【開催レポート:チャレンジフィールド北海道シンポジウム#4】気候変動が道内の第一次産業や道民の日常生活に与える影響と適応の取組
チャレンジフィールド北海道では、「チャレンジフィールド北海道シンポジウム」と題し、北海道内のさまざまな課題に対して関係者同士をつなぎ、イノベーションを創発するための場づくりを令和4年度から開始しました。
第4回目はテーマを「気候変動と道内の第一次産業や生活に与える影響」として、10月18日にオンライン配信にて開催し、196人の皆様にご参加いただきました。たくさんの方に視聴いただき、ありがとうございました。
1.開催の経緯
近年、道内においても、台風の接近や上陸、連続する真夏日、梅雨前線の停滞や線状降水帯による大雨など、昔は北海道であまり見られなかった気象現象がしばしば見られるようになっており、それに伴う災害が激甚化する傾向にあります。気候変動は次第に人々が身近なこととして認識するようになってきています。
気候変動は日々の生活のみならず、回遊魚の変化に伴う水産業への影響やワイン用ブドウの生産地が拡大するなど、北海道の主力産業にも様々な影響を及ぼしています。
このような中、令和3年に「北海道気候変動適応センター」が設置され、道民、事業者、学術研究機関の方々などに、気候変動による影響や研究情報、適応に関する情報発信などを行っています。
そこで今回、近年の気候変動がどのように道内の第一次産業や道民の生活に影響を及ぼしているか、将来においてどのように前向きにとらえていくかについて、道内外で活躍される研究者による研究成果や自治体における取組を広く紹介することにより、道内産業のさらなる振興や災害対策・対応、日常生活に役立ていただくため、シンポジウムを開催しました。
2.開催レポート
まず、チャレンジフィールド北海道 チーフコーディネーターの扇谷より、開催の趣旨について説明がありました。
【講演概要】
一部を除き、動画視聴および資料のダウンロードが可能です。
第1部 北海道における気候変動
(1)「地球温暖化と北海道における気候の変化 ~海洋と気候の深い関わり~」
気象庁札幌管区気象台気象防災部地域防災推進課 地球温暖化情報官 河原 恭一氏
地球温暖化において海洋が熱と二酸化炭素のリザーバー(貯留槽)として働いていること、日本近海の海面水温が世界平均と比較しても記録的に高くなっていること、海洋の熱膨張と氷床・氷河の質量減少が海面水位上昇の主たる原因となり増え続けていること、植物プランクトンの活動が海水中の二酸化炭素の減少に寄与していること、などが説明されました。
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(2)「気候変動下での北海道における豪雪」
国立大学法人北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門地球惑星ダイナミクス分野気象学研究室 教授 稲津 將 氏
2021年度のノーベル物理学賞を受賞した真鍋博士の研究にあるように、気候変動はモデルを用いて計算でシミュレーションできること、北海道での豪雪に関しては気圧配置に依存していること、天気図を分類し機械学習を用いた分析により札幌、岩見沢、広尾で豪雪となる場合の天気図のパターンが見えてきたこと、未来の天気図の傾向を計算させると日本海側や内陸部において降雪・豪雪頻度は増大する可能性が予想されること、などが説明されました。
(3)「積雪観測者の立場から見た北海道の気候変動とその影響」
国立大学法人北海道国立大学機構北見工業大学工学部社会環境系 准教授 白川 龍生 氏
積雪にピットを掘って雪質や物性を測定した結果として、降り始めの湿雪が凍結して厳冬期中残っていたこと、2022/2023年には暖湿空気が南から流入することにより湿雪が同一方向に大量に降ったこと、湿雪は倒木や電柱の倒壊などにより停電や交通障害などの大きな被害を引き起こしたこと、全道的にも氷板層とざらめ雪層が顕在化していること、などが説明されました。
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(4)「北海道気候変動適応センターにおける取組について」
北海道経済部ゼロカーボン推進局 地球温暖化対策課
「道内における熱中症リスクの将来予測に関する取組について」
一般財団法人 日本気象協会
第1部の最後は主催者からの発表で、北海道経済部ゼロカーボン推進局地球温暖化対策課より、北海道気候変動適応センターの取組紹介と道民、道内事業者を対象に行った気候変動影響と適応に関する意識調査の結果を説明しました。
