手市場に振れました。首を切られるどころか、あり得ないような好条件で雇ってくれる企業が続出する状態になったのです。人件費は高騰、原材料高なども重なって、企業はコストを価格に転嫁、物価を押し上げアメリカなどで急激なインフレ状態に陥って、FRBをはじめ金融当局は神経質なかじ取りを迫られることになりました。
話はそれましたが、そんな環境の下、グローバルで事業活動を行う企業は、優秀な人材の確保および流出防止に躍起になっていったのです。なのでESは、そうした優秀なスタッフが、居心地のいい環境で、長く高いパフォーマンスを発揮してもらうための極めて重要なポイントとしてコロナ以前とは比較にならないほど重要な項目になったのです。
日本でも、昭和スタンダードだった「会社に貢献できるよう身を粉にして働くのが当然」「多少気にくわないことがあっても、お世話になっているのだから会社を批判するべきではない」といった考え方は影を潜め、大企業や外資をはじめ、高度な能力を持った人材を抱える企業を中心に、ESが注目されるようになってはきましたが、今回取材した企業は別格でした。
その企業は、古くから仕事も生活も人間らしく充実した時間の過ごし方を重視するオランダに本社を持つ企業です。オランダといえば幸福度ランキングで上位をキープしている国で、むしろコロナの大混乱など起こる前からESを重視してきた企業です。
その企業では、ESについての詳細なガイドラインを定めていました。本社の専門のコントロールチームが目を光らせて、世界中の事業所でガイドラインに準拠した設営・運用がなされているかをチェックしているのです。
例えば、オフィスになる場所は主要駅の交通至便なロケーションで、1人当たりのフロア面積や居心地のいいオフィス内のデザイン、窓から見える景色など細部に至るまで高い基準が定められています。デスクやモニターもグローバルで共通のものを使用していて、デスクは高さを自分の好みに合わせて電動で調整できるようになっていました。また、必ず設置が求められている共創力の高まるコミュニケーションスペースには、いつでも社員が口にすることができる新鮮なフルーツが置いてありましたし、コップや各種資材においては、天然素材であることや再生利用可能であることなど、サステナビリティに配慮することも定められていました。
働く方としては「よく考えられていて生産性の高いオフィスだし、会社の意識の高さも賛同できる」ということになりますし、そう感じられる人が集まります。しかし、企業の経営側には異なる意識もあるでしょう。高いESを維持するにはコストが必要です。売り上げに直結しないことに大枚をはたいて社員を甘やかしたところで、利用するだけして辞められたら目も当てられない……。そんなため息も聞こえてきそうです。
ES対策をするからよい人材が集まりよいパフォーマンスを発揮し続けてくれるのか、よいパフォーマンスを発揮してくれるから厚遇するのか。ニワトリタマゴな問題のようでいて、私はそうではないと思います。ESは採用のためであり、ずっといてくれるため備えるべき前提条件です。
今や採用面接で「御社のパーパスは?」「リモートワークや副業の制度はありますか?」と聞かれる時代です。ESも選ばれる企業になる大きなチェック項目なのだ。そう痛感した取材でした。
以前インタビューした金英範さんは、複数のグローバル企業で総務の責任者を歴任した稀有なプロ人材です。取材したのはコロナに大きく揺さぶられている時期でしたが、「総務にとって従業員はお客さん」とおっしゃって、総務は、社員がいかにオフィスで気持ちよく仕事できるかをいつも考えているとおっしゃっていました。ESについてどんな意識を持っておられるか、ぜひ今度聞いてみたいと思います。