「余命1年」さよなら大学生(1)
余命1年。布団を抱きながら、ふと思い浮かんだ。平日の昼間に、目覚ましもかけず、いつまでもベッドのなかにいる。
なにせ、私は大学生だ。寝たいときまで寝込んだって、二度寝、三度寝、四度寝、何度寝たっていい。誰も文句は言うまい。
起きたくなったら、起き上がる。スマホを見たら、11時だった。
冷蔵庫からヨーグルトを取り出して、グラノーラをかける。窓の外は曇っている。この街でも、今ごろ多くの人が働いているだろうが、私はただ、グラノーラにハチミツを混ぜて、ゆっくりと食べている。
けれど、余命は1年だ。
まもなく、大学4年になる。厚みのある日々を送ってきた。入学式は、「昨日のよう」ではない。
親元から離れて、恋とか愛を知って、友だちと喋りたおした夜明けを知って、私は変わった。グラノーラを食べ終えたら、思い出したように洗顔をする。鏡に映った顔は、3年前よりも、安心しきっている。ストレスだらけだった高校時代は、もっと生気がなかった。
人は、たった数年で別人になる。あの高校生は、もう世界のどこを探したっていない。死んだも同然だ。
そうであるなら、大学生の私も、来年には必ず死ぬ。残された時間は、1年だ。
私は、悲しむだろうか。涙を流すだろうか。
顔をタオルで拭いて、予定もないので、6畳の部屋で突っ立っている。
いや、大して気にしないかもしれない。なにも大げさな話ではなく。生きるって、そういうことだから。
ただ、1年の時間があるなら、書き留めたいという気持ちは確かにあった。書いてしまえば、またいつでも、何年経っても会えるから。
デスクに座って、パソコンを起動する。
平日の昼間。1人の部屋で、タイピング音を響かせる。
「さよなら大学生」
あと1年、その日までのカウントダウン。(373日)