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続いて、道が委託している一般財団法人 日本気象協会より、熱中症に関する北海道の特徴やリスクなどに関して現時点での調査・分析結果を説明しました。
第2部 第一次産業や生活への影響と適応
(1)「温暖化は北海道の農作物にどう影響するか -2030年代の予測と対応方向-」
地方独立行政法人北海道立総合研究機構研究戦略部 部長 中辻 敏朗 氏
農耕期間で平均1.8℃の上昇、降水量が最大1.8倍となると想定されることを前提に、水稲については登熟(※)期の気象条件向上で収量増加・食味も向上すると予測されること、水稲の直播栽培で熟期の遅い品種が栽培できる可能性があること、秋まき小麦では日射量の減少で収量が減少する可能性がある一方降水量の増加はいい面と病害などの悪い面が起こりうること、播種適期が遅くなって輪作に好都合となる可能性があること、てん菜では糖分は全体として増加すると予想されること、他の農作物では温暖化により良くなる品種・悪くなる品種があること、「適応」の取組として、品種改良や栽培技術の開発が重要となってくること、気候変動に左右されない栽培方法が検討されていること、などが説明されました。
※登熟:穀物の種子が次第に発育・肥大すること
(2)「北海道における暖水性魚介類の増加と有効利用・適応策」
国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所底魚資源部 副部長 木所 英昭 氏
魚介類の漁獲量の変動には周期的な変動(スルメイカやマイワシ)と地球温暖化による変化(ブリ)があること、ブリは全国的に増えているが特に北海道で増えていること、日本近海の水温は周期的な変動をしながらも全体的に上昇していること、東北でサワラが2000年以降急増したことをうけ加工方法普及の取組がなされたこと、ブリについても来遊量予測手法の開発が期待されていること、水産消費量は日本は減っているが世界的には成長産業であること、気候変動によって捕れる魚が変わってきていて特に北海道では顕著であること、捕れる魚を食べるという「適応」が重要であること、が説明されました。
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(3)「気候変動が北海道の生活に及ぼす影響」
地方独立行政法人北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所環境保全部水環境保全グループ 主査(気候変動) 鈴木 啓明 氏
北海道の冬の気温に大きな変化が出てきていること、気温上昇シナリオによる2100年の模擬天気予報の紹介、除雪日数はあまり変わらないと想定されること、その変化がどのような影響を与えるのかを要因分析によって検討していること、ダイヤモンドダストが4℃上昇シナリオだと1/3に、2℃上昇シナリオでは減少傾向は明確ではないこと、地域における適応策としては個人でできること(防災品の常備、靴や歩き方の工夫)・地域で協力・行政で進めるなどのいろいろな適応策があること、昨年富良野市においてワークショップを開催して地域の人と考える取組をしていること、が説明されました。
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講演終了後、チャレンジフィールド北海道 チーフコーディネーターの扇谷より、各発表についての概略と、気候変動に対して個人や団体で適応を考えていくことの重要さについてのまとめがありました。
シンポジウムの最後に、チャレンジフィールド北海道山田総括エリアコーディネーターより閉会挨拶をさせていただきました。
質疑応答
シンポジウムの時間中に取り上げることができなかった質問や追加の質問に関して、講演者からの回答を示します。
終わりに
主催者としては、発表をいただいた皆様が所属される大学、研究機関、団体、行政機関の知が、気候変動の影響に関する「緩和」「適応」に役立つことを期待しております。
【気候変動関連情報】
○北海道気候変動適応センター
○気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)
参考
昨年度のシンポジウム 開催レポート
「北海道における災害関連研究(1) 〜避難を考える〜」
参加対象者を、自治体、災害関連支援団体、災害関連企業、大学・研究機関に限定して開催しましたが、一部の講演動画、講演資料は講演者の了解の上でご提供が可能です。
興味がある方は、チャレンジフィールド北海道 事務局までお気軽にお問い合わせください!yugo@noastec.jp