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「隣の芝」さよなら大学生(8)

芝生に寝転んで、空を眺めた。心地よさに身をまかせて、目を閉じて、ゆっくりと開くと、長々とした飛行機雲が広がっていた。

知らない大学に行くのは楽しい。
他大学の友だちに会って、キャンパスを案内してもらった。都心から少し離れたところで、駅からの直通バスを降りると、うぐいすの声が聞こえてきた。

「ここでみんな、お昼寝とかするんだよ」
かつては滑走路だったという並木通りをしばらく進むと、芝生の広場があった。たしかに見ると、教員らしいスーツ姿の男性がゆるやかな傾斜に寝転んで、眠っているようだった。近くには点々と小さな木が立っていて、2人で木陰に座った。

ゆっくりといろいろなことを話すうちに、いつのまにか私も寝転んでいた。全身の力が抜けてしまうような、果てしなく平和なだけの場所だ。


青いだけの空を眺めたのは、いつぶりだろう。
なにも遮るものがなく、鳥が飛べば、ずっと目で追うことができた。

地面を見ると、働きアリがいた。ただなんとなく、こんな小さな命にも帰る場所があるんだなあと思った。三田ではたぶん、気にも留められずに踏み潰されるだろう。

三田キャンパスには、年中無休の就活生が溢れてる。
リクルートスーツを着て髪をしっかりセットして、やれ官僚だの商社だの外コンだのと話して、誰々はどこに内定したとか、あいつはぶっちゃけヤバいとか、そんな話題が絶えない。

「こんなキャンパスだから、フワフワした人ばっかりで」
友だちは、その場に座り込んで、白くなった藁みたいな芝生を集めては小山を作って、どこから飛んできた花を飾り付けて遊んでいた。羨ましい、と、率直に伝えた。

「まあ、隣の芝は青いってことだよ」
三田キャンパスには、芝生すらない。(368日)


(余談)
西日が眩しくなってきた、帰り道。
「ここ、昼はいいけど、夜になるとホントに真っ暗で。怖いんだよね」
「怖い?私はなんか、いいなって思っちゃうな」
「なんで?いつも足元とか危ないんだよ」

「や、なんか、だって真っ暗だったら、好きな子と手繋いで、ふらふらしながらゆっくり歩けるから、いいなって思って…」

【さよなら大学生】
卒業するまで毎日、大学生活の何かしらを投稿します。カウントダウンに、ぜひお付き合いください。感想もらえると励みになります。

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